(※価格と記事は2024年7月時点でのものです)
できるだけユーザーの実際の利用に近い条件として、 カメラボディで利用できるレンズ補正などは全てONにしている。補正が働けば各レンズは性能向上したかのように写りの差は少なくなるが、現在のレンズは補正を前提としているものも多く、実際の利用ではほとんどの方がONで使用しているはず。これはレンズ単体での比較があまり意味を持たなくなってきているとも言える。それでもメーカーによりその補正内容は異なるであろうから、実際に使ってみれば違いが出るかもしれない。そのあたりも含めての評価をしてみた。その他にも、露出、ホワイトバランスはマニュアル(5200K)でブレ幅をなくし、ソニー機ではメカニカルシャッターを使用。他の要素に起因する差はなるべく出ないように撮影している。(諏訪)
■諏訪光二氏プロフィール
1968年、東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科在学中にアンセル・アダムスのオリジナルプリントに感銘を受け、ゾーンシステムを用いたオリジナルプリント制作に目覚めた。3年半で大学を中途退学し、フリーランスの写真家に。日本では早期にデジタルフォトを取り入れた数少ない写真家の一人。現在は広告撮影、写真専門誌等での原稿執筆、写真講座講師などを手がけながら、主に自然を作品モチーフとした作品を制作。
ソニーFE70-200㎜ F2.8 GM Ⅱとシグマ70-200㎜ F2.8|Sports
ソニーEマウント~純正 vs シグマ望遠ズーム対決!
ミラーレス機用のDG DNシリーズを展開してきたシグマが大三元の1つ、70-200㎜をなかなか発売してこなかったが、満を持して2023年12月に発売。かたやソニー純正FE70-200㎜ F2.8 GM OSS Ⅱは21年11月の発売で約2年の開きがあるとはいえ、画質には定評があり今なお人気のレンズ。
シグマはSportsラインとしてのラインナップながら、価格は純正よりも10万円以上安い…。果たして画質の違いがどこまであるのか!? 確認してみよう。

ソニーFE70-200㎜ F2.8 GM Ⅱ
■発売:2021年11月26日 税込価格(実勢):36万3000円 ※価格は記事執筆当時のもの
ソニーFE70-200㎜ F2.8 GM Ⅱ
- レンズ構成:14群17枚
- 絞り羽根枚数:11枚(円形絞り)
- 最小絞り:F22
- 最短撮影距離:0.4-0.82m
- 最大撮影倍率:0.3倍
- フィルター径:Φ77㎜
- 最大径×長さ:Φ88×200㎜
- 重さ:1045g(三脚座別)
- 付属品:フード・ケース・三脚座

シグマ70-200㎜ F2.8|Sports
■発売:2023年12月7日 税込価格(実勢):24万2000円 ※価格は記事執筆当時のもの
シグマ70-200㎜ F2.8|Sports
- レンズ構成:15群20枚
- 絞り羽根枚数:11枚(円形絞り)
- 最小絞り:F22
- 最短撮影距離:0.65-100m
- 最大撮影倍率:0.19倍(200㎜時)
- フィルター径:Φ77㎜
- 最大径×長さ:Φ90.6×207.0㎜
- 重さ:1335g
- 付属品:フード・ケース・三脚座
Case 1:テレ端200㎜ 近距離ポートレート

■共通撮影データ:ソニーα7R V 絞り開放 ISO100 WB:5200K
■Model:沙倉しずか RQやコンパニオン、そして 『CAPA』にひょっこり顔を出す流しのモデル。CMRも久しぶりの登場です。愛機・α7R Vに200-600mmを着けて、モータースポーツやトや野鳥も撮るカメラ女子。 #しずカメラ @
絞りは開放。実画角の違いと固定軸の問題から完全同一位置ではないが、それ以外の部分で見ていこう。まず一見してどちらもお見事!の描写。とてもクリアでヌケがよく、透明感のある描写だ。画角はソニーの方が狭く、より大きく写っているのが分かる。歪曲収差補正の影響か!?とも思われたが、ソニーは軽い糸巻き型を膨らませているだけで全体の画角にはほぼ差がないため、レンズによるリアルな画角の違いだ。
どちらもとろけるような美しい背景のボケだ。ボケ方は酷似しているが、玉ボケの輪郭には差がある。シグマの方が輪郭が鋭いが、二線ボケのようにガサつくことはない。むしろソニーの方が輪郭がダブるようなところもあり、場所によっては気になる。

ピント位置の画質は、シャープネスで勝るのはシグマ。これは見事だ。ただし、これはカメラの影響が大きいが輪郭強調とJPEGの圧縮ノイズが微妙に見え、試した個体同士では相性が今ひとつ。これが今回使用した個体の影響なのかは分からない。
ちなみにカメラはJPEGで最高画質になるように設定している。これはソニー純正でも見られるものなのだが、ソニーはシャープネスがシグマほどではないため気になりにくい。レンズが高画質であるがゆえの問題。これはもうRAWで撮るしかないだろう。
色に関してだが、標準ズームでは結構な色の差があったが70-200㎜に関してはソニーも青みが抑えられている。ただ階調を丁寧に記録できているのはシグマの方。芝の照り返しと頬の赤みのグラデーションなど、細かいところでゾクッとする階調を見せている。肌全体の再現もシグマの方が良い。
このケース、カメラ要因の部分は排除してレンズ性能を比較すると、シグマの勝ち。もちろんどちらも「すごく良い」クラスでの細かな優劣だ。
Case 2:口径食

