撮影共通データ
■ニコン Z6Ⅲ 絞り優先AE WB:オート
■豊田慶記氏プロフィール
広島県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープ等の写真に感銘を受け写真の道を志す。スタジオマン・デジタル一眼レフ開発などを経てフリーランスに。作例デビューは2009年。カメラ誌でのキャリアは2012年から。カメラグランプリ外部選考委員。日本作例写真家協会(JSPA)会員。
ニコン NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S Ⅱ 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算24-70mm相当
●最短撮影距離:0.24m(24/28mm時)、0.27m(35mm時)、0.3m(50mm時)、0.33m(70mm時)
●最大撮影倍率:0.32倍(70mm時)
●レンズ構成:10群14枚
●最小絞り:F22
●絞り羽枚数:11枚
●フィルターサイズ:77mm
●大きさ・重さ:φ84×142mm・約675g
●付属品:フード ケース
メーカーからして「ニコン史上最速のAF」を猛アピール!

まずはインターナルズーム機構を採用したことでズーミング時の鏡筒長の変化がなく、また重心の変化を抑え、防塵防滴性を向上させたことが大きな特徴となっている。従来型と比べて約130gの軽量化となる重さ675gも魅力だ。
従来型ではショートバックに最適化した光学系とマルチフォーカスと呼ばれる2つのフォーカス群を精密に制御するフォーカシング方式を採用により、ズーム位置や撮影距離に依らず最適な結像性能を実現。F2.8ズームの描写性能をひとつ上の基準へと押し上げたことは記憶に新しい。

ニコンを代表する高性能レンズ、みたいな肩書になると思うので周辺光量はもう少し頑張って欲しかったような…。個人的な好みで言えばこのくらい落ちてる方が好きだけどね。拡大観察してもその理由がよく分からなかったのだけど、なぜか従来型より写りがグッと来ます。なんでだろう?
■絞りF2.8 1/4000秒 プラス0.3露出補正 ISO100 24mm時
その一方で、AFレスポンスが芳しくないという弱点もあったが、新型ではシルキースウィフトVCM(いわゆるリニアモーター)の搭載でこの弱点にテコ入れ。発表時は「ニコン史上最速のAF」をアピールする力の入れようであった。……従来レンズの至らない点を公式が声高に宣言する姿勢には若干の疑問が残る。
ともあれ新しい試みとして、コントロールリング操作時のクリック感の有無を選択できるクリックスイッチをと搭載。Zレンズは登場時からコントロールリングのクリックスイッチは必要無い、という姿勢だったが、ついに方針転換。もしかしたら、他社パテントの回避策を見つけたのかも知れない。
AF、確かに速くなっていました! 他社と“どっこい”ですがー。

近接性というか最大撮影倍率が良くなったのは大歓迎。そして従来型はAFロストしたりすると控え目に言って舌打ちしたくなる鈍臭さがあったけど、新型は近接時であってもAFがストレスフリーになっていて、撮っててマジ楽しい。
■絞りF2.8 1/80秒 プラス1.3露出補正 ISO140 70mm時

手にした感触は「スペックから想像するより軽いかも?」だ。重量バランスの設定が巧妙なのだろう。一方で、ズームリングの操作感に軽量化の弊害を感じさせる。とはいえ振り回しても自重でズームが動くことはない。動き始めが若干硬いが精密なズームコントロールは容易だ。これはソニーレンズにも当て嵌まるが、軽さで頑張ると感触がトレードオフになってしまう宿命なのかも知れない。
レンズ鏡筒に装備されていた「液晶パネル」は廃止され、追加のL-Fnボタンに置き換わったことで縦位置時の機能性がアップ。コントロールリングのクリックスイッチについては「初めから搭載しといてよ」の感。ちなみにクリック有りではカメラ設定(Z6Ⅲではf13)のコントロールリングの感度設定に依らず、同じ操作感となる。フィルター操作窓付きのレンズフードは高剛性で着脱性も良い。
まず、AFが非常にハイレスポンス。動作が素晴らしく軽快で、ZのAFに対する印象を払拭するだけの感動があった。

