写真の新たな媒体、SNS( ソーシャル・ネットワーク・サービス)この連載では写真家・中野幸英さんが、SNS から生まれた新たな文法= リテラシーを実際に投稿者と会って検証・共有していきます。今回はあやのさん(東京郊外出身)をご紹介いたします。この記事は月刊カメラマン誌に掲載されたものです。

あやのさんのSNSはこちらからどうぞ!

行っても行かなくてもいい

本人に会ってまずこの連載ページの上部に、何か肩書きをつけましょうかと聞くと、悩んだ後に「東京郊外出身」と自分の肩書きを付けた。現在は社会人になって2年目。

tokyomariegold さんこと「あやの」さんは、フォロワー数などでは取り立てて目立つ数をもっているというわけではない。SNS を表現媒体として使っている人だ。

会う前に資料として見た「どこかへ行ってもいいし、どこへ行かなくてもいい」という自費出版の写真集のタイトルは、最初どこか厭世的に見えた。

自撮りの多いページをめくったり、彼女のSNS を見ていると、自分を目立たせたい、インスタグラマーかアイドルを目指しているのかな?と最初は感じてしまう。だが数ページ眺めていると、段々に明確な作為を感じてきて、作品なのだと気づいていく。

あやのさんは大学時代からSNS を始めたが、最初は有名人などの投稿を見ることを楽しみにしていた。マイナーなモデルやアーティストなど、日々の投稿を見ていると、とても愛おしくなる感覚に気づいた。

生活に抗う

あやのさんはSNS で自撮りのシリーズを始めた。 最初は反応が怖かったそうだが、さみしさや息苦しさから、インターネットの中で生存していたい、という目的が彼女にはあった。

「見てもらえるという安心感」と「見てもらえないかもしれない不安」。そのSNS というフィルターを通して、閉塞感のある自分の生活が誰かのネタになる喜びがあるという。

最初はアイテムなどを持たないとうまくいかなかったというが、これはどこかコスプレや流行の地下アイドルとも通じる部分があるのかもしれない。始めてみると意外にも友人からの評価は高かったという。

「みんなどこか引っ込み思案な部分があると思うけれど、私はこれで救われた」という。
自撮りのスタイルは" 他愛あるユーモア" と本人が言うように、ウィットに富んだ描写や自身の姿によって、見る人に安心感のようなものを与えている。Instagram 中心で始め、今ではTwitter・Tumblr でも自撮りに徹するようになっていった。

写真のこれまでの範囲にはない、SNS 前提のシニカルな楽しみが彼女には明快に見えている。