シグマ50mmF1.4 DG DN | Art (マウント:ライカL) 主な仕様
●焦点距離:50mm
●最短撮影距離:0.45m
●最大撮影倍率:1:6.8
●レンズ構成:11群14枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数:11枚
●フィルターサイズ:72mm
●大きさ・重さ:φ78.2×109.5mm・670g
●付属品:フード ケース
シグマブランドを決定付けた「Artライン」シリーズ
これまでシグマのArtラインといえば高性能・高品位ではあるが大きく重いレンズであることが多く、「運用には気合の要るレンズだ」という認識が筆者にはありました。
とは言え、シグマブランドを確固たる地位に押し上げた理由の1つもそのArtラインのレンズだったと思っていますので、技術力のアピールとしてArtラインはとても良い看板になっていたと感じます。そのArtラインが次のステップへと歩みを進めています。
今回テストしたのはLマウント版で、組み合わせたのはLUMIX S5。
新生Art F1.4 50mmでは描写性能だけでなく、機動性と操作性についても高い実力をそなえた、とシグマがアピールしています。
スペックシートでは670gあるとのことで、バッグに入れているとそれなりに重さは感じます。が、手に持った状態ではそこまで重いとは感じませんので、S5とのバランスは良さそうです。
と同時に、相変わらずの高いビルドクオリティはそのまま。「この瞬間がシグマレンズ」と感じさせてくれます。
リニアモーター採用もシグマは反応薄…
AF駆動に新開発のリニアモーター「HLA(High-response Linear Actuator)」を採用。フォーカス用に駆動するレンズは1枚としていることが効いているようで、AFは高速静粛かつ高追従性を実現しており非常に快適。「ソニーのGMレンズ並」と言えば大体の感触は伝わるかと思います。
過去にいくつかのメーカーさんに取材した際に『AF駆動用のレンズ内モーターとしてはリニアモーターは高価』という旨が各社の共通見解として一致していましたので、そのモーターをブチ込んでくるなんてシグマはスゲーな! と思い、正直に伝えたところ…"リニアモーターのコストを特別問題視するほど高いとは考えていなかった"というお返事。
もう、シグマさんったら…。
ソニーレンズのように絞りリングにはクリック感のON/OFFが選択でき、フードのしっかり感や着脱性も良好。個人的な意見を言えば、フードのありなしによって光線状態が描写に大きな影響を与えるようには思えなかったので、花形フードではなく丸形で先端にラバーを巻いて欲しかったと思いました。運用上は丸形の方が楽だけど、遮光効果は花形が優れているので、贅沢を言えば選べると嬉しいです。
光学性能は高いんだけど、どこかお茶目
スナップで撮影する限りにおいて、描写は申し分なし。というか大好きです。一応、言っておきますと、平面を相手にテストめいた撮り方をすると周辺部がポヤっとなったり、妙なボケ方をしたり、それなりに周辺光量が落ちる、などということがあります。
つまり、基本的な光学性能は高いけれども、だからといって必ずしも満遍なく優等生といワケではない、ということ。これとまったく同じ印象を、新生Artの35㎜F1.4の時にも感じました。つまりは新しいArtラインの流れだと思います。
筆者はMTF曲線をみても「わーすごいなー」くらいの感想しか持てませんが、Webを徘徊していると「波動光学的MTF曲線をチェックすれば描写特性は分かる」というコメントがあったりします。
自身の勉強不足を恥じ入るばかりですが、そういった数値評価だけでは推し計ることの出来ない描写性能を持っていると思います。
官能評価と数値評価のバランスは難しいと思いますが、本レンズは絶妙なバランスでチューニングされていて、シャープさとそこからボケていく過程がとても美しい特性を持っているように感じました。まさにArtレンズだね。ってことで、撮っていてメチャクチャ気持ちいいです。
うむ。これが新しいArtラインなのか?
しかもこの描写のワリにはコンパクトだと思うし、価格設定も見事。職業柄色々なレンズを体験してきましたが、このレンズのバランスを超える50mmは無いでしょ、って感じ。そりゃまあ、どこぞのZ50mmF1.2Sみたいなハイパーなレンズもありますが、あれはどう考えてもバランスが狂ってると思いますので。
ソニーユーザーが仕事で使うなら、FE50mmF1.4GMやF1.2GMの方が効率的だと思います。が、トヨタ的にはシグマの方がキモチイイ描写だと感じました(好みに依ります)。
LUMIXユーザーの場合、これから高性能な50mmが欲しいならシグマがオススメです。確かにS50mmF1.4はトンデモナク素晴らしい描写ではあるけれど、サイズがどうにも鬼なので覚悟が必要です。
ていうかZ50mmF1.2Sと同じく性能の為に色々犠牲にしてると思うから、究極が欲しいならS50mmF1.4を、バランスを楽しむならArtって感じかな? ちなみにS50mmF1.8は軽くてコンパクトでしかも比較的お手頃と良いことづくめではありますが、「味わい深いか?」と言われると、否。その代わりArt50mmやS50mmF1.4と同居できるので、気分次第で使い分けることができるかと。
で、最後に…
直接比較したワケではないので、あくまでも印象になりますが、従来のArt F1.4 50mmレンズと比べて、背景に規則的な線のような成分、たとえばタイルやレンガ、手すりなどがある場合のボケは明確にキレイになっていると感じました。
色収差やフリンジみたいな部分でも新型のほうがスッキリしてキレイだけど、絞りを開けていると、周辺部の特に前ボケについては従来型のほうが少しだけスマートな印象はあります。簡単に言えばカッチリ写るんですね。
ピント面のシャープネスはほぼイコール。というか、どちらのレンズも60MPくらいまでのセンサーの解像限界を超える解像力を持っているように感じているので、差が付かないのだろうと思います。そうしたシャープネス性よりも過渡特性の美しさで新型がキレイです。直接比較したわけではないので強くは言えませんが。
撮った写真を観ていて気持ちいいというか楽しいのは新型。特に水の表現が尋常じゃなく美しかった。それに加えて持ち歩きも苦にならないしAFも快適。もう結果は明らかなので触れません。
シツコくまとめとして…
繰り返しになるけれど、描写性能で言えば本レンズよりも高性能な標準レンズは他もにあると思います。でもこのレンズの魅力は性能ではなく、美しさとバランス。快適なAF性能と高い質感が常識的な重さの範疇に収まっていて価格も背伸びで手の届くところにあります。
もし機会があるなら、イベントなどでリアルフィールドで使ってみて欲しい1本。そうしたら多分イチコロで、手に入れるまでは悶々と過ごすことになる確率は大です。
50mmレンズに苦手意識のある筆者ですら「標準レンズを使いこなせるようになりたい!」と思ってしまうほどの胸キュンレンズ。なので、悩む暇があったら買え、とだけ言っておきますね。