わーお! タムロンから「ガチ」プロ用? のレンズが登場。実勢価格で30万円オーバーという値付けはタムロンでは異例だし、正式名称からも「Di Ⅲ」だの「VXD」といった面倒くさい略称が一切とれてシンプルになっている。タムロンに地殻変動の前触れか? ともあれ12mmという「超・超広角」の領域は使いこなしに相当な力量が必要だ。そこんとこ、実写とともに探ってみよう。

作例共通データ:ソニーα7 V WB:オート 歪曲収差・周辺光量電子補正ON

■金城正道氏プロフィール
沖縄県出身。元レンズメーカー広報&元月カメ編集部員。現在は千葉県市川市在住の写真家、および最近は「間違いだらけシリーズ」の論客として活躍。最近の得意メーカーはOMデジタルソリューションズ、タムロンとかその辺。仕事先によってはキヤノンもソニーも使う。フィルムカメラもいまだによく使う。実は若いころ映画産業でも働いていたため動画系のウンチクも豊富。(公社)日本写真家協会会員 元映画テレビ技術協会会員

タムロン 12-20mm F2.8 (MODEL:A084) の主な仕様

●焦点距離:12-20㎜
●最短撮影距離:0.18m(W)0.28m(T)
●最大撮影倍率:1:5.8 (W) / 1:9.1 (T)
●レンズ構成:12群17枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数:12枚
●フィルターサイズ:後部シートフィルター差し込み式
●大きさ・重さ(Zマウント):90mm×119.3(121.3)・570(585)g
●付属品:ラッピングクロス

どうした! タムロン!? 何を考えている?

空いっぱいを画面に取り込む12mmのすばらしい画角。カメラの振り方次第で、絵柄はガラッと変わる。「超・超広角」はむずかしいのだ。
■12mm 絞り優先AE F2.8 1/3200秒 ISO100 プラス0.7露出補正

ソニー帝国から企業買収のオファーがあって業界を一時騒然とさせたタムロン。そんな折に、なにやら気になる新製品のニュース。12-20mm F2.8、33万円(!)などという“シ●ま”のようなレンズをタムロンが出すとは思わなかった。しかも絞りリング(ニコンZではコントロールリング)付き。

プレスレリースを見ても、正式名称から「Di何とか」とか「VXD」とかの記号名称が無くなっている。社内で何か地殻変動…? などと妄想してしまいそうな登場の仕方だ。このレンズ、なんというか、こう、動画屋さん向けのアレな…というのが初見で、これまで「マジョリティ向け」に商品企画を振ってきたタムロンがなぜ…? らしくないといえば、らしくない。プロといっても「プロフェッショナル」ではなく、動画の「プロダクション」あたりが興味を持ちそうなレンズだ。

ワイドレンズのポピュラーな使い方として、被写体にグッと寄って強調する方法があるが、20mm以下では遠近感が強く出すぎて作画が難しい。近すぎて深度も浅くなるため、けっこう絞ることになる。
■20mm 絞り優先AE F11 1/400秒 ISO100 マイナス0.3露出補正

そもそも動画は画面のアスペクト比が写真より横長なので、縦側の画角を広くキープしようとすると水平画角は「超・超広角」の焦点距離が必要になってくる。そんなわけで12mmなんでしょ、とも考えられる。鏡筒の絞りリングの名称にも、動画屋さんの使う「アイリス」(=絞り)という言葉が使われているし(写真業界での絞りの英語名称はAperture)。

まあ、こんなレンズはオレら零細なスチル写真屋(昔の映画屋さんたちは我々を「パチカメ」と呼んで蔑んだ)にはペイできそうにもないのでスルーの対象といっても良さそうなんだが、何か魅力もある。ということで、ここは「Webカメラマン」らしく写真ユーザー向けに振ってインプレしたい。

12mmの画角は恐ろしく広い。普通にちょっと下向きに構えると、タテ画面では自分の足元が画面に入ってしまうので、ファインダーを隅から隅までよく確認する必要がある。この作例はわざと足を入れてみた。筆者の足の影のむこうは高さ約30メートルの断崖絶壁。
■12mm 絞り優先AE F2.8 1/800秒 ISO100

