テレコンバーター内蔵だから600mmF4と840mmF5.6を瞬時に使い分けられる…って言われてもねぇ。あまりに話が異次元過ぎて、よくわからんのですよ。そもそも、お値段からして異次元だし…。でもね、世の中にはこのレンズを待ち望んでいた、大喜びのあまり仕事そっちのけで試写に明け暮れた、という方もいらっしゃるのです。

NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S 主な仕様

●焦点距離:600mm(内蔵テレコンバーター使用時840mm)
●最短撮影距離:430cm
●最大撮影倍率:0.14倍(内蔵テレコンバーター使用時0.2倍)
●レンズ構成:20群26枚(うち内蔵テレコンバーター4群7枚)
●最小絞り:F32(内蔵テレコンバーター使用時F45)
●絞り羽枚数:9枚
●フィルターサイズ:46mm(組み込み式)
●大きさ・重さ:φ約165×437mm・約3260g
●付属品:フード ケース ストラップ

半信半疑で純正2倍テレコンを増設も…問題ナシ!

晴れ予報の時より曇り予報の方が面白いシーンに出会えることもある。この日も曇り予報だったせいか僕の他に撮影者は見かけず、素敵なシーンを一人で楽しめた。
■絞りF5.6 1/500秒 ISO400 840mm

夢のようなレンズであることは間違いないでしょう。そもそも600mmF4が3.2kgなんてあり得ないです。しかも840mmF5.6でもあるわけですから。画質にしても悪いはずがないだろう、と撮影前から分かっていました。だって、ニコンですからね。

が、それらはすべてマスターレンズである600mm単体としての話。今どき、単体で撮ればどのレンズも好成績なのは当たり前ですから。というワケで内蔵テレコンを使いつつも、さらに純正2倍テレコンを装着。1680mmF11として撮影してみました!

まずは後付テレコンを含めた1680mmF11を、今回の使用ボディであるZ 9が何事もなかったかのように認識したことに拍手。これって、すごいことだと思いますよ。
今回、様々なシーンで1680㎜で撮影してみましたが、すべての条件がうまくいったときの画質は、これまでの超望遠のイメージを覆すものでした。

そこには、強力な「手ブレ補正」も大きく貢献していると思います。今回は「スポーツモード」固定で使いましたが、どんな時でも正確無比な動作で助けてくれました。手ブレ補正に関しては正直、ソニーよりも優れているという印象を受けました。

Z600mmに純正×2テレコンバーターを着けるもそれでもまだイメージ通りにならず、内蔵テレコンに指をかけた。1680mmという焦点距離が圧倒的な圧縮感を生み出し、トリミングするのとは違う世界を見ることができた。
■絞りF11 1/160秒 ISO400 1680mm

僕自身は普段キヤノンを使っています。でも、「手ブレ補正」に関しては他社製品を使う度に悔しい思いをしています。ただしこれは、メインで使っているのがEOS-1DxとEF600mm f/4 IS USM Ⅲということで、EFレンズでは現行ですが、ミラーレスではないこともあるかも。とはいえEOS Rシステムも友人が使っているので、よく触ってはいますが。

ともあれ、ニコンもソニーもレンズとボディの双方で通信しながらの補正が効くのに対し、キヤノンはレンズ単体のみでしか作動しない、という点は大きいと思います。
事実、今回使ったZ 9とZ600mmでは、「1秒流し(!)」でもほぼ完璧は仕事をしてくれましたから。こと超望遠に関しては群を抜いた存在だと思いました。

「超望遠レンズ新時代」の幕開けだ!

スポットインしてきてコクピットのパイロットに光が当たり始めるのを、じっと堪えて集中して狙い撃ち。強力な手ブレ補正のおかげで600ミリで1/15秒でも好結果を残してくれた。パイロットの表情まではっきり分かる。
■絞りF4 1/15秒 ISO5000 600mm

今どきの超望遠レンズということで、Z600㎜も重心を後方に配した作りになっています。前玉側が軽くなったということは振り出しが凄く軽快になったということで、素早く被写体を追わなければならないスポーツ撮影にはとくに有効です。

「メソアモルファスコート」という新コーティングを採用とのことですが、なぜかZ 400mmF2.8とも違うコーティングというのが面白いですね。難しいことは分かりませんが、こうした新しい技術とニコンが誇るスーパーEDレンズとの組み合わせで逆光時のゴースト、フレアをこれまで以上に低減し、1680mmというクレージーな焦点距離でも収差等を見事に抑え込んでいるのだと感じました。もちろん立体感も上手く表現できていますし、ボケもとても美しいです。

シルキースイフトボイスコイルモーター(SSVCM)とネーミングされているようですが、作動音はほぼないと言っていいくらい静かでした。スピードそのものは、初動は「爆速」というほどではなく、ガッというよりスーパッて感じ。もちろん十分に速いのですが、動きがシルキーということです(笑)

担当者さんにいつ借りますか? と聞かれて満月が絡む日を含めて機材を借りた。ただ、月と飛行機は数メートルの立ち位置の違いで絡んだら絡まなかったりする。この時はほぼ予定通りに月を掠めて行ってくれた。月と飛行機コラボは、何度撮ってもファインダー内でアドレナリンが大量放出する。
■絞りF11 1/640秒 ISO1000 1680mm

ということで、これで超望遠レンズで超音波モーターを使ってるのはキヤノンのみとなったわけです。さきにも触れましたが、キヤノンはこの部分ではニコンとソニーに遅れを取ってるとも感じました。

軽量化を追求するあまりのギリギリの剛性感??

冬の太陽は出始めが遅く高さも低い。そして羽田空港は海の上に浮かんだ空港ということで、その立地、季節、時間帯を活かして海面反射するお腹を狙った。
■絞りF11 1/1000秒 ISO250 1680mm

レンズ本体に必要最低限のボタンしか付いてないのも、誤作動防止という観点から良いと思いました。当然ながらカスタマイズできるし。
ただし、デフォルト状態でのピントリングの位置はちょっとよくないかと…。というのも三脚座の真上にあるので、いざマニュアルでという時に操作がやり難い!! まあ、カスタマイズでコントロールリングと入れ替えができるので、多少マシにはなるけど…。

残念ポイントとまでは言えないが、コレは仕方ないことなのだろうと感じたのは、脚座、フードロックがガッチリ!! とは止まらないこと。
想像するに、鏡筒等を必要最低限の強度が保てるところまで肉を削ぎ落として軽量したせいで、ガッチリロックさせてしまうと変形するからではないだろうかと推測しています。その辺りは普段使ってるキヤノンの超望遠レンズも同じ感じの作りなんで。

が、ニコンは更にロックが弱い感じで、流し撮りでガッチリ固定して力が入る使い方をしてると、レンズが斜めになってしまってる事がたびたびありました。そんな時には90°毎にクリックしてくれる仕様だったら助かるなぁと感じた次第です。まあ、言い方を変えれば、必要ない力は抜いて撮る習慣をつけるべきなの知れませんが(笑)

またニコンは今までの超望遠レンズ問わず最大F値を22までとしてたのに、この600mm含めて数本が最大f値が32となったところも実に気になるところ。
正直、ホイホイと買えるレンズではない。が、もしも購入した人は使ったその瞬間にその出資が間違いない選択だったとニヤニヤ笑い、ニコンという会社の真面目な物作りへの姿勢、技術者へのリスペクトを覚えるように感じました。

僕のカメラバックの中に納まった最強ドリームセット。超望遠レンズ好きな僕としては、こんなセット、返却したくなくなったのは言うまでもありません(笑)