ニコン100周年を迎えるにあたって「DfⅡ」が発売されるのではないかと心待ちにしていたニコンファンも多いことと思われます。ホントに出るの? 本誌2014年4月号に掲載した「カメラグランプリ2014大賞受賞記念 ニコンDf 開発者インタビュー(前編)」に引き続き「後編」をWebカメラマンに掲載しました。ニコンをこよなく愛するアベっちこと阿部秀之氏だからこそ聞けたインタビューをいま一度読んで、Dfの素晴らしさを味わいましょう! ぜひご覧ください。

*前編=
http://cameraman.motormagazine.co.jp/_ct/17108512

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スケッチ<0> 2009年10月19日
スケッチを描いた三浦氏自身も忘れていた最初のスケッチ、ゼロ。Df の特徴になっているシャッター速度ダイヤルがない。どうしても発売にこぎつけたくて遠慮したからだそうだ。

いまだからニコンDfを買う!

www.nikon-image.com

ニコンDf 注目ポイント

●ゆとりのある画素ピッチや高い開口率をもたらす、FXフォーマットに1625万画素という組み合わせ
●静止画撮影に特化して高めた機能とシンプルな使いやすさ
●操る愉しさを実感できる直感的なダイヤル操作
●精緻なデザインと心地良い感触
●非AI方式のNIKKORレンズも使用可能

㈱ニコン フェロー 
映像カンパニー 
後藤研究室室長
後藤哲朗

㈱ニコン 
映像カンパニー
後藤研究室(兼)第一マーケティング部
三浦康晶

インタビュアー:
阿部秀之

▲インタビューにうかがった西大井にあるニコンウエストビルのロビーには、Df の特設コーナーが設けられている。時間をかけてじっくり見ている人も多い。

数々の強敵が居並ぶ中、カメラグランプリ2014の大賞を受賞したのが、これまでのスペック重視のデジイチとはまったく違う発想から生まれたニコンDf。その開発の真実に、自らもDfのオーナーになったアベッちが迫る! コンセプトや開発経緯などを聞いた「前編」に引き続き、「後編」では開発者があきらめたところやDfの今後、アベっちの要望などを掲載する。

「マグネシウムじゃなくて真鍮でやりたかった」(三浦)

三浦康晶
㈱ニコン 
映像カンパニー 
後藤研究室
(兼)第一マーケティング部

▲「底蓋だけでも真鍮にしたかった。悩んだ末にあきらめたが、最後まで“やるんなら頑張りますよ”と言ってくれた仙台の仲間たちの気持ちが嬉しい」(三浦談)

あきらめたけど嬉しかった、真鍮カバー

【アベ】もう何度もお二人には話を聞いているんですけど、前に「マグネシウムじゃなくて真鍮を使いたかったね」、と。
【三浦】やっぱり我々も真鍮でやりたかった。使い込んだときに真鍮の色がチラッと出てくるのが素晴らしいですから。発表会では「あっさり諦めた」みたいなことを申したのですけれど、実はけっこうしつこく、裏で細々と考えていました。
【アベ】造作が複雑な上カバーは無理でも下カバーは真鍮だったらワクワクしますね。
【三浦】もし真鍮でやるとしたらと、仙台ニコンの生産技術部門と話はしていました。難しくても大変でも責任上やらなくちゃいけないと思っていた仙台の技術者がずいぶん
おりまして…私はいろいろな制約によってあきらめたのですが、あとから話を聞いてみると「あれ? 本当にやらないんですか?」という声がありました。コストだとかいろいろ大変な面はあるのですけれど、言われたらやろうと仙台ニコンは思っていたようですよ。
【アベ】苦渋の決断でしたね。
【三浦】あの辺がやっぱりまじめというか…仙台ニコンの気持ちは嬉しかったです。

「Dfに合う外観のレンズを作って欲しい」(アベっち)

