■豊田慶記氏プロフィール
広島県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープ等の写真に感銘を受け写真の道を志す。スタジオマン・デジタル一眼レフ開発などを経てフリーランスに。作例デビューは2009年。カメラ誌でのキャリアは2012年から。カメラグランプリ外部選考委員。日本作例写真家協会(JSPA)会員。
■チャーリィ古庄氏プロフィール
1972年生まれ、旅客機、空港の取材・撮影を得意とする航空写真家、航空ジャーナリスト。2014年「世界で最も多くの航空会社に乗った人物」としてギネス世界記録認定を受ける。2016年G7伊勢志摩サミット、2019年G20大阪サミット、2023年G7広島サミットのVIP機公式記録カメラマンも担当。本記事では後半に登場。
「全領域に進化を拡大させた 新オールラウンダー」豊田慶記氏がキヤノン EOS R5 Mark Ⅱを解説!
部分的ながら、R1と同等の 機能と性能を盛り込んだ二代目
EOSの「5」と言えば一般ユーザーにとっての実質的なフラッグシップモデルと言っても過言ではないだろう。高速化とタフネスで撮影領域の拡大を模索してきた「1」に対して、高画素とオールラウンド性で別の方向性で撮影領域を拡張し続けるEOS R5が Mark IIへと進化した。

本機最大のトピックは新開発となる裏面照射型積層型CMOSセンサーの搭載だろう。画素数は約4500万画素と従来機からの引き継ぎとなるが、フォトダイオード裏側に配線部を配置する積層構造とすることで、データ処理部と画素部を分離・最適化。読み出し速度の高速化はもちろんだが、裏面照射タイプなので、従来機の表面照射タイプと比べて周辺部でも光を取り込み易くなっており、テレセントリック性に配慮されていない設計時代のワイドレンズなどと組み合わせた際の周辺部の色被り低減についても期待される。

組み合わされる画像処理エンジンは、 フラッグシップモデル・EOS R1と同じく、「DIGIC X」に 新 た に「DIGIC Accelerator」 をコンビ。AFシステムが最新世代のDual Pixel Intelligent AFとなったことはもちろん、トラッキング性能が進化(EOS R1と同等の制御)やカメラ内アップスケーリング (最大約1億7600万画素記録)とカメラ内ニューラルネットワークノイズ低減に対応した。

アクション優先AFはバスケットやサッカーなどの競技に対応する機能。ボールを認識することで主被写体の判断や動く方向の予測をAF制御に役立たせ、これまで以上に「瞬間」に集中できる。
ちなみに、本機はクロス検出ではないことと、読み出し速度がR1ほどではないので、動体撮影時やシビアコンディションではR1の方が高い歩留まりが期待できそうだ。積層型センサーと処理性能の大幅な向上によって、ブラックアウトフリー撮影はもちろんなのだが、電子シャッター時に最高約30コマ/秒、メカシャッター時に最高約12コマ/秒(R1と同等)を獲得。ちなみに、ローリング速度はR3に近いレベルというから驚きというか、複雑というか、とにかく技術の進歩を実感させられる。

これまではPCが必須だったアップスケーリングをカメラで行うことができるようになった。大伸ばしはもちろん、トリミングと組み合わせでも大いに役立ちそうだ。
その気持ちをさらに無視できなくさせるのが、約0.76倍・576万ドット・120fp表示のEVFだ。スペックがR3と同じなだけでなく、R1に採用された進化した視線入力システムを搭載している。それなのに価格は約65万円(税込)。額として非常に高価ではあるけれど、内容からすると破格と言って良い。スマートコントローラーこそ持たないが、冒頭に述べた様に一般ユーザーにとっての実質的なフラッグシップ機としての役割をも意識して開発されたのでは? と感じられる。

R3から検出範囲、フレームレート、精度などが大きく改善されている。実際に試してみたが実に良い。使い勝手も含めて、さらにブラッシュアップされたことにも感動した。
キヤノン EOS R5 Mark Ⅱの動画性能
動画性能にも抜かりはなく、フルサイズ 画角での6K60pRAWの内部記録や最高 8K60pRAWの内部記録に対応し、さらにフルHD記録中に16:9で約3320万画素の静止画同時記録(R1は同約1779万画素の静止画同時記録)も可能という果てしないポテンシャルを、R5比で僅か6gの重量増で手に入れている。