■共通撮影データ:ソニーα7R Ⅴ 絞り開放 ISO100 WB:5200K
テレ端200㎜、開放絞りでの玉ボケの形をチェック。ピント位置はどちらも同じ。口径食の出る傾向としてはどちらも同じだ。
ただちょっと表情が異なるのは、周辺と中央の間。シグマの方が口径食はわずかに少なく、丸みを見せている。が、中央に近い部分ではソニーの方が丸みを見せている。いずれもごくごくわずかな差だ。小さく表示してしまうと、ほとんど差のない画像に見えてしまうはずだ。このケースは引き分けだ。
Case 3:テレ端・ワイド端 遠景

■共通撮影データ:ソニーα7R Ⅴ 絞りF5.6 ISO100 WB:5200K
テレ端中央を見ると、どちらもシャープではあるがソニーの輪郭はやはり少し嘘くさい。レンズ補正が仇になっている。シグマはナチュラルなエッジで、なおかつソニーよりもシャープだ。またソニーは中央付近であっても色収差がわずかに見られる。

では周辺は?というと、やはりシグマがしっかりシャープ。周辺はソニーの補正も追いついていない。シグマはナチュラルなシャープネスで中央よりは低下しているが、かなりのレベルを周辺部まで保っている。Case2で見られたような不安要素はない。

ワイド端70㎜側で見てみると、中央の輪郭がハッキリしているのはソニー。ただし、補正処理が強くかかっておりエッジが太く荒れている。シグマはややシャープネスが弱く見えるが自然なエッジ。周波数の高いところではソニーは被写体がシャープ処理で形が分かりにくくなっている部分もあるが、シグマはそれがない。後処理で整えるならシグマの方が素性の良いデータだ。周辺は明らかにソニーの方が甘い。シグマは隅までキッチリ解像している。

このケースはテレ・ワイドいずれもシグマの勝ちだ。
Case 4:最短撮影距離 テレ端 200㎜

■共通撮影データ:ソニーα7R Ⅴ 絞り開放 ISO100 WB:5200K
テレ端での最短撮影距離。絞りは開放だ。カメラ位置は完全固定だが、わずかに軸が変わって見える。これは倍率が異なってそう見えているだけだ。

倍率はスペック通りだがソニーの方が高く、より大きく写っている。その分、前後のボケもソニーの方が大きくボカすことができている。ピント位置の画質を見ると、どう見てもシグマがシャープ。ソニーは倍率では有利だが、シャープネスは甘くなっている。また、わずかに色収差が見られるが、度合いとしてはソニーの方が多めだ。
このケース、倍率命!ならソニーだが、画質を含めたバランスならシグマの勝ちだ。
Case 5:テレ端200㎜ 中距離ポートレート

■共通撮影データ:ソニーα7R Ⅴ 絞り開放 ISO100 WB:5200K
横位置全身が収まる中距離で。
Case1同様に画角の違いがあるが、シグマの方が画角は狭くなりより望遠になっている。そのため遠近感とボケ量にわずかな差がある。この距離ではどちらもわずかに後ピン傾向。度合いが強いのはソニーの方だ。
玉ボケの状態だが、この距離ではシグマには玉ボケに年輪のような線がいくつも見える場所があるのに対し、ソニーはわずか。輝度差のある部分にはどちらもフリンジなどは見られず、上記のボケの表情はレンズ構成によるものと思われる。

ピント位置でのシャープネスを見ると、シグマがリード。Case1よりも差がついている。逆に周辺はシグマがちょっと判別の難しい描写をしている。隅の角の部分でわずかに甘くなっている。ソニーの方は四隅すべてで安定している。
このケース、シャープネスではシグマが勝るが、トータルバランスでソニーの勝ち。
Case 6:テレ端200㎜ 逆光

■共通撮影データ:ソニーα7R Ⅴ 絞り開放 ISO100 WB:5200K
絞りは開放で同一EVカットでの比較。強引にレンズを上に向けての強逆光シーンだが、太陽は画面右上、葉にかからない位置に写り込んでいる。
顔の部分のアップを見ればハッキリ分かるが、AFはしっかり瞳に合わせてくれているものの、暗部の描写は大きな差に。かなりの強逆光なのでどちらにもフレアは見られ、シャドーが霞んではいる。

しかし、シグマは瞳や首筋の影などしっかりと黒さを見せている。対してソニーは暗部すべてが白っちゃけ、肌の色も正常には見えなくなっている。
そして輪郭部。ハッキリ見えるフリンジはどちらにもない。レンズ補正も適用しているので当然ともいえるが、手すりの輪郭にソニーには“もう少しで見える“といったレベルのものが確認できる。もちろんかなり細かく見ての話なので、それほど目くじら立てるほどではないが、補正ONなら完璧に補正して欲しいところ。このケース、しっかりシグマの勝ちだ。
コスパ的も画質もシグマが◎! ソニーは画処理がネックか!?
ここでも2年の発売時期の差で結構差が出た。もちろん両方ともかなり画質は高く、その高い位置での微妙な違いを採り上げているのであって、実写を見ても気づかない人もいるかも…といった差だ。とはいえ、シグマは純正よりも実売で12万円ほど安く買え、かなりコストパフォーマンスが良い。しかも造りが良く高級感すらあるのだ。画質を見ても、しっかりシグマが勝っていると言っていいだろう。
ソニーはレンズの性能を上げるのももちろんだが、それよりもレンズの素性が悪いのでは?と見せてしまう過剰な画像処理を直した方が良いのでは!?と思う。
(Photo&Text:諏訪光二)

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本記事は「カメラマン リターンズ#11」の記事を転載したものです。興味のある方は、本誌もぜひチェックしてみてください!↓