また、高い耐候性と高速なAFを持ちタフな使用に対応するSportsラインに属するレンズとなる。
シグマ 500mmF5.6 DG DN OS | Sports Lマウント 主な仕様
●焦点距離:500mm
●最短撮影距離:0.32m
●最大撮影倍率:1:6
●レンズ構成:14群20枚
●最小絞り:F32
●絞り羽枚数:11枚
●フィルターサイズ:95mm
●大きさ・重さ:φ107.6×234.6mm・1370g
●付属品:ケース フード 三脚座
ギミックに頼ることなく小型軽量超望遠を達成!
ちなみに、これまで軽量な500mmAFレンズといえば回折光学素子を用いたニコンのAF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR(Fマウントレンズ)が1460gという圧倒的な軽さを誇っていた。
歴史を遡れば、かつてミノルタがAF Reflex 500mm F8という製品で全長118mm、重さ約665gという異次元のサイズ感を達成していたが、こちらは反射望遠鏡であり、絞りは固定であるなど制約があるピーキーな製品。現にAFのレフレックスレンズは後にも先にもこれ1本となっていることからも、製品としての難しさを窺い知ることができる。
本レンズは上記の「回折光学素子」や「反射望遠鏡」という、いわば”飛び道具” を用いることなく小型軽量を達成している。ミラーレスシステムのショートフランジバックは、望遠レンズでは小型化への寄与がほぼ無いので、こうしたサイズ感のレンズをよくぞ実現できたものだ、という驚きを禁じ得ない。
聞けば、加工の難しい大口径の特殊低分散ガラスをレンズ前方に集中的に配置することで収差補正と全長短縮を実現したという。設計技術はもちろんだが、生産現場と一体となった技術的発展によって製品化に漕ぎ着けた「熱い想いが籠められた」レンズとアナウンスされている。
今回試用したのはLマウント版となり、S5と組み合わせて撮影を行った。
フードは巨大だが、レンズ単体で持ってみるとサイズ感はほぼ70-200mmF2.8クラス。重さについてもほぼ同等で、超望遠レンズを持ち歩いているという感覚はない。
実際に、LUMIX S5は重さが約714gなのでフード込で約2.2kg程度に収まる。これはボディと組み合わせた状態でもシグマの150-600mmF5-6.3 DG DN OS | Sports単体とほぼ同等、さらに言えば60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS | Sportsよりも軽量だ。心躍らないワケがない。
「超望遠を持ち歩く覚悟」が要らないって素晴らしい!
今回のインプレでは、外観撮影用にフジX-T5とXF16-55mmF2.8 R LM WR、さらに癒やし用のXF35mmF1.4 R、念の為のLUMIX S 35mmF1.8、そしてこの500mmとLUMIX S5をドンケ F-1 Xに詰め込んだ。
が、パズルのように詰め込まなくともフラップが若干コンモリする程度で難なく収まった。リュックタイプのカメラバッグを選ばなくても何とかなってしまうのは嬉しいポイントだし、これなら大きめのトートバッグでも対応できそうだ。
S5と組み合わせた際の重量バランスは悪くなく、筆者の腕力で、という話になるが片手保持でも撮影できた(あくまでできるかどうかの話で、歩留まりは両手保持が圧倒します)。
事前にCP+2024の会場で軽く触れて「おー、軽いな」という感想を持っていたが、実際にフィールドに持ち出してみると軽さの印象は更に際立った。
まず、カメラバッグに入れていても「今日はバッグに危険ブツ(500mm)がある」という気持ちにならず、解き放たれたような軽やかな気分。取り出しても70-200mmF2.8クラスのレンズを扱っているような感覚で慎重になりすぎることもなかった。