電源スイッチがシャッターボタン側に配置されたことで、片手でのオペレーションができるスタイルに。筆者の手には新型の方が手に馴染んだ。
しかも動画時常用最高ISO32000ではノイズリダクションの進化によってR3よりも 暗部ノイズを低減しているというから驚きだし、新センサーと新エンジンシステムに よってR3比でローリング歪みが約半分以下(4K120p時のみ約半分)に抑えられている。

水面から飛び出すサクラマス。ファインダーに見えた瞬間でも捉えることが難しい遡上シーン。 プリ連続撮影により、完全ノートリミングで画面に入れることが遥かに容易になった。
■RF100-300mm F2.8 L IS USM+エクステンダーRF2X 600mm 絞りF8 1/2500秒 プラス2 露出補正 ISO2500 WB:太陽光(『長い旅路の果て』清里町) ※三脚使用、ピクチャースタイル:風景 写真:山本純一
そうした性能向上に対応すべくバッテリーは新型のLP-E6Pとなった。容量と形状はLP-E6NHと同じなので、チャージャーの共用やR5などでも使用できる点が嬉しい。従来バッテリーでも本機は動作可能だが、新型バッテリー使用時に、8K DCI記録やハイフレームレート記録など、性能をフルに発揮できるようになる。

排熱用のスリットがボディ下部とインターフェース側に追加された。スリット内部には熱交換用の構造があるだけなので、水が入っても問題ない。
駆け足での紹介となったが、R5 Mark II をザックリと表現すると、キヤノン内では兄貴分のR3を喰らい尽くす性能をより小型軽量なボディで得たモデル。ライバル機も交えれば、ニコンZ8の完全な上位互換性能を、ひと回り小さく100g以上軽量なボディに詰め込み、そのうえで手ブレ補正は最大約8.5段を達成。メカシャッターも持っているので、対応力でさらに差がついているところも王者・キヤノンらしい判断だ 。ソニーα7R Vに対しては画素数でこそ劣るが、カメラ内アップスケーリングによって、 むしろ45MPのハンドリングの良さが光ってくるのも面白い。
歴代“5”ユーザーのみならず、周囲の期待を超える「異次元」の作り
デモ機に実際に触れてみた感想は、「異次元」のひと言。このカメラが必要な仕事をしていないことだけが悔やまれるが、愛機のフジから乗り換えを真剣に考えるくらいには素晴らしかった。EVFの覗き心地が良く、全てのレスポンスが迅速。電源ONからでも瞬時にEVFが安定表示するし、表示ラグも感じさせない。AFはこれまで以上に賢く、ヌケた挙動を見せない。扱いやすくなった視線入力がさらにこれを補佐してくれるし、凝縮感のあるボディの質感も高い。

左がEOS R5 MarkⅡ、右がEOS R5。高さ方向に大きくなったことで、ゴツさとDSLR時代の「5」の雰囲気が色濃い意匠になっている。個人的にはデザインの質も良くなっているように見える。

左がEOS R5 MarkⅡ、右がEOS R5。ボタンやダイヤルの配置は踏襲されている。情報表示画面のレイアウトは若干変更があったが、違和感はない。変更に行き当たりバッタリ感がないところがキヤノンらしい。
とにかく全方位に欲張った性能の中心に、ユーザーがちゃんといることを実感できたので、「人馬一体」という言葉が浮かんできた。
撮影現場の声に真摯に向き合いトコトン反映させていると分かるカメラ作りを味わえ るし、開発陣がちゃんと「撮っている」ことも伝わってくる。とにかく、注がれた情熱 の温度と密度が、これまでとは違う次元にあると感じられたのだ。
(解説:豊田慶記)
EOS R5 MarkⅡ のスペックをライバル機と比較

