コシナから、キヤノンRFシステムに対応するフォクトレンダーブランドの交換レンズ「NOKTON75mmF1.5 Aspherical RF」が正式に発表された。本レンズはCP+2024で参考出品されていたレンズの1つで、同じスペックのZマウント用とEマウント用の製品についても同様に出品されていたものだ。

コシナ フォクトレンダー NOKTON75mmF1.5 Aspherical RF 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算75mm
●最短撮影距離:0.5m
●最大撮影倍率:1:4.8
●レンズ構成:6群7枚
●最小絞り:F32
●絞り羽枚数:12枚
●フィルターサイズ:62mm
●大きさ・重さ:φ74.0×71.9mm・525g
●付属品:フード

3マウント同時発表の第1段!…だけどオリジンはVMマウント

既に紹介している NOKTON50mmF1 Aspherical RF

NOKTON40mmF1.2 Aspherical RF

と同様に、キヤノンからライセンスを得た製品となる。
電子接点を持っているので、対応機種では撮影情報のExif記録に対応し、3軸のボディ内手ブレ補正、拡大・ピーキング・フォーカスガイド(EOS RPのみ非対応)の3種類のフォーカスアシスト機能が利用可能であるところ等も先の2本と同様だ。

カメラ側からの絞り設定はできず、レンズ側の絞りリング操作のみとなる点にも注意が必要である。
またEOS RシステムのUI上の絞り値表記は1/3ステップ表記であり、UIならびにExif情報での開放絞り値は「F1.6」と表示される点にも理解が必要だ。

例に漏れず、フォーカスリングの回転方向はキヤノン純正と同じに揃えられており、ローレットパターンについてもEOS Rシステムが採用する意匠に準じたダイヤパターンが採用されている。

もう後戻り出来ないほどにディープなフォクトレンダーファンであれば、レンズ構成図からピンと来ているかと思われるが、同じレンズ構成のVMマウント用のものが2019年8月に発売されている。

VM版との違いは、カラーリングがブラックのみであることと、フードがスリットなしとなっていること。さらにRF化によってウェイトが200g弱ほど増加していることと、最短撮影距離では20cm短縮されているところが挙げられる。

またNOKTON50mmF1 Aspherical RFなどと同様に、絞りリングにはクリックのオンオフを切り替える機構が搭載されている。

コタツでも、酒のアテとしても愉しめる“コシナ クオリティ”

好いレンズに触れると形為らざるモノを撮りたくなるものです。ということで階段に差し込む影をパチリ。ピント位置は素晴らしくシャープなのにボケの柔らかさと言ったら、もう…。
■キヤノン EOS R6 MarkⅡ 絞り優先AE(F1.5 1/8000秒) マイナス1.0露出補正 WB:オート ISO100 ※ピクチャースタイル:モノクロ

見た目からして「コシナ味」が炸裂していて、その期待を裏切る事なく触れた感触もコシナレンズそのもの。何のことやらサッパリ、という手遅れではない健全な写真ファンに向けて解説すると、質感と操作感は申し分なく、ピントリングの重さは適切で、絞りリングの感触も心地良し、という意味です。

非常にハイクオリティに作られているのに、昨今の価格高騰はどこ吹く風という経営スタイルには「社員さんの生活、大丈夫なのかなぁ…」と心配にもなります。
ともあれ、シグマレンズにも当て嵌まりますが、良い意味で「触れただけで分かる」というのは、ブランディングとして成功していると思います。

ほぼ至近端でパチリ。立体感が素晴らしいね。滲み方もすごく美しい。最新のクリアな描写のレンズからでは得られない栄養素とでも言いましょうかね。
■キヤノン EOS R6 MarkⅡ 絞り優先AE(F1.8 1/1000秒) マイナス0.3露出補正 WB:オート ISO100 ※ピクチャースタイル:ニュートラル

1/8000秒以上のシャッター速度が選択できるという理由で、今回も相棒にはEOS R6 Mark IIを選びました。
NOKTON40mmF1.2 Aspherical RFの時にも記述していますが、お外に持ち出さずとも気分の高揚するレンズで、MFが非常に楽しいです。このレンズさえあれば、寛容かつ健全な心によって徳を積むことも難しくありません。

例によって「収差コントロールをふるう余白」、ちゃんとありました。

心に巨匠を宿して、僅かに前ピンにしています。というか連写で身体の前後動によって良い感じのカットを選ぶというのが現実的。でもMFしてる時間も楽しいよ。
■キヤノン EOS R6 MarkⅡ 絞り優先AE(F1.5 1/640秒) マイナス1.3露出補正 WB:オート ISO100 ※ピクチャースタイル:モノクロ

