GRは他メーカーのユーザーがサブ機として購入することも多く、スマホからのステップアップとして候補に挙がることも少なくない。最近ではタレントが手にしている姿もよく見かける。一眼レフやミラーレスは大きすぎるし、凸凹が多いといつものバックに入らない。でもスマホの画質では物足りない…。そんな人がカメラを探し始めたとき、価格を別にすればGRに目が止まるのは自然な流れだ。

■内田ユキオ氏プロフィール
1966年 新潟県生まれ。公務員を経てフリー写真家に。ライカによるモノクロのスナップから始まり、音楽や文学、映画などからの影響を強く受け、人と街の写真を撮り続けている。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞などにも寄稿。著書「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。

RICOH GR Ⅳ HDF の主な仕様

画像: RICOH GR Ⅳ HDF の主な仕様

●フォーマット:APS-Cサイズ
●有効画素数:約2574万画素
●レンズ(35mm版換算):18.3mm F2.8(約28mm相当)
●ISO感度:ISO100~204800
●背面液晶:3.0型 約103.7万ドット・タッチパネル
●記録媒体;microSDXC/内蔵メモリー53GB
■大きさ・重さ:約109.4×61.1×32.7mm・約262g

いつの間にかGRにも選択肢が…

画像: GRの代名詞。ハイライトの閾値の設定が絶妙で、ハイライトの滲みはヴィンテージレンズのようなのに、それでいてポスターなどの文字が読めるくらいシャープ。 ■プログラムAE(F2.8 1/320秒) ISO2500 WB:オート ※ハイコントラスト白黒

GRの代名詞。ハイライトの閾値の設定が絶妙で、ハイライトの滲みはヴィンテージレンズのようなのに、それでいてポスターなどの文字が読めるくらいシャープ。
■プログラムAE(F2.8 1/320秒) ISO2500 WB:オート ※ハイコントラスト白黒

現在のGRシリーズは以前ほどシンプルではない。そして品不足が続いていることもあって、店頭で実機を見比べながら選ぶのはなかなか難しいだろう。デジタルになってからのGRと15年も付き合ってきた筆者ですら、現状のラインナップを整理し直す必要があった。ということでせっかくなので、まずはそこから話を始めたい。

GRはもともとミニマル(=必要最小限)を徹底したカメラだ。レンズは28mm(以後、焦点距離はすべて35mm判換算)の単焦点固定。それがGRのアイデンティティでもあった。ところが現在は、40mmのX(このネーミングが少々混乱を招いている)に加え、HDF搭載モデルもラインナップされている。さらにGR IVにはモノクロ専用の"Monochrome"もある。28mmか40mmか、通常モデルかHDFか、カラーかモノクロか。その組み合わせだけで8種類になる計算だ。当初は「迷う必要のないカメラ」だったGRも、いまや自分に合った一台を選ぶシリーズへと進化している。

今回試したのはGR IV HDF。HDF(Highlight Diffusion Filter)は、その名のとおりハイライトに柔らかな滲みを生み、デジタルらしいシャープな描写とは異なる情緒的な表現を可能にするフィルターである。ここでGRらしいのは、それをデジタル画像処理ではなく、リコー独自の超精密なインクジェット印刷技術を用いた光学フィルターで実現していることだ。

ハイライトばかり注目されがちだが、実際にはシャドウにもわずかな影響がある。しかも効果の強弱は調整できない。撮る前に結果を完全には予測できないところこそフィルム時代の写真へのリスペクトとも思われ、このフィルターの面白さと言えるだろう。

いかにして「魅力的なハイライト」を描けるか?

画像: HDFはコントラストが高いと効果がわかりやすく、こういった雰囲気によく合う。だがプロセッサーが頑張ったようなモードだと、せっかくのアナログならではの意味は薄れてしまうかも。 ■プログラムAE(F2.8 1/30秒) ISO250 WB:オート ※クロスプロセス

HDFはコントラストが高いと効果がわかりやすく、こういった雰囲気によく合う。だがプロセッサーが頑張ったようなモードだと、せっかくのアナログならではの意味は薄れてしまうかも。
■プログラムAE(F2.8 1/30秒) ISO250 WB:オート ※クロスプロセス

そもそもハイライトは、デジタル写真が長年向き合ってきた課題のひとつだ。光を描くには硬すぎるし、白トビへの不安もつきまとう。

自然で優しいと言われるフィルムは、実はデジタルほどダイナミックレンジが広いわけではない。それでも柔らかく見えるのは、人の光の感じ方に近い特性を持っているからだ。特にハイライトには「ロールオフ」と呼ばれる緩やかな変化がある。

デジタルのように、ある明るさを境に急に白へ飽和するのではなく、徐々に明るくなりながら色やディテールをわずかに残し、境界が曖昧なまま白へと溶け込んでいく。この自然さを再現するため、各メーカーは広いダイナミックレンジをどう使うかに知恵を絞っている。登っていて気持ちの良い階段をデザインしようとしていると言っていい。

それに対してGRが選んだのは別のアプローチだった。ロールオフそのものを再現するのではなく、光にわずかな滲みを与えることで、人が感じる柔らかさへ近づけようという発想だ。ヴィンテージレンズが持つ独特の空気感にも通じる考え方であり、それを最新の高解像レンズと組み合わせたらどんな描写になるのか? そこが今回、もっとも興味を惹かれたポイントだった。

アナログ的なアプローチはいかにもGRではあるが…。

画像: ランプの周辺ににじみがあるだけでなく、窓の描写も柔らかくなっている。効果が絶妙で、これくらいで使うのがいちばん気持ちいいと個人的には思う。 ■プログラムAE(F2.8 1/125秒) ISO200 WB:オート ※ポジフィルム調

ランプの周辺ににじみがあるだけでなく、窓の描写も柔らかくなっている。効果が絶妙で、これくらいで使うのがいちばん気持ちいいと個人的には思う。
■プログラムAE(F2.8 1/125秒) ISO200 WB:オート ※ポジフィルム調

GR Ⅲx HDFを所有している経験から言えば、夜景が最も効果が分かりやすい。ハイライトが強く、シャドーが沈むためハイライトが滲むスペースが広い。クラリティやシャープネスだけでコントロールするのが難しいのも、夜景とHDFの相性が良い理由だ。ここにアナログならではの滲みの美しさがある。

だがいかにも「どうです、滲んでいるでしょう?」という撮り方は下品すぎるし、このHDFのチューニングからして「言われてみたら、なるほどまろやかで光が美しいですね」というぐらいで撮りたいところ。効果は控えめでSNSなど小さな写真で自慢するのに向いていない。その加減が難しく、HDFモデルを使っていると光に対して敏感になる。それがいちばんの魅力と思う。

その一方で、GRの最大の魅力である「フレーミングは多少は粗くても、迷わずシャッターを!」という軽快さをスポイルしているような気もする。そもそも機種選びで迷うというのがミニマルから遠い。そもそも通常モデルからして手に入らないのに、オプション付きがあると言われてもなぁ…という人もいるだろう。

けれどもアナログで古典の名作をオマージュするような試みは、いかにもリコーらしく個人的には好きで、いつかGR IV Monochrome HDFが出ることを願う。

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