地平線を這うような銀河を超高感度で撮影。24mmだと星が点像に写るのは南の空で約8秒。最新のZレンズの高解像とカメラの進化で、画像処理なしで素晴らしい星空が再現できた。
■RF24-105mmF2.8 L IS USM Z(24mm) 絞りF2.8 8秒 ISO16000 WB:3400K(『北国の天の川』 襟裳海岸) ※三脚使用、ピクチャースタイル:風景 写真:山本純一
EOS R5 MarkII | α1 | α7RV | Z8 | |
有効画素数 | 約4500万画素 | 約5010万画素 | 約6100万画素 | 約4571万画素 |
AF機能 | アクション優先AF 交錯対応 視線入 力ほか | 759点 個人認証 | 693点 | 493点 |
常用最高ISO感度 | 100~102400 | 100~32000 | 100~32000 | 100~25600 |
被写体検出AF | 人物(瞳/頭部/全身)/ 動物(犬/猫/鳥/馬)/ 乗り物(車/バイク/鉄道/飛行機) | 人物/動物(犬/猫/鳥) | 人(瞳/頭部/全身)/動物(鳥/昆虫)車/鉄道/飛行機 | 人物(顔/瞳/頭部/胴体)/動物(犬/猫/鳥)/乗り物(車/バイク自転車/鉄道/飛行機) |
AF低輝度合焦限界 | マイナス6.5EV(@F1.2) | マイナス4EV(@F2) | マイナス4EV(@F2) | マイナス9EV(@F1.2) |
高速連写 | プリ連続撮影 30コマ/秒(電子) 12コマ/秒(メカ) | 20~30コマ/秒(電子) 10コマ/秒(メカ) | 再考 約10コマ/秒(メカ/電子) | プリキャプチャー機能撮影(1秒) 20コマ/秒(電子のみ) |
最高シャッター速度(電子時) | 1/32000秒 | 1/32000秒 | 1/8000秒 | 1/32000秒 |
EVF | 約576万ドット/0.76倍 | 約944万ドット/0.90倍 | 約944万ドット/0.90倍 | 約369万ドット/0.8倍 |
最大手ブレ補正効果 | 8.5段 | 5.5段 | 8.0段 | 6.0段 |
大きさ(W×H×D) | 約138.5×101.2×93.5mm | 約128.9×96.9×69.7mm | 約131.3×96.9×72.3mm | 約144×118.5×83mm |
重さ(電池・カード含む) | 約746g | 約737g | 約723g | 約910g |
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「AFも画質も全域で進化した 新オールラウンダー 」チャーリィ古庄氏がキヤノン EOS R5 Mark Ⅱで撮影&解説!
フルサイズ・ミラーレスEOSの中で、高画素モデルとして主に風景などの撮影で人気を博したEOS R5が約4年振りにフルモデルチェンジ。その2代目は、高画素による高画質はそのままに、AFが大幅な進化を遂げた。

筆者は旅客機専門の航空写真家として、これまでEOS R3、R6 MarkIIを空撮や撮影取材の最前線で使用してきて不足はなかった。しかしこのEOS R5 MarkII には数多くの驚きがあった。
EOS R5 Mark Ⅱの進化1:視線入力の改善
一つ目は視線入力の改善である。R3では何度キャリブレーションを行っても私の細い目には反応が良くなく、視線入力を OFFにして使用していた。同様のことを複数のプロカメラマンからも聞いた。しかしR5 MarkIIではかなり改善されており、きちんとキャリブレーションをすれば精度の高い視線入力が期待できるようになった。

視線入力はR3から検出範囲、フレームレート、精度などが大きく改善された。キャリブレーションも決まりやすくなった印象。
具体的には、視線入力はONのままでAFのサーボと併用すれば、まずファインダーを覗いて視線入力で機体を捉え、あとはサーボが機体を追尾してくれるという、とても使いやすい仕様になったのだ。これには驚いた。
ちなみに、先代のEOS R5は動きものの追従は完璧とは言い難く、仕事の撮影では使用しなかったが、R5 MarkIIのAFは設定さえキチンとすれば自信を持ってオススメできる。
EOS R5 Mark Ⅱの進化2:AWBの精度の改善
二つ目はAWBの精度が改善されたことだ。これまで昼間の飛行機撮影は「晴天」 にすると白い機体に少し青みがかることがあり、AWBに任せていた方が良かったが、 このAWBがさらに改善され、最初にR5 MarkIIを使用した際にファインダーを覗いた瞬間、AWBがキレイと感じた。

