ニコンから、ZマウントのDX(APS-Cフォーマット)用としては初となる単焦点レンズ「NIKKOR Z DX 24mm f/1.7」が登場した。ユーザーとしては、将来的なものを見越してFX用(フルサイズフォーマット)レンズを選ぶという手もあるが、最大のネックはサイズと価格。写真の裾野を広げるという点で、DX用のこうしたレンズの登場を期待していた筆者としては嬉しいニュースだ。

NIKKOR Z DX 24mm f/1.7 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算36mm相当
●最短撮影距離:0.18m
●最大撮影倍率:0.19倍
●レンズ構成:8群9枚
●最小絞り:F11
●絞り羽枚数:7枚
●フィルターサイズ:46mm
●大きさ・重さ:φ約70×40mm・約135g
●付属品:フード 

DX初の「単玉」は静止画向け?

ファーストショットがこちら。もっとパリッとした感じに写ると予想していたが、自然な描写に驚かされた。重箱の隅をつつくようなことを言えば、シーンによっては周辺部のボケ味が気になるかも知れない。
■絞り優先AE(F1.7 1/320秒) プラス0.3露出補正 ISO250 

※共通データ ■ニコン Z 8 WB:自然光オート ピクチャーコントロール:ニュートラル

これまでZ 50やZ 30、Z fcにピッタリなサイズ感とコストのレンズとなると選択肢が限られていたのは周知の事実。特にF2.0よりも明るいレンズとなると、フルサイズ対応で高価なS-Lineを選ぶか、最近追加されたシグマレンズか、あるいはFTZアダプターを利用してFマウントレンズまで視野を広げる必要があった。

FTZ(Ⅱ)アダプターを用いる場合には選択肢がドカンと広がるのは良いけれど「普遍のFマウント」だからといってストレス無く運用できるワケではなく、レンズによっては制限がある。

デザインは他のZレンズと同じテイストだが、前玉がZ 28mm f/2.8や40mm f/2.0よりも大きいので、筆者としては心象が良い。ただ、筆者の感性ではZ fcには似合わないと思う。もう少しブランド全体でのデザインの統一感を持たせて欲しい。

この撮影条件ではボケが柔らかくて良い感じ。キットズームにこのレンズをプラスすることで、表現の幅が一気に広がりそうだし、お買い得なレンズだと思います。
■絞り優先AE(F1.7 1/400秒) プラス0.3露出補正 ISO250

重さはレンズ単体で約135gと非常に軽量に仕上がっている。このくらいの重さであればカメラバッグに潜ませている時にはほぼ空気と変わらないので、キットズームに1本プラスして持ち歩いてもその存在を意識することはなさそうだ。

AFの駆動音は静かではある。が、AFを繰り返すと駆動音はしっかりと鳴るので、例えば録画時に音声同録の場合にはノイズになりそうだ。どちらかと言えばスチル向きのレンズなのかも知れない。

AF速度については過不足のない速度だ。速くはないが遅いワケでもない。とは言え、子猫などがパッと飛び上がるようなシーンを狙おうとすると歩留まりを期待するのは難しそうだ。

これまでのZレンズのイメージとは少々違う?

フラットなものを撮ってみた。コントラストが高いので良く写っているように見えるが、実際には開放絞りでは全体的にやや甘め、というか良い意味で普通。でも、これくらいで良いと思いますよ。
■絞り優先AE(F1.7 1/1600秒) プラス0.7露出補正 ISO250

今回は機材の都合でフルサイズのZ 8と組み合わせで撮影を行ったが、残念ながら自動でDXクロップされてしまうのでどのくらいのイメージサークルをお持ちなのかを探ることはできなかった。

質感はお世辞にも高いとは言えないけれど、ビルドクオリティそのものは高い。のだけれど、見た目の品質感にももう少し拘って欲しいような…。だって、4万円って物理的には安くない金額だからね。もう少し、見た目や肌に触れる感触からも「ニコンクオリティ」を感じさせる工夫をして欲しいと思いますよ。

描写は、筆者の様に様々なメーカーの機種でテストをしている人間の眼からは際立った特徴があるとは感じられなかった。が、絞り開放時や至近側では僅かに柔らかくなるという、Zレンズとしては異色の味付けには正直に驚かされた。

口径食は少しだけありますが、サイズを考慮するとかなり頑張ってるのでは?? これまでDXフォーマットのZだと、こういう遊び方するのに工夫や資本が必要なところにイマイチ感というか、積極的に推したい気持ちが芽生えませんでした。
■絞り優先AE(F1.7 1/640秒) プラス1.3露出補正 ISO250

これまでのZレンズの特徴である「どんな条件でも絞り開放から周辺部までキリリと解像」を
本レンズにも期待してしまうと肩透かしを食うことになるシーンもありそうだ。とは言え、業界標準的には普通に良く写るレンズではあるし、撮影条件によってはとても気持ち良く写る。

個人的な意見を言えば、メリハリ感の強い画作りのピクチャーコントロール=オートやスタンダードであっても自然な印象の写真となるので、描写についてはむしろ好印象だった。
「絞りが利くレンズ」というほどではないが、絞れば絞ったなりに解像感が高まるし、何よりも気軽に持ち歩けるサイズ感と優しい描写が心地良い。接写性も高いので、スマホ感覚で近づくこともできるし、ボケを活かした写真が容易に楽しめるのもマルだ。

「カメラバッグへの負担」もほぼナシ。キットレンズにしてみない?

撮影距離は約30cmくらい。この辺りだと絵作りのコントラストの高さとレンズ描写の釣り合いがちょうど良くて「ちょっと良い描写」に感じました。特徴を掴めばかなり遊べそうな雰囲気。このレンズみたいに性能一辺倒じゃない方向性をニコンはもっと模索してほしいよね。
■絞り優先AE(F1.7 1/3200秒) プラス0.7露出補正 ISO250

本レンズの登場によって、キットズームやダブルズームキットに1本プラスすることで表現の幅をグッと広げることができそうだ。それに加えて、最新エンジンを搭載等によってAF性能が向上したAPS-CのZが登場すれば、Zの裾野は大きく広がりそうな予感を感じさせる。

軽くコンパクトで気軽に持ち歩ける明るいレンズというのは、撮影の行動半径を広げてくれるし重さやサイズによる疲労も少ないので、撮影そのもののハードルは低い。カメラは持ち歩いてこそ、だ。

またコンパクトな機材は撮影時に周囲に与える威圧感も軽減されるので、場の雰囲気を乱しにくい。総合的に肩肘張らずに楽しめる機材は写真を楽しくしてくれると考えている筆者にとって、こうしたレンズの登場は心から歓迎したい。