Z 9を手に入れたもののフトコロ事情でレンズを揃えきれず、気付けばモータースポーツシーズンが開幕・・・。「400㎜使いたいんだけど納期かかるんでしょ? いや〜残念・・・」と某所に強がって言ってみたところ、「どうぞお試しください」と自宅に届いた大きな大きな箱2つ。"ン? なぜ2つなんだ?" 『ちむどんどん』(?)しながら、4月上旬のスーパーフォーミュラ Rd.1 & 2 富士にて試して参りました〜♪(Photo & Report ■ モーターマガジン社:井上雅行 写真部 & JRPA 所属)

まさしく鬼に金棒! テレコン内蔵ヨンニッパ

箱の1つはもちろん「NIKKOR Z 400 mm f/2.8 TC VR S」お値段201万3千円也!(税込み希望小売価格)1.4倍テレコンバーターが内臓された大口径超望遠レンズだ。Fマウントニッコールではこの手の超望遠はオートフォーカスにSWM(サイレントウェーブモーター)いわゆる超音波モーターを搭載していたが、このレンズにはシルキースウィフトVCM(ボイスコイルモーター)をニコン初採用。STM(ステッピングモーター)が主流のNIKKOR Zだが、大口径超望遠はこのシルキースウィフトVCMでいくのだろう。

画像: Z 9に装着、大きく重そうに見えるが重量バランスが良いため、手持ちも苦にならない。重量は約2950g。19群25枚と超豪華。

Z 9に装着、大きく重そうに見えるが重量バランスが良いため、手持ちも苦にならない。重量は約2950g。19群25枚と超豪華。

画像: 1.4Xテレコン切替レバーは右側にあり、カメラをホールドした右手で操作が可能。

1.4Xテレコン切替レバーは右側にあり、カメラをホールドした右手で操作が可能。

画像: 手ブレ補正のON/OFFはカメラ側で切り替える。レンズFnボタンは2箇所に設定。

手ブレ補正のON/OFFはカメラ側で切り替える。レンズFnボタンは2箇所に設定。

あと一歩!を踏みだせるんです

今回のターゲットはスーパーフォーミュラ選手権、4月9に第1戦そして翌10日に第2戦が行われる開幕ダブルヘッダー。2回の決勝レースでたっぷりZ400 mmを堪能しようではないか〜♪・・・と早速愛機のZ 9に装着、まず最初に感じたのは「軽っ!」だ。
レンズの重量2950gと、もちろんある程度の重さはあるのだが、Z 9とのバランスが良く軽快に感じる。30年近く昔、ニコン F3 + MD4にサンニッパ(Ai-S ニッコール 300 mm F2.8 ED)付けてサーキット通ってた頃を思いだすなぁ・・・。一脚いらずの絶妙なバランスで、1日中振り回しても平気だった。でも今回はお仕事なので一脚付けますね、もう若くないし。

で、AFはね、サッ!と合う感じ。速いのはSWMと同じなんだけど、あちらはシャーッ!とかコーッ!とか、たまにキーーッ!みたいに、でもこっちは衣擦れのように微かに感じるだけのほぼ無音。肝心のスピードは、従来のAF-S400 mm F2.8と同様もうこれ以上ない!! っていうくらい速いです。こんなAFスピードを持つレンズがZシリーズに欲しかった!

そして、あと一歩被写体に近づきたい場合の1.4Xテレコンバーター、560 mmに切り替えてもこのスピードに変化は感じられない。テレコンのON/OFFで使用感が変わらないので、時々どっちで撮ってるのかわからなくなる。調子に乗ってさらにもう一歩、外付テレコンも使ってしまえ!というのはやり過ぎだろうか!?

画像: コースの登り勾配から急に現れるマシンにも瞬時にピントが合う、ニコン最速、最強のAFだ。 ニコンZ 9(以下同じ)絞りF9 1/640秒 ISO100 内臓テレコン(560 mm相当) 佐藤蓮選手

コースの登り勾配から急に現れるマシンにも瞬時にピントが合う、ニコン最速、最強のAFだ。
ニコンZ 9(以下同じ)絞りF9 1/640秒 ISO100 内臓テレコン(560 mm相当) 佐藤蓮選手

画像: 後続のマシンがちょうどフレームに入る場所に移動してレース中のバトルを記録。 絞りF9 1/640秒 ISO100 400 mm 小林可夢偉選手

後続のマシンがちょうどフレームに入る場所に移動してレース中のバトルを記録。
絞りF9 1/640秒 ISO100 400 mm 小林可夢偉選手

画像: 今度は同じ場所から距離が近づいた2台を撮影。テレコンを入れることで丁度良いバランスに。 絞りF9 1/640秒 ISO100 560 mm相当 関口雄飛選手

今度は同じ場所から距離が近づいた2台を撮影。テレコンを入れることで丁度良いバランスに。
絞りF9 1/640秒 ISO100 560 mm相当 関口雄飛選手

進化のポイントはココ!

