▪️中村文夫氏プロフィール
1959年生まれ。大学卒業後、カメラメーカーの宣伝課勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。写真&カメラ専門誌やWEB媒体を中心に、カメラのメカニズム記事屋レビューを執筆。写真教室など幅広く活躍中。クラシックカメラをはじめ、珍品(?)カメラ&レンズに関する造詣も深い。
リコーイメージング PENTAX 17 は「こだわり満載のハーフ判フィルムコンパクト」プロカメラマン中村文夫氏が解説
初めてフィルムカメラを買う初心者向けに誕生した新世代フィルムカメラ
2023年夏に発表されたペンタックス初のハーフ判フィルムコンパクト。機種名の「17」という数字は、フィルムの長辺36mmを半分にして、そこからコマ間の余白分の1mmを引いたものを意味する。カメラを構えてファインダーを覗くとハーフ判の縦構図のフレームが見えるのも懐かしい感じだ。

レンズ構成は3群3枚で、高画質で定評だったエスピオミニ(写真右)の光学系がベース。HDコーティングを採用し、よりクリアでシャープな像が得られる。

巻き上げレバーの形状はオート110を踏襲。シャッターボタン回りの処理もLXによく似ている。
マスではないが世界的にフィルムカメラ回顧の機運も高まる中、「デジタルとは異なるフィルム独特の風合いを求める若年層が、初めて使うカメラ」というコンセプトが功を奏し、第一ロットは予約分だけで即完売。
古くからフィルムに親しんできたシニア層や、熱心なペンタキシアンの中には、「肩透かしを喰った」という意見も聞かれるが、ペンタックスが想定するメインユーザーは「初めてフィルムカメラを買う初心者」。野暮なことは言わずに、新世代フィルムカメラの誕生を素直に祝うべきだろう。

上面のカバーには往年のロゴマークが渋滞中。気持ちは分からないでもないが、全体にまとまりが欠けるような…。
PENTAX 17はペンタックス初のハーフサイズカメラ
前置きが長くなったが、PENTAX 17(ペンタックス イチナナ)はペンタックス初のハーフサイズカメラ。ふつうにカメラを構えると画面が縦位置になり、慣れないうちは縦位置の写真がやたらと増えてしまう。
フィルム巻き上げはレバーによる手動式。フィルムカメラらしい操作が楽しめるが、ふだんデジタルカメラや全自動カメラを使っていると、シャッターボタンを押した瞬間にフィルムを巻き上げていないことに気付き悔しい思いをすることも。

PENTAX 17のアパーチャーをノギスで測ってみたところ、短辺の長さはピッタリ17mmだった。念のため、ハーフサイズの元祖と言うべきオリンパスペンのサイズを測ってみたら17.2mmだった。
巻き戻しクランクの回転でフィルム送りが確認できる昔ながらの仕様は大歓迎。クランクが回転する限りフィルムは確実に送られているので、とても安心感がある。

巻き上げレバーの形状はオート110を踏襲。シャッターボタン回りの処理もLXに良く似ている。

グリップ部はCR2リチウムを収納する電池室になっている。ゾーンフォーカスのレンズ繰り出し機構にAFコンパクトカメラのメカを利用しているので電圧を安定させるため、高出力の電池が必要らしい。またカバーを固定するネジは、緩めるとカバーから外れる仕様なので紛失には要注意。

オートローディングのメカは、ペンタックス最後の手動巻き上げ式一眼レフP30/50の流用だ。
PEXTAX 17の操作性は? ピント合わせ、撮影モードを実写レポート
フィルムカメラ初心者に向けて…とはいうものの、操作は難しいかも
PENTAX 17のピント合わせはゾーンフォーカス式。AFが普及する以前、普及タイプのコンパクトカメラに盛んに採用されたピント合わせの方式だ。
PENTAX 17の場合、最短撮影距離が短いこともあり、最短から∞まで6点ものクリックがある。そのためピントリング上に隙間なくアイコンが並び、どれを選べば良いか瞬時に判断に迷うことも。
撮影モードはプログラムAEが基本。ボディ上面のダイヤルで、フルオート、絞り開放、夜景、バルブ。さらにストロボ発光の有無など全部で7種類のモードが選択できる。ただし測光方式が部分測光なのにAEロックがないのは謎としか言いようがない。
25cmという最短撮影距離を考えると致し方ないが、目的の被写体を的確に画面に収めるのは至難の業だ。

最短撮影距離の25cmで撮影。付属のストラップをピンと伸ばすと25cmになり近接撮影時のメジャーとして使えるが、このときピントが合うのは24~26cm。被写界深度はわずか2cmしかないので、シャープな写真を撮るならカメラがしっかり固定できる三脚が必要だ。
PENTAX 17 の価格は妥当か
新品のフィルムカメラが手に入る!…とはいえ、この価格は!?
PENTAX 17の実売価格は税込みで8万8000円(※記事執筆当時)前後。決して安くない売値だが、この影には円安の影響がある。フィルムカメラの海外での人気は高く、最初は500ドルの販売価格を目指していたという。
こんな状況下では88000円は妥当かもしれないが、このクラスのカメラにしては高いと思うのは私だけではないだろう。それに「この値段を出すなら、程度の良い中古品を買った方が得」という気持ちもふつふつと湧いてくる。
すでに説明した通り、ペンタックスがターゲットにしているのは「初めてフィルムカメラを買う初心者」。
最初に「野暮なことは言うまい」と言ったにも関わらず、厳しいことを書いてしまったが、アナログ操作にこだわり過ぎた結果、使い勝手が犠牲になったことは否定できない。

