常用ISO感度100 ~ 32000、現像時に解像感補正や前ボケの移動などができる新たな記録画質DPRAW、撮影時カメラ内でデジタルレンズプティマイザを実行…究極の総合力を誇るキヤノンEOS 5D Mark IVの開発には、どんな苦労があったのだろう?
画像: cweb.canon.jp
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主な仕様

●センサーサイズ:35mmフルサイズ(約36.0×24.0mm)●有効画素数:約3040万画素●画像処理エンジン:DIGIC 6+ ●ISO感度(拡張):100-32000(拡張50/102400)●最高連写速度:約7.0コマ/秒●シャッター速度:1/8000秒~30秒、バルブ●AF測距点(クロス測距点): 61点(最大41点クロス)●AEシステム(測光センサー分割数): 約15万画素RGB+IR測光センサー、252分割TTL開放測光●ファインダー視野率/倍率:約100%/0.71倍●動画記録:4K30p、フルHD120pほか●動画圧縮方式:H264/MPEG-4 AVC●液晶モニター: 3.2型 約162万ドット●記録メディア:CF(UDMA 7対応)+SDXC(UHS-1対応)●大きさ(W×H×D):約150.7×116.4.×75.9mm●本体重さ(本体のみ):約800g

注目ポイント

● 35mmフルサイズ用30.4メガピクセルCMOSセンサー
● 新画像処理エンジン「DIGIC 6+」
● 常用ISO100~32000(拡張102400)
● EOS-1D MarkⅡ譲りのオールクロス61点AF+F8対応
● 約7コマ/秒の連写性能
● 15万画素RGBセンサー+IR測光センサー
● ライブビュー時のDual Pixel CMOS AF+タッチAF
● 4K 30p&フルHD 60pのEOS MOVIE
● ワイド3.2型162万ドットタッチパネル液晶モニター
● 視野率約100%のインテリジェントビューファインダーⅡ
● 回折補正、カメラ内デジタルレンズオプティマイザ、DPRAWほか
● GPS、Wi-Fi内蔵

画像: 後列左より【電気システム担当】小野寺弘晃氏(ICP第二開発センター)【ボディ&メカ担当】小島 裕氏(ICP第二開発センター)【画像処理担当】白井邦宏氏(ICP統括第二開発センター)【デュアルピクセル担当】工藤圭介氏(ICP統括第二開発センター)【EFレンズ商品企画担当】島田正太氏(ICP第一事業部)。 前列左より【EFレンズ商品企画担当】山口聖吾氏(ICP第一事業部)【インタビュアー】諏訪光二氏(写真家)【カメラ商品企画担当】立花 淳氏(ICP第二事業部)。

後列左より【電気システム担当】小野寺弘晃氏(ICP第二開発センター)【ボディ&メカ担当】小島 裕氏(ICP第二開発センター)【画像処理担当】白井邦宏氏(ICP統括第二開発センター)【デュアルピクセル担当】工藤圭介氏(ICP統括第二開発センター)【EFレンズ商品企画担当】島田正太氏(ICP第一事業部)。
前列左より【EFレンズ商品企画担当】山口聖吾氏(ICP第一事業部)【インタビュアー】諏訪光二氏(写真家)【カメラ商品企画担当】立花 淳氏(ICP第二事業部)。

「あらゆる状況で高画質! 究極のバランス、それがハイアマのトップエンドである5Dです」  ──立花

画像: 【カメラ商品企画担当】立花 淳氏(ICP第二事業部)

【カメラ商品企画担当】立花 淳氏(ICP第二事業部)

