曽根原昇
1971年生まれ・愛知県出身。信州大学大学院修士課程を修了。2006年よりフリーランスとなり、2010年に活動拠点を長野県より関東地方に移す。現在は雑誌・叢書・単行本などの撮影・執筆をメインに活動中。
RX1R系ならではの外観デザインをさらにブラッシュアップ


「RX1R Ⅲ」の外形寸法は113.3×67.9×74.5mmで、前モデル「RX1R Ⅱ」の113.3×65.4×72.0mmと比べてわずかに大きくなりました。しかし天面のデザインが見直され、マルチインターフェースシューや主要なダイヤル類がフラットに配置されただけでなく、従来備わっていたフォーカスモード切り替えスイッチも省略されたことで、全体としてシンプルでスマートな印象が際立ちます。
サイズはわずかに増していますが、実際に手にすると外観の洗練によって大きさを意識することはほとんどありません。余計な突起がなくなったことで携帯時の収まりも良く、コンパクトさを実感できます。質量も前モデルの約507gから約498gへと軽量化され、取り回しのしやすさはむしろ向上しました。
最新の画像処理エンジンを搭載=中身はまんまα7R Ⅴ

「RX1R Ⅲ」に固定搭載される「ゾナーT*35mm F2」は、前モデルから受け継がれた高性能単焦点レンズです。開放F2から高い解像力を発揮し、豊かな階調を描き出す性能はすでに定評がありました。本機では撮像センサーに最適化するよう、レンズがミクロン単位の精度で組み込まれており、レンズ一体型ならではの完成度をあらためて実感できます。
撮像センサーは有効約4240万画素から約6100万画素へと進化しました。これはαシリーズの高画素モデルの「α7R V」と同等で、コンパクトデジタルカメラでありながら細部までしっかり描写でき、トリミングや大判プリントでも余裕のある情報量を備えています。

撮像センサーは有効約4240万画素から約6100万画素へと進化しました。これは高画素モデルの「α7R V」と同等で、トリミングや大判プリントでも余裕のある情報量を備えています。
■絞り優先AE(F4.0 1/250秒) マイナス0.7露出補正 ISO400 WB:日陰
さらに最新の画像処理エンジン「BIONZ XR」を搭載。高速かつ高精度な演算能力により、センサーのポテンシャルを余すことなく引き出し、ディテールの精緻さや自然な色再現を一段と高めています。よって静止画の描写力は、これまでの「RX1シリーズ」を大きく超えるものとなりました。■ RX1R Ⅲ=操作性についての変更点

「RX1R Ⅲ」では背面モニターが固定式液晶に変更され、従来のチルト機構は廃止されました。自由なアングル撮影はできませんが、軽快感を優先した設計で不便はほとんどなく、むしろ外観のシンプルさが際立ちます。人によってはチルト操作の煩雑さから解放された印象を受けるでしょう。

EVFは前モデルのポップアップ式から固定式へと変更。この部分は好き嫌いでかれそうですが、剛性感は増した印象です。同時に大型で実用的なアイカップも同梱され、安定した視認性を確保しています。

天面がフラットに統一されたことで、各ダイヤルの配置や操作性にも変化が見られます。実際に使うと指がかりが良く、さらにクリック感も心地よいので、操作感は向上し他と言えるでしょう。

グリップは従来のシボ皮調から立体感のあるテクスチャーへと変更されています。見た目には地味な進化ですが、ホールディング性は確実に向上しており、安心感の面での改善点といえるでしょう。

