CP+2025 コシナブースで参考出品されていた「PORTRAIT HELIAR 75mm F1.8 E-mount」がこの5月に発売された。本レンズは、かつてフォクトレンダーにあったユニバーサル・ヘリアー(UNIVERSAL-HELIAR)という大判カメラ用のレンズが登場100周年を迎えたことから企画されたものだ。トピックはなんといっても、球面収差コントロール機構を装備していることだろう。

撮影共通データ:■ソニー α1Ⅱ 絞り優先AE WB:オート

コシナ Voigtlander PORTRAIT HELIAR 75mm F1.8(Eマウント) 主な仕様

画像: コシナ Voigtlander PORTRAIT HELIAR 75mm F1.8(Eマウント) 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算75㎜
●最短撮影距離:0.7m
●最大撮影倍率:1:7.4
●レンズ構成:3群6枚
●最小絞り:F11
●絞り羽枚数:9枚
●フィルターサイズ:62mm
●大きさ・重さ:φ70×88.0mm・560g
●付属品:-

収差バランスを「崩す」ためのコントロールリングを装備

画像: ●ヘリアークラシック75mmF1.8 ベースとなったレンズがこれ。残念ながら既に発売終了していますが、レンズ構成的にはヘリアークラシック50mmF1.5と似ているから、気になる人は50mmF1.5もチェックしてみてください。

●ヘリアークラシック75mmF1.8
ベースとなったレンズがこれ。残念ながら既に発売終了していますが、レンズ構成的にはヘリアークラシック50mmF1.5と似ているから、気になる人は50mmF1.5もチェックしてみてください。

コントロールリングに刻印されている目盛りはオーバー側に4ステップ、アンダー側に6ステップとなっていて、基準値以外にはクリックストップは無い。ちなみにオーバーとは「オーバーコレクション(補正過剰)」方向にレンズが動く。

具体的には2群が前玉(1群)方向に移動し、ピント変動を抑えるため同時に前玉も前方に逃げている。内部では1群と2群が接触寸前のところまで移動しており、その都合上、目盛りが4ステップまで、となっている。

アンダーは「アンダーコレクション(補正不足)」方向にレンズが動き、2群が後玉(3群)に方向に移動し、オーバーと同様に前玉も後退する。ピント合わせについては、全体繰り出しでフォーカスする。

基準位置は収差バランスが最適な場所となっているので、この位置で撮影すれば普通に良いレンズとして楽しめ、それ以外のポジションは意図的に収差バランスを崩し、その光学現象を楽しむポジションとなる。

このレンズの面白いところは、カメラのLVで収差の状況を観察することができる点。実際にLVで収差変動を確認できるのは楽しい。それをどう使うか? には頭を悩ませることになるが、光学現象を楽しむだけでも十分に価値があるだろう。

また、ソニーEマウント対応となっているので、レンズ情報や撮影データのExif記録やカメラボディ側の5軸手ブレ補正、MFアシストなどにも対応している。惜しむらくは、コントロールリングのポジションについても何かしらの方法でExifに記録出来ていたら…。

操作感は例によってコシナの平常運転。つまり、とても上質。なのだけれど、欲を言えばコントロールリングの操作トルクはもう少し重い方が個人的には撮影がし易いように感じられた。また迎え角によってはコントロールリングの重さに変動があることも少しだけ気になったが、それだけ大きなモノを動かしているのだと思うと微笑ましくもある。

「バブルボケ」から「ソフト」まで、ライブビューでボケの変化が確認できる!

画像: 左からアンダー目一杯、基準位置、オーバー目一杯となっています。ソフト感はもちろん、背景のボケ描写の変化が楽しい。

左からアンダー目一杯、基準位置、オーバー目一杯となっています。ソフト感はもちろん、背景のボケ描写の変化が楽しい。

球面収差のオーバーコレクションとかアンダーコレクションって何? については比較作例を見てもらった方が早いので、こちらを確認して欲しい。

画像: ポジションはオーバーの2。このくらいの範囲だと扱い易い感じ。撮影時にはパーマセルとかで固定したい感があります。結構動いちゃうし、いつの間にか動かれると「この写真はどのポジション?」ってなるからね。 ■絞りF2 1/3200秒 ISO100

ポジションはオーバーの2。このくらいの範囲だと扱い易い感じ。撮影時にはパーマセルとかで固定したい感があります。結構動いちゃうし、いつの間にか動かれると「この写真はどのポジション?」ってなるからね。
■絞りF2 1/3200秒 ISO100

オーバー側だとボケの輪郭が強く出た、いわゆる「バブルボケ」の状態となり、アンダー側では球面収差が強く出た「ソフトフォーカス」のような状態となる。
撮影距離と絞りによっても球面収差の出方は変化し、絞り込むほど収差は低減し描写は落ち着く方向となるので、開放からF2.8までの範囲が収差を楽しむのにはオススメとのこと。

画像: アンダーの2。モノクロだと良い感じの柔らかさ。レトロ感と言っても良いのかな? それにしてもモノクロは収差との相性が良いよね。色の滲みが与える印象効果ってかなり大きいのだ、という発見があります。ということは、カラーグレーディングと組み合わせると独自のトーンが出せるかもね。 ■絞りF1.8 1/80秒 マイナス1.7露出補正 ISO200

アンダーの2。モノクロだと良い感じの柔らかさ。レトロ感と言っても良いのかな? それにしてもモノクロは収差との相性が良いよね。色の滲みが与える印象効果ってかなり大きいのだ、という発見があります。ということは、カラーグレーディングと組み合わせると独自のトーンが出せるかもね。
■絞りF1.8 1/80秒 マイナス1.7露出補正 ISO200