「コンセプト、センサー、ダイナミックレンジ」
取画素数、コマ速、感度性能…“オールラウンドパフォーマー”のベストバランス。

【諏訪】まずはEOS 5Dシリーズのコンセプトと、5D MarkIVの位置付けを教えてください。
【立花】5D自体はずっと同じ位置付けです。アマチュアモデルのEOSのラインナップではトップエンドと考えています。プロの方々がたくさん使っていただいているのは存じてはいますが、あくまでもプロ機として作っているのは1D系です。天候などが悪条件の中でも最高のパフォーマンスを発揮できたり、耐久性や堅牢性に長けているのが1D系ということになります。そこまで過酷な条件下で撮影されないという環境で、最高のカメラというのが5Dです。その中で今回の5D MarkIVはALL-ROUND PEFORMERというキーワードのもと、あらゆるシーンで高画質に撮れることが第一目標です。当然、コマ速などに依存するようなスポーツシーンでは1D X MarkIIには劣りますけれども、それ以外のシーンであれば、すべてにおいて高画質に撮れる、と。それは動画であろうと静止画であろうと、最高のパフォーマンスが出せることを狙っています。
【諏訪】センサーが3000万画素クラスに決まったポイントは何だったんでしょうか?
【立花】5D MarkIIからMarkIII、MarkIVと変わっていくなかで、Mark IIIのときは、画素数は大きく変えずに高感度性能を上げて撮影領域を拡大しました。今回は、画素数と言う点でも満足していただきたかった。とはいえ、すでに画素数に特化した5Dsを先に提供させていただいていた状況です。5DMark IVでは、すべての性能を上げることを第一に考えたなかで、コマ速や感度性能が落ちてしまうようなことはあってはならない。
4000万画素にするとか、逆に画素数をあまり上げずにコマ速や感度をもうちょっと上げるとか、いろいろ選択肢はあったんですが、バランスをとったうえで、さらに画質的にも向上したことがユーザーに分かっていただける画素数を…というので3000万画素に落ち着きました。
【諏訪】画素数を決めるときは500万画素ずつぐらいの単位で選んでいくものなのか、製造ラインの区画を切っていくときの単位とかで変わったりするものなんですか? 3000万の上は3200万なのか3500万なのか…
【小野寺】とくに基準はございませんが、たとえばそのときに選択するプロセス、フォトダイオードのサイズや構造など…そこから最も良い設計を選択して画素数が決まってきます。
【諏訪】3000万画素だと、プリント時に300dpiクラスでA2弱には伸ばせますので、とてもいいと思います。デュアルピクセルなので言い方が正しいのかどうか分かりませんが、画素数が増えた分、画素ピッチが小さくなる。ダイナミックレンジはどうです?
【白井】ダイナミックレンジに関しては、いろんな表現方法があります。ノイズを含めて表現される場合や、明るいところをどこまで再現できるかを言う場合もあります。弊社では社内基準を決めていて、キヤノンとしてのダイナミックレンジに常に収まるように設計をしています。
【諏訪】集光の性能が上がっていけば当然、受ける光の量も変わって、ベースとしての本来のダイナミックレンジは変わるものなのではないですか?
【白井】センサーの特性としてはもちろん変わりますけども、最終的な絵づくりに落とし込んだときに、ここまでの明るさが表現できるというのをJPEGのときに常に同じように出力できるように設計をしています。
【諏訪】今回、常用ISO32000なので、かなりノイズを消すほうに頑張っていると思いました。まだ現像のテストができていませんが、過去の機種や5Dsもそうですが、シャドー部にノイズが出て持ち上げると目立つケースがある。その辺の認識は?
【白井】5D MarkIVに関しては、そういった要望もあったので改善しています。
【諏訪】ISO100とか200とか低感度の部分も良くなっているんですか?
【白井】はい。低感度からシャドー部のノイズは改善しています。

