■豊田慶記氏プロフィール
広島県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープ等の写真に感銘を受け写真の道を志す。スタジオマン・デジタル一眼レフ開発などを経てフリーランスに。作例デビューは2009年。カメラ誌でのキャリアは2012年から。カメラグランプリ外部選考委員。日本作例写真家協会(JSPA)会員。
※撮影共通データ■パナソニック LUMIX S1 絞り優先AE WB;オート
APO-SKOPAR 75mm F2.8 VM 主な仕様

●焦点距離:75mm
●最短撮影距離:0.7m
●レンズ構成:6群7枚
●最小絞り:F22
●絞り羽枚数:10枚
●フィルターサイズ:43mm
●大きさ・重さ:φ54.0×44.0mm・191g
●付属品:フード
待望のコンパクト中望遠にして、重さは191g!

開放だと光量落ちがあるから、ということで2段絞ってパチリ。これがもうすげー切れ味でビックリ。このサイズのレンズがやっちゃイケない写りだと思いますぜ。
■絞りF5.6 1/125秒 ISO125 ※フォトスタイル:ナチュラル
本レンズはフルサイズのイメージサークルに対応する焦点距離75mmレンズでありながら全長44mm(マウント基準面からのサイズ)、付属のフジツボ型フードを装着しても実測値で44.5mm未満という驚きのコンパクトサイズを実現しているのが特徴のひとつ。しかも重さはわずか191gしかなく、長らくコンパクトな中望遠レンズ日照りだったところに、恵みの雨となるレンズの登場であります。
本レンズは、アポクロマート設計という光の3原色を構成するRGBの軸上色収差を限りなくゼロに近づけたレンズに冠される「APO(アポ)」を冠するレンズであり、VoigtlanderブランドのVMマウント現行レンズでアポが付くレンズとしては…
○APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical 2021年1月発売
○APO-LANTHAR 35mm F2 Aspherical 2021年3月発売
○APO-SKOPAR 90mm F2.8 2021年11月発売
○APO-LANTHAR 50mm F3.5 (Type Ⅰ/Ⅱ Limited) 2024年8月発売
○APO-ULTRON 90mm F2 2025年1月発売
○APO-LANTHAR 28mm F2 Aspherical 2025年7月発売
☆APO-SKOPAR 75mm F2.8 →本レンズ 2026年5月発売予定
に続く7本目となる。
APO冠=平たく言っちゃえば「自信あり?」って感じかな?

絞り開放で周辺部を見ると、確かにアポランターではないなって感じの写りではあるけれども、フツーはそんな辺境に被写体を配置しないから問題ないよね。周辺光量の落ち方は好き。
■絞りF2.8 1/640秒 ISO100 ※フォトスタイル:L.モノクロームD
昨年インプレを行ったAPO-SKOPAR 90mm F2.8 VM ↓
では、当時「現状では5本しかAPO冠はない」と記しましたが、他のレンズリリースもありながら、節操なくAPO冠の製品が拡充されていく(精力的に性能に自信ありのAPO印のレンズを拡充していく)様子を目の当たりにすると、まだまだ我が貯蓄は危機にさらされていると判断せざるを得ません。
フォクトレンダーブランドの命名規則について、上記のインプレでの引用となりますが、大雑把に説明すると、「NOKTON(ノクトン)」はすっごい明るいレンズ、「ULTORN(ウルトロン)」は並の大口径ズームより明るいレンズ、「SKOPAR(スコパー)」は大口径ズームくらいの明るさのレンズ、となります。
また、別枠として「APO-LANTHAR(アポランター)」があり、こちらは性能が鬼のシリーズです。

我が宗派では、トタンは撮らなければなりません。キレキレではあるけれど、コントラストで見せる感じじゃなくて繊細に解像していて、凄くいい塩梅。トタンが経てきた時間を良い感じに表現してくれています。が、このサイズじゃ分かんないよねぇ…。
■絞りF4.0 1/640秒 ISO200 ※フォトスタイル:ナチュラル
ここまでの情報を踏まえると、本レンズは大口径ズームくらいの明るさの、性能の良い75mm…みたいな感じであることが、レンズ名称から分かります。
金属鏡筒のせいか、191gというスペックから想像するよりも掌での存在感はズシリと来ます。が、バッグに入れるとスペックなりの存在感の薄さになる魔法が掛けられています。樹脂製の鏡筒のレンズよりも不思議と重く感じるのは何故? と毎度のように思います。
高い工作精度を感じさせる非常に滑らかなフォーカスリングとコリコリと心地の良い絞りリングの操作感はいつものコシナクオリティだけど、全長が短いせいか操作時に指先に伝わる振動の減衰が早く、いわば「凝縮感」がある。コレが効いているのかいつも以上に高品位に感じられ、触れる前と体験した後では後者の方が本レンズはどこか凛々しく見え、モノとしての存在感がより明瞭になる気がしました。
並のF2.8レンズとは一線を画す、シビアなピント合わせ。

