NIKKOR Z 85mm f/1.2 S 主な仕様
●焦点距離:85mm
●最短撮影距離:0.85m
●最大撮影倍率:0.11倍
●レンズ構成:10群15枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数:11枚
●フィルターサイズ:82mm
●大きさ・重さ:φ約102.5×141.5mm約1160g
●付属品:フード、ケース
ストロングスタイルで時代に真っ向から挑戦!?
とまあ、そんな先っちょを追求したレンズなので、ガタイは強烈。重量1160gで最大径は10cm超、長さは14cm超で、定価9,790円(税込)もするフードは全長がほぼ10cmなので、戦闘状態では20cm超え。完全に望遠レンズのサイズに突入しています。
で、Z 9と組み合わせると、ちょうど2.5kg…。ほぼ鉄アレイの重さですね。鉄アレイを1日持ち歩くことを想像するだけでも心が折れますので、今回は組み合わせるボディにZ 7Ⅱを選びました。これでも約1.9kgあるけどね。
ちなみに、なんとなく本レンズに近いサイズのレンズを探してみたら、シグマの135mmF1.8 DG HSM | Artがほぼ同等でした。
原稿執筆時点でのニコンダイレクトでの価格は税込みで40万4,800円。堂々たるお値段に目が眩みます。レンズ1本でこのクラスってのはライカとか中判がチラついてきます。果たして納得させてくれるのかな? が撮影前の正直な心境でございますよ。
レンズの外観をチェック。まず、レンズ情報パネルがなくなりました。Z 50mm f/1.2 Sでは「撮影情報を容易に確認できる」とアピールしていたのに…。ま、実用上ははなくても困らないと思うし、多少の軽量化となっているのかも?
外観デザインは結構好き、というかZレンズで一番カッチョエエと思っています。強そうで良いね!
たとえEVFであっても、覗いただけで違いが分かる!!!!
使用感は上々。ピントリングの反応は非常にスムースで、微妙なピントコントロールも容易。AFはこのサイズのレンズにしては速い気がしますが、絶対評価で「速い」とまでは言えない感じ。リニアモーター(ニコン的に言えばVCM)だともっとAFを強化できたんじゃね? とは思いますが、STMの静音性などを含めると、トータルでの最適解なのでしょうね。つい最近シグマがサクッと搭載していたのでついつい比べてしまいます。と言っても、こちらはマルチフォーカスなのでフォーカス部が2つあるからね…。
Z 7Ⅱに組み合わせてみたところ、一眼レフ的に言えばファインダーを覗いた瞬間から「コレは凄いゾ…」となる、明らかに違う「目の覚めるような映像」が背面モニターに映し出されます。もちろんEVFでもその感動は変わりません。これだけでもモチベーションが上がるよね。
vs Z 85mm f/1.8S! お値段4倍、重さ2.5倍ですが…
スケジュールがタイトだったのでZ 85mm f/1.8Sとの比較はやらないつもりでしたが、俄然興味が湧いたので軽くチェックしてみました。
正直、Z 85mm f/1.8Sについてはトヨタ的には相当に印象が良いです。描写のワリには安い(ニコンダイレクトで税込10万7,250円)し軽い(470g)ので、なんら不満はないというか、むしろ推奨したいレンズのひとつでした。強いて言うならデザインがイマイチなだけだね。繰り返しになるけれど、抜群に写りの良いレンズです。
いつものシーン
いつものシーンで比べてみたけど、こういう比較をする限り、パッと見ではそれほどの違いはありません。強いて言えばちょっとずつf/1.2 Sの方がクリアな感じとボケが少し大きく写る感じはありました。でも有意差とは言えないかな。ブラインドテストでは違いはわからないでしょう。それでも全景で見てみると、f/1.2Sの方が少しだけ印象が良いように見えます。
遠景では
遠景だと、f/1.2Sの方が僅かにキレが良く見えるような…。でもf/1.8Sも負けてないというか、今回のシーンだと、正直、微妙です。
ただしf/1.2Sが凄いのは、絞り開放でもギンギンに解像できていて、「本当に開放絞りなの?」と不安になるくらいの写りってところだな。
