写真の新たな媒体、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)。この連載では写真家・中野幸英さんが、SNSから生まれた新たな文法=リテラシーを実際に投稿者と会って検証・共有していきます。今回は工藤玲音さん(盛岡市在住)をご紹介します。この記事は月刊カメラマン誌に掲載されたものです。

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わたしを空腹にしないほうがいい 

今や写真は作品や趣味、報道だけに使われるものではない。いつも手元にあるスマホのカメラは、自然な日常を記録していくにはとても都合がいい。気軽に撮れるからこそ、日々の中では意識しなかった気候やディティールが、後になって違う意味をもっていく。

SNSやアーカイブへ膨大に貯められていく写真達はこの後どうなっていくのだろうかと、ぼんやり考えている時に「私を空腹にしないほうがいい」という本を読んだ。俳句のウェブマガジン「スピカ」に連載された、ある夏の手料理を題材にした本だ。

自費出版で発行されたものだが、SNSなどで広まった初版は完売し、この8月には文庫版が出版されるという。中には1日ごとの俳句と随筆、そして手料理の写真がモノクロのページに添えてある。

窓から受けた夏の照り返しが料理にあたっていて、ただの挿絵ではない小さなモノクロの写真が能弁に文章を盛り立てているようで楽しい。東北で別件の合間を縫い、著者の玲音さんに会うため初夏の岩手へ向かった。

そもそも俳句と写真は気候や場所と繋がっているものだし、 制約がある点で、どこか似ているような気がしていた。そこで文筆家である玲音さんが、写真や日常やSNSをどう捉えているかについて話を聴いてみたかった。

10代からの短歌とSNS

盛岡の中心部にある店を指定してもらい、中に入ると昭和の香りと個性的なメニューが並ぶ「喫茶店」の2階に赤いワンピースを着た玲音さんが先に到着していた。改めて会ってみると若い文筆家という印象を受ける。そこで「わたしを空腹にしないほうがいい」の中には自分の部屋がずっと写っているのに、本人の姿が写っていないことに思い当たった。

盛岡在住で、実家暮らし。現在は広告代理店に勤務している23歳。中学から俳句、高校から短歌を始め、17歳で岩手日報随筆賞を最年少で受賞。そんな高校のほぼ同じ時期にFC2のブログやモバイルスペースを始めていた彼女は、その後大学に入って短歌サークルで活動する傍らTwitterやTumblrなどSNSで広く同世代との新たな活動の場も作っていった。

写真は本格的にやっていたのか聴くと、謙遜してカメラはあまり詳しくない、と話してくれた。それでも「写ルンです」のROM焼きなどの経験があり、料理写真などでは「コントラストや明るさ以外はいじらず、フィルターなどは使わない」という制約を自分に課しているという。制約。本に出てくる料理写真では俯瞰の写真がほとんどなのも、きっとそんな制約のひとつなのだろう。