ニコンから待望の超望遠ズームが満を持して登場!テレ側600mmは想定通りだがワイド側は180mmになり3倍超のズームレンジを達成、さらに嬉しいインターナルズーム仕様だ。そしてこれに呼応するかのような70-180mmズームも先行して発売された。こちらはf2.8通しながらフィルター径67mmというコンパクトなスペック、雰囲気的にも180-600mmとはまるで兄弟。この2本をまとめてサーキットインプレッションしてみた。

ニコンの良心か、はたまた撒き餌なのか?圧倒的CPの超望遠ズーム

当初からNIKKOR Zのロードマップに200-600mmとして記載され多大な注目と期待を集めるも、なかなか登場しなかった超望遠ズームがワイド側を180mmに拡大してついに発売となった。Fマウント200-500mmのZマウント版としてその価格にも「期待大」であったが、果たして20万円台前半と嬉しいプライス。しかもレンズ全長が変わらないインターナルズーム採用仕様で操作性、剛性感は大幅アップの高コストパフォーマンス。Zシリーズへ移行するにあたり、このレンズの登場を待っていたユーザーも多いのではないだろうか。

三脚座リングを含めたレンズ重量は約2140g。Z9と合わせると総重量は約3.5kgとなる。長時間の撮影となるレース取材では一脚が必携だ。

樹脂製のフードにはボタン式のロック機構が備わる。フード自体にもっと強度があれば言うことなし。

筆者所有のz 100-400mm f/4.5-5.6 VR S(上)との比較。100-400mmはテレ側で全長が伸びる仕様だが、180-600mmはインターナルズーム機構なのでズーミングによる全長の変化がない。

いざ鈴鹿サーキットへ!

いざインプレの地はF1日本GPも開催される「世界の」鈴鹿サーキット。8月末に行われたスーパーGT選手権第5戦で実戦投入だ。我々がレース撮影において多用する焦点距離は大体300mmから500mm。この焦点域を含むズームレンズ、某社の100-500mmや60-600mmなどが重宝がられ仕事仲間でもユーザーが多い。この180-600mmは、NIKKOR Zで初めてそのド真ん中をカバーする、プロユースでも実用性の高いズームレンジだ。

決勝レースのスタートをカメラスタンドから撮影する場合、その撮影距離は数百メートルから数十メートルまでと大きく変化する。この180-600mmはまさしくそういった場面にうってつけなのだ。スタート瞬間を600mmで、そして連続撮影しながらワイド側へズームアウト。その際、180mm側まで左手の持ち替え無しで一気にズームアウトできる適度な回転角だ。レンズ全長がズーミングによって変化しないインターナルズームではあるが、欲を言えばもう少しズームリングが軽ければと感じた。

Fマウントの180-400mmなどは指2本で軽々操作できるが、このレンズは左手全体でしっかり回す感じだ。価格が一桁も異なるハイスペックレンズと比べても仕方ないが、ズーミングで動くレンズ群が多いのだろうと想像はできる。急激にズームさせると一瞬ファインダー像の乱れ(ピント移動?)を感じさせることがあったのもそういう理由によるものだろうが、この高CPレンズの魅力にはそんな些細なことは問題にならない。

画像: レースのスタートシーンを600mm側で撮影。レンズのせいではないのだが、陽炎の影響でシャープさが物足りない。この時期のレースでカメラマンを悩ませる共通の問題だ。 f6.3 1/1000秒 ISO100 600mm 使用カメラ Nikon Z 9(以下共通)

レースのスタートシーンを600mm側で撮影。レンズのせいではないのだが、陽炎の影響でシャープさが物足りない。この時期のレースでカメラマンを悩ませる共通の問題だ。
f6.3 1/1000秒 ISO100 600mm 
使用カメラ Nikon Z 9(以下共通)

画像: 先頭のマシンを追いながら180mmまでズームアウトしつつ連続撮影。ピントは迷うことなく追従してくれた。ここまでマシンが近づけば陽炎の影響も少なくシャープな画像となる。 f6.3 1/1000秒 ISO100 180mm

先頭のマシンを追いながら180mmまでズームアウトしつつ連続撮影。ピントは迷うことなく追従してくれた。ここまでマシンが近づけば陽炎の影響も少なくシャープな画像となる。
f6.3 1/1000秒 ISO100 180mm

画像: レース展開によってGT500クラス中団グループが数珠つなぎとなったシーン。マシンを適度な大きさでフレーミングできるのはズームレンズの大きなメリットだ。 f9 1/640秒 ISO100 470mm

レース展開によってGT500クラス中団グループが数珠つなぎとなったシーン。マシンを適度な大きさでフレーミングできるのはズームレンズの大きなメリットだ。
f9 1/640秒 ISO100 470mm

クロップでも実用になる素性の良い描写

ところでサーキットでの超望遠撮影で最大の敵は何か?それは路面温度の上昇により発生する陽炎だ。どんなにシャープなレンズを使っても、ピントがボヤっとした画像になってしまう。この影響を低減するには被写体との距離を縮めることしかない。400㎜付近のレンズが多用されるのはそういった理由によるものだ。だからといって超望遠での撮影を諦めているワケではない。好条件が整えばトライする、その条件を見極めるのもプロには必要だ。前置きが長くなってしまったが、要するに600mmのクロップ、900mm相当の撮影を試してみたかったのだ。

