小技が効いているブラックレター
操作してみると、ズームリング、ピントリングの回転フィールはスムーズで良い。フィールの良し悪しは主観も混じるところだが、引っかかりもなく動かそうと思えばスッと回り始めてくれる。実にスムーズでストレスがない。が、同社のContemporaryラインのIシリーズに見られるものとはまた異なる。Iシリーズの方がリッチなフィールだ。
レンズの正面を見てみると、レンズモデル名が書かれてる。が、それがブラックレターになっている。正面にホワイトレター(白文字)で書かれていると、ガラスなどの反射物を撮影したときに写り込んでしまい、邪魔になることも多いのだが、ブラックレターなら目立ちにくい。近づいて撮ることも多いレンズでは欲しい気配りだ。さすがに分かってらっしゃる、シグマさん。
さて、個人的には愛用しているSIGMA fp Lで試したいところだったが、編集部から送られてきたのはEマウント用。そのためボディにはα7R IVをリクエストした。
APS-C用ならα6400あたりを使うのが本筋なのかもしれない。ただα6400が約2420万画素であるのに対し、約6100万画素を持つα7R IVでAPS-Cクロップで使用すれば約2600万画素となるため、より高画素で試すことができ、またシグマのボディではSIGMA fp Lが同様に約6100万画素からクロップで約2600万画素の像が記録できるからだ。
α7R IVに装着してみると、サイズ的にこれほどに合うレンズはないのではないかと思わされる。α7R IVはフルサイズ機であるしそれにしてはかなりコンパクトではあるのだが、フルサイズであるがゆえにレンズが大きくなり、全体としてはかなり大きなシステムになってしまう。何というマッチングの良さだろう。ソニーも最近は小さな単焦点レンズのラインナップをはじめているが、標準ズームではここまで小さくできていない。APS-C用でもだ。
実は編集部から送られてきた荷物には本レンズ以外に「FE24-70mmF2.8 GM」が同梱されていた。「比べてみれば?」と言わんばかりに(笑)
ただここでその両者を並べてサイズの違いをこれ見よがしに見せつけるような下世話なことはしない。なぜならFE24-70mmはフルサイズ用であり画質重視のGMのラインナップ。しかも広角側が換算値で3mmも異なり、広角側で3mm分も違えば当然大柄になる。
比べちゃいけないのだ。ただそれでもF2.8で撮れる標準ズームとしてのサイズは雲泥の差。α7R IVとFE24-70mmの組み合わせでは1.5kgを越え、本気でガッツリ撮るときには良いが、常用して肩からかけていればだんだん気持ちが萎えてくる。そして「せっかくボディは小さく軽いのに」といつものぼやきが始まってしまう。
だが本レンズではそれがない。α7R IVと組み合わせても955gと1kgに満たない。APS-Cサイズで画素数は減るが2600万画素もあれば普通に使う分には十分だ。もちろんSIGMA fp/fp Lでは手ブレ補正はないが、さらにコンパクトにまとめることができる(個人的にはこちらの方が好みだ)。
ボディ内レンズ補正を前提に楽しむレンズ
●RAW・レンズ補正無し
●JPEG・レンズ補正あり
実写してみるとその軽さからフットワークは良くなる。それも長時間歩いてもだ。カメラのデフォルト設定でAPS-C用レンズでは自動的にクロップされ、ズームリングに刻まれた数字を見なければAPS-C用のレンズを着けているという実感はない。ただ小さくまとまったシステムを使っているという感覚しかない。
画質面ではこのコンパクトさからは十分な画質といえる。と、あっさり書いてしまうと薄っぺらい評価に思われしまうだろうが、実際そうなのだ。
開放から中央はかなりキリッとしたシャープネスだ。ただ周辺はやや甘さも見せ、点光源を写すと周辺部で光が流れるのが分かる。像もその位置では流れるような像になるが絞ることで改善もされていく。逆光耐性も高い。ゴーストがまったく出ないわけではないがかなり良く抑えられており、像を殺してしまうほどの強い光彩にはなりにくい。
色収差もしっかり抑えられている。もちろんレンズ補正はしっかり効かせてだ。レンズ補正を想定した設計になっているのだ。これは製品発表でも触れられた部分。補正に任せられる部分は補正に任せ、光学的には色収差などを補正しているのだ。歪みの描写もそうだ。補正無しのRAWデータを見ればその構成が理解できる。
RAWでは大きく歪んでいる。歪み方もナチュラルではなく非球面の歪み。イメージサークルはギリギリで四隅は暗く。また、その四隅は像も甘くなっている。長編の端(横位置での両横端)にはわずかにフリンジも見られる。そしてよくみると広角側からテレ側まで全域で糸巻き型の収差となっており、四辺は中心に向かって歪んでいる。それもやや強めにだ。古い構成なら広角側はタル型に、テレ側に行くに従って補正され糸巻き型になっていく物が多かったが、本レンズは全域で糸巻き型。この像の水平垂直を直すには全体に膨らませる必要がある。
そう、ここに本レンズの仕掛けがある。イメージサークルはギリギリで周辺は微妙に甘さを残しているが内側の画質は高くしてあり、強い糸巻き型にレンズを構成。これを膨らませるレンズ補正をかけることで周辺の像の甘い部分は外側に追い出される。残るのは画質の高い中央部分だけの像というワケだ。しかも歪みはきっちり補正され水平垂直もしっかり出ている。中央部分の画質はそれに耐える解像力を持たされており、2600万画素で記録しても十分に対応できる画質になっているのだ。素の状態の歪み型が単に丸く歪んでいるのではなくこの追い出しを見越した歪みになっているのだ。
だからこそレンズ全体を小さくして高画質を維持できているのだ。本レンズはレンズ補正を絶対にオンにして使うべきレンズなのだ。オフにして歪みや周辺の甘さを楽しむタイプのレンズではない。素の状態が歪み方も含め自然な描写ではないからだ。これがイマドキのレンズなのだ。
ワイド端の最短撮影距離=12.1cmが常用レンズとしての魅力を高める!
●ワイド端
●テレ端
本レンズのもう一つの大きな特徴。それは最短撮影距離の短さだ。ワイド端では12.1cm。センサー面からの距離なのでレンズ先端からの距離はほんのわずか。フードが邪魔になるレベルだ。カフェでカップを撮ったりなんてのも難なくこなす。この常用性に加えてこの距離での撮影までできるとなると撮れないシーンはそうはないはずだ。
こうして特徴を見極めようとするといろいろと気になる部分も見えてくるが、実写ではほとんど気にならないはずだ。もちろん周辺部では甘さも見せるし光が散るのが分かるシーンもあるのでそれを許容できるかが本レンズを選ぶポイントになりそうだ。
ただそういった細かい話しを抜きにしても本レンズは常用に便利なレンズであり、ユーザーが本気レンズとうまく使い分けながら気軽に使うのが吉だろう。欲しいかと聞かれれば欲しい。こんなレンズが一本あると日常がかなり楽しくなるはずだ。ワタシなら愛機の一つ、SIGMA fp Lに着けて常用したい。Iシリーズのレンズとどちらを着けて出かけるか毎回迷うことになりそうだが、楽しい迷いだ。