ソニーの85mmF1.4GMが約8年の時を経て進化した。アピールポイントは小型・軽量化とAFの進化。長さはほぼ同等だが、最大径が89.5mm→84.7mmへとスリムになり、重さは820g→642gと180g近く軽くなっている。レンズ枚数は8群11枚から11群14枚へと増えているのに、軽く、かつ細くなっているという不思議…。
■撮影共通データ:ソニー α7C R 絞り優先AE WB:オート

ソニー FE 85mmF1.4 GM Ⅱ 主な仕様

●焦点距離:85mm
●最短撮影距離:0.85m(AF)/ 0.80m(MF)
●最大撮影倍率:0.11倍(AF)/ 0.12倍(MF)
●レンズ構成:11群14枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数:11枚
●フィルターサイズ:72mm
●大きさ・重さ:φ84.7×107.3mm・約642g
●付属品:フード・ケース

例によって、シッカリ軽く、かつ細くなっています。

前述したアピールを「最適化」と一言で軽く語られてしまうことが多いが、泥臭く地道にひとつづつ課題をクリアしていった結果の産物だろう。開発陣のこうしたチャレンジには頭の下がる思いだ。

手にしてみるとシッカリ軽く、細くなったことで持ちやすくなった。またカメラバッグへの収納性、特に取り出し易さがかなり改善されている。従来型をドンケのバッグに入れるとインナーに引っ掛かって悲しい思いをするが、新型なら全く問題ない。

フォーカスホールドボタンも2つに増え、姿勢差による操作性の変化を意識しなくても良くなった。
期待のAFの進化は体感で3倍くらい速く静粛になっていた。気になったので手計測ではあるが、無限遠から1mの位置までの合焦時間を測定したところ新型が平均約0.3秒程度、従来型が約0.8秒程度と最低でも2倍以上の改善となっていたので実写が楽しみである。

新旧比較。VS FE 85mm F1.4 GM

左がGMⅡ。ひと回りスリムになったのは一目瞭然。さらに手にすると約180gの差が実感できる。これが最近のソニー。

従来型も別に悪くないのだけれども、ニコンが振り切ったレンズを出しちゃったから、アレを見ちゃうと気になっちゃうよね。「中央部の結像性はソコまで変わらねーだろ」と思ってましたが予想よりも違いました。あと、このシーンでF4.0より絞り込むと従来型はAFが迷う迷う。

いつもの場所で新旧比較を行ってみた。開放絞りで新型が明らかにキレ良く写るようになったほか、前ボケは明らかにキレイになっている。従来型は開放絞りで僅かに滲みがあった。個人的には好意的に感じていた特性なので失われていくことに寂しさを感じるけれど、これも時代だろう。1段絞れば新旧での解像感の差は無く、判別は出来なくなった。さらに2段絞ると、並べても誤差以上の差を見つけられなかった。

前ボケに関しては、従来型は繰り返しパターンなどを遠慮なく被写体より前に置いてしまうと少し目立つ感じに写ることがあった。構図を整理すれば別に問題は無かったのだが、新型ではより自由に撮れるようになっている。

至近時は写りの差よりもAFの快適性の差が全然違いました。従来型は中央1点でもこのシーンでは迷うことがありましたが、新型は基本一発でスパッと合う。

至近端でもチェックしてみたところ、全体的に新型の描写はスッキリしている。特に周辺部での差はソコソコあるぞ、という印象だ。被写体を真ん中に高頻度で配置する場合は、やはりF2.0より絞ると差はほぼないけれど、周辺部ではさらに1段弱程度の違いが、あると言えばあるように見えた。

至近の周辺に被写体置いた構図だと拡大比較しなくても「を??」って感じるくらい印象が違いましたが、拡大するとソコまでは違わない感じがします。

比較撮影している際はAFの差がとても顕著に感じられた。従来型は近距離や周辺部でAFさせる場合とF4よりも絞り込んだ際にAFが迷うことがあったが、新型ではそのような振る舞いは無かった。そもそものAF速度が倍以上違うということもあるけれど、新型はとてもスムースに合焦するので、実際の速度差以上に体感性能が違った。

大袈裟に言えば、新型を経験した後では従来型の動作感は「おっそ。ウルセ」だ(従来型だけを使うのならそこまで遅くも煩くもないですけどね)。

「迷いのないAF」はまさにソニーならでは!