付属のバッテリーは「NP-FW50」で、容量は1,020mAhと前モデルから変わっていません。省電力化によって撮影可能枚数は微増しましたが、高画素センサーやAI処理を駆使する本モデルでは消耗も早く、長時間撮影にはやや不安が残るかも。ここは予備バッテリーを用意しておくと安心です。
RX1R Ⅲに搭載された最新機能はコンデジにこそジャストフィット?
「RX1R Ⅲ」には「α7シリーズ」の最新機種と同様に、被写体検出に優れた「AIプロセッシングユニット」を搭載。実際にネコを撮影すると、瞳を確実に捉えるAF機能が作動し、ピント合わせに迷うことはほとんどありません。コンパクトデジタルカメラでここまで本格的な被写体検出機能を使う機会は少ないかもしれませんが、人物やペットの撮影では心強さが際立ちます。

■絞り優先AE(F2.0 1/50秒) マイナス0.7露出補正 ISO800 WB:オート
レンズ先端部には「マクロ切り換えリング」があり、通常モードとマクロモードを切り換えることができます。最短撮影距離は20cm、最大撮影倍率は0.26倍と、コンパクトデジタルカメラとしては優れたマクロ性能を発揮。最大倍率0.25倍超えは立派なマクロ機能と呼べる領域です。小さな花も適度な大きさで印象的に捉えることができました。

■絞り優先AE(F2.0 1/500秒) マイナス0.7露出補正 ISO400 WB:オート
開放F2.0で撮影すると、フルサイズならではの大きく美しいボケ味を楽しめます。焦点距離35mmという標準的な画角だからこそ、設定や工夫次第で表現の幅を自在に広げられるのも魅力。背景を大きくぼかして主題を浮かび上がらせたり、絞り込んで奥行きを描いたりと、レンズのポテンシャルを存分に楽しめます。

■絞り優先AE(F2.0 1/1600秒) マイナス0.7露出補正 ISO400 WB:日陰
「RX1シリーズ」の特長として、多彩な「クリエイティブルック」を適用できるのも魅力のひとつ。今回は新搭載の「FL2(Film2)」、「FL3(Film3)」のうち、「FL2」を試しました。フィルムライクな色調で被写体に落ち着いた雰囲気を与えてくれるのが印象的です。「α7シリーズ」にはない、RX1シリーズならではの設定を楽しめるのも、最新モデルらしい魅力といえるでしょう。

■絞り優先AE(F2.8 1/800秒) マイナス0.7露出補正 ISO400 WB:オート
「RX1R Ⅲ」には、焦点距離を35mmから50mm相当、さらに70mm相当へとワンタッチで切り換えられる「ステップクロップ撮影機能」が搭載されています。下の作例は70mm相当で撮影したものですが、この場合でも約1500万画素の解像感は十分に保たれていました。撮像センサーが有効約6,100万画素に進化したことによる大きな強みといえます。

■絞り優先AE(F2.8 1/160秒) マイナス0.3露出補正 ISO400 WB:オート
新時代の「高級コンデジブーム」到来となるか?

供え物の古びた草履を撮ってみた。質感描写の豊かさは本機の強みを実感させる。
■絞り優先AE(F2.8 1/500秒) マイナス0.7露出補正 ISO100 WB:オート
「RX1R Ⅲ」は、約9年ぶりのモデルチェンジにふさわしく、外観デザインから内部構造まで大きく進化した一台です。レンズは前モデル譲りの「ゾナー35mm F2」を固定搭載しつつ、有効約6,100万画素の新開発フルサイズセンサーと最新の「BIONZ XR」によって、コンパクトデジタルカメラの枠を超える描写力を実現しました。
操作性では固定式液晶や新しいEVFを採用し、シンプルさと信頼性を重視した設計が光ります。バッテリー面の不安は残りますが、携帯性やホールディング性の向上は日常使いで安心感を与えてくれます。さらに「AIプロセッシングユニット」や多彩な「クリエイティブルック」、「ステップクロップ撮影機能」など最新機能も充実し、実用性と遊び心を兼ね備えています。
フルサイズコンパクトという独自の立ち位置を守りつつ、最新世代らしい進化を随所に感じさせる「RX1R Ⅲ」。所有する喜びと撮影する楽しさを両立させる、今となっては唯一無二の存在といえるでしょう。