ボケが汚く見えやすいシーンでイジワルしましたが、悪くないと思いました。ちなみに、ニコンによると「従来型(現行品)は在庫がなくなり次第、販売終了予定」とのこと。しばらくは併売なので、従来型の新品がどうしても気になっている人は早めにドーゾ。
■絞りF2.8 1/2500秒 マイナス0.7露出補正 ISO100 40mm時
やや語弊のある表現なので、さらに詳しく言うと…ボディ側の制御の都合もあるけれど「AFロスト時などで大ボケした際のスキャンが遅かった」り「風で揺れる花などを撮るとAF追従しきれない」といった場面でのレスポンスには不満があったが、実使用上の大多数のシーンで従来レンズのAFが極端に遅いとは思ってはいません。
が、「速くはない」というベースの上でトロトロされたり追従し切れなかったりすると、ニコンを代表するレンズなのにコレで良いのか? と、文句を言いたくなっていたのです。でも、本レンズは申し分の無い性能を実現している。
アタマ一つ抜けた描写性能は変わらず。それでいて、このお値段なら納得かと。

バチコンと光源(今回は太陽)を写し込んでもゴーストはなかなか発生しなくなりました。婚礼写真や取材など、撮影の自由度が限定的なシーンでも、かなり攻めた構図が採れるようになるんじゃないかな? そういうお仕事してたら、お金払うだけで楽できるから買っちゃいそうです。一方で、あまりにクリアに写るとライブ感は減っちゃう場合もある、みたいな視点も否定しません。
■絞りF2.8 1/2500秒 プラス3.0露出補正 ISO100 70mm時

ビネット補正ナシだと、フラットなシーンではf5.6でもちょっと落ちて見えるよね。イチャモンめいたことを言えば、ボディ側のAF性能の都合なのだけれども、こういったAFが迷い易い条件でAF-Cで撮ってると像が揺れて見えて気持ち悪くなる場合もあります。AFレスポンスがギンギンなことで、ボディ側の至らない部分をカバーしてくれると同時に限界も感じさせられて、このレンズの性能を存分に解き放てるボディの登場を強く期待してしまいました。そろそろ次のエンジンを。
■絞りF5.6 1/125秒 プラス0.3露出補正 ISO100 50mm時
描写については、従来レンズも解像性は存分に良かったので「さすが新型! 凄く良くなった!!」みたいな驚きは筆者には無かった。
ちなみに、従来型はあまりにも淡々と写るので「良いけど面白くない」と思っていたが、新型はどこか「グッと来る」感じになったようには見える。試しに拡大観察してみたが、従来型よりも解像性が向上したという感じには見えなかったが、それでも全体としての印象は向上したようには感じられた。
従来型では特定条件でゴーストが出易かったが、それでもライバルレンズと比べて程度が良かったので個人的に気にしていなかった部分を、新型では更に研ぎ澄ませてきた。相当イジワルしないとフレア・ゴーストは気にならなかったので大胆な構図を積極的に楽しめるようになった。
一方、周辺光量については程度は悪化している。個人的には周辺光量は落ちていて良いので新型の特性を心地良いと感じるけれど、気になるユーザーは居るだろう。

至近端近辺だけ少し柔らかくなる。でもそれが良い感じの雰囲気に。チェックしていて「あれ、開発時の評価法が更新された?」な感あります。数値性能だけじゃなくて心地良さ方面も重視しているというか、「好バランス」になったというか。
■絞りF2.8 1/200秒 マイナス0.3露出補正 ISO100 70mm時
最後に。価格はニコンダイレクト価格で4万円ほどの値上げを残念に感じるかも知れないが、世界的な物価や為替的に2019年とは状況が異なっていることを考慮すると、価格は維持もしくは機能や性能的に割安になっていると評価しても良さそう。この国内価格実現には一体どれだけの努力があったのか? と、担当者にしか分からない苦しみがきっとあったのだろう事を想像してみると、価格に対する印象は変化するかも知れない。
あとは、このレンズに相応しいボディが出てくるだけだ。ニコンの看板となるレンズが登場したのがこのタイミング、というのは何か意味があることなのだろうか? 今後に期待したい。

出来ることを増やしつつ価格上昇を極力抑えていて「おぉ、こりゃ相当頑張ったな」って思った一方で、後追い感が否めない。仕様的に思わず身を乗り出してしまうような目新しさは無いんだよね。AF含めて軽くなったねーとは思うけれども「戦闘力(購買意欲刺激指数)」って意味ではクリティカルではない気がします。だからこそ50万円みたいなプライスタグになっていないんだぞ、という意見もあると思いますが。■絞りF2.8 1/80秒 マイナス0.7露出補正 ISO100 30mm時