ライバルはスマホ? ワイドな作例にはゴージャスなロケを

太陽の光芒をアクセントにするため、F16まで絞った。本機の絞り羽根枚数は偶数枚の16枚で、その通りの数の光芒が出た。Oh! ゴゥージャス!!(沖縄・東南植物楽園)
■12mm 絞り優先AE F16 1/30秒 ISO200 マイナス1.3露出補正

隠さずに言うと、筆者的にはこの焦点域はiPhoneで済ませてしまう領域だ。そう、筆者のド高かったProMaxはそのために導入していて、何だったらワイド域の仕事写真は全部スマホで済ませちゃうョというのが、恐ろしい現実だったりする。スマホでオッケーな領域に30万超えの機材を投じるって…「何なん?」という素朴な思いを胸に、しかしフルサイズミラーレスの画質が必要な仕事があったり、「気分でこんなレンズを使いたくなる」こともあるかもしれない、と思い直して作例撮りに持ち出してみた。

iPhone14 ProMaxの超ワイド換算14mm(左)と本機の12mm(右)の比較。iPhoneのほうはアスペクト比の関係で水平画角が少し窮屈だが、想像以上に広い範囲が写ることがわかる。また、RAWで撮影したiPhoneの画像は、画質面でもかなりのもの。本機+α7 Vの画像は確かに余裕があって素晴らしいが、さて、実用レベルでコスパ判断となると…どうなんだろう…。

ハナからわかっていたのは「超広角はむずかしい」ということ。目の前のほぼ全部が写ってしまうので、撮影地や被写体を選ばないとゲスなシャシンになってしまう。いやしくも天下の「Webカメラマン」だ。筆者の住むバエないご近所周辺をうろうろ歩き回ってパチリとはいかない。見栄えのする絵にはゴージャスなロケが必要だ。そうだ、このレンズの作例には、「広い青い空と青い海の景色がふさわしい!」。ということで、沖縄に飛んで作例撮りに臨んだ。

絶滅危惧種のオオタニワタリ。構図のバランスを狙って被写体にグッと寄っているが、実はレンズに触れそうな近さ。ゴージャスな太陽の光芒を画面に取り入れたら、画面左下にカッコイイ円弧状のゴーストが現れた。(沖縄・東南植物楽園)
■12mm 絞り優先AE F16 1/30秒 ISO2500 プラス0.3露出補正

ズームレンジ(画角)のウンチク。三角定規を思い出せ!

12mm(上)と20mm(下)のパースペクティブ比較の図。主被写体の「樹木を背負った漁船」が画面内で同じ大きさに写るよう、歩いて撮影距離を調整して撮影している。20㎜は被写体から離れるため手前に要らないものが写ってしまうが、12㎜ではそれを乗り越える距離まで近寄るため漁船だけを画面に入れることができ、シンプルな力強い絵を作ることができた。

超・超広角ズームである。35mm判フルサイズの場合、12mmの水平画角は約112°で、わかりやすくいうと三角定規の長い奴の二番目に尖ったほうの角度が60°で、それを左右にくっ付けて並べた角度より少し狭い。タテの画角は約90°で、これはわかりやすい。いっぽう、20mmの水平画角は約84°になり、これも90°に近いのでわかりやすい。20mmの時の垂直画角は約62°だ。これも三角定規の60°の角度に近い。

ズーム倍率という観点からは2倍に足りないので「どうなの?」という思いはあるが、上記のように感覚的にはよくできた、わかりやすいズームレンジの設定だ。数値的にはソニーの12-24mmのように2倍まではズーム倍率を引っ張ったほうが良かったんじゃない? とも考えそうだが、実際の画角変化とサイズの小型化・軽量化(=コストにも直結)とを天秤にかけると「なかなか良いバランスにおさめているではないか」と言える。