「DIGIC 6+」
DIGIC 6から完全に強化。汎用性が高いDIGIC 7は必ずしも上ではない

【諏訪】DIGIC 6+と7との大きな違いは?
【白井】映像エンジンはカメラ本体との組み合わせで多少性能が変動します。現時点でDIGIC 7搭載のEOSがないので、直接的な比較は難しいですね。
【諏訪】基本の処理能力は7のほうが上?
【白井】ターゲットが違っていまして…基本的に6+はハイクラス向けのエンジンで、7はやや汎用的なところまで使えます。それぞれの用途に特化した部分があって一長一短、直接比較するのは適切ではないかな、と。
【諏訪】では数字の大きさを気にするユーザーに対しては、気にしなくていいんだ、と。
【白井】6+と7に関してはそんなに気にしなくていいかもしれないです。
【諏訪】では6と6+ではどう違いますか?
【白井】そこは完全に進化しています。まずはノイズリダクションを新しい方法にしています。高ISOで色のついたノイズはけっこう汚く見えますが、この色ノイズを消す処理が進化し、画素ピッチが小さくなっているのにも関わらず常用ISO最高32000が達成できた要因の一つとなっています。あとは1D X MarkIIにも入っている回折補正とデジタルレンズオプティマイザがカメラ内に入っています。1D X Mark IIではデジタルレンズオプティマイザはRAWの再現像時だけでしたが、今回はJPEG撮影時にもお使いいただけます。あとは動画機能です。処理速度が上がることで4Kの30fpsをシングルエンジンですけども実現できていますし、HDですが120fpsというハイフレームの動画も実現できています。
【諏訪】デジタルレンズオプティマイザはDPPでやるのと同等ですか?
【白井】基本、同等に設計していますが、まったく同じにはなりません。微調整など細かいところまでしたい方は、細かな調整手段とかがあるアプリケーションを使ったほうがいいでしょう。後で編集するのが手間に感じる場合は、カメラで適用したほうがいいと思います。
【諏訪】カメラ側をオンにして撮影すると処理時間がかかってコマ速が落ち、けっこう待たされる。DIGICがデュアルならもっと速い?
【白井】そこで律速してはいなくて、DIGICに接続した外部チップによって、補正データの計算をしています。その処理で速度が決まっているため、DIGICをデュアルエンジンにしても大幅な改善は難しいと思われます。
【諏訪】チップセット全体の速度アップをしないかぎり、ということですね。個人的には、ここの速度アップをぜひお願いしたい。M-RAW、S-RAWに非対応なのは?
【白井】S-RAW、M-RAWに関してはシステムの制約により、申し訳ございませんが今回は非対応とさせていただきました。
【諏訪】レンズデータがないものに対しても有効です、と説明書にありますが、気になるのは社外レンズです。仮にどんなレンズが着いていようとローパスレスカットの分の補正の部分に関してはオンにできるものなんですか。
【白井】他社レンズも千差万別で、いろんな情報がレンズから送られてくる場合があって…基本的に情報が正しく取れない場合は補正はかからない処理になっています。
【諏訪】素人考えだと前に着いているレンズがなんであろうと、とりあえず光が当てられてここの後ろのユニットは固定化されているものなので、ローパスの低下の分を補うことに関しては一定なんじゃないかな、と。
【白井】そこは一定ですが、今回は回折補正という名前のとおり、回折と同時に適切な補正をしています。なので絞りの情報が分からないと適切な補正が当てられないというところもありまして。
【諏訪】なるほど。個別処理ではないんですね。今回ローパスレス仕様のRがない。ここでローパスの影響をカットできるなら、ローパスレス仕様とほぼ同等の画質ですか?
【白井】この回折補正機能はデジタル的な処理です。ローパスフィルターによって解像力が落ちたものに対してどれだけ落ちますよ、というのが分かっているので、その分を持ち上げるという画像処理です。その分、ノイズ悪化が避けられないところもあります。そのため補正量は控えめに設定しております。
【諏訪】ローパスレス仕様のRは検討された?
【立花】もちろん検討はしていますが、現時点でキヤノンとしてはローパスフィルターの効果は有効だという判断です。5Dsの場合は、あくまでも解像度優先だったので、その辺にご理解あるかたに向けてRというかたちで用意しました。5Dsに比べると5D Mark IVを使われるお客さまのレベルは格段に広いので、用意すべきではないと判断しました。
【諏訪】5Dsにあるファインダーマスクは比率変更機能もありますから、5D MarkIVにも欲しかった。僕は1:1のスクエアが好きですが、クロップがなかったとしてもファインダーマスク欲しかったな。
【小島】今回、5Dのフルリニューアルというところでかなり多くの仕様の検討が入っていまして…選考過程はここでは申し上げられませんが、その中でファインダーのマスクとクロップというのはちょっと優先度を落として、最終的には非搭載ということです。次の機種にはぜひ検討をしていきたい。
【諏訪】EVFを採用したミラーレスでは電気だからいくらでもできちゃうんですが、新しいファインダーの5D MarkIV
ではぜひ欲しかった。外されたポイントはコストですか?
【小島】それ以上に我々が市場に訴求していきたい機能、仕様というのがありましたので。
【諏訪】処理能力とか、なにかとバーターになってしまうんですか?
【小島】デバイスの機能も関係してくるので、バランスをみて最終的な判断を下しました。

「始まりは『デュアルピクセルは画像処理の観点でも
いろいろ使えるでしょう』というところから」  ──白井

画像: 【画像処理担当】白井邦宏氏(ICP統括第二開発センター)

【画像処理担当】白井邦宏氏(ICP統括第二開発センター)

