発売直後の2022年1月に、それほど待たずして入手できた(←NPSさんのおかげです)ニコンZ 9。レースカメラマンとしてサーキットを巡る筆者の相棒として、D5とともに今シーズンのモータースポーツ撮影で大いに活躍中だ。そのZ 9が、2022年4月のファームアップVer.2.00により大きな進化を遂げている。その後の10月27日にはVer.3.00のメジャーファームアップが公開されているが、ここではプロの期待に応える機能強化を実現したVer.2.00を実践レポートしよう(井上雅行)。

3つの大きな進化、1つ目はEVF

2022年の4月に仕様変更を行い、Ver.2.00へとファームアップしたZ 9。巷では「マイナーチェンジモデルじゃないの(汗)!?」とまで言わしめた、動画機能を含めた数多くのアップデートが施された内容だが、スチル撮影メインの筆者の用途においては以下の3項目がディープインパクトだ。

その1 カスタムメニュー d20「ファインダーの高フレームレート表示」

画像: 3つの大きな進化、1つ目はEVF

これまでもその高レスポンスと再現力から「ミラーレス最高のEVF」と言われていたZ 9のファインダーだが、リフレッシュレートが60FPSと一部の他社製品に対して遅れをとっていたのは否めなかった。これがファームアップにより120FPSを選択できるようになり、スペック的に最高レベルとなったのだ。

実際に使用してみると、これまでの60FPS表示との違いは明らか。特に横方向へカメラを振る「流し撮り」での被写体捕捉がもう光学ファインダーと同じ!と言ってよいくらいスムーズに。これによりリアルタイムにマシンを追うことがさらに容易になり、これまで時々あった振り遅れ、振り急ぎ、といったミスが皆無…とは言い過ぎだが、D5やD6と同等のファインダー捕捉力に進化した。

その一方で、消費電力が心配される向きもおられるかと思うが、ご安心アレ。ちょっとカメラから目を離しているときはZ 9クン、ちゃっかり低フレームレートで休憩しているようだ。レリーズボタンに触れると、焦ったように120FPSに戻るんだけどね。

画像: 真横の流し撮りなど、カメラを振る動きが速いほど120FPSの恩恵を感じる。 AF-S70-200mm f4G + FTZ Ⅱ F13 1/125秒 ISO200 120mm相当

真横の流し撮りなど、カメラを振る動きが速いほど120FPSの恩恵を感じる。
AF-S70-200mm f4G + FTZ Ⅱ F13 1/125秒 ISO200 120mm相当

2つ目はプリキャプチャー

その2 ハイスピードフレームキャプチャ撮影時のプリキャプチャ機能

画像: 2つ目はプリキャプチャー

20コマ/秒の高速連写がデフォルトのZ 9、「ハイスピードフレームキャプチャ」として30コマ/秒と120コマ/秒の超高速連写機能も備えている。通常の高速連写と異なるのは、画像サイズはL(30コマ/秒).、S(120コマ/秒)のJPEGのみで実絞りまで絞り込まれた状態でのEVF表示、という点。これらを理解しておけばAFも作動するので通常用途の延長線上で活用できる素晴らしい機能だ。

今回のファームアップでは、シャッターボタンを押す前にさかのぼって記録できる「プリキャプチャ」機能が追加され、ゴールシーンなど決定的瞬間の撮り逃がしを防げる「プロに寄り添った」Z 9となったのだ。さかのぼれる時間は0.3秒、0.5秒、1秒と選択可能で、筆者は0.5秒に設定してある。プロが撮影するには1秒マージンがあればもう十分、それ以上長くシャッターを押せていない状況は、ファインダーを覗きながら居眠りしている以外考えられないのだし。

画像: ゴールシーン、マシンが横切ってからレリーズしてもこの瞬間が記録できた。120コマ/秒でフレームにマシンが収まったのは僅か3カット。 Z 24-200mm f4-6.3 F6 1/1000秒 ISO800 ハイスピードフレームキャプチャー プリキャプチャー0.5秒

ゴールシーン、マシンが横切ってからレリーズしてもこの瞬間が記録できた。120コマ/秒でフレームにマシンが収まったのは僅か3カット。
Z 24-200mm f4-6.3 F6 1/1000秒 ISO800 ハイスピードフレームキャプチャー プリキャプチャー0.5秒