超・超広角の絵はカメラポジションで激変する。この作例は、潮がかかるか! というくらいの高さにまでカメラを砂浜に下げている。当然ファインダーは覗けないので、カメラの背面液晶をバリアングルで使い、水平線の位置とカメラの水平を保つことに気をつけながら、波のタイミングを待ち何度もシャッターを切っている。おかげで腕はプルプルに。スペックに比べてコンパクトなレンズでバランスも良好だが、決して軽いわけではない。F2.8開放にして、手前至近域を深度から外してボケさせることによって、波際に動感の現れるのを狙っているが、絶対にあるはずの周辺減光は見事なレベルに電子的に補正されている。
■12mm 絞り優先AE F2.8 1/4000秒 ISO100 プラス0.3露出補正

沖縄といえば飛行機なのでコックピットなど撮れそうな場所を探したが、限られた時間ではさすがに無理だったので、かわりに都内でこんな場所を発見(蒸気機関車C-57)。運転台は狭く引きもないので、20mmとか14mmとかで全体を一コマに収めるのは無理。超・超広角12㎜はこんなシーンでエライ。(大田区・入新井西公園)
■12mm 絞り優先AE F5.6 1/80秒 ISO400 ストロボ使用

動画向けの絞りリングは、静止画でも使いやすい!

超・超広角のモデルにはうってつけの、この人なつこい鳥は「バリケン」という種類のアヒルなんだそう。アヒルの顔までレンズ前玉の直前20センチもない距離だが、怖がりも逃げもせずのんきに歩いて楽しそうに写ってくれた。絞ってパンフォーカスより、開放で背景をボカしたほうがアヒルの表情が生きた。本機の絞りリングは、シャッターを切りながらでもそんな操作をスムーズに行えて、静止画でも使いやすい。(沖縄・東南植物楽園)
■16mm 絞り優先AE F2.8 1/16000秒 ISO1250 プラス0.3露出補正

この絞りリング、ソニー製のレンズに最初に登場した機構だが、動画ユーザーからの要望と聞いた。実際、プロ用のムービーカメラには必ずレンズ側に絞りリング(アイリスという)が付いている。大昔からだ。なぜかというと、ムービーカメラでは原則的に露出をアイリス(=絞り)で調整するからだ。そして、大体においてアイリスにはクリックがない。なぜかというと、ワンカットの中で光量調整を行ったり、シーンつなぎの暗転を撮影で行うためには、アイリスにクリックが無い方がスムーズだからだ。

フィルム時代はフィルムの感度は途中で変えられないし、ムービーカメラでのシャッタースピード調節(開角度調節という)は機構的に制限が多かった。テレビカメラの時代になっても、ゲイン調整(撮像管の感度調節)による露出操作は難しく、絞りによる光量調整が最も簡単だったし、自然な動きが撮れる(今でも、シャッタースピードを速くしすぎると、動きがカクカクした変な動画になる)。ムービーのキャメラマンたち(映画の人を「カメラマン」と呼ぶとメチャ怒られた)には、アイリスはレンズ側にあるのが絶対なのだ。

絞りリングは1/3段刻みで、クリックは「OFF」で外せる。静止画の人はクリック「ON」が無難。アイリスロックは絞りリングを「A」の位置、もしくは「F2.8~F16フリー」のどちらかで固定するものだが、「A」の位置は必ずしもAUTOを意味しない。「カメラ側で絞り操作を行う」という印だ(昔のキヤノンFDレンズとかの絞りリングの「A」マークと同じ)。

そんな背景を知っているソニーの商品企画は、αをムービーのスタッフが使いやすい方向に発展させてきているようだが、このアイリスリングの設定もそのひとつだろう。ムービー用のレンズを手掛けている他のレンズメーカーや、ニコンのZ、キヤノンのRFにも、同じような機能を実現する仕組みを、ムービー屋さんが使いそうなシステムとして組み込んできた。タムロンもそれに乗っかってきたわけだ。

しかしこのリング、静止画のカメラマンである筆者が使っても非常に使いやすい。絞り機構はレンズのもの。レンズ側にあるリングで絞りを操作するのは直感的でやはりわかりやすい。絞り値の表示やリングの幅も大きく、操作や確認が確実に行える。回転角も大きく、1/3段も設定しやすい。

