マイクロフォーサーズを発表してから10年。立ち上げの経緯、印象に残る製品、そして10年経った今、開発者は何を感じているのか? 「画質とレンズを含めた機動性や携帯性を考えると、マイクロフォーサーズは理想的なバランスなんです」という山田久美夫氏が開発の裏側に迫った! 
※この記事は月刊カメラマン2018年10月号掲載時のものです。
画像1: 祝10周年! マイクロフォーサーズのキセキ
Panasonic 開発者インタビュー

▲写真左から伏塚浩明氏、勝浦宏典氏、香山正憲氏、インタビュアーの山田久美夫氏。

画像2: 祝10周年! マイクロフォーサーズのキセキ
Panasonic 開発者インタビュー

「4つの特徴に基づいて商品展開をしてきました」
(商品企画部 第一商品企画課 主幹 勝浦宏典氏)

画像: 「4つの特徴に基づいて商品展開をしてきました」 (商品企画部 第一商品企画課 主幹 勝浦宏典氏)

山田 2008年にLUMIX G1を発売したパナソニックはミラーレスの先駆者です。編集部から“この企画は10年遅れでようやく大手メーカーが本気になってきた現状を先駆者はどう見るか聞いてくれ”とのことです。そもそもパナソニックはマイクロフォーサーズ規格の中で、どんなことをやりたいと思って今に至っているのでしょうか。一応、最初に言っておきますが、とくに若い方に誤解されている方が多いようですが、元々フォーサーズとマイクロフォーサーズは別フォーマットですね。

伏塚 規格的に言うとマイクロフォーサーズ規格は、フォーサーズ規格の拡張フォーマットと言うことになります。最初はフォーサーズというフォーマットをオリンパスさんがオープンフォーマットで立ち上げ、そこに賛同してLUMIX L1、LUMIX L10と発売してきました。フォーサーズは一眼レフのデジタル版でしたが、ミラーボックスが必要なのでサイズが大きくなってしまう。一眼レフ自体ではとても他社一眼レフのマウントに対抗できるものではなかったと捉えております。なんらかの差別化が絶対必要でしたので、そこから新しくマイクロフォーサーズという規格を提案させていただきました。マイクロフォーサーズはミラーボックスを取った完全デジタルミラーレスです。フランジバックが短く、光学設計の自由度が高まった。そして他のいろいろ蓄積されてきたデジタル技術と相まって、そこで初めて真のデジタル一眼が生まれました。この小型軽量を軸に、あらゆるお客さまのニーズに応えていきたいという思いでマイクロフォーサーズを立ち上げて、今日に至っています。

勝浦 マイクロフォーサーズのフォーマット発表のときに、特長として「一眼レフ並みの高画質」「コンパクトなサイズ」「見たままが撮れるリアルタイムのライブビュー」「動画との親和性」という4つのポイントをあげさせていただきました。それに基づいて、動画に振ったもの、サイズに振ったものなど、特徴的な商品を展開してきています。

山田 いきさつをもう少し詳しく。

勝浦 フォーサーズのときにオリンパスさんが提唱してコダックさん、富士フイルムさん等が賛同していました。それからイメージセンサーで松下電器が参加しました。我々に話がきたのはオリンパスの上層部の方より「フォーサーズに入って商品を出して頂戴」と8回ぐらい説得をされて(笑)。あのときはオリンパスさんが「カメラメーカーというのはだいたい自社フォーマットで全部押さえているが、ユニバーサルフォーマットでやって広めたい。デジタル時代なのでプロシューマ用じゃなくてコンシューマ用に広めたい。そのために扱いやすいセンサーで商品化したい」と言われ、「デジタル専用フォーマットを作ることによって、フィルム時代の背負っている荷物を捨てることで非常に高画質な商品ができるんだ」ということでした。松下電器というのはVHS、それからSD、DVD、ブルーレイ…元々ユニバーサルフォーマットが得意な会社です。全部一社独占じゃなくて、そういうフォーラムを作って『お客様ににいろんなメーカーから出て来る競い合う商品を楽しんで欲しい』という思想でしたら「このフォーマット自体はいいよね。ユニバーサルフォーマットだから我々としても入りやすいよね」ということでフォーサーズに参入してLUMIX L1を作ったわけです。それで2006年に商品化をして2008年にはマイクロフォーサーズになった。フォーサーズは役割を終えてマイクロフォーサーズに、ミラーレスに切り替わったということです。オリンパスさんがスタートのときに作った「デジタル時代のためのみんなが使いやすいレンズ交換システム」という狙いは、ミラーレスになったマイクロフォーサーズのほうが、より的確にその狙いに応えているフォーマットだと思います。

