シグマが「Artライン」で積み重ねてきた明るさへの挑戦は、この“85mm F1.2 DG | Art”で、またひとつの答えを出してきたようだ。“85mm F1.4 DG DN | Art”の発売から約6年。ここにきて「開放F1.2」という数字を、無理なく持ち出せる一本に仕上げてきたのである。

大門美奈氏プロフィール
横浜出身、茅ヶ崎在住。作家活動のほかアパレルブランド等とのコラボレーション、カメラメーカー・ショップ主催の講座・イベント等の講師、雑誌・WEBマガジンなどへの寄稿等、精力的に活動。個展・グループ展多数開催。

撮影共通データ
■ライカ SL3-S WB:オート

シグマ 85mm F1.2 DG | Art 主な仕様

画像: シグマ 85mm F1.2 DG | Art 主な仕様

●焦点距離:85mm
●最短撮影距離:0.84m
●最大撮影倍率:1:8.9
●レンズ構成:12群17枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数:13枚
●フィルターサイズ:82mm
●大きさ・重さ:φ87.2×119.7mm・905g(ライカX)
●付属品:フード・ポーチ

開放でしか勝負できないレンズ?…先入観をアップデートをしましょう!

クラス最小・最軽量

画像1: クラス最小・最軽量
画像2: クラス最小・最軽量

フルサイズミラーレス用AF対応85mm F1.2として、質量905g(Lマウント、Eマウントともに)を実現。最大径φ87.2mm×長さ119.7mmというサイズに、この明るさを実現したこと自体が驚きである。これまでのように「今日はF1.2の世界を撮るぞ」と気負わずとも持ち出せる重量に収まっているのだ。

圧倒的な描写力とボケ味

画像: 橋脚が連続する水辺の風景を、手前の自転車の人物をぼかしつつ撮影。奥行きのある構図でも画面の隅々までシャープに解像している。中央奥に小さく写り込んだ船頭が棹を漕ぐ姿まで、輪郭が際立っているのには驚かされた。 ■絞りF1.2 1/800秒 ISO100

橋脚が連続する水辺の風景を、手前の自転車の人物をぼかしつつ撮影。奥行きのある構図でも画面の隅々までシャープに解像している。中央奥に小さく写り込んだ船頭が棹を漕ぐ姿まで、輪郭が際立っているのには驚かされた。
■絞りF1.2 1/800秒 ISO100

12群17枚のレンズ構成に、SLDガラス2枚と非球面レンズ3枚を投入。大口径特有の軸上色収差に加え、サジタルコマフレア(画面周辺で点光源が尾を引くように滲む現象)も補正されており、開放から解像力に妥協なし。13枚の円形絞りが生むボケは柔らかく、色づきや二線ボケもみられない。

デュアルHLAによる高速・静粛なAF

画像: 高架下、逆光気味の路地を歩く人影を開放F1.2で。手前のポールを表情の目隠しとして使いながら、奥の女性のシルエットが浮き出るようだ。軸上色収差の補正がしっかり効いているのか、逆光でも輪郭ににじみが出ない。層を重ねるように前景・被写体・背景を分離できるのは、この明るさならではの芸当ではないか。 ■絞りF1.2 1/1000秒 ISO100

高架下、逆光気味の路地を歩く人影を開放F1.2で。手前のポールを表情の目隠しとして使いながら、奥の女性のシルエットが浮き出るようだ。軸上色収差の補正がしっかり効いているのか、逆光でも輪郭ににじみが出ない。層を重ねるように前景・被写体・背景を分離できるのは、この明るさならではの芸当ではないか。
■絞りF1.2 1/1000秒 ISO100

リニアモーター「デュアルHLA」の搭載により、F1.2という極薄の被写界深度でも合焦の迷いが非常に少ない。任意の機能を割り当てられるAFLボタンを2箇所に備え、瞬発力のあるAFが確保されていると感じた。

動画撮影への配慮と高い堅牢性

画像: 高速道路を走るトラックがビルの合間から出てくるタイミングを狙った。夕陽を浴びた荷台が金色に反射し、階調も破綻していない。逆光耐性を意識した設計だけあって、強い西陽の光をそのまま受け止めてもフレアが出ることなく、かつ手前の木の葉のボケも硬さがない。画面全体があたたかな温度で包まれているようで、個人的に好きな写真。 ■絞りF1.2 1/400秒 ISO100

高速道路を走るトラックがビルの合間から出てくるタイミングを狙った。夕陽を浴びた荷台が金色に反射し、階調も破綻していない。逆光耐性を意識した設計だけあって、強い西陽の光をそのまま受け止めてもフレアが出ることなく、かつ手前の木の葉のボケも硬さがない。画面全体があたたかな温度で包まれているようで、個人的に好きな写真。
■絞りF1.2 1/400秒 ISO100