また、モノクロでは収差によって滲んだ色がモノクロ化で目につかなくなるので、カラーよりもスッキリした感じで絵になるというか、観ていられる絵になりやすい。さらに絵作りとの組み合わせについてもできることが多いというか、ほぼ無限の可能性を秘めたレンズである。

ちなみにアンダー側に大きく調整すると、ピントが合って見える範囲に厚みが増す感じがありました。特性曲線で言う所の「ピントピークがなだらかに寝てくる」と言えばイメージしやすいかと思う。

ぶっちゃけ「絵」にするのは難しいです

画像: アンダーの1。このくらいだと隠し味くらいの存在感。ピント位置は結構シャープでしょ? この独特のヌケ感というかクリアな印象はレンズ構成枚数が少ないレンズならではのモノだと思います。 ■絞りF2.0 1/125秒 プラス1.0露出補正 ISO100

アンダーの1。このくらいだと隠し味くらいの存在感。ピント位置は結構シャープでしょ? この独特のヌケ感というかクリアな印象はレンズ構成枚数が少ないレンズならではのモノだと思います。
■絞りF2.0 1/125秒 プラス1.0露出補正 ISO100

実際に撮影してみると、楽しいと難しいが同じボリュームで襲い掛かってくるが、しばらくすると「難しい」が優勢になりました。

作例ということでレンズの特徴を見せつつソコソコ絵になる写真にする難易度が高いってのが、最大の理由。加えて、撮影時にパラメータを弄っているとワケが分からなくなってきます。
なので、この時間はこのポジションと絞り、みたいにスケジュールを組んで撮るのが、特徴を掴んでそれを管理する、という点ではやりやすいのかな?

画像: アンダーの4。撮影距離(近距離側)にも依りますが、大きく操作すると周囲がケラれたような感じに写る場合があります。記憶があやふやなんだけど、タンバールってこんな感じの描写だったような…。 ■絞りF2.0 1/6400秒 プラス0.7露出補正 ISO100

アンダーの4。撮影距離(近距離側)にも依りますが、大きく操作すると周囲がケラれたような感じに写る場合があります。記憶があやふやなんだけど、タンバールってこんな感じの描写だったような…。
■絞りF2.0 1/6400秒 プラス0.7露出補正 ISO100

しばらく右往左往していると、収差コントロールによってフリンジの出方もある程度変化するところが面白いと思ったので、規則的なパターンのエッジに生じた色付きをデザイン的に魅せてみるとどうだろう?ということで、ビルを撮ってみたり、背景のボケになる部分のカタチがどう見えると面白いか?みたいな部分に注目して撮ったりしていました。

散々悩んで楽しんだあとの結論としては、「基準位置スゴイ!」でした。実に扱い易いし、写りも良い感じ。設計者がオススメしたポジションなだけあります。

こう言っちゃうと元も子もないのだけど、調整は結局+1〜−1の範囲内が吉。撮影初日はアレコレ大きく調整して撮影し、最終的に「F2.0で−1.7くらいが良いぞ!」となりましたが、2日目以降は徐々に基準位置付近に収れんしていきました。

コシナさんが、またまた問題作を突き付けてくれましたー!

画像: オーバーの4、つまり最大値。3を超える調整では日向で撮るのは難しいです。というのが、光源ボケの主張がデカくなるから。いわゆるバブルボケって個人的にはピンと来ないのだけれども、こういう葉っぱみたいなパターンを背景に置いた時の表現は悪くないね。絵画っぽいというか。 ■絞りF2.2 1/400秒 マイナス1.3露出補正 ISO100

オーバーの4、つまり最大値。3を超える調整では日向で撮るのは難しいです。というのが、光源ボケの主張がデカくなるから。いわゆるバブルボケって個人的にはピンと来ないのだけれども、こういう葉っぱみたいなパターンを背景に置いた時の表現は悪くないね。絵画っぽいというか。
■絞りF2.2 1/400秒 マイナス1.3露出補正 ISO100

スパイスと同じで、やりすぎると素材よりも目立ってしまって何を食べているのか分からなくなる感じ。だけど、「調整できる」というだけでも価値があり、楽しさがあります。

ってことで、百聞は一見に如かずなレンズというか、体験してみないことには何も伝わらないレンズ代表が登場しました。普通のメーカーでは出来ないというかヤラない類の企画を、平然とやってのけるコシナさん、愛していますよ。

画像: アンダーの3。陰に落として撮ると球面収差の影響をある程度小さく見せることができます。トーンコントロールも含めて収差を考えたりして撮るのは、難しいけれど面白いね。1日撮ると頭がパンクしそうになるけどね。 ■絞りF2.0 1/1000秒 マイナス1.3露出補正 ISO100

アンダーの3。陰に落として撮ると球面収差の影響をある程度小さく見せることができます。トーンコントロールも含めて収差を考えたりして撮るのは、難しいけれど面白いね。1日撮ると頭がパンクしそうになるけどね。
■絞りF2.0 1/1000秒 マイナス1.3露出補正 ISO100

やっぱね、カメラメーカーが純正レンズとしてリリースするには沢山のハードルが存在し、さらにメーカーの品質基準・製品基準というのは厳格です。やりたくても出来ない企画(大量生産に向かない、の意)が沢山あることに、少しだけ寄り添った考えをして欲しいなと。

コシナの掲げる「偉大なる中小企業」という企業理念には、こういったフットワークの軽さも含まれているっつーことです。これが、電子化してAFと自動絞りを組み込んで、防塵防滴とか耐衝撃性をケアして…みたいなことやってると「狂った企画の製品」は登場しないか、実現出来てもド級のプライスになるか、担当者の肩身が狭くなるか、いずれかになるんじゃないかな。

画像: コシナさんが、またまた問題作を突き付けてくれましたー!

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