2025年秋、シネマカメラの選択肢が一気に増えた。すでに地位を確立したREDやソニーに続けとばかりに、ニコン、キヤノン、フジフイルムが相次いでシネマカメラを発表した。今回は、その中でスチール派にも馴染み深く、移行や買い足しがしやすそうな10月24日発売の「ニコン ZR」と、11月27日発売の「EOS C50」の2機種を、動画性能をメインにレビューしよう。

センサーサイズとダイナミックレンジ

キヤノン EOS C50 ■実勢価格:55万4400円(ボディ・税込み)※レンズは別売

両機ともCMOSセンサーを搭載したフルサイズ機で、ダイナミックレンジはZRがLog3G10フルサイズ撮影時で最大15+ストップ、EOS C50がCanon Log 2フルサイズ撮影時で15+ストップ、Super 35mm Crop撮影時に16ストップとなる。

REDのデジタルシネマカメラ「KOMODO-X」の16.5+ストップには及ばないまでも、シネマカメラをメインとしていないメーカーが出すカメラとしては、かなり頑張りを感じる数字だ。

ニコン ZR ■実勢価格:29万9200円(ボディ・税込み)

なにより、両方ともシネマカメラとしてはかなり小型、軽量ボディに仕上がっているのが大きなメリットだ。ZRのボディサイズは約134×80.5×49mm、EOS C50は約142×88×95mmで、箱型のZRに比べるとグリップ部分が出っ張っているC50のほうが厚みがあるくらいで、全体のサイズ感はそれほど違いを感じない。むしろグリップが握りやすいので三脚使用時も角度調節がしやすく、そこはあまりマイナスポイントには感じなかった。

本体のみの重さを比較するとZRが約540g、C50が約670gと、C50の手持ち撮影はちょっと苦労を感じた。ZRはボディ内に5軸手ブレ補正が搭載されていることと軽量なことが幸いして、手持ちでの動画も撮影しやすかったが、C50は手ブレ補正は搭載されていないので、三脚を使用した撮影を推奨したい。

もしくは、同梱のハンドルユニットの使い心地がとても良かったので、長時間の撮影でなければお勧めだ。このユニットを標準の同梱構成にしたのは素晴らしいと感じた。

ボディ内RAW収録機能【ニコン ZR編】

両機ともに外部機器を使わなくても、カメラ単体でRAW動画の収録が可能だ。ZRは最大6K 59.94pに対応している。

特にZRは、REDのカラーサイエンスを取り込んだ「R3D NE」の内部収録を実現したことで話題となった。DaVinci Resolveなどの編集ソフトも対応しており、これから動画に取り組みたい方の、カラーグレーディングの敷居をぐっと下げてくれたのではないだろうか。

初期から搭載されているピクチャーコントロール「CineBias_RED」は、コントラストと彩度を抑えたシネマライクな画作り設定で、ポートレートのムービー、スチール共にぴったりのルックだった。

R3D NEで収録して、各種LUTを適用した動画は下記をご覧いただきたい。ダイナミックレンジの広さのお陰で、明暗差のあるシーンが趣き深い映像に仕上がった。

ニコン ZRのRAWフォーマット「R3D NE」のLUTなしバージョンと、LUTを適用したバージョンとの比較動画
■ポートレート レンズ:NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S Ⅱ 三脚使用
■スナップ レンズ:NIKKOR Z 24-70mm f/4 S 手持ち撮影R「R3D NE」比較動画

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●モデル:RIN

スローモーション&シネマティック動画モード【ニコン ZR編】

ワンタッチでシネマティックな動画に仕上がる「シネマティック動画」モードもあるが、こちらを使用するとフレームレートがフルHD23.976pに設定されてしまうので、大きなフレームレートで撮影したいときは注意したい。

「スローモーション動画」も楽しい機能だが、こちらもモード変更するとフレームレートはフルHD29.97pに設定される。スマホ向けコンテンツならいいが昨今の大きなテレビでの鑑賞やモニター投影を考えると、4Kせめて2Kも選べるといいなと感じた。

ニコン ZRの4倍スローモーション動画と、シネマティック動画モードの作例動画
レンズ:NIKKOR Z 24-70mm f/4 S すべて手持ち撮影

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使い勝手のいいCanon Log【EOS C50編】

C50もボディ内RAW現像ができ最大7K60Pに対応しているが、今回はCanon Log(キヤノンログ)の性能の良さに驚かされて、RAW撮影よりもLog撮影が捗ってしまった。

筆者はキヤノン製のシネマカメラを使ったのは初めてだったのだが、特にCanon Log 3の映像の使い勝手の良さが抜群だった。このCanon Log 3は見た目に近い、それほど眠くない画に仕上げてくれるガンマで、一番幅広いダイナミックレンジを保持してくれるCanon Log 2には及ばないまでも、白飛び黒つぶれを抑えた映像を収録できるので、編集時の自由度が高い。

時間があってじっくりカラーグレーディングできる状況であれば、RAWかCanon Log 2を使用したいが、短時間で編集を終えたいときや、撮影時の色味からそれほど変更を加えなくても良いムードの場合は、Canon Log 3の使い勝手が抜群だった。

