(※価格と記事は2024年7月時点でのものです)
できるだけユーザーの実際の使用に近い条件として、 カメラボディで利用できるレンズ補正などは全てONにしている。補正が働けば各レンズは性能向上したかのように写りの差は少なくなるが、現在のレンズは補正を前提としているものも多く、実際はほとんどの方がONで使用しているはず。これはレンズ単体での比較があまり意味を持たなくなってきているとも言える。それでもメーカーによりその補正内容は異なるであろうから、実際に使ってみれば違いが出るかもしれない。そのあたりも含めての評価をしてみた。その他にも、露出、ホワイトバランスはマニュアル(5200K)でブレ幅をなくし、ソニー機ではメカニカルシャッターを使用。他の要素に起因する差はなるべく出ないように撮影している。(諏訪)
■諏訪光二氏プロフィール
1968年、東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科在学中にアンセル・アダムスのオリジナルプリントに感銘を受け、ゾーンシステムを用いたオリジナルプリント制作に目覚めた。3年半で大学を中途退学し、フリーランスの写真家に。日本では早期にデジタルフォトを取り入れた数少ない写真家の一人。現在は広告撮影、写真専門誌等での原稿執筆、写真講座講師などを手がけながら、主に自然を作品モチーフとした作品を制作。
NIKKOR Z 28-75㎜ f/2.8とタムロン28-75㎜ F/2.8 Di Ⅲ VXD G2(Model A063・ニコンZマウント)
ニコンZマウント~純正 vs タムロン標準ズーム対決!
タムロンが2021年にソニーEマウント用に28-75㎜を発売し、そのコンパクトさと写りのバランスで高評価を得ていたが、2022年にニコンが純正レンズに同じ28-75㎜をラインナップ。スペックを見るに、「ほぼ同じ」と思えるものだったが、2024年、タムロンが世代を進めてG2として発売した。
ある意味、新旧比較のような様相を呈しているが、同一レンジでの比較をしてみよう。なお撮影にはニコンZ8を使用し、本テストも全てのレンズ補正をONにして撮影している。

NIKKOR Z 28-75㎜ f/2.8
■発売:2022年1月28日 税込価格(実勢):12万2800円 ※価格は記事執筆当時のもの
NIKKOR Z 28-75㎜ f/2.8
- レンズ構成:12群15枚
- 絞り羽根枚数:9枚(円形絞り)
- 最小絞り:F22
- 最短撮影距離:0.19-0.39m
- 最大撮影倍率:0.34倍(28㎜時)
- フィルター径:Φ67㎜
- 最大径×長さ:Φ約75×120.5㎜
- 重さ:約565g

タムロン28-75㎜ F/2.8 Di Ⅲ VXD G2(Model A063・ニコンZマウント)
■発売:2024年4月18日 税込価格(実勢):12万5400円 ※価格は記事執筆当時のもの
タムロン28-75㎜ F/2.8 Di Ⅲ VXD G2(Model A063・ニコンZマウント)
- レンズ構成:15群17枚
- 絞り羽根枚数:9枚(円形絞り)
- 最小絞り:F22
- 最短撮影距離:0.18-0.38m
- 最大撮影倍率:0.37-0.24倍
- フィルター径:Φ67㎜
- 最大径×長さ:Φ75.8×119.8㎜
- 重さ:550g
- 付属品:花形フード
Case 1:テレ端75mm 近距離ポートレート

■共通撮影データ:ニコンZ8 ISO100 WB:5200K
■Model:沙倉しずか RQやコンパニオン、そして 『CAPA』にひょっこり顔を出す流しのモデル。CMRも久しぶりの登場です。愛機・α7R Vに200-600mmを着けて、モータースポーツやトや野鳥も撮るカメラ女子。 #しずカメラ @
絞りは開放。全体像を一見したところでは“ほとんど同じ?”と思いがちだが、それは肌の再現、調子が似ているためだ。細かいところではいろいろと差が出ている。まずどちらもシャープネスは高くなっているが、ニコンの方が全体に霞がかかったような描写なのに対して、タムロンはそれ以上にクリア。結果、タムロンの方がよりシャープネスが高く見える。ピクセル等倍で見ればどちらで撮ったものかすぐに区別ができるほどだ。
顔肌の再現も、ニコンはその霞んだような解像の低さで、ある意味で美肌効果がかかったようになっているが、タムロンは(モデルさんには可哀相だが)毛穴や産毛までしっかり描写している。

また違いはシャープネスだけではない。ボケも大きく違う。タムロンの方がより大きくボケているだけでなく、ボケ方もよりキレイでナチュラル。絞り設定を間違えてしまったか!?と勘違いしたほどだ。
このシーンで言えば奥に続くレンガがボケているが、ニコンの方が線が目立つボケ方をしている。そしてコントラストもタムロンの方が高く、自然な階調。色の乗りもタムロンの方がより強く、赤みが強く出ている。これらのいずれもモニターでチェックすれば、すぐにどっちがどのレンズか判別できるほどのあからさまな差だ。このケース。しっかりタムロンの勝ちだ。
Case 2:テレ端75㎜ 口径食

