CP+2026で参考出品されていたAPO-LANTHAR 90mm F4 が正式発表となった。発売は8月が予定されている。シルバーと黒のカラーバリエーションがある他、突出部が9mmという専用の金属フードが付属する。

■豊田慶記氏プロフィール
広島県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープ等の写真に感銘を受け写真の道を志す。スタジオマン・デジタル一眼レフ開発などを経てフリーランスに。作例デビューは2009年。カメラ誌でのキャリアは2012年から。カメラグランプリ外部選考委員。日本作例写真家協会(JSPA)会員。

※撮影共通データ■パナソニック LUMIX S1 絞り優先AE  WB:オート

Voigtlander APO-LANTHAR 90mm F4.0 Close Focus VM 主な仕様

●焦点距離:90mm
●最短撮影距離:0.5m
●レンズ構成:7群8枚
●最小絞り:F22
●絞り羽枚数:10枚
●フィルターサイズ:43mm
●大きさ・重さ:φ53.0×54.8mm・2351g
●付属品:フード

近接に自信アリのアポランターさんって!?

開放F値をF4.0に抑えたことで、焦点距離90mmのフルサイズ対応レンズながら全長約5.5cm(クレジット-カードの短辺並のサイズ感!!)、重さも235gというコンパクトサイズを実現している。また名称にもある通り、最短撮影距離0.5m / 最大倍率0.28倍なので、撮影領域の広いレンズだ。もちろん、至近端でもアポランターを名乗るに相応しい性能であるというから、楽しみというか「本当に手持ちで扱えるのか?」という恐ろしさもある。

ちなみに過去製品を漁ってみると、2001年登場、2011年に生産終了となったAPO-LANTHAR 90mm F3.5というレンズがヒットする。より贅沢なレンズ設計としているように見えるけれども、軽く細くなっていてスゴイ。

感触は全てが上質。特に、というかいつも通り相変わらずというか…言葉を選ぶのが難しいけれども、絞りリングの操作感やフォーカスリングの操作感が素晴らしく心地良い。フォーカスリングの動作は大変スムースで距離計連動の限界となる0.7m時に僅かなクリック感が設定されているが、フォーカシングを全く邪魔せず、実際にフィールドで撮影していてクリック感を意識することはなかった。

レンジファインダー機のユーザーにとって良いことなのか否かは不明だけれども、マウントアダプターで遊ぶ用途としては、絶妙なチューニングに感じられた。
このサイズのレンズがコレほど写るのか!? という驚きがアポランターには毎度の様にあるけれど、本レンズも同じ驚きがある。そして軽い。

「言うて開放F4.0ですよねー」的な油断は厳しく指導を受けます。

曖昧で主観的なことを言えば、マクロレンズってもう少しパリッとした硬さがあるというか、プレパラートとカバーガラスで言えば、プレパラートっぽい「厚みのあるガラス感」なレンズが多いのだけれども、本レンズはカバーガラスの薄さ。素晴らしく自然な描写というか、フィルム時代の6×7みたいな写りなんだよねぇ。フィルムで一通り経験してないとイメージし辛い表現をしてしまうことに、忸怩たる思いがあります。至近よりちょい離れたところまでなら楽しいね。寄っちゃうと、まぁ難しいね。
■F4 1/125秒 ISO2500

例によってピントピークがトンデモなく高いので、開放F4.0のレンズとは思えないほどピントが薄い。引きのシーンであっても「言うてF4だし、まぁ見れるレベルでピントは来てるだろう」などという油断を持ち込めば、実体験として被写界深度などという考えがアポランターには通用しないことがその身に刻まれる。

近接ではないシーンでも、例えばAPO-ULTRON90mmF2や開放F2クラスの高性能レンズでフォーカシングする心づもりで挑む必要がありそうだ。特に最短0.5m近辺の至近領域では手持ちかつ単写で仕留めるのは困難を極め、特殊な呼吸法で撮影するだけでは十分ではない。

モップの手前から1/3くらいのところに合わせたつもりだったんだけど、狙いより3cmくらい奥ピン。F5.6なんだけど…って思いました。レンジファインダーでピント合うのかなぁ…あるいはレンジファインダーの方が都合が良いのか? みたいな事を考えつつ徘徊。コンクリートの質感描写が素晴らしいね、大伸ばしでプリントしたい感が沸き起こりました。腰が痺れるほど良いねぇ。このサイズでこんな写ると困りますよ。
■絞りF5.6 1/125秒 ISO100