これが1番ウレシイ、カスタムAFエリア

その3 AF エリアモード「ワイドエリア AF(C1)」「ワイドエリア AF(C2)」の追加

画像: これが1番ウレシイ、カスタムAFエリア

従来D5やD6にあった(D5にはファームアップで追加)「グループエリアAF」に相当するカスタムワイドエリアAF機能が追加され、2パターンのプリセットができるようになった。様々なシーンで最適なAFエリアが設定できるのは、スポーツ撮影にとってはとても有効だ。ことモータースポーツにおいては画面下部に横長のAFエリアを設定することでスタートシーンの撮影にメリットが大きい。

実は筆者はこの機能が有るか無いかで、レースでのメインカメラorサブカメラの用途を決定している。このファームアップを機に、それまでD5のサブとして使われていたZ 9が晴れてメインカメラに昇格となったのだ。

画像: スタート直後、先頭のマシンは画面右側に。 赤い長方形はカスタム設定したAFエリアのイメージ。

スタート直後、先頭のマシンは画面右側に。
赤い長方形はカスタム設定したAFエリアのイメージ。

画像: コーナーへのアプローチで左へ移動開始。

コーナーへのアプローチで左へ移動開始。

画像: 曲がり始めることで2番手のマシンが顔を出す。

曲がり始めることで2番手のマシンが顔を出す。

画像: そして先頭集団のマシンがほぼ見えるコレがベストカット。横に広がるスタートシーンをカスタムワイドエリアAF(19×3)でカバーできた。 AF-S200-500mm f5.6E + FTZ Ⅱ F9 1/1000秒 ISO200 380mm相当

そして先頭集団のマシンがほぼ見えるコレがベストカット。横に広がるスタートシーンをカスタムワイドエリアAF(19×3)でカバーできた。
AF-S200-500mm f5.6E + FTZ Ⅱ F9 1/1000秒 ISO200 380mm相当

以上の3点が、Ver.2.00で筆者にとっての目玉となるアップデートであったが、もちろんそれ以外の面でも、例えばファインダーと背面モニターの切り替えなど「何となく使い勝手が良くなったな…」と感じる部分が実はファームアップでの改善だったりしている。もちろん動画記録の機能も大幅なアップデートとなっているし、さらにその後、Ver.2.11へアップしたことにより細かなバグも修正されている。

そして、このファームアップを目の当たりにした多くのプロが、Z 9の追加購入オーダーをしたとも聞いており、Zシリーズへの移行が加速しているのを筆者も肌で感じている。ニコンのフラッグシップ機として、まさにプロが末永く付き合える1台になっているのだ。

レースで機動力を発揮する2本の「NIKKOR Z」

かくして筆者のレースでのメインカメラに晴れて昇格となったZ 9だが、実は筆者はニッコールZレンズの手持ちが少ない。レース撮影はFニッコール + FTZ Ⅱアダプターで凌いでいる。これもD5と併用するためで互換性の面でやむなし、といったところ。将来的にはZ 9を複数台所有し完全移行したいのだが、その場合コンパクト、そして軽量なこれらのニッコール Zとの組み合わせが理想なのではないか。ということで、以下の2本を借用して実際に使用してみた。

「NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR」(2020年7月3日発売)

Zシリーズ初期にリリースされた高倍率ズーム。S-Lineではないということで画質の面でどうかと思われるだろうが、実は描写力でもかなりの実力の持ち主。そしてレンズ交換する時間が惜しかったり、ホコリ侵入のリスクがある取材現場ではこの高倍率が重宝する。

望遠側でややAFスピードが落ちるのだが、それでもかつて使用していたFマウントのDX18-200mmよりはレスポンスが良く、Z 9との組み合わせでは走りの撮影もそこそこできる。レース中は広めの画角でサブ用途に、そしてレース後は表彰式などメイン用途に、安心して撮影ができるとっても頼りになるお仕事レンズ。実勢価格でも税込み12万円前後とまずまず、もっと市場で評価されてもイイのにね。