画像: 横断歩道を行き交う人々を、F11・0.4秒で切り取った一枚(RAW現像にて露出調整あり)。最小絞りF16まで持つレンズだが、そこまで絞らなくても白線のエッジは滲まず、動きのある人物とアスファルトの質感が同居している。F1.2のイメージが強いレンズだが、絞ったときの素性の良さもまた侮れない。

横断歩道を行き交う人々を、F11・0.4秒で切り取った一枚(RAW現像にて露出調整あり)。最小絞りF16まで持つレンズだが、そこまで絞らなくても白線のエッジは滲まず、動きのある人物とアスファルトの質感が同居している。F1.2のイメージが強いレンズだが、絞ったときの素性の良さもまた侮れない。

フォーカスブリージングを抑えた光学設計、絞りリングのクリックオン・オフを切り替えられるデクリックスイッチ、そして防塵防滴構造。アルミニウム並みの熱収縮率を持つTSC素材を要所に採用することで、Artラインらしい剛性感と携行性を両立している。今回は静止画のみでの検証となったが、動画にも配慮された設計を見る限り、撮る対象を選ばない懐の深さが備わっているのは間違いなさそう。

F1.2 Artシリーズはこれにて完結?

画像: 夜のスナップこそ、このレンズの本領発揮である。車内でナビ画面の光に照らされる横顔を、ISO3200まで感度を上げて撮影。暗部のノイズは目立たず、青白い光の色味も自然に再現されている。デュアルHLAの追従性のおかげか、薄暗い車内でもピントの迷いを感じさせなかった。F1.2の明るさと高感度耐性が組み合わさることで、光量の乏しい状況でも被写体の質感を諦めずに済む。 ■絞りF1.2 1/60秒 ISO3200

夜のスナップこそ、このレンズの本領発揮である。車内でナビ画面の光に照らされる横顔を、ISO3200まで感度を上げて撮影。暗部のノイズは目立たず、青白い光の色味も自然に再現されている。デュアルHLAの追従性のおかげか、薄暗い車内でもピントの迷いを感じさせなかった。F1.2の明るさと高感度耐性が組み合わさることで、光量の乏しい状況でも被写体の質感を諦めずに済む。
■絞りF1.2 1/60秒 ISO3200

画像: 夜の街角、信号待ちをする人の群れの中から、長い金髪の後ろ姿を一枚。街あかりを受けた髪の艶が一本一本ほどけるように描写され、ハイライトも白トビせず、しっとりと粘っている。背景に並ぶ光は大きくやわらかなボケとなって溶け、人混みの中でも彼女だけが静かに浮かび上がる。ISO125のまま1/60秒で切れるのも、F1.2の明るさがあってこそだ。 ■絞りF1.2 1/60秒 ISO125

夜の街角、信号待ちをする人の群れの中から、長い金髪の後ろ姿を一枚。街あかりを受けた髪の艶が一本一本ほどけるように描写され、ハイライトも白トビせず、しっとりと粘っている。背景に並ぶ光は大きくやわらかなボケとなって溶け、人混みの中でも彼女だけが静かに浮かび上がる。ISO125のまま1/60秒で切れるのも、F1.2の明るさがあってこそだ。
■絞りF1.2 1/60秒 ISO125

今回、スナップに持ち出してみて改めて感じたのは、このレンズが「開放でしか勝負できない一本」ではないということだ。F1.2で生まれる3Dのような立体感も、F5やF11などの手堅い絞り値でも、しっかり応えてくれた。

この“85mm F1.2 DG | Art”の登場によって、“35mm F1.2 DG Ⅱ | Art”、さらに“50mm F1.2 DG DN | Art” と、シグマの「F1.2 Artシリーズ」がついにフルラインアップを揃えたようだ。圧倒的なスペックを持ちながら、それを振りかざさない懐の深さ…。大口径単焦点レンズの新しい姿として、日常からここぞという場面まで、頼れる一本となるだろう。

画像: 撮影からの明くる朝、食卓の一枚をF5に絞って撮影。最短撮影距離84cmと、決して寄れるレンズではないものの、この距離感でも焼き魚の皮目の焦げ目や繊維からにじんだ脂までしっかり解像しており、実直な描写力の一端がうかがえる。 ■絞りF5 1/60秒 ISO1000

撮影からの明くる朝、食卓の一枚をF5に絞って撮影。最短撮影距離84cmと、決して寄れるレンズではないものの、この距離感でも焼き魚の皮目の焦げ目や繊維からにじんだ脂までしっかり解像しており、実直な描写力の一端がうかがえる。
■絞りF5 1/60秒 ISO1000

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