■豊田慶記氏プロフィール
広島県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープ等の写真に感銘を受け写真の道を志す。スタジオマン・デジタル一眼レフ開発などを経てフリーランスに。作例デビューは2009年。カメラ誌でのキャリアは2012年から。カメラグランプリ外部選考委員。日本作例写真家協会(JSPA)会員。
「細部を磨き上げ、絶妙のバランスで進化を遂げたZシリーズの末弟」ニコン Z50Ⅱを豊田慶記氏が解説
先代・Z50から、ほぼ5年の歳月を経て後継モデル・Z50Ⅱが登場。撮像センサーこそ変わっていないが、Z9やZ6Ⅲなどと同じ映像エンジン「EXPEED 7」の採用によって3Dトラッキングや被写体検出にも対応。DX機としては初となるプリキャプチャーも搭載するなど、エンジン由来の機能を余すことなく搭載した。さらには「MF時の半押し拡大解除」が追加されるなど、市場の意見についてもしっかりと反映してきたマジメなモデルとなっている。

タッチパネルのバリアングル式3.2型104万ドット画像モニターを採用。
ワガママを言えばボディ内手ブレ補正機構(以下.IBIS)の搭載と新型センサーの採用を期待したかったが、どちらも価格にダイレクトに反映されるものだけに多くは言えない。
過去に何社かで「IBIS搭載によってどのくらい販売価格に影響があるの?」という質問をしたことがあるけれど、どう頑張っても価格帯が変わるくらいの影響があるものなので、今回のZ50Ⅱのスペックについては英断である、と筆者には感じられた。
センサーについてもポテンシャルがあるセンサーであり、これ以上に単価とパフォーマンスのバランスに優れたセンサーの調達が現実的でないのであれば、「引き継ぎ」という選択の妥当性には納得がいく。欲を言えば、「あと1年早く登場していれば」となるが…。

グリップの形状変更もかなりこの印象に寄与していて、手の大きな(手袋は2L〜3L)筆者にとってはグリップしたままウロウロする際にはより少ない力で、指にカメラを引っ掛けるような感覚で掴むことができた。
さらにそこから、構えたり大きなレンズを装着したりした時などには、僅かにグリップ下側が絞られたテーパー形状になっていることで、手のひらに吸い付くような感触となりつつ、構えた際に自然と脇が締まるような「正しい姿勢」に誘導される。この部分に関しては、“グリップに異常に拘るトヨタ”(編集部)を自任する筆者にとって「ニコン、やるな…」と唸らされた部分。少し大袈裟に言えば、Z9のホールド感に近い感覚だ。

背面液晶はチルトアングルからバリアングルへと可動方式が変更になった。2軸チルトよりもバリアングルの方が特に縦位置撮影での扱いやすさに優れているので、個人的には歓迎であるしバリアングルモニターも慣れれば使いやすい。
こうした形状の設定は、小さな変更でも時に印象を大きく左右してしまうし、個人差も大きいので相当に細かいというか、泥臭い作業を繰り返し行ったのだろう…と想像すると気が遠くなった(←すごく褒めています)。
AFはジョイスティックを持たないけれど、カスタムメニューの[f4:タッチFn]を有効にすることでいわゆる「タッチパッドAF」が可能になるので、上位モデルのサブ機としても相性は良さそう。だが、あくまでも手がデカい人間の意見なので、この点についてはぜひ実機を手にして確認してみてほしい。というのも、EVFを覗きながらだと親指の可動範囲は思ったよりも少ないのだ。

EVFの覗き心地はかなり良く、道具としての質感を高めているし、撮影していて楽しく感じられる要素になっている。エントリークラスでもコレを味わえるのはニコンだけだ。

一回り大きくなったZ50Ⅱ。Z50のコンパクトサイズを恋しく思う一方で、実際に使ってみると操作が窮屈ではなく適切なサイズを得たという感がある。大型化は道具としての魅力を高めるための選択なのだろう。

新旧では背面の方がサイズ差が大きく感じられた。Z50は拡大ボタンがタッチボタンだったが、Z50Ⅱでは物理ボタンに変更になったことで操作性そのものが良くなっている。先進的であることが使いやすい訳ではなかったようだ。
ニコン Z50ⅡのAFとEVFの感触は好印象! 現行APS-C機で 一番グッと来た!!
実写の印象は今回の機体はベータ機かつファームも製品版ではないので、性能評価的なことは行わないので悪しからず。被写体認識オートで何となくカラスや鳩など都会の鳥を狙ってみたところ、Z6Ⅲの被写体認識「動物」と比べて鳥類に対する検出力が明らかに良くなっていた。個人的にZ6Ⅲのあの処理は駄作だと思っているので、早々に本機相当にアップデートしてほしいところ。
AFの感触はかなり良く、筆者のフジX-T5と比べても同等か、安定感で言えばそれ以上かも?と感じるくらいには快適でよく出来ている。タッチFnでのポインター操作は他社機と比べて滑らかさに欠けるように思うが、慣れれば他のZのジョイスティック操作よりずっと快適だった。

3Dトラッキングが搭載されたので撮影時の構図の設定が非常に楽になった。その挙動はZfに近い感じ。オートエリアAFも進化してない訳ではないが、こうしたシーンでもお花にAFしてくれないことがそれなりにあるので、引き続き改善を頑張ってほしい。オートエリアAFの感触はX-T5世代のフジ機に対して劣る感触だったが、それ以外は少なくとも同等の感アリ。あと、ちゃんとAFが捕捉した時のピント精度は本機の方が高い。
■絞りF5.6 1/160秒 ISO180
■撮影共通データ/NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR 絞り優先AE WB:オート