ボタンやダイヤルの配置は踏襲されており、R5から乗り換えても違和感はない。
特に青空の色味がこれまで以上に美しく、逆光のシャドー部の表現もキレイ。ただしファインダーで見た色味がパソコンに 表示されるのとはまた違う話なので、本当にこの色がパソコンのモニター、つまり仕上がりの写真になるのか疑問であったのだが、結果、問題ナシ。EOS R5 MarkIIの一番の良さではないかと思うほどで、比較的簡単にキレイな色味が出せるのが特徴である。
EOS R5 Mark Ⅱの進化3:高画素機ながら高感度撮影が可能に
三つ目はこれまで高画素機で高感度の撮影はノイズが出やすく厳しいのが常識であったが、新機能のニューラルネットワークノイズ低減により45MPの高画素機でも高感度撮影が可能になった点だ。どの機材でもそうだが高感度使用時は露出を一発で決めるのが理想。後から露出補正、特に明るく補正するとノイズが出てしまうので撮影時の露出をバッチリ決めれば高画素機の高画質を得 ることができる。EOS R5 MarkIIでは露出をしっかり決めれば ISO25600でも問題なく ISO51200でもいける感じだ。高画素機は高感度に弱いという常識を覆したカメラなのだ。
AFは? EOS R5 Mark Ⅱのその他の特徴と作例
冒頭にも述べたが、AF性能は個人的な意見として、近年のキヤノンのカメラでは EOS R6 MarkIIが合焦、追従が一番で次にR3であった。これはR6 MarkIIは動体予測の乗り物モードに「飛行機」が入り、格段に進化したからだ。しかしEOS R5 Mark IIはそれを上回る追従性で、冒頭に書いたように視線入力と併用すれば鬼に金棒。飛行機が見えるとすぐにコクピット位置に合焦、そのまま追従して飛行機が真横になりコクピットが見えなくなるあたりからボディにしっかりとピントが合うのでフレーミングのみに集中すれば良いだけ。フレーミングに太陽が直射する完全逆光の厳しい条件でもしっかり機体を追いかけてくれた。

陽が沈む時間帯の成田空港。アブダビに向けて出発するエティハド航空の機体が残照に輝いたのでアップで切り取りアンダーに仕上げてみた。このようにコクピットが見えない斜め後ろでもAFはボディにしっかり 追従してくれる。
■RF200-800mm F6.3-9 IS USM 絞りF9 1/1000秒 ISO1600 WB:オート
気になるローリングシャッター歪みは、 流し撮りをはじめいくつか試したが、重箱の隅をつつけば見えないこともない。が、 それよりも自分がカメラを構えて水平がしっかり取れるかの問題の方が大きく、気になるようなレベルではないと感じた。

夜の羽田空港、まだ残照が残るタイミングで、離陸するため機首が上がる瞬間を流し撮りで狙う。こんな夜景撮影も明るいレンズと見やすいファインダーで手軽に挑戦できる。
■RF100-300mm F2.8 L IS USM 絞りF2.8 1/13秒 ISO5000 WB:色温度(3900K)
■共通撮影データ/ 被写体認識:飛行機
他にも、カメラ内アップスケーリングの機能が追加されたことも大きな魅力。トリミング耐性を上げられるために、貴重なシーンを逃すことなくその場で処理できるのもありがたい。オールラウンダーとして、大きく進化した2代目と言えよう。

これまではPCが必須だったアップスケーリングをカメラ内で行うことができるようになった。大伸ばしはもちろん、トリミングと組み合わせでも大いに役立ちそうだ。
キヤノン EOS R5 Mark Ⅱの◯と×
◯
・R3から進化した視線入力。 サーボAFと併用すれば鬼に金棒!
・AWBの精度が改善されたこと
・ニューラルネットワークノイズ低減による高感度撮影
×
・PCもモニターも高スペックでないと対応できない
・高画素が必要な人用なので、万人向けでは ない
・大幅に上がった価格
(写真&解説:チャーリィ古庄)
キヤノン EOS R5 MarkⅡ のスペック
- センサーサイズ:35mm(フルサイズ)
- 画素数:約4500万画素
- ファインダー:0.5型 EVF 約576万ドット
- レンズマウント:キヤノン RFマウント
- モニター:3.2型 約210万ドット
- 感度:ISO100~51200 ※拡張ISO 50/102400
- 連続撮影速度: 約30コマ/秒(電子)※約12コマ/秒(メカ)
- バリアングル タッチパネル
- CFexpress(Type B対応)/SDXC(UHS-Ⅱ対応)
- 大きさ:約138.5×101.2×93.5mm
- 重さ:約746g
- 発売日:2024年8月30日
- 価 格 :65万円4000円(ボディ)/ 80万円8500円(24-105mm Lレンズキット)
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本記事は「カメラマンリターンズ#12」(豊田慶記パート)と「カメラマン リターンズ#13」(チャーリィ古庄パート)の記事を転載し、ひとつに合わせたものです。興味のある方は、本誌もぜひチェックしてみてください!↓
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