テレ端開放絞りでのボケと口径食のチェック。出方としては同じレンズと言われても気づかないほど酷似している。
が、ややニコンの方がボケも大きく、口径食の影響も軽減されているように見受けられる。とはいえ、それほどの差はない。そしてどちらもこのボケに年輪のような輪郭が描かれている。このケースに関しては互角といっていいだろう。
Case 3:ワイド端75㎜ 中距離ポートレート

絞りは開放。このケースも酷似した描写だが、細部を見るとしっかりと差が出ている。ただこのシーンに限ってはズームリング端にセットしているがニコンのみわずかに画角が狭くなっている。とはいえ、ほぼ同レベルのため比較には大きな影響はない。
ピント位置のシャープネスを見ると、わずかにタムロンのシャープネスが高いが、Case1ほどの差にはなっていない。これは背景のボケも同様で、極端な差にはなっていない。ただ、ピント位置に近い部分のシャープネスはタムロンの方が上。モデルの着ている白いニット素材の繊維はタムロンの方がしっかりシャープに描写しており、そこを見比べればすぐに見分けが付く。ニコンは肩や輪郭にフリンジが出かかっているが、タムロンにはそれがない。

周辺画質では明らかな差が。四隅を見るとニコンは像がしっかり甘くなり、わずかに流れたような描写も見られ、クローバーの葉がぼやけている。タムロンは甘くはなるが、葉のエッジが分かりシャープネスを保っている。コントラストもわずかにタムロンの方が高く、階調全体を丁寧に再現している。このケースもタムロンの勝ちだ。
Case 4:ワイド端28㎜ 逆光

画面上部に太陽が写り込む強逆光。絞り開放で 同一EVカットでの比較だ。見てすぐにタムロンの方が服が明るく霞んでいることが分かる。どちらにもモデルの膝あたりにゴーストが発生しているが、その出方はやや異なる。タムロンは大きく弧を描くような光彩。ニコンは同様の弧状の光彩が弱く発生しているのと同時に、より小さな円形のゴーストと点状のゴーストが複合的に発生している。この出方はレンズ構成の違いが大きな要因と思われる。

ただ、そのときに人物側に与える影響が異なっている。タムロンは光彩は強くはないが光が全体にも回って全体のコントラストを低下させている。対してニコンはゴーストは強く出ているが人物への影響はわずかで、コントラストの低下は起こしているが度合いとしては少なめだ。

ではタムロンのシャープネスは?というと、これはしっかり解像している。ニコンは輪郭にフリンジがわずかに見え始めているのに対して、タムロンには見られないなど、その他の部分はタムロンが勝っている。この傾向がどんなシーンでも必ず同じとは限らないが、あくまでも今回のテスト中は同様の結果となることが多く、トータルでは互角の結果と言える。
Case 5:ワイド端・テレ端 遠景
絞りF8で撮影。評価は未掲載の分を含め、中央と周辺と複数撮影した。


■共通撮影データ:ニコンZ8 絞りF8 ISO100 WB:5200K
まずはワイド端。画面中央はわずかにタムロンの方がシャープネスは高い。周波数が高くない部分は差が少ないが、屋上アンテナなど周波数の高い部分はしっかり差が分かる。それが周辺となるともっと大きな差になる。
タムロンは周辺部でもかなりシャープにエッジを描写するが、ニコンはふんわりとユルくなり周波数の高い部分は溶けるような描写となるところも。それは四隅の方へ行くほど顕著となり甘さを見せるが、タムロンは本当に一番端のケーブルもちゃんと解像している。


テレ端比較での中央はほぼ互角。わずかにタムロンのエッジがしっかり。周辺部を見ると、ワイド端ほどの差はなくニコンも健闘。周波数の高い部分はわずかにニコンの方が高い。ただ、それも中央上下の端で、四隅に行くに従ってニコンは甘さを見せる。
本当の四隅のみを比較するとしっかりとタムロンが画質を保っているのが分かる。タムロンも甘さはあり、高額なレンズほどの高い解像は期待できないが、この二本で比べれば明らかな差がある。このケースもしっかりタムロンの勝ちだろう。
純正との価格差もほとんどなく、新しい分だけタムロンがリード
スペースの関係でここでは紹介できなかった最短撮影距離のチェックを含めて、一通りのテストを終えたが、結果は新しい分、タムロンが一歩リードといったところ。ニコン純正の発売が2年前であることを考えると当たり前かもしれないが、純正と極端に異なるとまでは言いにくい差なので、今純正を持っている人がタムロンに買い替えるほどではないだろう。
ただし、これから購入するなら価格差もほとんどないため(タムロンの方がわずかに安い)タムロンがオススメと言えるだろう。この勝負、差は大きくはないがタムロンの勝ち、だ。やはり新しいものが有利という順当な結果となった。
(Photo&Text:諏訪光二)

本記事は「カメラマン リターンズ#11」の記事を転載したものです。興味のある方は、本誌もぜひチェックしてみてください!↓