その機会は決勝レース終盤、気温が下がりやや涼しいと感じ始めた時間帯に訪れる。コースサイドの比較的高い位置から、コーナーへ向かうマシンを遠くから撮影する。600㎜をDXクロップして900mm相当、かなり手前からマシンを追えるのでAFは問題なく、画面いっぱいになるまでピントを追い続けレリーズ。結果は大満足、やや線は太くなるがシャープ感は損なわれていなかった。

画像: GT300クラスのトップ争いをテレ側でさらにクロップして捉える。やや高い位置からの撮影、そして気温が下がったことで陽炎の影響が少なくなり、線は太いがシャープな画像となった。 f11 1/500秒 ISO250 600mm(DXクロップ900mm相当)

GT300クラスのトップ争いをテレ側でさらにクロップして捉える。やや高い位置からの撮影、そして気温が下がったことで陽炎の影響が少なくなり、線は太いがシャープな画像となった。
f11 1/500秒 ISO250 600mm(DXクロップ900mm相当)

画像: 最大望遠で予選アタックを正面気味に撮影。姿勢を乱してハンドル修正をする一瞬をとらえることができた。デグナー出口はマシンとの間に立体交差の日陰を挟め、気温の影響を受けにくいポジションから撮影できるので、超望遠のテストにはもってこい。絞りは開放! f6.3 1/800秒 ISO100 600mm(DXクロップ900mm相当)

最大望遠で予選アタックを正面気味に撮影。姿勢を乱してハンドル修正をする一瞬をとらえることができた。デグナー出口はマシンとの間に立体交差の日陰を挟め、気温の影響を受けにくいポジションから撮影できるので、超望遠のテストにはもってこい。絞りは開放!
f6.3 1/800秒 ISO100 600mm(DXクロップ900mm相当)

スーパーGT選手権の決勝レースで使用したが、限られた状況でバリエーション豊富なシーンを撮影できる、非常に便利なズームレンズという印象だ。AFはSTM駆動だがスーパーGTのレース撮影では十分な速度で遅れることもなく、条件さえ良ければ600mm域での描写は、Z NIKKOR共通の線の細いシャープな画像だ。筆者はZ 100-400mmを所有し、日常からサーキットまで幅広く使用しているのだが、レース取材のためだけにこのレンズを追加購入してもいいくらい、使用感が価格を大きく上回る極めてコストパフォーマンスの高いレンズだ。サーキットで撮影するユーザーの皆さんにもお勧めできる、絞り開放から使える超望遠ズームレンズ!だ。

S-Lineのアイツより近接能力の高いコンパクト&大口径な望遠ズーム

気が付けば17-28mm f2.8、28-75mm f2.8と、NIKKOR Zにシリーズ化されつつあるフィルター径67mmのf2.8の、誰が名付けたか「T-Line」シリーズに望遠ズームが加わった。すでにS-LineにはNIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR Sがあり価格も30万円超となってしまっているが、こちらは70-180mmとテレ側を20mm短くしVR機構を搭載しないことで軽量コンパクト、お値段も半分強に収まっている。

70mm時の全長は約151mmとF2.8通し望遠ズームとしては非常にコンパクト。カメラバッグの収納スペースにも優しいサイズ。

180㎜までズーミングすると全長が伸びるタイプ。どの位長くなるかは測ってないけど4cm位か?不用意な繰り出しを防ぐロック機構を備える。

花形フードはクリックで固定する。16万円超というレンズの価格からすれば、ロック機構が欲しいところ。

サーキットでのサブカメラに最適な軽量大口径

サーキットのコースサイドに出る時には必ずカメラを2台は持っていく。機材トラブルによる撮影不能を避けるためだ。今回は1台に前述の180-600mmを、そしてもう1台にはサブとしてこの70-180mmを装着しコースで撮影した。超望遠レンズには一脚を付けて撮影し一脚を担いで移動するが、もう1台はカメラのストラップで常時肩から下げていることが多い。そこでじわじわ効いてくるのがその重量で、サブカメラの70-200mmクラスにはできるだけ軽いものを選びたい。もちろんAFスピードはそこそこ必要、さらに開放値が明るければ言うことはない。

このNIKKOR Z 70-180mm f/2.8は、まさしくその用途にピッタリだ。このレンジでマシンを正面気味に捉えることはまずなく、主にマシンサイドを流し気味に撮影するのだが、実はマシンに近づくことで相対的にスピードが上がっている。上級モデルの70-200mm f2.8 VR Sは、フォーカス群を2個のステッピングモーターで挟み込み高速AFを実現している。一方、この70-180mmはシングルSTMながらレンズ群の軽量化も手伝い、実用上十分なAF速度という印象だ。レンズ側にVRが無くともZ9ではボディ内ブレ補正が働くので、低速シャッター使用時でも不便に感じることはないだろう。

