平成の世との別れのとき。
そのさよならの向こう側に、燻るように、しかしギラギラと輝き続ける昭和が、
確かに私たちを照らしているのを感じる。
失われゆく昭和よ、来たるべき次代を照らす文化とならんことを。
音楽、ファッション、映画などのサブカルを中心にヴィンテージまみれの青春を20年以上ひた走る「おじさん女子」2人組L’amritaが、昭和歌謡の世界を、令和を迎えた日本を舞台に繰り広げます。

住宅街にひっそりとたたずむ伝説の足跡

東長崎の駅から中野通りを目指して進む一行。この辺りはきれいでこじんまりしたマンションに混じって古いアパートがたくさん残っていて、あそこも素敵、ここもいい!と気になる建物がいっぱい。
あちこちに気を取られつつ歩いていると、住宅街の路地の少し開けたところからとびっきり素晴らしい建物を発見!

富士見荘、と書かれた表札がかかる門の中は青々と木が茂り、昭和初期、いや大正ロマン風といってもいいくらいの素敵デザインのエントランス。
アパートというより下宿、と呼ぶのがしっくりくるこの建物の前には猫ちゃんと日向ぼっこをするおばあちゃん。映画のように完璧な出会いです。

こんにちは、と声をかけてみると、この富士見荘の大家さんでした。
もうずっとずっと昔からここを経営されていること、とっても古い建物なのでそろそろ建て直さなくてはならないこと、そのため今はもう大家さんご一家しか住んでいらっしゃらないこと。
ご家族の歴史もほんの少しだけ。玄関の脇にあるソテツは、おばあちゃんがお嫁に来るとき故郷の新潟から運んできたこと、今は収穫もしないけど昔はみんなであのミカンを取って食べたんだ、っていう話。
いろいろなことをゆっくり話してくださいました。

それじゃ中も見せていただくことはできますか?とダメもとで伺ってみたら「いいけど…何も面白いものなんてないけど?」と。やったー!ありがとうございます!と大歓喜で撮影させていただきました。

建物の中は、小さなころに親戚みんなで夏休みに泊まった民宿みたい。
亀ちゃんの不思議にピュアでちょっと翳のあるたたずまいとマッチして、昭和の夏のアンニュイがいい感じに表現できたようです。

亀ちゃんと真理ちゃんが中で撮影している間にもう少しお話を聞きたくて、大家さんとお庭でおしゃべりしているとびっくりするお話が。「山口百恵って知っている?若いから知らないか…」
知っていますとも、大好きです!と答えるとなんと…
ここに彼女のお母さんが住んでいて、近くの産院で産まれたのよ。それで手狭になって、ここから引っ越していったの。と…
こんなところで昭和歌謡の伝説に会えるなんて…!なんだか運命的なものを感じてしまう私でした。