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ドイツのオゾンに洗浄されて
赤城:(自分の手がけたレンズはなるべく絞らないで撮ってほしい、という)ピーター・カルベさんの話もよくわかる。でも、撮る人、撮らない人、レンズ設計者でも乖離があると思うんです。当然ながら絞って撮りたいときもあるわけだから。ポートレートにしたって、まつげから眼球までピントが来てて欲しい。そうなると少し絞りたいから。レビュー記事は別にして、レンズの性能を見るために写真を撮っているわけではないからね。
編集部:設計者にしたら「開放でも性能が出ている」ということを強くアピールしたいんでしょうね。
赤城:あとは…ライカレンズを使ってるっていう満足感も大事。僕は45年くらいライカを使ってるけど、M6が出る前まではレトロフォーカスのワイドレンズが少なかったんです。だから一眼レフのレトロフォーカスレンズで撮ってもみたんだけど、やっぱりライカには及ばないんです。モノクロフィルムで撮っても、現像すると調子が違っていた。ここにライカのアドバンテージを感じていたんです。
編集部:ライカムックに向けたイイ話だ。
赤城:フィルムの時代だから手が入れられない。ただし、今はねー。フリンジにしてもPhotoshopで直せるし、もっとすごいこともできちゃう(笑)。それでも「やっぱりライカなんだよ」って信じるものは救われるんです(笑)
河田:まさに信仰(笑)
赤城:近いものはあると思います。ドイツの光で設計したから良いのだ、とか(笑)。もう、どう突っ込んでいいのかすら分からない(笑)
編集部:少なくともドイツ本国の人は絶対にそんなこと言わないでしょうね。
鈴木:その辺の思想は、あらためてライカの人に聞いてみたいですね。
赤城:ドイツの冬っていつも曇ってるのに、そんなとこで設計するのがいいの? って思うじゃん。ドイツで設計したものを日本で撮って性能が出るのかよ、って(笑)
河田:たしか赤城さんが「関東カメラサービス」(現関東カメラ)でレンズを再コーティングしたときも、許さん!とユーザーから糾弾されましたよね。
赤城:ありました。レンズをバラすとドイツの空気が逃げるって(笑)。いまは中の空気は東北地方のそれかもしれないけどね。
編集部:そこまで。
赤城:でも、カメラは夢を買うものだし、そこにいろいろ妄想があってもいいんですよ。
河田:ライカは特にその傾向が強いですよね。メーカー以上にユーザーの方がはるかに盛り上がってくれるという。でも、ライカ本体は純潔を守ろう、みたいな意識は希薄だと思います。古いことを言えば、スーパーアンギュロンとかホロゴンみたいにライカ製じゃないレンズもいっぱいあった。中判のSレンズにもシュナイダーが設計しているのもある。つまりスイスの機械式時計みたいにグループ感覚で作っているのかと。EUや日本と協業する自分たちのグループがある、という。その辺を飛ばしていろいろ言うのが一部の日本人だと思います。
森田:ライカ警察(笑)
鈴木:僕も同じ意見です。ライカはカメラやレンズ製造の前半部分をポルトガル工場でやっていますが、難易度や重要度の高い工程とか最終検品はウェッツラーなので「ドイツの基準が反映されている」という象徴でMade in Germanyと記されています。日本メーカーのファンでも、Made in Japanじゃなければ許さない的な人に結構会いましたが、その海外工場も日本の人が監督しているんだから別にいいじゃないかと思ったり。
赤城:カルベさんはさ、復刻のノクチルックスとかズミルックスとかのレンズはどう思ってるんだろう?
鈴木:復刻のズミルックス35mmが出たときに本社でプレゼンがありました。壇上で副社長が製品を解説しつつ、「なお、弊社のピーター・カルベは『良いレンズではない』と言ってる」とネタにして(笑)。来ている人は皆カルベさんのキャラクター(MTF的な性能の高さを重んじる)を知っているから爆笑でした。
赤城:大門さんは再発されたノクティルックスの50/1.2を買われていますけど?
大門:復刻版ノクチはモノクロ専用になってます。カラーでもたまに使いますけど、モノクロ専用機で使ったほうがより色気が増すような…。
赤城:オリジナルは、良品だと800万くらいするんですよね。
大門:フードだけで25万円…。復刻版で十分かと。
赤城:すさまじいです。ズミルックスのオリジナルにも今では大変な値段がついてますよね。そうなると、どうしてもシグマや35㎜F1.4の初期型コシナでいいって思いますよ。
編集部:シグマ…はて?
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