■豊田慶記氏プロフィール
広島県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープ等の写真に感銘を受け写真の道を志す。スタジオマン・デジタル一眼レフ開発などを経てフリーランスに。作例デビューは2009年。カメラ誌でのキャリアは2012年から。カメラグランプリ外部選考委員。日本作例写真家協会(JSPA)会員。
パナソニックLUMIX S1ⅡEおよび関連モデルの主な仕様

ベーシックモデルながらもエッセンシャル=本質を突いた、という解釈でOK!?


重さはS1RⅡと同じ約795g。なぜかS1Ⅱのみ5g増量の約800gとなっているが、スリーサイズは三兄弟機とも同じ。装備についても同等で、約576万ドットのEVFや3型約184万ドットのチルトフリーアングルモニタはS1Ⅱシリーズで共通。対応メディアがCFex Type BとSDのデュアルスロットであること、インターフェースについても同じである。手ブレ補正のスペックも同等の中央8.0段/周辺7.0段となる。
S1Ⅱのインプレでも触れたが、従来機のS1は約1017gなので、”マイナス222gのロマン”がある(日産R33スカイライン GT-Rのキャッチコピー参照のこと)。
8K動画記録&高画素担当のS1RⅡ、部分積層センサーによるハイスピード担当のS1Ⅱ。フルフレームでの5.1K60p記録やフルサイズ16:9のアスペクト比での4K120p記録、メカシャッター時14bitRAW記録でも10コマ/秒を実現しているのもS1Ⅱだけの特権だ。
本機についてもフルフレームでの6K30pとC4K 17:9での60p記録に対応している。他の機種と比べてスペック面での派手さは無いが、S1Ⅱシリーズのコアもしくはベーシック機としての役割で、「ちょうど良いハイエンド機が欲しい」というユーザーに向けた1台という印象を持った。
すでに上位2機種を触っているんで、新鮮味はありませんー。

単写モードで連続撮影していると最大で1秒くらい全押しから実際に撮影されるまでラグが発生しちゃって、「おいコラ、飛車角がコレでええんか?」って感じで印象最悪でした。製品では大丈夫とのことだけど…。写りは良いね。LUMIXの緑色の表現大好きです。
■LUMIX S 24-105mmF4 絞り優先AE(F4.0 1/100秒) プラス0.7露出補正 WB:オート ISO100
S1Ⅱシリーズとしては最も安価な設定だが、使用感はシリーズで共通なので、既にS1Ⅱシリーズのいずれかを所有している場合には同じ感覚で使えそうである。従来機のS1シリーズと比べると、ボディの質感や操作感、剛性感はワンランク下がったように感じられるけれど、そこでのマイナスイメージよりもダウンサイジングしたことの恩恵を有り難く感じられる。寂しいことは寂しいけれどね。

S1ⅡやS1RⅡのインプレ時の記憶と比べて、反射透過の条件では反射側にAFが引っ張られ易い気がしました。像面位相差検出画素の配置の都合かな? 奇しくもZ5Ⅱを持ち歩いていたので比べちゃったけど、被写体認識などを用いない素のAFはZ5Ⅱの方が快適かと。
■LUMIX S 24-105mmF4 絞り優先AE(F4.0 1/125秒) WB:オート ISO400
既に過去のインプレでも触れていることだけれど、筆者のメガネとの相性のせいか、メガネ越しでEVFを覗くと糸巻き型の歪曲が気になってしまうし、表示が少し高周波成分を強調したように見えて、長時間EVFを使っていると眼が疲れてしまうのも同じだった。他にもカメラをグリップしたまま歩いていると、背面モニターの左下部がズボンに引っ掛かり易いことが気になった。とても些細なことではあるけれど、LUMIXシリーズのいわば「飛車角」に相当する機種なので、作り込みにも相応のものを期待したい。
今回試用したS 24-105mmF4とS1ⅡEは、量産試作と呼ばれるステータスの、いわば最終段階のベータ機だった。ということでベータ機特有の不具合(レリーズラグが大きくなる)があり撮影時の印象は褒められなかったので、S1RⅡやS1Ⅱのインプレ時の記憶と、本機の画質面やAFの感触を中心にレポートしたい。
ちなみに、実写コースはS1RⅡとS1Ⅱのインプレ時に徘徊したコースをそのまま採用した。
正直、AFに関しては他社エントリー機(たとえばZ5Ⅱ)とドッコイかな。

ハイブリッドズーム併用での600mm時、約6MP記録になります。ことタヌキに対する被写体認識はお世辞抜きで素晴らしくて、EOS R8やZ5Ⅱよりも、もっと言えばα7CR(α7C Ⅱでタヌキを撮ってないので何とも言えない)より好印象でした。高感度画質も良いね。
■LUMIX S 70-300mmF4.5-5.6 絞り優先AE(F5.6 1/500秒) WB:オート ISO5000
個人的に気になっていたのはAF。S5Ⅱのセンサーを制御でどこまでAFを進化させているのか、とても興味があったからだ。
結果から言えば、想像以上の部分とイマイチなところが同居していた。想像以上だったのは被写体認識AF。これはかなり良かった。障害物が被写体に被るような撮り方をした時の安定性はS1Ⅱが最も良かったが、試した限りではS1RⅡよりも気持ちよくAFを信頼して撮影できた。AFではセンサーの読み出し速度も効いてくるので、部分積層センサーを搭載するS1Ⅱを別格としても、日陰シーンを含めてS1RⅡに近いレスポンスや検出精度があり「これなら良いぞ!」と感じさせる実力だ。

