(※価格と記事は2024年7月時点でのものです)
できるだけユーザーの実際の使用に近い条件として、 カメラボディで利用できるレンズ補正などは全てONにしている。補正が働けば各レンズは性能向上したかのように写りの差は少なくなるが、現在のレンズは補正を前提としているものも多く、実際はほとんどの方がONで使用しているはず。これはレンズ単体での比較があまり意味を持たなくなってきているとも言える。それでもメーカーによりその補正内容は異なるであろうから、実際に使ってみれば違いが出るかもしれない。そのあたりも含めての評価をしてみた。その他にも、露出、ホワイトバランスはマニュアル(5200K)でブレ幅をなくし、メカニカルシャッターを使用。他の要素に起因する差はなるべく出ないように撮影している。(諏訪)
■諏訪光二氏プロフィール
1968年、東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科在学中にアンセル・アダムスのオリジナルプリントに感銘を受け、ゾーンシステムを用いたオリジナルプリント制作に目覚めた。3年半で大学を中途退学し、フリーランスの写真家に。日本では早期にデジタルフォトを取り入れた数少ない写真家の一人。現在は広告撮影、写真専門誌等での原稿執筆、写真講座講師などを手がけながら、主に自然を作品モチーフとした作品を制作。
NIKKOR Z 70-200㎜ f/2.8 VR SとNIKKOR Z 70-180㎜ f/2.8
ニコンZマウント~純正望遠ズーム対決!
ここではニコンZマウントの純正にラインナップされている望遠ズームを比較してみる。両者は焦点域はほぼ同じくらいながら、「無印」(ゲッカメ的には「T-Line」と呼んでいる!?)の70-180の実売価格は「大三元」&「S-Line」の70-200の半分近い低価格設定。重量も圧倒的に軽い。
それでも大口径F2.8の開放絞りだし、発売はまだ1年前。ちなみに70-200はすでに4年(2024年7月時点)が経とうとしている。Zシリーズのボディラインナップが出揃ってきて、この焦点域のレンズ選択に迷うユーザーも多いはずだ。そこで今回はZ8を使用して両者を比較。使用できるレンズ補正は全てONにして実用状況に近い形でのテストとした。

NIKKOR Z 70-200㎜ f/2.8 VR S
■発売:2020年8月28日 税込価格(実勢):33万9800円 ※価格は記事執筆当時のもの
NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S
- レンズ構成:18群21枚
- 絞り羽根枚数:9枚(円形絞り)
- 最小絞り:F22
- 最短撮影距離:0.5-1.0m
- 最大撮影倍率:0.2倍(70mm時)
- フィルター径:Φ77mm
- 最大径×長さ:Φ89×220mm
- 重さ:1360g(三脚座別)
- 付属品:フード・ケース

NIKKOR Z 70-180㎜ f/2.8
■発売:2023年7月14日 税込価格(実勢):17万4800円 ※価格は記事執筆当時のもの
NIKKOR Z 70-180㎜ f/2.8
- レンズ構成:14群19枚
- 絞り羽根枚数:9枚(円形絞り)
- 最小絞り:F22
- 最短撮影距離:0.27-0.85m
- 最大撮影倍率:0.48倍(70㎜時)
- フィルター径:Φ67㎜
- 最大径×長さ:Φ約83.5×151㎜
- 重さ:約795g
- 付属品:フード・ケース
Case 1:テレ端 近距離ポートレート
絞りは開放。当然だが70-180はモデルのサイズが小さく写る。たかだが20㎜の差だがそれなりのサイズ差だ。レンズの焦点距離は無限遠位置でのもので、近中距離では画角が変わるものも多いため、この距離では数値以上に差が出ている可能性もある。とはいえ、これが実際に撮れるサイズだ。