輝度の上がったEVFについてもかなり好印象。高輝度といえばZ6Ⅲが思い浮かぶが、筆者はZ6Ⅲのハイライト側の表示が少し眩しすぎるように感じられて苦手。だが、Z50Ⅱはドット数とのバランスが良いのか、長時間覗いていても疲労感が少なく感じられたし、レスポンスが良いのでMF時のピントの見やすさや掴みやすさも上々。筆者が普段使っているX-T5やLUMIX S5よりも快適だった。
気になったのはモードダイヤルと、モードダイヤル同軸にある撮影モード切り替えレバーの操作力量の軽さ。ボディ前面にあるFn1と2が少し押下しにくいこと。
誤操作を防ぐという観点であればFn1と2の操作性を下げることについては納得なのだけれど、そうするとモードダイヤル類の軽さに妥当性がない。実際に、実写中にはいつの間にかSCNモードになっていたり、動画になっていたりして「チッ」となるシーンがソコソコあった。

似たような形状のものがある対象に3Dトラッキングさせた時の挙動は、最新機ほど大暴れしにくくなっていて良い感じ。EXPEED 7を初搭載したZ9登場時は目眩がするような暴れっぷりだったけど、順調に調教が進んでいる様子です。
■絞りF6.3 1/250秒 マイナス0.7露出補正 ISO500
■撮影共通データ/NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR 絞り優先AE WB:オート
ニコンZ50Ⅱの魅力
エントリー機ゆえの「良心的な価格設定」もイイねぇ♪
結論を言えばとても好印象で、Zシリーズで一番好きなだけでなく、現状のAPS-C機で一番グッと来た。撮影が楽しくストレスが少ないし、何と言っても本気になれるところが良い。
ただし、本気度で言えば電子シャッター時でも1/4000秒以上のシャッター速度が選べないので、Zマウント用のVoigtlanderレンズ遊びがしたい場合にはちょっとだけ気になるトコロがありそうではあるが…それくらいだ。

表現が難しいが、グリップ形状が握らせるタイプから中指と薬指で引っ掛けるタイプに変更になっている。より小さな力でカメラを保持でき、構えた際には自然と脇が閉まり安定感がある。巧妙なデザインだ。
デザインについてもZのコンセプトを洗練させてきたことを実感できる。大型化についても実際に使ってみると納得できるところが多く、また熱容量的にも大きい方が有利なので、動画ガチ勢にとっても良いことだろう。
IBISを持たないことも、熱を効率的に逃がすという点では素晴らしく有効だ。動き回るセンサーから熱を移動させるのは難しい。こんな感じで、Z50Ⅱが選択してきたものが、どれもポジティブに感じられるように出来ているので使っていて心地良い。

右肩およびグリップ周りの操作部配置はほぼ同等で、新型ではピクチャーコントロールボタンが新設されている。グリップした際の人差し指の収まりの良さはさすがはニコン!…と唸らされるポイントのひとつだろう。
それでいてお手頃価格を実現できていることは素晴らしい。カメラやレンズの開発は、エントリー機だからといってハイクラスと比べて著しく開発コストを圧縮できるワケではない。同じくらいお金と時間が掛るのに1台当たりの利幅は上位モデルと比べて少ないのだ。
それでも、エントリークラスが担う役割は大きい。例えばキットレンズはそのメーカーで最も売れるレンズのひとつなので、つまるところはメーカーの看板でもある、ということ。エントリークラスだからといって妥協はないのだ、と感じられる良い製品に仕上がっているので、今から発売が楽しみである。

ニコンらしいパリッとした表現がハマるシーンだと、実にキモチイイ描写性。「ようこそニコン」の民に対して非常に訴求力があるポイントだと思う。高倍率ズームとは思えない切れ味にニンマリ。Z fcで使った時より印象良いのは、絵作り? それとも量産効果??
■絞りF6.3 1/250秒 ISO450
■撮影共通データ/NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR 絞り優先AE WB:オート
ニコン Z50Ⅱ の「◯と×」
◯
・進化したAFの感触
・手のひらに吸い付くような感触のグリップ
・写りがいいし、撮っていて楽しい♪
・良心的な価格設定
×
・電子シャッター時でも1/4000秒以上のシャッター速度が選べない
・撮影モード切り替えレバーの軽さ
・ボディ前面にあるFn1と2が少し押しにくい
※撮影およびインプレッションは全てベータ機&製品版ファーム前の個体にて行った。
(写真&解説:豊田慶記)
ニコン Z50Ⅱ のスペック
- センサーサイズ:APS-Cサイズ
- 画素数:約2088万画素
- ファインダー:0.39型 OLED EVF 約236万ドット
- レンズマウント:ニコンZマウント
- モニター:3.2型 約104万ドット
- 感度:ISO 100~51200 ※拡張ISO 204800
- 連続撮影速度: 約11コマ/秒 ※メカ/高速連続撮影 拡張時
- バリアングルタッチパネル
- SDXC
- 大きさ:約127×96.85×66.5mm
- 重さ:約550g
- 発売日:2024年12月13日
- 価 格:14万5200円(ボディ)/16万6100円(Z DX16-50 キット)/ 19万9100円(Z DX18-140 キット)/19万8000円(Z DX16-50&50-250ダブルズームキット)
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本記事は「カメラマン リターンズ#13」の記事を転載したものです。興味のある方は、本誌もぜひチェックしてみてください!↓