三脚座は剛性感は高く、荷重を掛けても歪まない。が、90°毎にクリックストップがあるタイプなので好みは分かれそうだ。三脚座とレンズ鏡筒の間は約20mmと狭く指は入らないので、バッグから取り出す際などに三脚座を持って…というのは難しそうだ。
もちろん描写はズームよりもワンランク上です。
例によってグリップしたまま4時間過ごしてみたが、超望遠レンズを1日中振り回したという感覚はナシ。
筆者の撮り方ではフードの先端近辺を左手保持するのが扱いやすかったので、取り付けノブかフード先端部に脱着可能な何かしらのアクセサリーを取り付けたくなった。そのうち有志によるグッズが登場するかも知れない。
リニアモーター(HLA)によるAFは非常に快適。特にAFの転がりはじめのレスポンスが良く、AFの出足の鈍さはない。急停止から逆回転するようなシーンでも間髪を入れず反応する。
今回はLマウントの、しかもコントラストAFのS5で試用してみたが、それでもAFは快適に感じられた。
手ブレ補正も強力で、ビタッと止まる。軽さ・コンパクトさに加えて強力な手ブレ補正がドッキングすると、一体何ミリで撮っているのか? という感覚が曖昧になってくるのだが、この体験はとても痛快。
気軽に超望遠を楽しもうとするとAPS-C機やマイクロフォーサーズ機などを選びたくなるけれども、このサイズ感で遊べるのであれば、話は変わってくる。
物理的な軽さはもちろんだが、上述の通り手ブレ補正が強力であることとAFがモッサリしていないので、被写体を捉えてからレリーズまでが迅速、すなわち集中力と体力の消耗が抑えられる印象がある。
写りは、500mmクラスの超望遠ズームよりもワンランク上。やはり超望遠単焦点レンズからでしか得られない満足度というものはある。ハイエンドレンズを知っている目の肥えたユーザーであれば「まずまず」という評価かも知れないが、これ以上を期待する場合は「出費もサイズも重さも倍からスタート」となる。
つまりは相応の覚悟が必要だということ。そもそも競うフィールドが異なっているが…。本レンズのコンセプトはサイズと描写を高次元でバランスさせ、さらに手持ち500mmという新しいジャンルを開拓したことだろう。掲げたその理想は妥協なく達成されているので安心してほしい。
「沼」への巧みな誘導を促す怖ろしい子…。
使えば使うほどに「どんな光景を捉えることができるか?」とワクワクするレンズで試用はとても楽しかった。
実は(ニコン)Z 400mm f/4.5 VR Sに初めて触れた時にも同様の高揚感があったが、その時よりも感動は大きく新鮮な驚きがあった。
400mmだと「あと少し」がソコソコの頻度で発生するが500mmは丁度良く感じられる、という画角の好みが影響していることは否定しない。が、高い剛性感と質感を持ち、デザイン的にも優れているということは芸術点(好印象)に少なくない貢献をしている。
風景用途では単焦点レンズは不便かも知れない。しかし、この画角に慣れれば構図はある程度決め打ちができるし、運用方法次第ではズームの必要性を感じる機会を減らせるように思う。
500mmをカバーする昨今の超望遠ズームはどれも実力派揃いだが、いずれも2kg超の重量級。本レンズとは1kg前後の重量差がある。比較的軽量なソニーのFE200-600mmであっても全長で10cm弱の差があり、カメラバッグをかなり選ぶことになる。
「1キログラム」と数字をイメージするとピンと来ないかも知れないが、1リットルのペットボトルを1本余計に持ち歩くことを考えると、重量差を理解し易いだろう。撮影以外の運搬時間も考慮に入れればなおさら現実的だ。
どちらか1本であらゆるシーンに対応できるとは思わないが、本レンズを選ぶ場合には機動力を活かして新しいアングルを気軽に探せるというアドバンテージがある。そういった状況を俯瞰してみると、本レンズがどれだけ巧妙に隙間を突いたコンセプトの製品か? が分かるだろう。どのレンズとも共存が可能という恐ろしい沼への招待状なのだ。