元データだとギョッとするくらい写ってました。性能出てるレンズ特有というか独特の空気感というか。写りよりもハンドリングの良さとかストレスフリーな撮影感覚とか、そっち方面の感動がデカいレンズだね。
■絞りF5.6 1/800秒 プラス0.3露出補正 ISO100

比較テストで周辺まで高い光学性能を持っていることが確認できたので、イジワルな撮り方をふんだんに織り交ぜてみたが、屁の突っ張りにもならなかった。
個人的な好みで言えば「ここまで写らなくても…」と思ってしまうレベルの光学性能だったけれど、撮った写真を眺めているだけでも気持ちの良い描写だ。

AFはコレでもか! ってくらいに迷いにくくなっていて、レスポンスも申し分無い。迷い難いことについては、AFアクチュエータの差だけでは説明がつかないので、通信のクオリティ(補正データやAFデータなど)にもテコ入れがなされているのだろう。

口径食はちょっぴりあります(筆者の感覚ね)。ボケ味は「もう少しキレイにボケてくれてもええんやで」って感じるシーンが無いわけではないぞ、と正直思いました。だってお高いレンズですもの。
■絞りF1.4 1/500秒 プラス0.3露出補正 ISO100

レスポンスはXDリニアモーターがとても効いている。一方通行だけ速いレンズというのもあるけれど、フィールドではフォーカスが行ったり来たりするので、巡航速度や最高速度だけでなく加減速のレスポンスも重要だ。このレンズのAFはキモチイイ。やはりAFはVCM含むリニアモーターの時代だ。

今回はポートレートでは試しておらず、スナップシーンでの体感からの予想となるが、動きのあるポートレートシーンでは買い替えを検討するに足る快適性の差というか、撮れる撮れないといった性能差がありそうに感じられた。

「光学性能」よりも「使い勝手」に振って大正解!?

前ボケにこういう感じで線の成分とか繰り返しパターンの成分を写し込んだ時のボケ感は素直になったけど、Z85mmF1.2Sはもっとキレイだからね。サイズが違うから実用性では本レンズが圧倒していますが、ちょっとお仕事一徹というか、艶が足りないというか…。そういうワガママを叶えようとするとこのサイズ感では実現出来なかったのかな?
■絞りF1.8 1/100秒 マイナス0.3露出補正 ISO125

画質もシッカリ良くなっているけれど、それ以上に使い勝手の改善が著しく、感心した。
個人的な経験で言えば、光学性能の差が最終的な出力時のクオリティを左右することはそれほどない。それよりも、軽さやAF性能といった使い勝手に関わる部分の改善が与える影響の方が大きいと思っている。

時間やカロリーを注げるシーンでは有意差とはならないけれども、出番が多くなればなるほどボディブローの様に結果に響いてくるのが「使い勝手」だ。さらに疲労などで撮影者のコンディションが悪くなれば顕著。AFがポンコツだと心が砕けるし、レンズが200g重いだけでも、長時間撮影していると心を折る場合がある。

F1.8まで絞った時のキレの良さは本当にキモチイイ。ビックリするくらい写るね。
■絞りF1.8 1/200秒 マイナス1.0露出補正 ISO100

動画用途では、従来型はAFの駆動音が結構するので同録は無理だと思うが、新型なら対応出来そうだ。
ソニーストアでの価格差は新型が(税込)約30万円に対して従来型は約27万円弱。実勢価格ではもう少し差が開きそうだけれども、例えば5年使うと考えるなら差額を払うだけの価値はあるように思う。

進化の方向性が光学番長の一本槍であれば「買い替える価値ナシ」と両断した可能性大だが、誰でもレンズの限界性能を楽しめるようなモデルチェンジなのでグウの音も出なかった。

使い勝手は本当に素晴らしくて、軽くてAFスコスコ合ってストレスや我慢なくサクッと撮れるのが本当に心地良いレンズ。もし自分が選ぶなら? って観点だと本レンズを選択したくなりました。
■絞りF2 1/250秒 マイナス1.3露出補正 ISO100