この春、2020年9月に登場した前モデルから約5年の時を経てⅡ型が登場した。「5軸シンクロ手ぶれ補正」に対応し、手ブレ補正効果が劇的にアップ。三脚座も実際の使い勝手に配慮したリニューアルとなり、早速ながら前モデルのユーザーも買い替えの価値アリ! 2025年3月1日発売

OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS Ⅱ 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算200-800mm相当
●最短撮影距離:1.3m
●最大撮影倍率:0.29倍(400mm時)
●レンズ構成:15群21枚
●最小絞り:F22
●絞り羽枚数:9枚
●フィルターサイズ:72mm
●大きさ・重さ:φ86.4×205.6mm・1,125g (三脚座除く)/ 1,300g (三脚座含む)
●付属品:フード、三脚座

いきなり結論。筆者は間違いなく買い替える

フードを着けた100mmと400mmの状態。フルサイズ換算の画角200-800mmでこれって「あり得ない」小ささ。凄すぎ。フードの長さもちょうどよく、収納時には逆付けもできて、フード装着時にもレンズキャップの着脱が可能。

「おお、やっぱこれは買い替えだ」。この春のリニューアルだが、遅ればせながら筆者は実際に使ってみて感心した。前モデル機種を使い倒して2年近く経つが、正直、前モデルでも大満足のレンズだ。しかし、Ⅱ型でファインダーを覗いている時の向こう側の風景は、まるで「別世界」だ。驚いた。

35mm判換算で800mmの超望遠レンズを手持ちで構えているにも関わらず、ファインダー内に見える世界は、135mm F2.8ぐらいの穏やかさだ。これが、OM SYSTEMが先行している「5軸シンクロ手ぶれ補正」の効果なのだ。前モデルは、ときおり腕がプルプルするのがファインダーで感じられるほどの眺めだった。

神宮球場のバックネット裏3段目の距離から撮影。この距離からだとバックネットの影はボケて、ほぼ写らない。■OMシステム OM-1 Mark Ⅱ 絞り優先AE(F6.3 1/1250秒) WB:オート ISO500

前モデルの登場からⅡ型まで約5年を経ている。カメラも進化したが、このレンズの進化も間違いなく写真を変えてくれる。前モデルも比較的ロングランのモデルであったので、今、このⅡ型に買い替えれば、先も安心して長く使えることだろう。

どこが変わった?

左がⅡ型。右が筆者所有の前モデル。フォーカスとズームリングのローレットの色が変更された。しかし実際の見た目は「言われてみれば違いに気づく」という程度。

最大の進化は手ブレ補正だ。公称の補正段数が400mm時3.0段(前モデル)から5.5段(Ⅱ型)にアップ。そして「5軸シンクロ手ぶれ補正」に対応した。この段数の表記は、実はタテ・ヨコ2軸だけの角度ブレ試験によるものだ。

これは、CIPA=カメラ映像機器工業会で標準化されている試験の方式、「CIPA規格」に則った公称値だ。しかし、OM SYSTEMの「5軸シンクロ手ぶれ補正」は、タテ・ヨコの角度ブレだけではなく、光軸と垂直方向にブレるシフトブレと、光軸方向にブレる回転ブレも補正してしまう。

望遠レンズでは角度ブレの成分が多く、前モデルではレンズ側の補正機構だけでブレを打ち消してくれていた。前モデルのレンズ側の2軸の角度ブレ補正も確かによく効くのだが、これとカメラ側のブレ補正機構を協働させることで、さらに高い効果を得ているのが「5軸シンクロ手ぶれ補正」だ。実際、体感としてⅡ型のほうは凄い補正効果が感じられる。2軸の角度ブレのみの補正だけだった前モデルとは、心理的には「100倍くらい」違う(筆者比)。

改良著しいⅡ型の三脚座は、取り外しやすいだけでなく、縦横切り替えの回転はスムーズだし固定もしっかりしている。

三脚座も改良された。着脱がレンズ後部引き抜き式だった前モデルから、パカッと外せる蝶番式に変わった。カメラにレンズを付けたまま着脱ができるのだ。前モデルはカメラからレンズを外さないと三脚座を着脱できなかった。埃モウモウや雨ビシャビシャの撮影中でも速やかに三脚や一脚からカメラ・レンズだけ取り外して身軽になれるので、これは実に嬉しい。