画像: 縁石を攻める予選タイムアタックを比較的近い距離から捉える。 F8 1/250秒 ISO100 200mm相当

縁石を攻める予選タイムアタックを比較的近い距離から捉える。
F8 1/250秒 ISO100 200mm相当

画像: レース後の感動的なシーンを広めの画角で撮影。他のカメラからのストロボ光で印象的なカットとなった。 F6.3 1/125秒 ISO200 40mm相当

レース後の感動的なシーンを広めの画角で撮影。他のカメラからのストロボ光で印象的なカットとなった。
F6.3 1/125秒 ISO200 40mm相当

「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」(2022年7月15日発売)

今年7月に発売となったZマウントの400mm単焦点レンズ。開放値をf4.5としたことで驚くほどの軽量化を達成している。1.4倍テレコン内蔵のZ 400mm f/2.8 TC VR SがボイスコイルモーターでAF駆動するのに対し、こちらはSTM駆動ではあるが、フォーカスユニットが軽量なので遜色のないAFスピードだ。価格も実勢価格で税込み42万前後と決して安くはないが、Z 400mm f/2.8の税込み180万円超に比べれば、手が出ない額ではない。

画質はS-Lineの名の通り素晴らしい。逆光でも解像感クッキリ、フレアの影響を感じさせないクリアな描写。このレンズ最大のメリットはその軽さにあり、長時間に及ぶ耐久レースの撮影でも一脚の必要性を感じさせなかった。1.4倍テレコン装着も試したが、AF動作がやや遅くなったように感じられるも画質の劣化は感じられない。何といっても一脚装着から解放される撮影フィーリングの良さにすっかり愛情が芽生えてしまい、返却時の別れを惜しんだものだ。将来出るであろう200-600mmか、こちらのレンズか、じっくり検討してどちらかは是非とも購入したいゾ。

画像: 斜光となる耐久レース終盤、半逆光でもクリアな描写。一脚を使わないので斜めにカメラを振ることも容易だ。 F18 1/100秒 ISO400

斜光となる耐久レース終盤、半逆光でもクリアな描写。一脚を使わないので斜めにカメラを振ることも容易だ。
F18 1/100秒 ISO400

画像: テレコンを装着し、予選アタックを正面気味に撮影。絞り開放を試してみたがしっかりと解像している。 F6.3 1/640秒 ISO200 TC-1.4X使用 560mm相当

テレコンを装着し、予選アタックを正面気味に撮影。絞り開放を試してみたがしっかりと解像している。
F6.3 1/640秒 ISO200 TC-1.4X使用 560mm相当

最後にちょっとした悩みを…

実はバッテリーのことなのだ。Z 9には容量がアップしたEN-EL18dバッテリーが付属しており、予備バッテリーとして同じものを購入した。このEN-EL18dは上位互換バッテリーとして、D5、D6だけでなくマルチパワーバッテリーパック装着のD850、D500等にも使用できる。またこれまでのEN-EL18c以前のバッテリーもZ9に使用可能だ。

…と、ここまでは良いのだが、頭を悩ませるのは充電器との組み合わせ。EN-EL18dは、Z9付属のチャージャーMH-33でしか充電できない。便利な2個差しチャージャーMH-26aには装着すらできないのだ。出張用のスーツケースにはコンパクトなMH-33を入れっぱなしにしておき、自宅ではMH-26aで充電、みたいな使い方ができない。

一方、現行品としてまだ購入できるEN-EL18cは、どちらの充電器でも使用できるがEN-EL18dに対しバッテリー容量が3割ほど少ない。筆者の所有するEN-EL18系バッテリーは現在5種類あり、古いモノから徐々に買い替えることになる。その場合、容量の多いEN-EL18dにするか、はたまた便利さからEN-EL18cを選択するか、ホントちょっとした悩みなのだ。意外と高い買い物でもあるので。

進化を続けるフラッグシップ

ファームアップによりグッと使いやすくなったZ 9、これに象徴されるのはプロの要求に真摯に応えようとするニコンの「本気」さだ。現在でもスポーツ撮影におけるニコン最高のオートフォーカス機は「D6」に間違いないのだが、今回の新ファームによる機能向上を見れば、総合的にZ 9にはそこに迫る可能性を感じることができる。筆者もこの進化を続けるフラッグシップ機と、これからの長ーい「本気」のお付き合いしていこうと思う。あ、でも少しの浮気は許してね。
(■Report:井上雅行 ■撮影協力:GTアソシエイション、富士スピードウェイ、鈴鹿サーキット)

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