12mmの作例(左)と、その撮影状況(右)。左の作例のような主被写体(アダンの実)の大きさで12㎜で撮ろうとすると、右の状況写真のようにレンズにぶつかりそうな距離にまでぎりぎりに近寄る必要がある。

実は筆者は、本レビューと同時並行で、キヤノンA-1という40年以上も昔のフィルムカメラを携行して使っていた。この懐かしのA-1、絞り値をカメラ側のシャッターボタン周りのダイヤルで設定するようになった初めてのカメラなのだ。現在では絞り値はカメラ側で設定するのがあたりまえだが、当時この操作はすごく違和感があった。そして今。最新のデジタルカメラの絞り値はレンズ側で、古いフィルムカメラの絞り値はカメラ側で設定するという、逆転した状況に遭遇してしまった。結果、なんとも逆説的だが、レンズ側で絞り操作を行うほうが使いやすかった。やっぱり「これがいい」のだ。理にかなっている。

ちなみに、ホンモノのムービー用のレンズのアイリス環にはCL(Closeの略)というポジションがあり、最小絞りを超えてアイリスが完全に閉じるようになっている。画像を真っ暗に暗転させるためだ。本機をはじめミラーレス用のレンズではこのポジションを見かけたことがないので、まだ完全に動画用にシフトしたわけではないのねー、と思わせられる。

焦点距離12mm時の「絞り」の比較作例。F16(左)と、開放F2.8(右)。主被写体のハイビスカスの「しべ」にピントを合わせているが、レンズ面から数センチ以内までに寄っているため、超・超広角といえども開放や少々絞った程度では、距離差の大きい背景被写体はもちろん、花びらの先あたりまでも想像以上にボケる。思い通りの絵(左のカット)になるまでには、かなり絞る必要があった。

その他の機能やギミック、操作感などについて

本機は前玉が鏡筒前面の化粧環より飛び出している、いわゆる「デメキン」レンズだ。そのためレンズ前側には通常のねじ込み式フィルターは取り付けられない。代わりに、レンズ後部にシート式のフィルターを差し込める構造になっている。星景撮影で使用されるソフトフィルター(ケンコーからシート状のものが発売されている)などは、本機の取扱説明書に指定されている大きさにカットして、ここに差し込む。また、フードは鏡筒の一部となっていて取り外しはできないが、テレ側にズームするに従って前玉が奥に引っ込む構造の「ズームフード」になっており、効率的に遮光される。

本機にはVXDという、タムロンの誇る、フォーカシング用のリニア駆動のアクチュエーターが採用されている。実際、非常に静粛で高速に、スムーズに動作する。全く快適だ。クリップ貼り付きテスト(?)も問題なくクリア。

手振れ補正機構VCは搭載されていない。今や、防振機構はカメラ側に付いているのが当たり前だし、必要な時には動画屋さんはジンバルなどの機器も使う。ワイド系でもあるし本機には不要で問題無し。

鏡筒には「ズームロックスイッチ」「フォーカスロックスイッチ」「フォーカスホールドボタン」「AF/MF切り替えスイッチ」「USBコネクタ」などがずらっと並ぶ。

「ズームロックスイッチ」は、それぞれ端の12mmと20mmしかロック位置に入らない。ズームで全長の変わるレンズではないので、ズーム端でしかロックできないこのスイッチの意味が、筆者にはわからない。撮影中に画角が変わっては困る「動画向け」の機能スイッチかもしれない

鏡筒にUSB-Cのコネクタ挿入口が付いているが、スマートフォンやパソコンに直結し「TAMRON Lens Utility(TM)」というアプリを介することで、レンズのファームウェアのアップデートや様々なカスタマイズ、リモートコントロールを行うことができる。別売だが、本機はBluetoothで無線リモートを可能にする「TAMRON-LINK」という機器にも対応している。

