■撮影共通データ:ソニー α7CR 絞り優先AE ISO400 WB:オート
赤城耕一
東京都三鷹市生まれ、高齢初心者。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒。戦前のライカから最新デジタルカメラまで、あれこれ食べ散らかしている。ただし、特定のメーカーのカメラだけでは満足できない浮気性ゆえ、機材の評価に忖度はない(はず)。2024年から日本作例写真家協会会長を拝命、不遇な機材レビューワー写真家の待遇改善と社会的地位の向上を目指している。著作「フィルムカメラ放蕩記」(平凡社)「アカギカメラ -偏愛だっていいじゃない-」(インプレス)など多数。
コシナ ZEISS Otus ML 1.4/35 主な仕様
●焦点距離:35mm
●最短撮影距離:0.3m
●最大撮影倍率:1:5.5
●レンズ構成:11群15枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数:10枚
●フィルターサイズ:67mm
●大きさ・重さ:φ77.4×95.7mm・698g(ソニーE)
●付属品:フード・ポーチ
大きさ重さをを完全無視=妥協なき性能追求こそOtusの証。

専用の花型のフードを装着してみます。たしかに効果的ですが長くなります。でも、強力なT*コーティングが施されているのだからなくても問題はないはず。あ、筆者はフードを使用した方がレンズの保護の面なども考えて良いことかと思っています。
2014年当時は、長いツァイスの歴史の中でも最高の性能を追求した写真撮影用レンズを作るという試みであり、大きさと重さを完全に無視したかのようなその姿は大きな話題になりました。標準50mm系のレンズは長くガウスタイプが主流とされたけど、 Otusはレトロフォーカスタイプを採用したことが注目点です。業界の一部ではこれを「Otus以前/以降」として区別する人もいらっしゃいます。
ライカが赤バッジならツァイスは青バッジということで、ここにブランドの主張があります。でもツァイスには、「分かるやつだけに分かればいい」という、ある種の謙虚さがあるような…。
このOtus ML 1.4/35にはサブネームとして"APO Distagon"の名称が付けられていました。ガウスタイプのレンズなら、Planarの名称が冠されるはずだからです。私はOtus登場のはるか以前に、とあるレンズ設計者に「標準レンズをレトロフォーカスで作ったらどうなりますか?」と質問したことがあります。
この設計者はフンと笑って、「性能の向上は期待できますが、巨大になりすぎて実用化できないでしょう」と即答しました。つまりツァイスは禁じ手ともいえる標準レンズ設計をここで行ったために、Otusは大きく質量も約1000gになりました。しかし、ツァイスに熱いマニアは入手していましたし、知人の動画カメラマンは現在も愛用しています。

α7CRのような小型のボディですと、バランスは厳しいですが、実用に問題は感じませんでした。α7CR同梱のグリップをつけると、置いた時には鏡筒の太さとほぼ同じ位置になるので安定しますね。とはいえ携行時にはずっとレンズの鏡筒を掴んで歩いていましたけど。
一眼レフ用に用意された当時のOtusレンズは28mm F1.4、55mm F1.4、85mm F1.4、100mm F1.4であり、筆者の好きな35mmはなぜかランアップされませんでした。そして2025年になり、OtusはML(ミラーレス)シリーズの50mm F1.4、85mm F1.4を発売。シリーズの第三弾として待望の35mm F1.4が用意されたわけです。
MLシリーズは、一眼レフ用のレンズと異なり、ミラーの駆動距離を設計考慮する必要はないショートフランジバック設計のために小型化されました。それでも同スペックの他社レンズよりも重量級であり、かつ若干は抑えられたとはいえ、価格は高級レンズの部類に入ります。

窓からの光のみで撮影しています。この位置からだと、まつ毛と眼球のフォーカスの位置の違いまで分かりました。細かな再現性に加えて、背景のボケの素直さが際立ちます。
■絞りF1.4 1/2000秒 ※モデル:hina
加えて、なぜにMFレンズなのかと言われれば、AFレンズにはできない硝材や設計を行うことで、独自の高性能描写を狙ったということなのでしょう。
今回新登場のOtus ML 1.4/35mmは質量はマウントによって異なりますが、700g前後と、これもまた軽量とはいえませんが、一眼レフ用のOtusに比較すれば小さい印象です。ただ、試用にはSONY α7CRを使用したため、実用としては問題はないのですが、全体をみるとバランスが崩れ気味でした。
描写は繊細そのもの。とても薄いピントだけに操作は慎重に!

路地裏のバー。開放絞り設定で撮影してみましたが、自然な再現性です。フォーカス部分にエッジがないので少々手こずりましたが、うまくフォーカスしてくれました。
■絞りF1.4 1/4000秒 マイナス1.0露出補正

ハイライトの再現性はどうかということで白い蔵を撮影してみました。非常に美しい再現で安心しました。歪曲収差もうまく補正されています。
■絞りF8 1/1000秒
11群15枚構成ですから、いかにもOtusらしいというか徹底した収差補正が行われています。本レンズにも「APO Distagon」刻印があり、レトロフォーカスタイプであることがわかります。
描写性能はたしかにツッコミ所を探すのが困難なほど優れています。MF時の拡大機能を使用しなくても、LVでもフォーカスの頂点的な位置の見極めができるほどです。
画の印象はひと言で言えば繊細というイメージ。このためにOtusレンズ全てに言えることですが、線が細く、他の同じスペックのレンズよりも被写界深度が浅く感じられるように見えます。
このためフォーカシングはしやすいのですが、逆にフォーカスをわずかでも外してしまうと目立ちますので、レンズのポテンシャルを全て引き出すためには慎重なフォーカシングが必要です。
フォーカスリングのフィールは世界最高峰? MFにシアワセを感じます!

室内の部屋で撮影しています。これも窓からの自然光ですが、開放絞り設定では安全圏内のシャッタースピードをプレゼントしてくれました。背景の雑多なものはボケで省略できます。クリアな画です。線のボケも綺麗なことが分かりますよね?
■絞りF1.4 1/800秒 ※モデル:hina
素晴らしいのは合焦点の描写だけではなく、そのボケ味にもいえ、絞り開放時における被写体の輪郭も溶かしてしまうようなボケ味によって、写真からはExifを確認しないと使用したレンズの焦点距離の判別が難しいほどです。
なおEマウントのタイプでは、電気通信により周辺光量や歪曲収差、倍率色収差補正にも対応していますから、より追い込んだ収差補正がされているようです。でも、基本的にはツァイスもコシナもそれに甘んじるような光学設計はしていないはずですけどね。

雨あがりの駅。太陽は電柱の影にありますが、逆光のハイライト描写がとても綺麗です。シャドー部の描写も優れます。フレア、ゴーストなどは皆無なので、もしかすると不満に思う人もいるのかもしれませんが、リアリティのある現代的描写です。
■絞りF5.6 1/4000秒 マイナス1.0露出補正
フォーカスリングのロータリーフィーリングは、おそらく世界でも最も優れた部類に属するでしょう。このこともまた撮影時にMFであるハンデを忘れさせ、逆に撮影者が創作に直接関わる楽しみを生んでくれているように思います。
MFであることをどう考えるのか? 面倒な作業なのか、それとも創造の過程に必要なものなのか? これは撮影者の考え方次第ですが、静物、料理、ポートレートなど、フォーカシングの頂点を見極めて、その意味を理解した上で写真製作を行いたい人には苦になることはないでしょう。

背景の空との明暗差が大きく、どのように再現してくるか楽しみでしたが、想像以上の階調の繋がりの良さです。
■絞りF8 1/640秒 マイナス0.7露出補正