こちらはハイブリッドズームを使ってない285mm時。カメ相手だとキヤノンほどは眼を追いかけてくれませんでしたので、ゾーンでパチリ。S1ⅡEの高感度画質マジ好きかも。変にノイズを消してなくて精細感とのバランスが良いし、ノイズも嫌な出方じゃない。
■LUMIX S 70-300mmF4.5-5.6 絞り優先AE(F5.6 1/500秒) マイナス0.3露出補正 WB:オート ISO5000
S1Ⅱで気になった望遠ズームで15mくらい離れた対象を被写体認識で狙った場合にちょいちょい背景にピントが抜ける挙動は、本機では気にならなかった。
追尾AFについては、またしても期待するレベルには達していない。暗所やローコントラストシーン、また画面内がゴチャゴチャしているとAF開始までにかなりのタイムロスがある。ゾーンや1点などでは素直にAFしてくれるが、AFエリア設定で使用感にかなりの差が出てしまうのは、ハイエンドモデルの一角としては好ましくない部分だろう。
例えばセンサーのスペックが近いニコンZ5Ⅱの方がAFは快適だし安定しているので、まだまだ使用スタイルを選ぶ機種という評価は免れない。像面位相差AFの歴史が浅いLUMIXとは言え、また筆者が鈍感だったせいかは分からないが、S1RⅡとS1Ⅱでは気にならなかった撮影時にEVFを使うかLCDを使うかによってレリーズタイミングが明確に異なることが本機では気になった。
高値安定の「ルミックス画質」は健在。仮に“LUMIX S3"だとしたら絶賛してた??

このレンズ(筆者私物)や連写モードだとラグは発生しませんでした。比較対象がS5になりますが、ハイライトはS1ⅡEの方が全然伸びてる感あるね。露出を考えなくて良いので楽です。こういったシーンで追尾AFにすると中央辺りでAF開始させて、2秒くらいで周辺までAF枠が移動していくのは撮っていて楽しくないです。EOSもワリとそういう傾向にあるかな。
■LUMIX S 70-300mmF4.5-5.6 絞り優先AE(F8.0 1/500秒) プラス0.3露出補正 WB:オート ISO100
画質の印象は「好み」を排除して言えばかなり好印象。暗所特性や高感度でも申し分のないレベルで画質だった。S1Ⅱとどちらが好きか? という点で言えば本機の方が好きです。直接比較したワケではないので印象論になりますが、本機の方がローエンドからの立ち上がりが少し豊かに感じました。S1Ⅱも伸びてるけどちょっとコントラストが立ってる感があるのよね。タヌキの隈取の部分とか、檻の写り込みのノイズ感とかが良い感じ。高感度画質もコッチのが良いと思いました。
そもそも論になるけれど、S5Ⅱについても、個人的に画質で気になる部分は無かったので今更ではあります。ともあれ、データハンドリングも含めて満足度が高くていい感じ。
手持ちハイレゾについては、S1Ⅱと同様に筆者との相性が悪いのかヒット率低め。これはまぁ、他メーカーも含め、OMシリーズの使い勝手はオーパーツ級なのだろう。

絵作り設定でトラッキングの傾向に影響があるように感じられるのは正直イマイチ。エンジンの都合だと思うから、次世代エンジンにならないと解決しないのだろうね。あとEVFとLCDでレリーズタイミングが違うのはマジで止めてほしいです。表示レートを上げるとかなり近い感覚で撮れたけど、時折「ん?」ってなる。こういった挙動は下のクラスであれば気にならないけど、本機はハイエンドの一角だからね。例えば、S1ⅡEからZ5Ⅱに持ち換えると、Z5Ⅱの方が操作に対して期待通りに動作してくれるから使っていて気持ち良いんだよね。パナソニックは業務機で凄いノウハウを持ってるし、ミラーレス機の歴史もあるけれど、カメラの道具としての作り方の部分では後塵を拝していると感じます。「効率」じゃなくて「肌感」の話ね。
■LUMIX S 24-105mmF4 絞り優先AE(F4.0 1/800秒) プラス0.7露出補正 WB:オート ISO100
結局のところ、ハイエンド機には相応の品格も期待してしまう筆者にとっては、従来機からスゴイ進歩を感じつつも、使用感からは情熱を感じられなくなったことが残念。いい部分がたくさんあるけれど、もっとお手頃でより良いAF性能のカメラがあったりする昨今なので、本機を選ぶ断固たる理由が欲しい訳です。
正直な気持ちとして、コレならS5Ⅱの後継モデルが出た時にそっち選べば良いか、という感情が支配的となります。
一方で、コスパを優先したいという考えにも理解はあるつもり。動画ハイブリッドな機種を選択肢の上位に据えているなら、かなり魅力的だと思いました。バリアングルだとワイヤードで撮影するシーンで、ちょっとローアングルで撮りたい場合にはケーブルが邪魔になっちゃうしね。外部モニタ繋げって話なのかも知れないけれどさ。きっとそういう声に対応したのがS1Ⅱシリーズの採用するチルトフリーアングルなのでしょう。
上位機を選ぶ理由として挙げられる「プレミアムな撮影体験」については、各社の歴代ハイエンドモデルを履修済みの筆者個人の意見としては、控えめに言って微妙です。誤解を恐れずに言えば「ドンズバのS3」って感じでした。
