ソニー α9 Ⅲ
●35mmフルサイズ
●約2460万画素
●Eマウント
●ISO250~25600(※拡張ISO125/51200)
●約120コマ/秒(電子)/約10コマ/秒(メカ)
●0.64型OLED EVF 943万7184ドット
●3.2型 209万5104ドット
●4軸マルチアングル タッチパネル
● CFexpress Type A/SDXC(UHS-Ⅱ対応) デュアル
■発売日:2024年1月26日
■実勢価格:88万円(ボディ)
■大きさ:約136.1×96.9×82.9mm
■重さ:約703g
ついにグロ-バルシャッターを搭載!
ソニーから、コンシューマ向けのフルサイズミラーレスカメラとしては世界初となるグローバルシャッター(以下、GS)搭載機・α9 Ⅲが登場した。GSは電子シャッターの読み出し方式のことを指し、全画素を同時に露光・読み出しを行う。
一般的な電子シャッターではローリングシャッターを採用しており、画像を端の画素から順次スキャンするがごとく読み出す方式となっている。そのため、高速で動く被写体を捉える場合に「ローリング歪み」と呼ばれる歪みが生じることがあるのだが、GSではこの歪みが生じないというメリットがある。
一方でデメリットもあり、単純に単価が高いことと画質面で不利がある。画質面での不利とは、回路の規模が同等である場合、ローリングシャッター仕様と比べてGS仕様では「受光素子の許容電荷量」という、一度にデータに変換できる受光量が少なくなってしまう。
この許容電荷量が少ないと、一度に採り込める光の量を絞る必要がある。よって露光量を減らす、つまり感度を上げて一度にセンサーに届く光を制限するために最低ISO感度が高くなってしまう。
また、採り込む光の量が減るということは、SN比についても悪化傾向となってしまう。 ざっくり言えば、高速性のために画質面では若干の我慢があるのだ。とはいえ、α9 Ⅲは速度特化型として、これでしか捉えられない世界を持つ唯一無二のカメラとなっている。
画質のデメリットよりも高速性で得られるメリットの方、例えばフラッシュの全速同調や動画でもローリング歪みがなくなるだけでなく、メカシャッターの軛(くびき)から解放されるので耐久性での利点もある。
さらなる表現領域の拡大に期待
GSによって撮影者はどんな表現が可能になるか? 公式では歪みのない写真と超高速シンクロによる新たな表現が提案されている。メカシャッターでも厳密に言えば、動きの速い対象では歪みは生じた。これが解消されたことにメリットを感じる撮影者も多いだろう。
大光量の定常光を準備することで光量を得て高速シャッターで撮影するという、非常にコストの掛かる撮影が、超高速シンクロによって機材の専有面積含めてコストを大きく下げることができる。
また、従来のフォーカルプレーンシャッターでは不可能だった1/80000秒での撮影(連写時は1/16000秒まで)についても歪みのないイメージで捉えることができるので、これまでにない表現を可能としている。
ちなみに、α1は50MPの積層型センサーによって画質と高速性の両立、メカシャッターを残したことで、あらゆるシーンに最大限対応できるように設計されたオールラウンダーという印象がある。
一方、本機はGSのデメリットについても理解を必要とするので、表現領域を拡大することを目標としたスペシャルモデルという位置付けと理解するのが良さそうだ。
GS以外の見どころはAIプロセッシングユニット搭載と8.0段のボディ内5軸手ブレ補正だ。とにもかくにも、今できることを全てやり切った感が凄い。AFについてはα1と同様に最高で120fpsでAE/AF駆動することがアピールされている。
これの凄さは、毎秒120回AFを行うので、仮にAFが3回ミスったとしても残りの117回で精度を担保できるという点にある。
α1で以前にテストした際、あまりの追従精度に舌を巻いたが、α9 Ⅲではさらに最新のAIプロセッシングユニットによる被写体認識の進化も加わるので、まさに鬼に金棒だろう。こうした技術革新による表現領域の拡大は、かつてニコンがD3で常用ISO6400を実化した時にも訪れたことはまだまだ鮮明に思い出されるが、本機も同様に撮影者に大きな恩恵をもたらした存在としてカメラ史に刻まれそうだ。
カメラが撮影者の意図を汲むかのようなAF制御
さて、実写の印象だが、今回はベータ機でのテストであり、製品では印象が変わる可能性があることに注意頂きたい。まず、グリップの良さが好印象。筆者の手にはα1よりも明確に良く、動体の撮影以外でも例によって4時間ほどグリップしたままスナップ撮影してみたが、疲労感は非常に軽微。
αは高性能ズームレンズもコンパクトな設計へとシフトしつつあることもあって、持ち歩きの負担が少ないことも魅力に感じられた。EOSのようにDSLRに匹敵する起動速度ではないが、安定して迅速に起動する印象がある。
手ブレ補正は強力だが、記憶にあるEOS R3のほうが強力な印象がある。もちろんα9 Ⅱと比べると明確に優れていてスペックから期待する性能は実現されている。
AFは圧倒的。これまでにテストしたカメラでベストと言っても過言ではない。被写体認識の確度がそもそも高く、筆者が今回テストした限りでは一度も暴れることなく安定した挙動で、かつ結果も申し分ない。
作例でも挙げたが、飛び散る水しぶきにビシバシ合焦させる様子は脅威。これが120fpsか!と唸らされるものがある。スナップシーンでもAFの賢さには驚かされっぱなしで、本当の意味でカメラにAIが搭載されているのかな?...と期待してしまうくらいに、意図を汲んでAFしてくれる。画角内の距離の把握が素晴らしく、ほとんど任意選択しなかった。
また、従来機のように撮影感触が希薄ということもなく、撮っている感がしっかりとあることと、カメラがこちらの意図を汲んでくれるようなAEとAF制御もあって、楽しく撮影できたことも驚きだった。ひょっとすると表示に関わる制御に改善があったのかもしれない。
高ISO感度の画質は、α9 ⅡのISO6400とα9 ⅢのISO3200がだいたい同じくらいの画質に見えたが、まだ発売まで時間があり、製品版ではさらなる改善があるかも。
一番感激したことは、撮影していてワクワクさせられ、今度はこんなシーンを撮ってみようと想像力を刺激されるカメラだったことだ。「新しい世界が撮れる」ことに、これほどの歓びを感じたカメラは、D3以来である。