やぁ、アベっちだ。いきなりだけど、すまん。編集部からNIKKOR Z 35mm f/1.2 Sのレポートを依頼されて1ヵ月以上が経ってしまった。だって「〆切はないです。いつでもいいです」なんて言うんだもん。やっぱ夏休みの宿題と同じで〆切がないとやらないね。でも、そのおかげで3月には札幌。4月に入ってからは長崎で撮影できた。多めの写真でたっぷり解説したい。

NIKKOR Z 35mm f/1.2 SおよびZ 50mm f/1.2 S 主な仕様

画像: NIKKOR Z 35mm f/1.2 SおよびZ 50mm f/1.2 S 主な仕様

Z 35mm f/1.2 Sを初めて見たときは、うは!なんて似ているだろうと思った。Z 50mm f/1.2 Sにだよ。大きさ重さもそっくりだ。最大径は0.5㎜の差。全長150mmは共通だ。ただ、細かな点ではピントリングのローレットの刻みがZ 35mmの方が細かいとか、S-Lineのロゴが異なるとか、Z 50㎜には液晶表示の小窓があるといった違いはある。

これだけ外観が似ているのだからレンズ構成もと思って調べてみると15群17枚は同じ。EDレンズの採用枚数や、35mmには最新のメソアモルファスコートが採用されているといった違いはあるが、絞りを挟んで対称型のレンズの配置は設計の思想がとても良く似ていると言える。

Z 50mmの設計者は原田壮基氏であることは知られている。Z 35mmの設計も原田氏の可能性はあるが、そうでなくても弟子のような人物だろうと推測できる。レンズ構成を見て楽しめるのは、この因果関係のような系譜だ。

開放~F1.4~F1.6まで絞り込む

開放=F1.2

画像: 開放=F1.2

F1.4

画像: F1.4

F1.6

画像: F1.6

さて、まずは札幌から。カメラはZ6Ⅲを使用している。3月の札幌はまだ春の兆しはない。古いレンガ塀に蔦が絡んで枯れていた。よく見るとひび割れた実がついている。最短撮影距離が0.3mと短いのでものすごく寄れる。実がレンズに着きそうだ。

絞り開放F1.2から、F1.4、F1.6と絞り込んでみる。絞り開放のF1.2からフレアはなくしっかりとした描写だ。F1.4に絞るとわずかだがスッとコントラストが上がる。Z 50mm f/1.2もまったく同じ傾向だった記憶がある。

F1.4からF1.6はコントラストもわずかには上がるが、ピントを合わせた部分のシャープネスが上がったように感じた。近接撮影なので背景は大きくボケていて、ボケ味の評価には向かない。ただ、二線ボケのような傾向はまったく感じられないのはさすがだ。

二線ボケ必至の状況ですが…

画像: ■ニコン Z6Ⅲ 絞り優先AE(F2 1/1600秒) プラス0.3露出補正 ISO200

■ニコン Z6Ⅲ 絞り優先AE(F2 1/1600秒) プラス0.3露出補正 ISO200

レンガの壁から離れてみると、ナナカマドの赤い実が目に付いた。中央やや上の実にピントを合わせた。後方の蔦の絡まる様子も見たかったのでF2まで絞っている。ナナカマドの実はしぼんでカサカサになった質感がよくわかる。左側の枯れた蔦に注目してほしい。

間違いなくぼ二線ボケになってガチャガチャと写りそうなものとして選んだが、Z 35mm f/1.2は踏みとどまっている。わずかに二線ボケになっている小枝もあるが、この描写ならたいしたものだといえる。

立体感の再現は?

画像: ■ニコン Z6Ⅲ 絞り優先AE(F1.2 1/640秒) ISO200

■ニコン Z6Ⅲ 絞り優先AE(F1.2 1/640秒) ISO200

札幌で泊まったホテルのロビー。出張で泊まったビジネスホテル。安価な割には頑張っていてロビーにはシャンデリアがあった。絞り開放F1.2なのでわずかにフワッとした空気感がある。このシーンに合っている。立体感は素晴らしく奥の壁がちゃんと距離をとって奥にあることがわかる。

シャンデリアのガラスのヌケが悪いように見えるのは、このシャンデリアはクリスタルガラスでも一般的なガラスでもなく、プラスチックだからだ。その質感がちゃんと再現されている。

んでは質感の再現は?

画像: ■ニコン Z6Ⅲ 絞り優先AE(F1.2 1/100秒) プラス0.3露出補正 ISO200

■ニコン Z6Ⅲ 絞り優先AE(F1.2 1/100秒) プラス0.3露出補正 ISO200

続いて札幌のホテルでの撮影。ロビーには宿泊者用のラウンジがあって、アルコールも含めてフリードリンクだった。スパークリングワインがあったのでいただいた。スパークリング用のフルートグラスがあったが、手に取ると軽い…。シャンデリアに続いてこれもプラスチックだ。

写してみると面白いほどにプラスチックだとわかる質感。そうだ! Z 35mm f/1.2がもっとも得意とするところ、いや設計的に狙ったところかもしれないのだが、それは質感の再現だ。やられた! 背景のボケに注目したい。口径食はあるが、大口径F1.2レンズとしては納得できるもの。画面の隅でもプクっとしたレモンのように仕上げている。

質感を「盛って」みましたー!?