山田 2008年の初号機LUMIX G1=ミラーレスを作るにあたって大変だったことや発見などはありましたか。

勝浦 下準備を入れるとミラーレスは2006年の頭にはとりかかっていました。LUMIX L1の開発をやりながら「一眼レフって難しいね。もっと使いやすいものができないか」という議論をしていた。つまり、そのころにフィルムカメラを経験していないユーザーが「もっと簡単に撮りたい」という話をし始めていたけど“一眼レフは作法が違うので難しい”となっていた時代ですね。フィルム時代というのは、コンパクトカメラと一眼レフは作法が同じで、レンズを交換できるかできないかの話だったんですが、デジタルになった途端、コンデジはライブビューで見られて非常に使いやすい。ところが一眼レフはライブビューじゃない。ミラーが上がったり下がったりする中で設定をいろいろやらなきゃいけない、つまりオート化がミラー構造によって足かせになっていた。だから、端的に言うと『コンデジのレンズを外して交換できるようにならないの?』という所から始めたんですけれども、実際は信号のやり取りや、あるいはレンズを動かす機構の話だとかも含めて、簡単な話じゃなくて…何から何まで構築していくのが大変なわけです。機械式カメラのときと違って、デジタルになってからの要素のほうが非常にハードルが高かった。主要デバイスは全部洗い直さなきゃいけない。ですから、それらの要素開発・開発投資・アライアンスだとか、様々なことがわんさかてんこ盛りでしたね。

山田 実際にはマウントを新規に起こしているわけですよね。

伏塚 マウントは一回作れば新規ですが、ただそのマウントに将来性があるかどうか。今、目の前のマウントを作るのは難しくはないですけれども、先々のことを考えてマウントを作るというのはけっこう大変です。「生き残る」マウントになるためには、将来性を見越さなければいけない。そういう意味での目論見を作るのは非常にハードルが高かったですね。たとえばマイクロフォーサーズを作るときに先々のために使えるピンを残しておきました。大体AV系の機器はそういうのが多いです。

山田 9から11にピン数増やしましたよね。

勝浦 12にしようと思えばできたのですけどね。

山田 結局今の『スチールもあるしムービーもある』というマイクロフォーサーズの状況を当時から読んでいたと。

勝浦 そこは狙って作っていました。LUMIX G1、LUMIX GH1、LUMIX GF1というのは基本、同時開発です。LUMIX GH1は初めてフルハイビジョンの記録をするためにデバイス開発にやっぱり時間がかかり、半年後に発売しようと。LUMIX G1製品発表のときに「来年出ますよ」と姿だけはオープンにした。一番悩んだのは『カメラ業界では最後発で参入したLUMIXが新しいフォーマットを提唱するのはキワモノに見られるんじゃないか?』という点ですね。一番マイクロフォーサーズを体現していたのはLUMIX GF1で、これを1号機にするという話もあったんですが、社内の女性陣全員が「嫌だ。本当にこんな画質がいい写真を撮れるんだったら、一眼レフスタイルのLUMIX G1を最初に出すべきだ」と言うわけです。外部の意見を聞いてもやっぱりその声のほうが圧倒的でしたので、順番を切り替えて開発をして2008年10月にLUMIX G1、翌年の2009年4月にLUMIX GH1、9月にLUMIX GF1と1年かけて3機種を発売しました。

This article is a sponsored article by
''.