『一瞬を共有する二つの心』。毎回一つのテーマを決めて撮影、撮り手である私・萩原がそのカットの撮影者側の意図を、モデルであるいのうえのぞみさんが撮られ手の意識を、それぞれ語るこの企画。本誌10月号で掲載したカットとは違う、いわゆるアザーカットの紹介とその撮影について語っていきます。
今回のテーマは『はんなり』
上品な雰囲気の彼女を、和の情緒の中で見てみたい…。
見慣れているはずの彼女だけど、和装は特別。
「母の着物なの」と言いながら凛とした姿を見せてくれた時、落ち着きの中に華やかさを感じてドキッとした。
僕の前に現れた瞬間。
あえてこの場所に立ってもらうまで、僕は見ようとしなかった。
この瞬間を楽しみにしていたから。
まずはまっすぐに彼女を見つめてみる。
少し照れたのか、彼女は胸元に手を添えた。
撮影場所になった古民家の庭を楽しんでいた彼女。
後ろ姿にも凛とした佇まい。
特に会話は無い。
静かな時間が過ぎていくが、こうした時間が、実はとても艶っぽく感じる。
正装としてのイメージが強い和装だけに、ちょっとした崩しはなんともそそる。
ただこちらに彼女が近づいてきただけなのに、それだけでドキドキしてしまう。
何か言いたげな、不満げな表情が意味深に感じてしまう…。
表情を見たとき、ハッとなる。
着物を着る、母の着物を纏う、いろいろな気持ちの交錯は、
僕の感じるドキドキとは別のステージの心持ちだったのかも。
それだけでも、女性は男性よりもずっとずっとオトナだなあと。
やはり着物姿は一番遠い姿かも
まっすぐに見つめたシーンや表情狙いのカットは85mmや100mmの中望遠系で、スパッと切り取った。中望遠系で全身を狙わなかったのは、彼女との距離を一定以上に離したくないため。気持ちが控えめに、でも細やかに変化しているのがわかったので、それを観察したかったからだ。やはり彼女にとっても特別な“衣装”だったに違いないから。
時間が経つにつれ、着物も姿勢も崩れていくさまがまた美しく、艶っぽい。気怠さとか間とか。
日本人でありながら、やはり着物姿は一番遠い姿かもしれない。(萩原)
昔、母親が着ていたピンクの着物。
いつかこの着物で撮影してもらいたいと思っていました。
袖を通した時、心身ともに気合いが入り背筋が伸びるような感覚に。
文化財にも指定されているこの古民家は庭も室内も雰囲気が抜群に良かったです。
そうそう、着物姿を自撮りするときに気をつけようと思ったことがありました。
スマートフォンのインカメラで着物姿を自撮りすると画像が反転してしまうことがあります(画像添付)。もし画像が反転した場合、衿合わせが反対に見えてしまうので注意しなきゃ、と思いました。(いのうえ)