画像: ■ニコン Z6Ⅲ 絞り優先AE(F1.2 1/500秒) プラス0.3露出補正 ISO200

■ニコン Z6Ⅲ 絞り優先AE(F1.2 1/500秒) プラス0.3露出補正 ISO200

それなら対抗してみたい。プラスチックのフルートグラスを高級シャンパングラスのように写せないだろうか。順光だとプラスチックの表面の反射が再現されてプラスチックだとわかってしまう。なので逆光に構えた。

グラスそのものにはピントを合わさずにグラスの中で下から脇がってくる泡を狙った。Z6ⅢのAFは優秀なのでこのくらいは簡単。おお!やった。高級グラスのように見えるではないか。子供じみているとは思うが、アベはこんな遊びをときたましている。

F1.2開放の世界

画像: ■ニコン Z6Ⅲ 絞り優先AE(F2.0 1/150秒) プラス0.3露出補正 ISO200

■ニコン Z6Ⅲ 絞り優先AE(F2.0 1/150秒) プラス0.3露出補正 ISO200

札幌最後のフォト。ススキノで飲んだ帰りに写した1枚。しゃがんで水たまりの手前側にピントを合わせた。後方に見える街頭や店の看板が美しくボケる。単純にズームレンズでは得られない世界だと確信できる。このホンワカとした描写こそF1.2の特権といえる。

F2.8まで絞り込んで…。

画像: ■ニコン Z8 絞り優先AE(F2.8 1/60秒) プラス1.0露出補正 ISO640

■ニコン Z8 絞り優先AE(F2.8 1/60秒) プラス1.0露出補正 ISO640

ここからは長崎でカメラはZ8に替わる。ファーストショットは、ランチの豚の角煮。絞り開放ではピンと会う奥行きが浅すぎるのでF2.8まで絞り込んだ。おかげでピントを合わせた肉の質感がよく出ている。手前は少し硬そうだ。奥の方が軟らかそうに見える。食べてみると見事に当たった。手前の黄色いボケは辛子。右側のブロッコリーの再現ともに雰囲気があって好ましい。

思いついたらスナップ!

画像: ■ニコン Z8 絞り優先AE(F2.8 1/200秒) プラス0.7露出補正 ISO400

■ニコン Z8 絞り優先AE(F2.8 1/200秒) プラス0.7露出補正 ISO400

妻がレジで支払をしている間に店内の飾りを撮らせてもらう。ススキじゃないんだけど、なんだっけ。コレ? パンパスグラスっていったかな。よくわからない。とにかく照明が当たって綺麗だったので撮影。フワフワとした質感が予想以上に見事に再現された。特になんの工夫もせずにこの質感が得られることに感心する。

柔らかな描写を期待して…。

画像: ■ニコン Z8 絞り優先AE(F1.2 1/640秒) プラス0.3露出補正 ISO200

■ニコン Z8 絞り優先AE(F1.2 1/640秒) プラス0.3露出補正 ISO200

店の暖簾をくぐって出ようと思ったら、透けて見えているのに境を持つ暖簾の面白さに目が留まった。思わずシャッターをレリーズ。拡大したらピントは合っているのに布の持つ独特な柔らかさに魅せられた。普段は撮らないと思う。質感描写を追求したZ35mm f/1.2を持っていたから撮りたくなったように思える。

気軽なお散歩スナップでもOK!

長崎の街を歩いていて撮りたくなった3軒。f/1.2の大口径レンズだからといって、被写体は吟味して素晴らしいものしか撮っちゃダメなんて決まりはない。普通に散歩して気に入ったものを撮るのも、もちろんアリだ。ピントの合う奥行きを深く鮮明に写すため絞りもF4前後まで絞り込んでいることが多い。

画像: ■ニコン Z8 絞り優先AE(F2.5 1/3200秒) ISO200

■ニコン Z8 絞り優先AE(F2.5 1/3200秒) ISO200

まずは、ピンクのストライプが可愛らしかった洋品店。元はお菓子屋さんだったのだろうか。リカちゃんハウスにありそうなデザインだ。拡大してみると女のコ用ではなくご年配のご婦人用といった品揃え。服だけでなくいろいろな用品も一緒に扱われている。

画像: ■ニコン Z8 絞り優先AE(F4 1/320秒) ISO200

■ニコン Z8 絞り優先AE(F4 1/320秒) ISO200

2件目は酒屋の看板。歴史ある酒店の上には、同様の看板を見ることも多い。でも、ちゃんと撮ったのは、これが初めてた。汚れているようだけど、拡大してみると磨いた跡もあるようだ。素材はなんなのだろう。少し剥がれているところもあるから、瓦のような焼き物に金属を貼ったような構造なのかもしれない。とにかく歴史があることはよくわかった。