左側のⅡ型の方が背が高く指通りが良くなっているが、肉抜きが多く、三脚座だけの重量174グラム(実測)と軽く仕上がっている。前モデルは実測201グラム。

前モデルと同じくアルカスイス互換だが、実は互換といっても市場には色々な程度のアルカスイス互換が出まわっているようで、5年を経た市場からのフィードバック=経験値によって、もしかしてこの辺の形状の改良も行われているのかもしれない。

左がⅡ型で右が前モデルのフォーカスリング。少し表面の処理が違うだけ?

あと、フォーカスリングとズームリングの色味が黒めに変わった(実機では、新旧を並べて比べないと気が付かない程度だけど)。そのせいか、Ⅱ型はやや精悍な印象を覚える。

いっぽう、AFの速度や挙動に変化は感じられなかった。元々、前モデルも遅くはなく、今回のようなスポーツ撮影にも十分に足りるほどの速さだ。このクラスになると、AFの速度や精度の向上は、主にカメラ側の進化に負うように思われる。本機をOM-1 Mark Ⅱにも装着して試用したが、さすがにこちらだとバチバチ当たって実に気味が良かった(E-M1X比)。

画質も前モデルと変わりなく、充分に納得の高画質だ。超望遠レンズの場合、その描写性能に対して誤解を生じやすいかもしれない。何しろ被写体までの距離が遠く拡大率も大きいので、その間に存在する分厚い大気のゆらぎや水蒸気が、写りに大いに影響する。筆者のように様々な天候下で使う機会が多いと、本機が充分な描写性能を備えていることがわかる。

ここにマイクロフォーサーズのメリットが最大化

サードライナーが抜けた瞬間。打球を追ってカメラを振りながら電子シャッターで秒60コマの連写をしているが、手ブレ防止機構が食い付き過ぎてフレーミングに追い付かなくなることはなかった。意図的なカメラ(レンズ)の振りに追従するよう、よく調整されている。
■OMシステム400mm OM-1 Mark Ⅱ 絞り優先AE(F6.3 1/4000秒) WB:オート ISO1250

筆者の主なフィールドは「野球」。100-400mmで少年野球や学生、アマチュアの野球を撮っている。カメラポジションは主にネット裏の客席やベンチ横だ。それくらいの距離から35mm判換算で200-800mmの画角は、内野のプレーを追うのに適している。

いずれも400mmだが、右側のカットはカメラのデジタルテレコン機能を使用し、2倍の望遠(=フルサイズ換算で1600mmの画角)に拡大している。こちらも神宮球場のネット裏で、32段目というかなり高い位置から撮っている。観戦にはいい位置だが、写真にはネットの影が写ってしまう。

筆者がOM SYSTEMを選んだ理由はサイズだ。正直、スポーツ誌の仕事やプロ選手がメインの被写体であればC社やN社の機材を選んだかもしれない。しかし、筆者の場合は、それほどの責任を負って撮影する立場ではない。

シートピッチが狭く混雑する球場では、他の観客の迷惑にならないようフードは着けない。そして、このサイズまでだと気兼ねなく持ち込める。この時のカメラはOM-3。

また、フルサイズ用の600mmや800mmなどの巨大なレンズを振り回せる立場にもない。それよりも、他の観客や選手、関係者に迷惑や威圧感を与えないコンパクトさのほうが大事だ。「最小限のサイズで最大の望遠効果を得る」。その目的には、この100-400mmはピッタリだ。1.4倍のテレコンやカメラのデジタルテレコン機能(2倍)を駆使すれば、外野のプレーまでも何とか捉えることもできる。

前モデルをガッツリ使っていての印象など…

近づけない距離での花風景の撮影にもいい。ファインダー内の像がすこぶる安定していて構図づくりに良いが、撮影結果をみると補正の像移動で構図が少しずれることがあるの注意。また、低振動連写や静音連写をお勧めする。