画像: マシンとの距離が近いヘアピンカーブの内側などは、このレンジのズームレンズが活きるシーン。 f14 1/160秒 ISO64 150mm

マシンとの距離が近いヘアピンカーブの内側などは、このレンジのズームレンズが活きるシーン。
f14 1/160秒 ISO64 150mm

画像: 軽量コンパクトのおかげで手持ち撮影が容易だ。斜め方向の流し撮りなど、カメラを自由に振ることができる。 f16 1/100秒 ISO64 180mm(DXクロップ270mm相当)

軽量コンパクトのおかげで手持ち撮影が容易だ。斜め方向の流し撮りなど、カメラを自由に振ることができる。

f16 1/100秒 ISO64 180mm(DXクロップ270mm相当)

ポートレートや簡易マクロ、実用域で使い勝手の良さが光る

ニコンのサイトによるとこのレンズは絞り値で描写が変化するらしく、「絞り開放では柔らかい描写で…」とある。そこで顔なじみのレースクイーンを絞り開放で撮影させていただいた。ピントの合った目の部分は非常にシャープで柔らかさは全く感じない。では背景はというと、ピット内ということで直線的な物が多いがキレイにボケているような...。

また広角域での最短撮影距離が0.27mということで、クローズアップ撮影もできるとのこと。そこでマシンのフロントエンブレムに寄ってみた。試してみると70mmよりも少しだけズームインした方がより大きく写せるようだ。被写体が平面だと画像周辺で像の流れが発生するので奥行きのある構図で撮影することがポイント。ニッコールレンズは光学性能を担保するために最短撮影距離を制限する傾向にあったように思っていたのだが、多少光学性能を犠牲にしてでも寄れた方が実用性が高いというユーザーの声に耳を傾けたようだ。ニコンのこの発想の転換を歓迎したい。筆者所有のZ 24-200mmももう少し寄れたらなあ…。

画像: 絞り開放ではソフトな描写.?、いやいやSライン同等にピントはキレキレのシャープ。ボケがキレイらしいが、後ろは脚立だし…。こちゃまるの可愛さに免じてご容赦を。(モデル:水瀬琴音) f2.8 1/160秒 ISO64 70mm

絞り開放ではソフトな描写.?、いやいやSライン同等にピントはキレキレのシャープ。ボケがキレイらしいが、後ろは脚立だし…。こちゃまるの可愛さに免じてご容赦を。(モデル:水瀬琴音)
f2.8 1/160秒 ISO64 70mm

画像: 広角域での最短撮影距離が0.27mと、簡易マクロ的な使い方もできる。実際に使用した感じでは85㎜辺りが撮影倍率、撮影距離の兼ね合いで使いやすかった。格子状の網もキレイにボケている。 f4.5 1/60秒 ISO200 87mm

広角域での最短撮影距離が0.27mと、簡易マクロ的な使い方もできる。実際に使用した感じでは85㎜辺りが撮影倍率、撮影距離の兼ね合いで使いやすかった。格子状の網もキレイにボケている。
f4.5 1/60秒 ISO200 87mm

画像: サーキット以外での日常的なクルマ撮影でも非常に多用する焦点距離。AFも遅いと感じることはなかった。三脚座を必要としなければ、Z 70-200mm f/2.8 VR Sではなくこちらを選択するのもアリだ。(クローズドコースでの撮影)※撮影協力:株式会社SUBARU f7.1 1/160秒 ISO200 105mm

サーキット以外での日常的なクルマ撮影でも非常に多用する焦点距離。AFも遅いと感じることはなかった。三脚座を必要としなければ、Z 70-200mm f/2.8 VR Sではなくこちらを選択するのもアリだ。(クローズドコースでの撮影)※撮影協力:株式会社SUBARU
f7.1 1/160秒 ISO200 105mm

NIKKOR Zの魅力を高める高CPな2本でした

今回は2本セットでのサーキットインプレッションとなった。180-600mmは主にスポーツシーンや野鳥撮影で活躍するだろう。一方、70-180mmはシーンを選ばずオールマイティな撮影が楽しめ、特にクローズアップ領域ではS-Lineの70-200mmの上をいく。コストパフォーマンス的には180-600mmが突出しているが、70-180mmの使い勝手の良さは十分価格に見合うものだろう。待望の超望遠ズームをラインアップしたことで、Z NIKKORレンズはほぼすべての焦点距離域を網羅したことになる。今後もさらに個性的なレンズの登場に期待したい。
Photo & Report :井上雅行 (モーターマガジン社写真部 & JRPA 所属)
撮影協力:ホンダモビリティランド株式会社 鈴鹿サーキット、株式会社GTアソシエイション

画像: ほぼ同時期に出てきたまるで「兄弟」のような2本のレンズ。価格は180-600mmの安さが傑出し相対的に70-180mmが高く感じてしまうが、両方買っても約40万円なのだ。セットで考えればお買い得なのは間違いない。

ほぼ同時期に出てきたまるで「兄弟」のような2本のレンズ。価格は180-600mmの安さが傑出し相対的に70-180mmが高く感じてしまうが、両方買っても約40万円なのだ。セットで考えればお買い得なのは間違いない。

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