画像: ■ニコン Z8 絞り優先AE(F4 1/640秒) ISO200

■ニコン Z8 絞り優先AE(F4 1/640秒) ISO200

最後はご存じの人も多いだろう。カステラの老舗、福砂屋の本店だ。初めて訪ねたのは、今から40年ほど前だろうか。仲間5人でそれぞれがカステラを1本ずつ買った。ホテルに戻ってから食べた。あまりの美味しさに1本すべて食べてしまった。建物はそのときとほとんど変わらないように見える。看板のカステーラが右から書いてあるのでその歴史の長さがわかる。HPによると創業は寛永元年(1624年)だそうだ。

曇天ならではの再現力もよろし。

画像: ■ニコン Z8 絞り優先AE(F8 1/125秒) プラス0.3露出補正 ISO320

■ニコン Z8 絞り優先AE(F8 1/125秒) プラス0.3露出補正 ISO320

長崎にはJリーグ V・ファーレン長崎の本拠地となるスタジアムシティがある。行った日は曇天でさえない天気だった。芝もパッとしない色だ。でも、これでいい。天気悪い日に天気が良いように写るカメラもレンズも望んではいない。天気が悪いのだから、しっとり再現される。それで良し!

見たまんま。忠実な再現が素晴らしい!

画像: ■ニコン Z8 絞り優先AE(F3.5 1/2500秒) プラス0.3露出補正 ISO200

■ニコン Z8 絞り優先AE(F3.5 1/2500秒) プラス0.3露出補正 ISO200

今度は天気が良い日の写真。湾の水門を閉じてしまったことで有名になった諫早から菜の花越しに雲仙を望む。夕方の光なので少し色温度が低い。海は干潮で遠浅の砂浜が見える。春霞といっていいだろう雲仙はちょっと靄って見通しがイマイチ。空も青くはなく水色だ。すべて目で見たままに丁寧に忠実に再現されている。素晴らしい!

まとめ 誰にでも明白にわかる上質。これぞニッコール!

画像: 福砂屋からの帰りに銅座町のあたりを歩いていたら、黒い金網の向こうに菜の花が揺れていた。金網越しに菜の花を撮ったらどう再現されるのだろう。そんなことを考えながら絞りをF2に合わせて撮った。金網があることは見せたかったし、かといって出しゃばらても困る。そのためのF2選択だった。写真を見る限りでは正解だったようだ。 ■ニコン Z8 絞り優先AE(F2.0 1/3200秒) プラス0.3露出補正 ISO200

福砂屋からの帰りに銅座町のあたりを歩いていたら、黒い金網の向こうに菜の花が揺れていた。金網越しに菜の花を撮ったらどう再現されるのだろう。そんなことを考えながら絞りをF2に合わせて撮った。金網があることは見せたかったし、かといって出しゃばらても困る。そのためのF2選択だった。写真を見る限りでは正解だったようだ。
■ニコン Z8 絞り優先AE(F2.0 1/3200秒) プラス0.3露出補正 ISO200

今回は長期間に渡って1本とのレンズと向き合うことができた。その意味では1週間程度使って書いたレポートよりも自分が納得できた。

結論をいうとNIKKOR Z 35mm f/1.2 Sは、極めて忠実に被写体の質感を再現できるレンズといえる。と同時に素晴らしく上質な描写をする。その上質さは、理屈をこねくって表現するようなものではなく、誰にでも明白にわかる上質さだ。例えるなら、わぁ!美味しいと誰もが思う本マグロの中トロ。霜降りの牛肉でもいい。そのくらい簡単に誰もがストレートに良さがわるレンズである。

画像: 佐賀県との県境は太良町。この日は快晴。濃いブルーが目に染みる。当然だが、フィルターはかけていない。改めて抜けの良いレンズだと確信した。スッキリとした写真を見たらこのまま佐賀を旅してからけりたい気分になったが、大幅に過ぎた原稿の〆切を思い出して踏みとどまった。 ■ニコン Z8 絞り優先AE(F4.0 1/3200秒) ISO200


佐賀県との県境は太良町。この日は快晴。濃いブルーが目に染みる。当然だが、フィルターはかけていない。改めて抜けの良いレンズだと確信した。スッキリとした写真を見たらこのまま佐賀を旅してからけりたい気分になったが、大幅に過ぎた原稿の〆切を思い出して踏みとどまった。
■ニコン Z8 絞り優先AE(F4.0 1/3200秒) ISO200

オシマイにひとこと。

性能は文句のつけようがないので価格かなぁ。Z 50mm f/1.2と比較するとどちらもオープンプライスだけど、ニコンダイレクトの販売価格は、Z 35mmが43万7800円(税込)。50mmは30万8000円(税込)とかなりの差がある。これは約5年間の物価高騰の影響といえるし、Z 50mmは発売当初からかなり抑えた価格だった記憶がある。ニコンは伝統的に50mmレンズの価格は抑え気味なことが多いかも。

画像: オシマイにひとこと。

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