24×36mmのフルサイズ(画像上)を半分にして使うので、ハーフ(画像下)の画面サイズは一般に18×24mmと思われているが、コマ間に空きが必要なので、実際の画面サイズは17×24 mm。「17」の商品名はこの数字に由来する。
だが、文句ばかり並べても問題は解決しないので、発売から5カ月が経った現在(※記事執筆当時)は使いやすい機能だけを選んで使うことにしている。
まず6段もあるゾーンフォーカスのうち、テーブルフォトとマクロ時は被写界深度が極端に浅く、特にマクロの被写界深度はわずか2センチと同梱のストラップを使っても正確なピント合わせはほぼ不可能。そのうえファインダーの近距離補正マークも当てにならない。
そこでこの2つのゾーンは最初から無いものと思うことにしてみた。ゾーンが2段減って4段になっても、ゾーンフォーカスとしてはまだ段数は多めだが、これでかなり気が楽になる。
それから、どれを選べば良いか分からないという評判の撮影モードだが、最大の原因はストロボ発光/非発光の選択とシャッタースピードの組み合わせがモード名から推測できないこと。
デジタル全盛の時代に PENTAX 17 が注目される理由
突っ込みどころ満載だが、 出したこと自体は素晴らしい!!
カメラに同梱されたスタートガイドとネットでダウンロードできる使用説明書には、「P標準=プログラム、低速シャッター=低速プログラム」という記載があるだけ。よく見ると低速シャッターモード時、シャッタースピードは最大4秒まで遅くなるという注意書きがあるが、Pモード時のシャッタースピードについての記載は見当たらない。後でペンタックスに質問して、このモード時はシャッタースピードが1/30秒より遅くならないことを知るが、ターゲットを初心者に割り切っているとは言え、ここまで説明書を簡略化するとは!!

Pモードのままだとシャッタースピードが1/30秒より遅くならない。そのため夜景撮影にはシャッタースピードが最長4秒になる低速シャッターモードを使う。もちろん三脚使用が前提だ。
■低速シャッター 遠距離 フジクロームプロビア100F
結論はストロボ非発光で撮影するときは必ず白色表示の低速シャッターモードを選ぶこと。暗い場所だと手ブレの危険性があるが、フィルムカメラの使用経験があれば、それほど問題にならないはずだ。

ノーマルでは室内の壁がかなり暗く見えるが実はリバーサルフィルムは暗部に多くの情報が残っている。そのため複写したデータを明るめに処理すれば暗部の救済ができる。
■低速シャッター 中距離 フジクロームプロビア100F
それからストロボ光量の低さも気になるところ。ガイドナンバーは6(ISO100・m)なので、ISO100のフィルムだとストロボ光が届く距離はF3.5の絞り開放時でも約1.7メートルという計算になる、ただし使用フィルムがネガカラーならプリントの際に補正できるので、実用範囲はもう少し伸びる。いずれにしても人数が多い記念撮影の場合は要注意。こんなときはISO400のフィルムを選ぶと良いだろう。
余談だが、2024年6月に17発売のニュースが流れる否や、これまでペンタックス製品を歯牙にも掛けなかった新聞や一般雑紙がこぞって特集記事を掲載。カメラを専門としないこれらの媒体が17に注目した最大の理由は、今では完全に過去の遺物と化したフィルムカメラを復刻した奇特なメーカーが現れたこと。カメラ好きの眼で見ると改良の余地は多々あるが、デジタル全盛の時代にペンタックスが下した大英断はカメラメーカーとしての矜持の現れと言えるだろう。

データ化したネガをモノクロに反転。やや硬めに仕上げることで粒状感を強調し、ホンモノのモノクロフィルムで撮ったようなテイストを目指した。
■フジカラー100
リコーイメージング PENTAX 17 の⚪︎と×
⚪︎
・新品で買えるフィルムカメラであること
・巻き戻しが手動式であること
×
・クリックの段数が多すぎて、ゾーンフォーカス本来の意味が失われている
・ファインダーがお粗末
・電池室を兼ねたグリップが不細工で、カバーの止めネジを紛失しやすい
(写真&解説:中村文夫)
リコーイメージング PENTAX 17 主な仕様
●フィルムサイズ:135(35mm判)
●レンズ名:HD PENTAX25mm F3.5(35mm判換算37mm相当)
●レンズ構成:3群3枚
●画角:61°(対角)
●最大撮影倍率:約0.13倍(25mm時)
●フィルター径:Φ40.5mm
●ISO感度:ISO50~3200
●フィルム巻き上げ:手動(巻き上げ角130°/予備角35°)
●ファインダー:ブライトフレーム方式 光学式ファインダー
●ピント合わせ:ゾーンフォーカス(手動選択)
●測光方式:部分測光 EV2.5~16.5(ISO100)
●シャッター:電子シャッター 1/350~4秒、バルブ
●フラッシュ:内蔵フラッシュ GN 約6(ISO100・m)
●大きさ:約127×78.0×52.0mm
●重さ:290g(フィルムと電池除く)
発売日:2024年7月12日
価格:実売8万8000円 ※価格は記事執筆時のものです