ヘリコイドアダプタ込での至近端で、開放絞りでパチリ。全く問題ありませんでした。APO冠らしく、エッジの色ズレはナシ。このサイズでフルサイズのイメージサークルをカバーしているなんて、ホント不思議。比べたり、考えたりしちゃダメだけど、F2.8の標準ズームを持ち歩くことに疑問が生じちゃうね。
■絞りF2.8 1/500秒 ISO400 ※フォトスタイル:ナチュラル
APOを冠するフォクトレンダーレンズについては、過去のテストから「心して挑むべし」という学びを得ています。それを踏まえてもなお「テメーは実はアポランターだろ?」というのが第一印象でした。
予想を越えてピントがシビア。多少は身構えてはおりましたが、やはり並のF2.8のレンズのような気分では居られませんでした。
正直に言えば「LUMIX S1のEVFなら楽勝だろ」と楽観視していましたが、これはピントのシビアさだけでなく、焦点距離が長いことで特に4m以内の撮影距離では身体の微妙な前後動がモロに出ちゃう難しさがあるように思いました。ホント、AF-Cは偉大なり。
これはピントのシビアさだけでなく、焦点距離が長いことで特に4m以内の撮影距離では身体の微妙な前後動がモロ出ちゃう難しさがあるように思いました。ホントAF-Cは偉大。
気分よく撮るにはファインダーのレスポンスが重要かも。

自分の好きな距離感で撮ると、S1のEVFのラグがモロに影響する感じがあって、撮ってる最中は結構苦戦していました。そんなこともあって、好きじゃないかも…って思ってたのだけれど、写りは素晴らしいし、試しにS5と組み合わせたらソコまで苦戦しなかったので、覗き心地が良いことで逆に気になってしまうこともあるんだな、という気付きがあって面白かったです。S1ⅡとかZ6Ⅲみたいな、(レフレッシュレートが)速いヤツとも組み合わせてみたいね。
■絞りF2.8 1/200秒 ISO200 ※フォトスタイル:ナチュラル
たとえば、ニコンZ6ⅢやEOS R6 Mark Ⅲのように覗き心地が良く、さらにS1よりも表示レスポンスの良いボディと組み合わせると、この印象は変わるかも知れません。
写りを観察してみると、ごく周辺部だけは「アポランターではないぞよ」という部分がありましたが、それでも世間一般で言えばかなり高性能なレンズのレベル。中央部に至っては「やっぱりテメーはアポランターだ」という見事な切れ味に見えました。
ピント面の前後の滲み方はスルスルと解けていくような、とても素直でキレイな表現なので、”解像感が高い” ではなく「繊細な描写」と表現するほうが相応しいと感じます。
また、いろいろな距離の組み合わせでボケ感をチェックしてみましたが、筆者がテストした限りでは、たとえ周辺であってもボケ味がうるさく見えるシーンはなく、安定して心地良い写りを楽しめるレンズだと思いました。
このサイズと軽さから想像するには「写り過ぎ」なんですよー。

レンズ本来の至近端(0.7m)でパチリ。御覧の通り、そこまでは寄れません。75mmっていうとズームレンズでソコソコ使う焦点距離だから…と思っていたけれど、実際に覗いてみると感じがちょっと違って見えて新鮮でした。それにしても軽くて小さくて良いね。悩ましいです。
■絞りF2.8 1/200秒 ISO100 ※フォトスタイル:L.モノクロームD
筆者の好みで言えばもう少し柔らかい方が好みではありますが、まとまった時間をこのレンズと過ごしてみると、違う感想を得る可能性は否定できません。
近接性は最短70cm。繰り出し量6mmのマウントアダプターで、最大繰り出しにすると、レンズ先端から45cm弱程度まで近接することができました。
“NOKTON VintageLine 75mm F1.5 Aspherical"の写りに魂を奪われている筆者でしたが、その心を惑わせるレンズの登場に狼狽えています。何と言っても、このサイズのレンズが紡いだとは思えない描写力の持ち主であることは大変に魅力的。これはCOLOR-SKOPAR50mmF2.2にも通じる部分です。
上述の通り、正直に言えば個人的な好みよりも性能が高い…ここに少々の悩ましさがあります。とはいえ、そもそも望遠レンズが切れ味スルドイことに対する文句はイチャモンでしかないことは自覚しています。さらに75mmF1.5と比べて重さは60%未満かつ、ひとまわり以上もコンパクトという点は、好みの部分を勘案してもなお高く評価されるべきでしょう。

以下 撮影:内田ユキオ 「ライカFANBOOK Vol.3」よりアザーカットを掲載

こういうシチュエーションでは輝きに色が乗ってしまうことがあるが、とてもクリアで、これだけ強い逆光でも描写の緩みがない。75mmは50mmに近い扱いやすさと90mmに似た望遠らしさが共存している。
■ライカM EV1 絞り優先AE(F5.6 1/16000秒) マイナス1露出補正 ISO400 WB;晴天 撮影:内田ユキオ