同時に借用した「パワーズームアダプターPZ-E2B」の、ズーミングの使用動画も併せてご覧いただきたいのだが、電子ズームも、いざというときに素早くズーミングできるのでとても便利だったことを、追記しておきたい。

■ポートレート レンズ:RF70-200mm F2.8 L IS USM Z パワーズームアダプターPZ-E2Bを使用してズーミング 縦横同時記録の4K横画像 三脚使用 作例動画

●モデル:大川成美

■たぬき レンズ:RF70-200mm F2.8 L IS USM Z 電子ズーム使用 縦横同時記録の4K横画像 手持ち撮影

便利な「縦横同時記録」機能【EOS C50編】

特筆すべき面白い機能として、4K映像とその一部分を切り出した2K映像を同時に収録できる「縦横同時記録」がある。複数サイトを運用していると、用途によって横動画と縦動画を撮り分けたり編集があったりと大変だが、この機能を使えばその手間を省くことができる。クロップ箇所は水平方向に枠の移動が可能だ。下記の動画は、上記の後半の動画収録時に同時記録した2K動画だ。

レンズ:RF70-200mm F2.8 L IS USM Z

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ベースISO ニコン ZR & キヤノン EOS C50

ZRのR3D NE設定時のベースISOは800と6400、EOS C50のCanon Log 2、Canon Log 3、RAW設定時のベースISOも800と6400と同等だ。

スチールから参入するとわかりにくいかも知れないが、動画撮影時はこのベース(ネイティブ)ISOの設定で撮影することを推奨する。ノイズの少ない、広いダイナミックレンジの高精細な映像を撮ることができる。最近の動画機はベース感度がふたつあるデュアルベースISOが多く、この両機もそのタイプだ。

ちなみに、ZRの他の設定時のベースISOは次の通り。SDR設定時ISO100とISO800、N-LOG設定時ISO800とISO6400、HLG設定時ISO400とISO3200。C50のCanon 709設定時ISO400とISO3200で、RAW時と同じように自動切り替えが対応している。いずれの機でも撮影するときの参考にして欲しい。

静止画性能 ニコン ZR & キヤノン EOS C50

もちろん両機共にスチールの撮影も可能だ。有効画素数はニコン ZRが2450万画素、EOS C50が3240万画素。ZR、C50どちらも長めのレンズを付けるとそこそこの重量になるが、軽めの単焦点レンズや短めのズームレンズなら、スナップに持ち出しても違和感なく使用できるカメラボディのビジュアルだ。

■ニコン ZR NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S Ⅱ 絞りF2.8 1/60秒 ISO1000 WB:オート

■ニコン ZR NIKKOR Z 24-70mm f/4 S 絞りF4 1/200秒 ISO400 WB:オート

※ニコン ZR 動画から切り出し

両機共、スチール設定での撮影と、ムービーからの切り出しの両方を作例として出しておこう。どちらもシャッターストロークに不満はなく、サイズ的にもスチール撮影用途としての使用に難はなかった。スチール使用がメインな方にどちらを進められるかと言ったら、レンズ資産が物を言うという感じだろうか。

■キヤノン EOS C50  RF70-200mm F2.8 L IS USM Z 絞りF2.8 1/200秒 ISO600 WB:オート

■キヤノン EOS C50  RF70-200mm F2.8 L IS USM Z 絞りF2.8 1/500秒 ISO160 WB:オート

※キヤノン EOS C50 動画から切り出し

ニコン ZR vs キヤノン EOS C50

筆者はREDのシネマカメラを使わせてもらう機会もあり、REDのカラーサイエンスには信頼を置いているし、惚れていると言ってもいい。そのREDカラーを気軽に楽しめるZRが、この価格で販売されたことがまず凄いことだと思う。そのうえで、REDシネマカメラの小型版だと思って手にすると、「ちょっと違うな」と思ったのが正直な感想だ。あくまでZRとして切り離して楽しむべき機種だと思う。

キヤノンのカメラはスチール機しか使用したことがなかったが、シネマカメラの使い勝手がとても良く、Logの色味設定が好みだったので動画収録がとても楽しかった。手ブレ補正の有無が取り沙汰されてしまう機種だと思うが、シネマカメラとしては小型・軽量なので、ジンバルで対応できるだろう。これだけ本格的な機種がこの価格で手に入るとは、数年前では信じられない。

試用期間が短かったので骨の髄までとは行かなかったが、似ているようでまったく違う機種を撮り比べることができて面白かった。そのうえで、どんなユーザーにどちらの機種が向いているかを記すとすれば、現在ソニーのFX3を使っていて他のメーカーが気になっている方、クライアントワークがメインで仕事にも自分の作品撮りにも使用したい方には、EOS C50が向いていると思われる。日常がクルマでの移動なら尚更だ。

新たに動画を始めたくてスチール機としても使いたい方、仕事用ではなく作品撮りメインに使用したい、REDカラーに憧れがある方は、ZRが向いていると思われる。日常的に三脚を持ち歩きたくない、というのも大きな理由になるだろう。

どちらにしても、今期シネマカメラの選択肢がぐっと広まったのは、これから本格的な動画にチャレンジしたい方の背中を押してくれる、いいきっかけになるだろう。