モーターが変わったことでのAFスピードの変化は感じられないけど、SWM駆動レンズの弱点だった耐久性がアップしているといいなぁ・・・と思いつつも、これは十数年経たないとわからない。でも確実に感じられたのは、逆光での描写が向上したこと。キビシイ光線状態でのAFは、従来レンズでもピントの芯はあってコントラストは高かったんだけど、色が濁ったり彩度が落ちたりしていた。

実は日本のサーキットではメインレースのスタート時はほぼ逆光状態。これはスタート時のドライバーの視界を配慮したためで、ピーカンの日なんかは、1コーナーでスタートを待ち受けるレースカメラマンにとっては最悪。おまけに気温が上がれば陽炎でモヤモヤのお手上げ状態。なるべく高い位置から撮影することでこれらの影響を少なくするよう工夫してきたんだけど、マシンはシルエットに近くなり発色は期待できなかった。

でも、そんな条件下でも、このZ400 mmで撮ったら赤いマシンは赤く、青は青く、黄色は黄色に発色している。当たり前のことだけどスゴイこと。ココに一番の進化を感じた。この辺りは、さすがにリリースにあるような「NIKKOR レンズ史上最高の反射防止効果を持つ新コーティング『メソアモルファスコート』を採用」の恩恵なのでしょう。まぁ、陽炎はレンズのせいじゃないから、こればっかりはどうしようもないけどね。

画像: 1回目の決勝スタートシーン、逆光でもしっかりピントを追ってくれた。悪条件下でもマシンの色はしっかり再現されている。 絞りF10 1/1250秒 ISO100 400 mm

1回目の決勝スタートシーン、逆光でもしっかりピントを追ってくれた。悪条件下でもマシンの色はしっかり再現されている。
絞りF10 1/1250秒 ISO100 400 mm

画像: ほぼ同条件の2回目の決勝スタート。低い位置から撮影したため陽炎の影響を受け、さすがにシャープさは損なわれているがコントラスト、発色ともに良い。 絞りF11 1/1000秒 ISO100 560 mm相当

ほぼ同条件の2回目の決勝スタート。低い位置から撮影したため陽炎の影響を受け、さすがにシャープさは損なわれているがコントラスト、発色ともに良い。
絞りF11 1/1000秒 ISO100 560 mm相当

公式発表翌日に到着とは心憎いじゃないですか!

さて、謎の2個目の箱を開けてみると、そこにはなんと発表になったばかりの「NIKKOR Z 800 mm f/6.3 VR S」がぁ〜! 公式発表は4月6日で、受け取ったのはサーキットへ出発する前日の4月7日、ということは!? 「ジャジャ~ン!」という某社敏腕広報・M嬢の得意げな顔が目に浮かぶ~。大口径ながらNIKKOR Z レンズで初めてPF(Phase Fresnel:位相フレネル)レンズを採用し、小型・軽量を実現。高い携行性を発揮、小型化と軽量化を図った、Z NIKKORのキラーレンズだ。期せずして手にし、狼狽えたのはここだけの秘密。お値段は税込み97万3500円だ。

画像: まぎれもない S-Line レンズ、「Phase Fresnel Lens」の文字が誇らしい。

まぎれもない S-Line レンズ、「Phase Fresnel Lens」の文字が誇らしい。

画像: フードのロック機構はスライド式になっている。ガチガチぶつけるプロユースではどうか?

フードのロック機構はスライド式になっている。ガチガチぶつけるプロユースではどうか?

画像: 鏡筒がスリムな分、400㎜よりスマートに見える。ルックス的にはこちらの勝ちかな。重量は約2350gと400 mmTCより600g程軽い。14群22枚のレンズ構成で最短撮影距離は5m。

鏡筒がスリムな分、400㎜よりスマートに見える。ルックス的にはこちらの勝ちかな。重量は約2350gと400 mmTCより600g程軽い。14群22枚のレンズ構成で最短撮影距離は5m。

振り回されちゃぁいけません!