で、ざっくりどんな機能かというと、メインは動画系に使いそうなフォーカス系のギミックだ。ほかに静止画系ではフォーカスリングの回転角などを調整できる。レンズ側のカスタムスイッチやフォーカスホールドボタンに操作を割り当てて、機能の呼び出しを行う。星景写真に便利な機能もある。一般撮影には不要と思われる機能ばかり?の中で、ファームアップ機能には注目しておきたい。新カメラや既存カメラの新ファームへの対応が、レンズ側のファームアップで行われる可能性もあるからだ。本機のUSBコネクタの使い途について、詳しくはタムロンの公式サイトを参照されたい。

レンズキャップは大変よく出来ている。プラ製のかぶせ式だが、正面外周部分の「つかみ」をつまんで外さない限り、勝手にパカリと外れるようなことはない。他社にも先行した同じようなキャップがあるが、タムロンは、この上下の「つかみ」の部分が非常に広いのが他社との違いで、とても使いやすい。このような細かいデザインの工夫がタムロンらしい。

画質や描写について。「ガチ」で見た結果は

レンズ構成図を見ると、実に真面目な光学補正のポリシーが見てとれ、カメラの電子補正に過度に頼り切っていない様子が伺える。前群の大径の非球面レンズで歪曲収差を補正し、同じく前群の超低分散レンズで倍率色収差を補正。後群の非球面レンズでコマ収差や球面収差を、同じく後群の低分散レンズで軸上色収差を取り除いていると推測される。

ミラーレスカメラの時代になり、一眼レフ用では不可能だったバックフォーカスが極端に短いレンズを設計できるようになった。本機のようなスペックのレンズが実現しているのもそのためだ。実写では、ものすごくシビアな目で見ると超わずかに水平線が歪んで見えるケースがあったが、こんな程度は全く問題ないといっていい。写真レンズは測定器ではないのだから。

本機のレンズ構成図(タムロン提供)。前玉の「大口径ガラスモールド両面非球面レンズ」が、本機の光学系の「キモ」と言えるだろう。前玉の裏側、すなわち第2面は明らかに球面ではなく、放物面に近い強い曲率の曲線を描いていることがわかる。高温に熱した光学ガラスをプレスするガラスモールド式非球面レンズ製造用の超精密プレス金型を、完全に自社内で設計・製造までできるのがタムロンの強みだ。プレス時の金型の熱膨張や冷却時の収縮によるガラスのひずみまで考慮した金型製造ができなければ、このような大口径で強い曲率のガラスモールド非球面レンズは作れない。ちなみに、タムロンの現社長である桜庭省吾氏は光学設計のエキスパートでもある。

静止画でこの種の超広角・大口径レンズを必要としているユーザーは、主に「星」の方々だと思われる。果たしてそれらの人々に賞賛されるほどのシャープさを備えているかどうかについては、今回の試用では残念ながら天候の事情で実写で確認することはできなかった。

台風が2個も3個もぐるぐると列島付近を彷徨い秋雨前線を刺激し、高気圧に行く手を塞がれて停滞を続けていたせいだ。どうしようもないので、指をくわえてタムロンの公式サイトの星景写真の作例を眺めていたら、ちょっと気になる傾向を発見した。画面周辺に非点隔差と思われる点像の特徴的なボケが確認できるカットがある。理想的には点像となるべき星の像が、画面の左上あたりで羽根を広げた鳥の形のように写っている箇所がある(気になる人はタムロンのサイトで探してみよう)。

見事な観葉植物のモンステラに出会った。このような絵柄の写真を、なにも20㎜の超広角で撮ることもないのだが、標準ズームやマクロレンズで撮ったのとは何かが違う。植物の生命力の強さが写っているような気がしてならない。被写体とレンズとの距離が関係しているのだろうか? 大伸ばしのプリントにして眺めてみると何かわかるかもしれない。(沖縄・東南植物楽園)
■20mm 絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO500

収差が強調されて写っている要因は、星の等級(光度)を強調するソフトフィルターの使用ではないかと、その作例の絵柄から推測される。通常の状態ではわかり得ないほどの点光源の小さな収差が、ソフト効果による光点の拡散によって拡大されて写ってしまったのではないだろうか。