このレンズ、手ブレ補正が劇的に進化したことに起因するメリットや三脚座の改良以外は、基本的には前モデルと同じだ。なので、筆者が2年近くガッツリ使っている前モデルのエピソードは、Ⅱ型の本機にも通じるところがあろう。

その1。防塵機構。大したもので、未だレンズ内部に目で見えるようなホコリは入っていない。少年野球のグランドに毎週のように持ち出していれば風が強くて「土ぼこりモウモウ」の日にもよく出会う。そんな環境でズームをズコズコ動かすのは、ふいごのように外の空気を鏡筒の内側に出し入れしているようなものだ。土ぼこりが侵入しないか不安だ。

せっかくなので月面撮影に挑戦。RAWデータ4コマをPhotoshopでコンポジット合成し、ノイズリダクションやコントラスト調整、超解像処理などを行った。テレコンバーターで光学像そのものを大きくしたり、画像処理にステライメージなどの天体写真用アプリが使えれば、もっと高画質な画像が得られるだろう。

しかし、選手のプレーやボールを追っかけている最中にはそんなことは忘れてしまう。そして、家に帰ってレンズの手入れをしながら安心するのだ。「あー、まだキレイで良かった」。

その2。防滴性能。IPX1ということで「風雨」には気を付けたほうがいい。野球はちょっとした雨でも試合は行われる。そんな時は筆者も濡れながら撮る。だが鏡筒に雨水が侵入した経験はない(タオルを被せて使うのが基本)。

「前玉の裏側が結露してしまった」の図。これは筆者所有の前モデルだが、昨年の夏、冷房をガンガンに効かせていた車内から、雨上がりで超蒸し暑いグランドに持ち出したところ、一瞬で結露してしまった。こうなると、なかなかクモリが引かないので気を付けよう。 「防塵防滴」であって「防湿」ではないのだ。

しかし、ただ一度だけ! 前玉の裏側が結露してプレイボールから2イニングほど撮れなかったことがある。原因は車のエアコン。冷房が直撃する助手席にカメラバッグを載せてしまっていたのだ。

冷え冷えになった鏡筒が真夏の湿気モウモウの大気を吸い込んだとたん、レンズの裏側が真っ白に。「あーあ、やっちまった」って感じ。前玉の裏側なので、その場で拭き取ることができない。日光に当てて、そのまま乾くまで待つしかない。昔のレンズだと、乾いた後に結露跡のようなクモリを生じるのもあったけど、本機は乾いたあとも大丈夫だった。「防滴」であって「防湿」ではないので、移動時の環境には気を付けたい。

野鳥撮りの専門ではない筆者にはハトポッポぐらいが関の山。でも被写体までの距離が近くとれたおかげで、羽毛の細部までとても細密に写ってくれています。
■OMシステム OM-3 絞り優先AE(F8 1/640秒) WB:オート ISO200 「鳥」認識AF

その3。三脚座はどこ行った?事件。筆者は基本的に三脚座を使わない。筆者の100-400mmはほぼ100%手持ち撮影だ。なので、三脚座は普段は外してどこかに置いてあるのだが、ある日、左腕を痛めてしまって手持ち撮影が無理になった。しかし、その日はどうしても撮り逃せない試合があり、一脚を持ち出すことにした。

ところが、どこにしまったか三脚座が全然見つからない。時間のこともありしょうがないので、一脚はカメラに付けることにして球場に向かったが、半分くらいのカットはタテ位置になってしまうため、一脚は結局役に立たず、痛い思いをしながら手持ちで撮影を続けた。

後になって、レンズを買った時の元箱に入れっぱなしだった三脚座を発見。あるじに見捨てられた三脚座の祟りだ。Ⅱ型には設計者の苦心の跡が見える、使い勝手の良い改良された上等な三脚座が付いているので、装着を基本にして大切にしたい。

最高難易度(自分比)と思われるツバメを狙ってみたが、さすがに無理筋。それでも飛んでいるカットをいくつか押さえられたのは、OM SYSTEMのカメラとレンズのおかげだ。
■OMシステム OM-3 絞り優先AE(F10 1/6000秒) WB:オート ISO6400 「鳥」認識AF