これもZ 9に付けると、軽い400 mmよりさらに軽い! フードを装着すると立派な大砲レンズの風貌なのに、手持ちで振り回せる軽さ。AFはSTMということでスピードにはあまり期待はしていなかったけど、実際使ってみるともうこれで十分じゃありませんか! スーッ、と一気に合焦し、AFスピードに何ら不足は感じられない。

それでは・・・と、手持ち撮影に持ち出したけど、しばらく撮ってみてやっぱり一脚を付けることに。フォーミュラマシンの場合、ピントはヘルメットに合わせるのが基本なんだけど、今のフォーミュラマシンはドライバー保護のためのバーがついている。その隙間から見えるヘルメットにAFポイントをキープし続けるのが手持ちだと困難なんだよね〜。

800 mmはピントの深度が浅いのでこれに一番気を遣う上、Z 9のシングルAFポイントもやけに大きく感じてしまう。観戦エリアからであればフロントノーズ辺りを狙えば手持ち撮影できるんだけど、コースサイドでは近すぎて・・・。エイ、絞ったところで被写界深度はあまり期待できない焦点距離なので、ここは潔く開放F6.3で撮影だ! 800 mmという超望遠を手軽に味わえるけど、被写体を捉え続けるにはそれなりの習熟を必要とするレンズだな、これは。

画像: コーナーに侵入するシーンを撮影、というかコーナー出口だと画角からはみ出してしまうので。一脚を使ってヘルメットにAFポイントを合わせることに集中。 絞りF6.3 1/1000秒 ISO100 坪井翔選手

コーナーに侵入するシーンを撮影、というかコーナー出口だと画角からはみ出してしまうので。一脚を使ってヘルメットにAFポイントを合わせることに集中。
絞りF6.3 1/1000秒 ISO100 坪井翔選手

画像: 800 mmの被写界深度は「無い」に等しいので、AFポイントは確実にヘルメットを狙わないといけない。 絞りF6.3 1/1000秒 ISO100 三宅淳詞選手

800 mmの被写界深度は「無い」に等しいので、AFポイントは確実にヘルメットを狙わないといけない。
絞りF6.3 1/1000秒 ISO100 三宅淳詞選手

画像: 極度の逆光状態ではAF-Cでの合焦率の低下がみられた。位相差ではなくコントラストで合わせにいっている感じ、これはレンズよりもZ 9の課題だと思う。 絞りF13 1/1000秒 ISO100 大津弘樹選手

極度の逆光状態ではAF-Cでの合焦率の低下がみられた。位相差ではなくコントラストで合わせにいっている感じ、これはレンズよりもZ 9の課題だと思う。
絞りF13 1/1000秒 ISO100 大津弘樹選手

画像: バトルシーンだとやっぱりはみ出しちゃうね、800 mmは。でも画の迫力はこちらに軍配が上がる。 絞りF6.3 1/800秒 ISO100 野尻智紀選手

バトルシーンだとやっぱりはみ出しちゃうね、800 mmは。でも画の迫力はこちらに軍配が上がる。
絞りF6.3 1/800秒 ISO100 野尻智紀選手

「どっちのレンズショー」的にどちらかを選べと言われたら・・・

でね、ここまで見てくれた方はもう感じていると思うけど、800 mmで撮った写真はインパクトがあるんだよね。ピントが浅いゆえ没カットもそれなりなんだけど、決まった時の迫力は400 mmとは一線を画している。これが実売160万円以上する400 mmの半分以下、80万円程で手に入れることができるんだから、趣味としてどちらか1本を買うとなれば、文句なくこちらがオススメ。

ただし作品至上主義でないプロや社カメが仕事として使うには、上の写真のように大きく写りすぎなのはちょっと使いづらい。アップになることで失われる情報量も多いので、報道や記録写真には向かないのだ。これまでの経験から、モータースポーツに限れば400~500 mm辺りがベストな選択。だから手に入れるなら400 mmの方を、といきたいのだが価格が価格なだけに・・・。それに加え納期が1年以上との噂が・・・。200万円近いレンズがばんばん売れちゃうんですねぇ・・・。

ちなみに、NIKKOR Zレンズのロードマップを見ると、S-Lineにもう1本400 mmと、非Sながら200-600 mmという美味しそうな焦点域のズームレンズが控えている様子。これらを待ってみてもいいかな、というのが正直な気持ちなのだ。
・・・ということで、ここでの結論は持ち越しにしました。しかし高嶺の花ヨンニッパをドカンと先に出して、後から出す800㎜等のレンズに割安感を持たせるなんて、なかなかの商売上手になりましたな、ニコンさん。  (Photo & Report ■ モーターマガジン社:井上雅行 写真部 & JRPA 所属)
                 ■撮影協力:日本レースプロモーション、富士スピードウェイ

画像: 今回のレースで一番頑張った走りを見せてくれた笹原右京選手の縁石はみ出し走行で締めたいと思います。 f14 1/500秒 ISO100 560 mm相当

今回のレースで一番頑張った走りを見せてくれた笹原右京選手の縁石はみ出し走行で締めたいと思います。
f14 1/500秒 ISO100 560 mm相当

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