シグマ 24mmF1.4 DG DN | Art 主な仕様
●焦点距離:24mm
●最短撮影距離:0.25m
●最大撮影倍率:1:7.1
●レンズ構成:14群17枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数:11枚
●フィルターサイズ:72mm
●大きさ・重さ:φ75.7×95.5mm・520g(ライカX)
●付属品:フード・ケース
従来のアートラインのイメージ=「すんごい重くてスンゴい写る」を払拭!?
同時に登場した20mmF1.4と同様に、鏡筒にはMFLスイッチが新たに装備された。LOCKにするとピントリング操作が無効となり、ピント合焦後にピントリングをうっかり操作してしまってもピントがズレてしまうことを防ぐ目的で使用できる。
前玉はφ72なので24mmの開放F1.4レンズとしては良心的なサイズだろう。また後玉側にゼラチンフィルターを装着するためのリアフィルターホルダーが装備されているので、前後フィルターによる多彩なフィルターワークが可能になっている。
今回はLマウント版でLUMIX S5と組み合わせて試用してみた。
まず感心したのが手にした時の軽さ。というのも、これまでのArtレンズのイメージ、スペックや見た目から想像して身構える重さよりもずっと軽いのだ。実際、従来型と比べて約200gの軽量化を達成し500g台前半に収まった。このスペック的からすれば「軽い」と評価しても納得できる数値だろう。
そもそもF1.4のレンズが500g台ってのは単純にスゴイと思う。まぁ、ソニーには更に軽い(驚異の445g)FE24mmF1.4GMっていうクレイジーなレンズがあるのだが。
ともあれ、これまでのArtレンズといえば漬物石になるくらいに重いレンズが多かったので「スゴイけど重い」って条件反射的にイメージしてしまうことが多かったけれど、これからは「軽いのにスゴイ」に変わりそうだ。
ビルドクオリティは安心と信頼のシグマ品質。肌に当たる部分はどこに触れても心地良く、フードの剛性感や装着感など申し分無い仕上がりだ。ハイレベルでスキのない製品と対峙すると自然と背筋が伸び丁寧に扱いたくなるし、撮影前は気分が高揚し、撮影中は心にクールな部分を作ってくれるように思う。
個人的な意見で言えば、同価格帯のAFレンズでシグマを超えるビルドクオリティは無い。
「光学性能に自信アリ」を謳うあのメーカーなどは、特にレンズフードの製造依頼をシグマにお願いした方が良いのでは? とまで思ってしまう。
パナ純正よりもAF性能が高い??
与太話はこれくらいにして、実写で感じたことを報告したい。
まず、印象が良かったのがAFだ。高速かつ非常に静粛なので動画でも問題なく対応出来そうだ。作例の掲載はないがドッグランで走り回る柴犬を撮影したところ、純正レンズであるのLUMIX
S 20-60mmやS 35mmF1.8よりも明らかにAFの追従性とピント精度が高く驚かされた。
過去のテストでの経験論ではあるが、シグマレンズは同じ被写体に対して何度もAFを繰り返すような評価テスト的な撮り方をすると、特に至近側で少しAF精度が甘くなるところがあった。しかし、本レンズは、撮影距離を問わず高いピント精度と追従性を発揮し、まるで純正レンズのような安心感があった。
動画対応の補足として、フォーカスブリージングについて。至近側でわずかに像倍率が変わるように見えたが、豊田的には「目くじらを立てる程ではない」という意見だ。これは「フォーカスブリージングを見つけてやろう」という気持ちで観察しなければ気付かない程度におさまっているという意味だ。言葉は悪いが、これを指摘するようなヤツは性格が悪いか、シビアな業務用途で本レンズの使用を検討する猛者のどちらかだろう。
歪曲は軽い樽型。筆者の様に、ワイドレンズでゼロディストーションはちょっと不自然に見えてしまう人間にはちょうど良いレベル。方眼紙やタイル壁を撮らなければ、歪曲が気になることは無いだろうし、補正は簡単そうだ。
感心したのはワイドレンズなのにボケが素直でキレイなこと。これだけキレイだと絞りを開けたり積極的に接写したくなる。至近端であっても絞り開放からシャープでクリアなので、なおさら自由に撮れる感が強い。最高解像を狙うのであれば、f/2.8まで絞れば申し分無いシャープネスに。個人的にはf/1.4~1.8がこのレンズらしくて美しい描写だと感じた。
諸収差については、豊田基準だと非常にハイレベル。周辺部の色収差やフリンジみたいなのも完全にゼロというワケではないが、実写ではほとんど気になることはなさそうだ。
私も一応評価のプロなので、重箱の隅をつつくような撮り方して、例えば「”星景撮影にも十分対応できる”とアピールする割にはコマ収差がある」といったイジワルなコメントをしようと思えばできる。
とは言え、星景に代表される点像の評価はレンズの性能評価としては極限性能のチェックとほぼ同じ意味だったりもする。そこの完璧さを求めるとこのサイズと価格のバランスの実現は難しかったと推測されるので、正直な気持ちとして、とても良いバランスで設計されていると思う。
むしろこの価格でどうやってこのクオリティを達成したのか疑問だ。士気の高い職場を実現しているか、あるいは目を背けたくなるほどのブラックなのか…。
一応にはなるが注意点を。星景撮影目的でこのレンズを検討する場合は自身でテストした方が良いと思います。筆者は星景を撮らない人目線で「十分に良い」と評価したけれど、使用目的によってはコマ収差は気になる場合があります。
またフリンジについては、使うボディによっても程度が変わることがあり、例えばセンサー前面にあるカバーガラスの厚みでも収差の出方が変わることがあるので、今回テストに使用したLUMIXS5においてはという前提での「目立たない」です。Eマウントだとまた違う評価になる可能性はあるかも。
何故にこういうコメントをするか? というと、一眼レフ時代はフランジバックが長かったことでカバーガラスの厚みによる描写への影響は比較的小さい傾向にあった。けれど、ミラーレスになって後玉とセンサーの距離がグッと近付いたので、特にワイドレンズはマウントシステムによって印象が変わる場合があるからだ。
惜しむらくは、もう「ひと寄り」ほしかった!
個人的に気に入らなかったところは寄れないこと。最大倍率が約0.14倍ってのはやはり物足りない。というのも従来型は約0.2倍までイケたし、0.5倍まで寄れるIシリーズの24mmF3.5もある。最大倍率が0.2倍未満だと「寄れない」感が高まるので、せめて従来品と同等だと嬉しかった。
総じて非常に満足度の高い1本だ。AFが良いので撮影していてイライラするシーンが無く、鏡筒やピントリング、フードなど全体的な操作フィールも良好だ。その上、写りも素晴らしいので使っていて気分が高揚するレンズなのだ。
なにより、そういったハイクオリティなレンズなのに1日持ち歩いてもギリギリ負担にならないサイズ感に収まっているのがお見事。価格も含めて評価するならば、24mm画角のF1.4でベストって言っても過言ではないのでは?
メーカーページの紹介にある「F1.4の最高性能をいつでも、どこへでも。」っていうフレーズに100%納得出来るし、とても良いコンセプトだと思いました。
性能一辺倒なだけじゃなくなった新35mmF1.4Artしかり、Artレンズは独自の個性を得て次の段階に進んだっぽいね。