取り敢えず体力測定を、ということで何となくNOKTON40mmF1.2と同じ気持ちで撮り始めましたが、ピントのシビアさに驚きました。
トヨタ的に ”撮影技術評価試験レンズ” だと思っているAPO-LANTHAR50mmF2に挑む時くらいの気持ちで撮影しないと作例写真家の評判を貶めてしまいそうです。

近所の桜をパチリ。滲んでいる中にもちゃんと芯があるっていうのが、伝われば良いのだけれど。このバランスが良いのよね。
■キヤノン EOS R6 MarkⅡ 絞り優先AE(F1.5 1/1250秒) プラス2.3露出補正 WB:オート ISO100 ※ピクチャースタイル:ニュートラル

若干大袈裟に話を進行していますが、ピントが僅かに甘くても描写はスコブル美しいので安心してください。
AFレンズでばかり撮影していると、ピントは合っているか合っていないか、という2択になってしまいがちです。ですが、実際にはピントは合焦と非合焦の間の領域があり、露出と同様にピントはコントロールし甲斐のあるものです。

同じレンズを使っても巨匠先生と写りが違う、という体験を筆者は何度もしており、そういった繊細な技術の積み重ねが差として出ていたのかも知れませんので、時にはピントについても試行錯誤に耽ってみるのも良さそうです。

そうした気持ちを既に設計段階から汲んでいるようで、繊細なフォーカスコントロールがしやすい絶妙な重さのピントリングに改めて「なるほど」と納得させられます。

こういう撮り方は苦手かな? と思ってパチリ。気持ち前ピン気味というか画面の隅っこにピントが来てます。あと周辺光量の落ち具合はこんな感じ。0.7段絞ってます。
■キヤノン EOS R6 MarkⅡ 絞り優先AE(F2.0 1/3200秒) プラス1.7露出補正 WB:オート ISO100 ※ピクチャースタイル:ニュートラル

肝心の写りは…良い(好き)。
語彙力が足らないので「抜群に」とか「申し分なく」みたいな言葉で装飾しようとも考えましたが、シンプルに言った方が響くかと思って一言にしています。
痺れたね。

一応説明しておくと、開放絞りからワリとスッキリですが、いつも通り撮影距離と絞りの関係によっては収差コントロール出来る余白がちゃんと残されているので、光を読みつつ絞りとフットワークで描写を操る楽しさがあります。
ビックリするくらいキレ良く写るのに、とても柔らかく撮ることも出来るってことね。

そして流行は40㎜→75mm画角にバトンタッチされる…ええ、無責任に言ってます。

逆光シーンではこういうボケで遊ぶのも楽しい。どうやればどう写るのか? という学びがあります。AFだけで撮ってると分からないし、MFするにしても「ピント合焦」ということに固執してしまうと、やはり見えてこないものだけど、時には積極的に挑戦してみるのも良いと思うのよね。一応ですが、上部中央付近にピントは合っています。
■キヤノン EOS R6 MarkⅡ 絞り優先AE(F2.2 1/80秒) プラス3.0露出補正 WB:オート ISO100 ※ピクチャースタイル:ニュートラル

繊細で柔らかくて、美しいトーンの中に芯のある写りがあるって言えば良いのかな。近所で撮影していても「そんなに魅力的な一面があったの!?」と新鮮な驚きがあり撮ってて清々しい心持ちになれる1本でした。

トーンが本当に気持ち良いので、気付けばモノクロでばかり撮っていましたが、カラーはカラーで立体感が心地よく、ため息ばかり。

領域内に入ってくるんじゃねーぞ感を出す野良猫に対して、間合いの限界を読みつつMFする様子は正に真剣勝負。1枚の写真にもそうした物語が、自分の中に生まれるってのもMFやマニュアル操作の楽しいところ。オートはオートで、対象に集中できる良さがありますが、余裕がある時にはそうした物語との対話も良いものです。
■キヤノン EOS R6 MarkⅡ 絞り優先AE(F1.5 1/6400秒) マイナス1.0露出補正 WB:オート ISO100 ※ピクチャースタイル:モノクロ

75mmという画角も、筆者的には丁度良く28-75mmみたいなズームと違って、開放口径が大きいので、絞りさえ開けていればそれほど工夫しなくても背景がボケて対象が浮き出て見えるので、撮ってて短く感じないと言えば良いのかな? なのに、画角が狭いとも感じないので扱い易くてとても面白かったです。

写りの良さと絶妙な距離感を持つこのレンズは、覗いた世界に沈んでいくような心地良さがありました。巷では40mmがワッショイされてますし、個人的にも心地良い画角だと思っているけれども、この75mmも同様に面白い画角なので体験して欲しいです。