■Model:沙倉しずか RQやコンパニオン、そして 『CAPA』にひょっこり顔を出す流しのモデル。CMRもほぼほぼレギュラーの登場です。愛機・α7R Vに200-600mmを着けて、モータースポーツやトや野鳥も撮るカメラ女子。 #しずカメラ @
そしてもう一つ。完全マニュアルの同一EVカットだが70-180の方が少し暗めだ。これはほぼ全シーンで同様で、実際には70-180はF2.8よりもほんのわずかに暗いのかもしれない。ただし1/4段にも満たない、ごくわずかなレベルだ。
背景のボケを見てみると一目で区別がつくぐらい70-200の方がボケは大きい。ボケの輪郭などを見てもかなり似たものだ。20㎜の差はボケに少なからず影響しているが、同時にたかが20㎜だが被写界深度にも差があり、70-180の方がピントが合って見える前後範囲が広く、画が安定して見える。

■共通撮影データ:ニコンZ8 絞り開放 ISO100 WB:5200K
そのいい例が写真左上など、ピントが手前になる樹皮の再現。70-200はボケて輪郭をなくすが、70-180はある程度の輪郭を残して見える状態になっている。そしてその描写は四隅まで安定している。ボケと被写界深度の深さはどちらか相対の関係になるが、70-180のボケが少ないからダメ…と判断するのは早計だ。
ピント位置の画質は70-200の方がシャープ。70-180はわずかに甘くなっている。とはいえ、高いレベルでの比較だ。70-180もピクセル等倍以下で見ればかなりのシャープに見えるはずだ。そういったレベルで見てみると70-200の描くエッジは細くて繊細。かなり丁寧に輪郭を再現できている。このケース、まずは僅差ながらも70-200の勝ちだ。
Case 2:ワイド端70mm 中距離ポートレート
絞りは開放。ここでももちろん20㎜の画角差はあり、写るサイズは異なるが、近距離でアップになっていた時よりも比率としては同じとはいえ、この距離の方がより70-180が小さく感じられるだろう。

■共通撮影データ:ニコンZ8 絞り開放 ISO100 WB:5200K
ピント位置の画質はどちらも輪郭強調の影響が見られるが、70-200の方がそもそもが肌理の細かいエッジを描いているだけに適度なバランスになっているのに対し、70-180は少し粗めに見える。この辺りはピクチャーコントロールの選択や設定でも変わってくるが、バランスを考えた設定で撮影すべきだろう。より綺麗なエッジとして写せているのは70-200の方だ。
そして背景のボケだが、玉ボケには口径食があり、70-180はその玉ボケの中にグルグルと年輪状の輪郭が見える。70-200にもわずかに縁取るようなものは見られるが、70-180ほどあからさまなものではない。もうひとつ、周辺部分のボケの具合だが、口径食の傾向はどちらのレンズも似ているのだが、70-200の方が少し弧を描くように流れるようなボケになっている。実際にその傾向はどちらのレンズも同じレベルと思われるが、70-200の方がより大きくボケて輪郭が広がる範囲が広くなるため、よりその傾向が強く見えるものであろう。

その他、周辺、四隅の画質を見てみると、どちらもレベルは高く安定した画質。70-180もかなり良い描写だ。
このケース、ボケのクセやシャープネスなどを鑑みるとやはり70-200の勝ちだ。
Case 3:テレ端 逆光
絞りは開放。AFの具合は問題なく、シャープネスの傾向、そして右下に見られるような玉ボケの年輪などもCase2と同様の結果だ。

■共通撮影データ:ニコンZ8 絞り開放 ISO100 WB:5200K
強烈な逆光シーンではあるが、両レンズとも似たような描写となった。どちらもうっすらと光が散ってシャドーが明るくなっているのが分かるが、逆光の度合いを考えると影響は少ない方だ。そして両者ではしっかり差があり、70-200の方が光が散っている量が多く、髪の毛の多くの部分がより明るくなっている。同時に肌の再現も70-180の方が肌色を保っている。