「デュアルピクセル、DPRAW」
いまだかつてないボケや解像感の微調整ができる機能を実現。

【諏訪】ここにきてデュアルピクセルに踏み切ったのは、ライブビュー(以下LV)時のAFの使い勝手向上が狙いですね?
【立花】はい。今、LV時のAFの使い勝手の向上に対しては非常に要望が高いです。5DMarkIIIもかなり風景写真を撮られる方が多いと思うのですが、三脚に据えてLVで撮影する方が増えてきました。その際、従来のコントラストAFでは速度面で厳しいので、LV表示の拡大機能を使ってMFでピント合わせをされている方が多いようです。5DMarkIVではデュアルピクセルCMOS AFを積極的に使えば、MFでピントリングを何度も回しながら合わせていた状況でも一瞬にしてAF撮影できます。動画でも非常に有効な素子になりますので、マスト機能として入れました。
【諏訪】今回、最初から載せる方針でしたか?
【立花】そうですね。
【諏訪】下位機種にも搭載されていたので、いつかは載るんだろうなとは思っていましたが思ったより早かった。確かに今回、顔認識とかも含めてライブビューで撮ったらかなり快適に撮れました。
【立花】タッチパネルも搭載しているので、操作性もかなり良くなっています。
【諏訪】デュアルピクセルと合わせて今回ポイントになってくるのがDPRAWです。これは通常の1ピクセルとして両方足したもので生成するデータと、さらにデュアルそれぞれのダイオードのデータの両方を持つというかたちですよね?
【白井】内部的な話は申し訳ございませんがお答えできませんが、視差情報が失われないようなかたちでファイルとして保存しています。ですのでファイルサイズが2倍近くになってしまうのですが、その分、情報量としては視差情報を持った画像を出力できるようになっています。
【諏訪】今回、デュアルピクセルならではの調整機能が入ってきて、そこから解像感も上げていくという話が出てくると、ちゃんと光が集まらないとダメなのかな、と。素人の勝手な想像ですが、デュアルピクセル機の集光部分、マイクロレンズのあたりは広めに集光できるようになっているんですか?
【白井】とくに“DPRAWだからこうしなきゃいけない”というわけではなく、マイクロレンズは機種ごとに最適化しています。今回、画素ピッチが小さくなって、そこに対して
DPRAWも踏まえたマイクロレンズの最適化を計った設計を行なっています。
【諏訪】他のカメラと共通で、あのカメラ用はこのサイズでウエハーを切っていくとかセンサーを切っていくみたいな感じで、要は切るサイズの違いみたいな認識をされることが多いと思うんですけど、レンズも各機種専用に作っているんですか?
【白井】そうですね、センサーに対してマイクロレンズもセットで設計します。もちろんリニューアルするときや作り替える場合に見直しがかかることはありますけど、基本的にはセンサーとマイクロレンズは1対1の関係にあります。
【諏訪】今回、処理機能としてのデュアルピクセルRAWでのボケシフトや解像感補正が新設されましたが、この仕組みのご説明を。
【白井】基本的にはデュアルピクセルRAWが持つ視差の画像を利用しています。
【諏訪】右目、左目みたいな感じですね。
【白井】はい。今までは、その情報をAFに特化して使っていましたが『画像処理の観点でもいろいろ使えるでしょう』というところから始まっています。たとえば解像感補正に関しては、被写体の奥行き方向の解像感の微調整ができますし、ボケシフトに関しては、2視点情報を用いた視点移動のような調整が可能になります。
【諏訪】ミクロンレベルというか、こんなに細かいセンサーの中でのズレが、ここまで大きなズレを作り出せるものなんですか?
【白井】デュアルピクセル自体は隣あっていますが、撮影できるレンズからの光の入射角が右と左の画素で違っています。その入射角の違いのため、最終的に絵としても違いが分かるレベルで動きます。
【諏訪】じゃあフランジバックの影響があってレンズで光を曲げてくるタイプのほうが調整幅としては大きくしやすい?
【白井】最終的な効果の見えとしては、焦点距離や撮影距離にも影響しますし、各機能によっても条件が異なるので、一概にこの条件なら分かりやすい、というのは難しいですね。
【諏訪】センサーが作り出せるダイナミックレンジがあって、でもけっきょくデュアルピクセルの粒を使ったデータを使うと半分のレンジのデータしか作れないはずですよね。
【白井】これらのDPRAWの機能を使用しても、ダイナミックレンジは減らないような画像処理を行っていますので、それに関しては大丈夫です。
【諏訪】カメラ側ではDPRAWとレンズオプティマイザが同時使用不可だったんですよね。まだ試せていないんですけど、DPPでも後がけができない状態になるんですか。
【白井】DPPであればDPRAWに対してデジタルレンズオプティマイザをかけられます。

諏訪光二

画像: 諏訪光二

日本大学芸術学部写真学科中退。弊誌人気連載「どっちのレンズショー」レポーター。EIZO ColorEdge グローバルアンバサダー。SAMURAI FOTO会員。

引き続き「中編」ではメモリーカードやデジタルレンズオプティマイザ、AFなどに関して尋ねる。

*本記事は2016年10月に発売された弊社ムック「史上最強の5D登場! Canon EOS 5D Mark IV オーナーズブック」より抜粋したもので、開発者の所属などは当時のままです。

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