しかし、タムロンが公式サイトで公開しているMTFにも、実はこの非点隔差の傾向を裏付けているのではないか? と読み取れる部分がある。焦点距離12mmのミリ30本(低周波)のサジタル(放射方向)とメリジオナル(円周方向)の曲線が、像高14mm付近を中心に乖離しているのだ。放射方向と円周方向の解像傾向の違いこそが非点隔差という収差になって画像上に顔を出す。公式サイト上の星景の作例に見られる「鳥の羽根」の位置は、この像高付近とも一致している。星景写真でこのレンズを使いたいと考えている場合、念のためこの点をチェックしておくと良いだろう。

ワイドレンズは「真っ直ぐ」と相性がいい。構図に迷ったら「真っ直ぐ」「真ん中」の風景を探すと絵がまとまりやすい。絞り値は開放から2段絞ったF5.6だが、超・超広角レンズの本機では、手前の被写体まで1メートル以上の距離があるとデジタルの高解像画像でも全体にピントが合っているように見えるパンフォーカス写真になる。(沖縄・東南植物楽園)
■12mm 絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO100 マイナス0.3露出補正

「星」の人々は何よりも点である星の像が「点」に写ることを望む。すでに市場には評価の高いシグマの14mm F1.4などもある。単焦点レンズが設計上有利なことは言うまでもない。本機はズームであるし、ワイド端は12mmとさらにワイドでもある。なので、これらと比較できるかどうかについては、本来あまり考えるべきではないのかも知れない。しかし、MTFに記されている傾向が実写でどの程度の乱れとなって現れるか、再び機会があったらぜひ実写で確かめてみたいものだ。

むすびに。雑感など様々

いずれもタムロンの一眼レフ用超広角レンズ(タムロン提供)。左側は単焦点のSP14mm F2.8 モデル69Eで、1999年発売当時の希望小売価格は19万8000円だった。2007年に製造終了。右側はズームのSP15-30mm F2.8 モデルA012で、2014年発売当時の希望小売価格は14万円、製造終了は2011年だった。その後継だったG2モデルA041は2020年に製造を終了している。いずれも星景を撮る人々に好評だった。

筆者はタムロン在籍時にSP14mm F2.8 モデル69E(1999年発売)というレンズを担当したことがある。当時のレベルとしては大変に優秀なレンズで、その頃に「星」の方々の定番だったN社の14mmよりシャープだと非常に評価が高かった。そして2015年には「星空風景フォトコンテスト」というWeb限定の星景写真コンテストを主催したこともある。メーカー系のフォトコンテストとしてはこのジャンル初といわれた。

その頃のタムロンにはSP15-30mm F2.8 モデルA012(2014年発売)というレンズがあった。ぽつぽつとラインナップされるタムロンの超広角レンズだが、筆者はこのようなレンズたちに妙な愛着を感じている。本機がこれらの系譜を受け継いだレンズのひとつであることは間違いないだろう。静止画ユーザーだけを考えると非常に狭い市場だが、そのアツい人々から本機がどのように受け入れられるか、興味を持って見守り続けたいと思う。そしてタムロンの未来にも。

南国のゆるさ故か、超広角でメチャ寄っても逃げなかったアゲハ蝶。こちらが焦って、速いシャッタースピードに設定するのを忘れたために羽がブレてしまったが、逆に動感が出たのではないかと思う。(沖縄・東南植物楽園)
■20mm 絞り優先AE F2.8 1/100秒 ISO100

オオオニバス。円形の葉の形がワイドではゆがんで写ってしまうので、本来は50mmより長い望遠系のレンズで風景を切り取るように撮るのが王道かもしれない。しかし、池の手前に群がる集団のインバウンド客が写らないように「ガッ」と寄りをカマし、ワイドレンズによる遠近感の誇張効果を利用してオオオニバスの大きさを表現する手もアリかも。(沖縄・東南植物楽園)
■17mm 絞り優先AE F8 1/30秒 ISO100 プラス0.3露出補正