連写を駆使しても狙い通りのピント精度で撮影することは大変だ。それでもキマった時の描写は中判デジタルや大判カメラで撮った時のような独特の立体感があり、思わず息を呑んでしまうほどだった。

このサイトでどれだけ表現できているか不明だが、セレクト時のサムネイルで既に「なんかスゴイぞ」というワクワクがあり、ブラウザを眺めているだけでも高揚感があるので、撮影難度の高さに見合った 「ご褒美」 はあるように感じられた。

MFの楽しさ、難しさ、さらにはAFレンズへの理解も深まると思います!

元データだと反射板の文字とかは楽に読めました。背景の壁の塗装のテクスチャがもっと汚く写るかな?というイジワルを仕込んでいますが、何も起こりませんでした。体感だと150mmF2.8くらいのピントの薄さ&写りの雰囲気って感じ。周辺までスッキリしてるよね。左下の隅とか汚く写りそうだけど、ホント何事もないね。色ズレも当たり前のように無いです。
■絞りF4 1/250秒 ISO400

「撮影者本人の自己満足に過ぎない」と言われれば、そうなのかも知れないが、撮影毎に成否が分かり、そして達成感があるというのはナカナカに充実した撮影体験である。やはりMFは人間サマが楽しむべき嗜みなのだろう。

アポランターをテストすると、呪詛のように「難しい」を連発してしまうけれど、非常に高い性能を持つがゆえにピントの合う領域が狭く、僅かなズレも分かってしまうので、実際の撮影は大変に難しい。

「だいたいピントが合ってる」みたいなファジーな撮り方が許されないというか、体調がモロに精度に出るというか。一度はこういったリファレンス的なレンズの難しさを楽しんで欲しいという気持ちがあります。スゴイ精度のレンズに触れると、AFの凄さとか現代のカメラやレンズがやっていることのレベルの高さについても想像できるようになるから、改めて中の人たちへの尊敬の念が大きくなります。たかだか10数万でこのレベルの製品ができるって異常だと思うよ。
■絞りF4 1/500秒 ISO400

AFレンズしか体験してない場合は、開放F値と焦点距離から来るピントの薄さのイメージとアポランターの使用感がまるで一致しないことに驚かされるハズだ。上手くキマれば迅速に達成感が得られるし、画角とボケ感がこれまでの感覚と一致しない独特の描写に虜になってしまう公算も大きい。仮にピントが甘くても、ソコには発見があるし、狙った合焦が必ずしも正解ではないという、写真ならではの表現の面白さに対する気付きもある。

体力測定がてらに撮った口径食とボケの具合と収差チェック。口径食くらいかな? でもそんなグルグルには見えませんね。「アポランターで何撮れば良いのだろう?」みたいな漠然とした不安というのかな?もっと格好良いモチーフを狙った方が良いのか、あるいは泥臭くいつものコースを攻めるべきか、みたいな高性能レンズだからこそ、の、作例をどうすっぺや? 問題を、どうしても意識しちゃうのよね。ありのままに撮るしか無いんだけどさ。他のレンズだとソコまで身構えないのだけれど、アポランターとかオータスってやっぱり特別なんだな、と改めて思い知らされる感がありました。
■絞りF4 1/125秒 ISO200

そして操作感が心地良いので撮影体験そのものは上質である。良いEVFを持つカメラと組み合わせれば、NOKTONなどと異なる特性をフォーカシングから観察するのも一興だろう。

ということで、もし気になったのなら、是非一度はアポランターに飛び込んでみてほしい。アポランターを体験すると他のフォクトレンダーブランドレンズの精度の高さが理解できるし、設計の狙いに気付けるキッカケも得られそうだ。加えて、AFレンズがやっていることの難しさについても思考を深めることができると思う。

あまりに写るので、途中からモノクロについてはノイズを足した絵作り設定で撮ってました。ディザリング効果を狙ってトーンを少し厚く見せることで、ピントについても同様に、視覚効果的に少し深く見せたい、という意図になります。試用中は何故か「ライカのSL3で撮ったらどんな写りになるのだろう?」って頻繁に思いました。相性が良さそうな気がしています。
■絞りF4 1/500秒 ISO250