Dfの今後

【アベ】さてDf の成功で今、後藤研究室の立ち位置がいい。このあとDfがどうなるか?
【後藤】自分たちの意見だけではなくその後のお客様の反応を集め、いつスタートしてもいいような仕込みの準備はあります。実はG研で検討していたニコンDNAを継承する機材として元々いろいろなジャンルのものを描いておりました。その中から唯一日の目を見たのがこのDfなのです。
【アベ】後藤研究室で、Df 以外にもこういうカメラがいいんじゃないかというのが何種類かあるんですね?
【後藤】一眼レフだけではなく、コンパクトカメラでも、ミラーレスでもレンズにもあります。一品モノの決め打ちではなく、シリーズ化してこそ価値があるものなど、いいものもあるのですけれどね…。
【アベ】すぐマイナーチェンジをすることもなく、このままなんか違うバージョンのカメラで「Dfを持ってる人がもう1台買おうかな」「下取りじゃなく、こっちも欲しい」と思えるカメラが望ましいですね。
【後藤】おっしゃるとおりです。すぐにチェンジはしませんが、小改造、中改造、フルモデルチェンジなど…たぶん考えておられることには私たちが考えていることと同じものがあると思いますね。
【アベ】個人的な希望ですが、後藤研究室、後藤さんも三浦さんも含めた「ベテランの人たちはやっぱりすごいんだな」とニコンの若い設計屋さんにもっと感じて欲しい。「オレたちは新しいことをやりたい」ばかりじゃなくて「やっぱり先人はすごいな」と、見習ってもらいたい。それがニコンのDNA なので。「おじいちゃんの話聞いてみようか」みたいな(笑)。
【後藤】そうですよ、誌面に書いて欲しいなあ『老人力』(笑)…後藤研究室の業務分掌=ニコンのDNAの維持、向上ということが、ただのホラ吹きじゃない、言っていることもある意味正しい時もあるだろうと気付いてくれたかな。ああ、もうこれで会社辞めてもいいや(笑)。
【アベ】いや、辞めちゃダメですよ。やって欲しいことは目の前にあります。キットの50㎜ F1.8はDfに合うように外観をちょっとデザインしてくれたんだけど、たとえば85㎜ F1.8、28㎜ F1.8、35㎜F1.8とか、その辺の玉もこんなデザインのやつがあってもいいと思っています。
【後藤】そうですね。最低3 本は必要だと、実際にそういう声は本当に大きいですよ。ただそのシルバーのリングを入れるだけも、けっこうな苦労だったのですからあと2本も…。
【アベ】レンズ座談会をやると、58㎜もこの外観でこの値段かっていうのは必ず言われますね。レンズはやっぱりグランプリ獲った記念、外観デザイン変更3本セットみたいなのが欲しいですよね。
【後藤】限定版だったら尚更そういう話もあるのでしょうが、今の市場とこのご時世ではそう簡単には…でも、常にいろいろと研究して提案し、実現したいと思っています。
【アベ】大いに期待しています!

取材を終えて
優れた製品はデスクの上で生まれない。心の中で生まれるのだ!

ニコンDfはどこから見てもニコンらしさに溢れている。おでこに他メーカーのロゴを貼っても絶対に似合わない自信がある。ニコンにしか作れない、ニコンのDNAに溢れたカメラだ。唯一無二の存在だからこそ多くの人が熱狂し、その熱は少しも冷めていない。しかし、一方で危険もある。ニコンのDNAや習慣にこだわり過ぎれば、古くさい製品になりかねない。過去の財産にすがるような製品は、一部のマニアにしか歓迎されない。
Dfの上手さはこの綱渡りをやってのけ、ベテランはもちろん新規ユーザーまで獲得したことにある。実現できたのは、Df の開発に携わった人たちが、写真を撮る気持ちを心底わかっていたからに違いない。優れた製品はデスクの上で生まれるのではない。心の中で生まれるのだ。(アベっち)

撮影・解説:阿部秀之

本誌に撮影術を30年以上連載する、お馴染み「アベっち」。“撮って書いてしゃべって歌える”写真家。87 年からカメラグランプリ選考委員を務めている。

*本記事は月刊カメラマン2014年7月号に掲載された「カメラグランプリ2014大賞受賞記念 ニコンDf開発者インタビュー」を加筆修正して転載したもので、開発者の所属や建物の名称などは当時のままです。