接写時の描写力とボケの大きさでF/1.2Sってカンジでしょうか…
接写時の比較
いろいろチェックした中では接写時が一番差が分かりやすくて、ボケのサイズが違うことと、シャープさだけで比べればf/1.8 Sの方がシャープに見えます。ただ、f/1.2 Sもシャープじゃないわけではなくて、芯がしっかりあって僅かに滲んで柔らかく見える感じ。これは同じ絞りで評価した場合の話ね。
f/1.2Sはf/1.8Sと比べて、さらにf/1.6、1.4、1.3、1.2が選べるというアドバンテージがあります。
ボケについては同じ絞り値の場合はどの条件でもf/1.2 Sの方がボケが大きく見えました。どちらのレンズも色のにじみは皆無で非常にハイレベルな光学性能を持っていることが分かりました。
事実に基づいて淡々と評価するとこんな感じだね。
ザックリと性格をまとめると、f/1.8Sは安定してシャープで高性能って感じ。f/1.2 Sはシャープだけど近距離で少し柔らかくなる感じ。f/1.8Sに、特別なにか称号を贈ろうとは思わないけれど、f/1.2Sは「繊細な描写」みたいな称号を与えたくなる感じです。
そこでニコンに訊いてみましたー
この繊細な描写は「絞り及びレンズ群を挟んだ2つのフォーカス群を配置し、それぞれがピント駆動時に最適に動く"マルチフォーカス"によって各群毎に丁寧に収差補正を行うことで、無限遠から近距離まで高い解像性を保ちつつ、近距離になるにつれて球面収差のみを発生させることが可能となり、高い解像力と柔らかいボケ味の両立が出来ています」との回答。息継ぎナシ。
実際、ニコンさんの回答のとおり、これだけ解像性能が高いのに柔らかいっていう、これまでに経験したことのない写りですからね。
繰り返しになるけど、f/1.8 Sでも十分以上に素晴らしい写り。むしろ1/4の価格でこのレベルの描写性能を持っていることをもっと知ってほしいと感じる勢いです。なのでf/1.2 Sマンセーなレビューは好きじゃねぇな。
小声で言います。色々レンズグルメを堪能した人は、おそらくf/1.8Sに戻ってくるような気はします。それくらいに好バランスなのよ。f/1.2Sは描写がヤバいけど、失うものも相当デカイ尖り方をしていると思います。ってことで、比較はこのくらいで。
まとめ 言うだけあって大口径レンズの新機軸
ファーストインプレッションと比較を通じて「ヤベェ性能があるぞ」と思ったので、ここは一発意地悪してやろうと、過去に数多の高級レンズを屠ってきたシーンを幾つも試してみましたが、本レンズには屁の突っ張りにもならない感じ。
同じことはZ 50mm f/1.2 Sにも当て嵌まりますが、コイツらは描写性能の鬼なんです。まさにニコンの光学技術の粋。これなら40万するよね、と納得するしかありません。
このお値段とガタイゆえに気分的にはあまり褒めたくないけど、繊細かつ柔らかな描写は本当にお見事です。このレンズを体験してしまうと大口径レンズの評価基準が狂ってしまうくらいに、これまでの常識が通用しないです。
色の滲みやフリンジは出ない。ボケはキレイで絞り開放からシッカリとシャープ。トヨタの語彙力ではこの程度の内容しか出てきませんでした。
一応だけど、不満についても。
代表格はフード。せめて植毛して欲しいし、先端にゴムも巻いて欲しい。着脱ボタンは相変わらずの安っぽさ。40万のレンズに付属する1万円のフードなんだから、もう少しなんとか出来たんじゃねぇの?ってのが正直な感想。
あと組み合わせるボディ問題ね。Z 9以外は高速シャッターが1/8000秒までしか使えません。試用中に電子シャッターでもう少し速い速度が使えたら、と地団駄を踏んだシーンは結構ありました。大口径レンズは暗所で使うことを目的として生まれたような記憶はありますが、技術の進歩で絞り開放からギンギンに高性能になり、これまでとは違う表現もできるようになったからね。
ということで、そろそろ丁度いい新型が欲しいところですよ。
初号機から大きく進歩し、さらにそこから飛躍をしているキヤノンに対してニコンは? というと、エグい描写性能のレンズとZ9以外に派手なニュースがないので、期待していますよ。