ちょっと気になったのは(これはカメラの影響であるが)、ホワイトバランスはケルビン値で固定しているが、顔のハイライトに青が浮いている。そして両レンズでその度合いが異なり、70-180の方が逆光の影響が少ない分、その青みがより強く乗っている。またモデルの鼻の下には微妙な陰影ができており、描写として気になった。その他、手すりなどにはどちらもフリンジはなく、逆光描写としてはどちらも良いと言える。このケース、逆光描写の部分に限ってみれば70-180の勝ちだ。より新しいレンズの優位性が出たといったところか。
Case 4:テレ端 遠景

続いては遠景。誌面ではテレ端の拡大画像のみにしているが、評価はワイド端、中央用、周辺用など複数カットから行っている。絞りはF5.6だ。

■絞りF5.6
■共通撮影データ:ニコンZ8 ISO100 WB:5200K
テレ端の中央付近を見てみると、ごく近差ではあるが70-200の方がシャープ。ただレンズのプロファイルが70-200は輪郭強調をしているようで、線が太くなってしまう部分も見られる。ただし、シャープネスそのものは70-200が上だ。そこから周辺に行くに従って徐々に差が開き、70-180が甘くなっていき、四隅あたりでは一目で区別がつくレベルの差が出ている。周辺部は圧倒的に70-200がシャープだ。画面中央最下部あたりでも十分な差が出ている。
ちなみにワイド側も見てみると、中央でもテレ端と違って70㎜では明らかな差が見られる。70-200の方がしっかりシャープだ。70-180は甘いとまでは言えないが輪郭はユルく描写されている。70-200はビルの向こう側のクレーンのワイヤーやフレームまでしっかり解像できている。
周辺部は比較的安定。ただ70-200はテレ端では周辺までかなりのキレを見せたが、中央よりはしっかりシャープネスが低下している。本当の四隅の角の近くではわずかに流れるような描写も見られる。70-180は隅に行くに従って徐々にシャープネスが落ちるがテレ端ほどではなく、四隅でも解像している。が、やはり像が流れるようなニジミも見られる。この四隅の描写に関しては両レンズほぼ同じだ。
このケース、テレ端の評価が大きく影響して70-200の勝ちだ。
Case 5:テレ端 最短撮影距離
絞りは開放。スペック通り70-180の方がより大きく写せている。当然、前後のボケ量も70-180が大きくなる。

■絞り解放
■共通撮影データ:ニコンZ8 ISO100 WB:5200K
ピント位置の画質を見てみると、70-200がしっかりシャープだ。70-200もレンズさえ繰り出せれば70-180と同レベルまで寄れて、画質的にも似たレベルにできるはずだが、レンズの格がそれを許さないのだろう。高画質をキープできる位置で止めている。

ちなみに70-180の方が前後の文字の輪郭がにじんでいるように見えるかもしれないが、それは単純に倍率の違いから来るものだ。それとは別に70-180にはわずかに色収差が見られ、赤い線が出ている。70-200にはそれがない。
このケース、倍率を撮るか画質を撮るかで勝敗が分かれ、画質なら70-200となるだろう。
画質ベースで見れば70-200だが、70-180も高コスパでオススメ!
4年前に発売されたレンズとはいえ(2024年7月時点)、本テストで見えたのは70-200のポテンシャルの高さ。蛍石など高性能素材レンズがふんだんに使われており、それがトップレベルの画質を生み出している。さすが「S-Line」だ。コーティングのみ時代を感じる部分もあったが、まだまだ通用するレンズだ。画質ベースで見ればしっかり70-200の勝ちだ。ジャンルにかかわらず高画質を求めるなら高くても、またちょっと古くても70-200だろう。
一方 、70-180は明るく、軽く、寄れて、70 -200との焦点距離差はわずか20mm 。その分、トリミングしてしまえば大差のない画が半分以下の金額で楽しめる。コストパフォーマンスはかなり高く、ファミリーユースで明るいレンズを求めるなら選択肢は70-180の方になるだろう。
(Photo&Text:諏訪光二)

本記事は「カメラマン リターンズ#11」の記事を転載したものです。興味のある方は、本誌もぜひチェックしてみてください!↓