昨年9月に発売された、APS-Cセンサー用の単焦点超広角AFレンズ。超広角12mm、開放絞り値F1.4の明るい光学系を直径70mmほどの鏡筒に収め、質量はわずか225gに仕上げられている。ソニーEマウントのほかにはフジXマウント、キヤノンRFマウント用も同時発売。メーカ発表では、開放F1.4でAF対応のAPS-Cカメラ用交換レンズとして12mmは世界初(2025年8月時点)とのこと。

■宇佐見健氏プロフィール
1966年東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒。専門誌出版社、広告代理店を経て独立。撮影ジャンルは360度全天球、水中、旅、風景、オーロラ、ポートレート、モータースポーツ、航空機、野鳥など多岐に渡る。カメラ誌等では新製品機材の実写インプレッションやHOW TO関連、カメラメーカー工場取材など多方面の記事を執筆中。

シグマ 12mm F1.4 DC | Contemporary 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算で約18mm
●最短撮影距離:0.172m
●最大撮影倍率:1:8.4
●レンズ構成:12群14枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数:9枚
●フィルターサイズ:62mm
●大きさ・重さ:φ68.0mm×69.4mm・225g(ソニーE)
●付属品:フード・ポーチ

小さく軽いけど、超明るくて超広い!

ご存知の通りシグマ製品は、コンセプトによりレンズを“Art”“Sports”“Contemporary”の3つに分類、それぞれのアルファベットの頭文字が輝くバッジをあしらったデザインの鏡筒となっている。この12mmは「Cライン」すなわちコンテンポラリーの新たな1本となります。

S(スポーツ)ラインやA(アート)ラインのような高級仕様とは少々異なる立ち位置=コスパも重視したリーズナブルな価格設定=のCラインではあるが、金属鏡筒の質感や操作リングの滑らかな動きなど、シグマの丁寧なモノづくりへの拘りは十分伝わってくるし、防塵防滴仕様など安心面にもしっかりと配慮がなされています。

専用レンズを思わせるほどのフィット感!

今回まず試してみたボディは、ZV-E10Ⅱ。マイク部に装着できる風防を「モフモフ」とか「毛が生えた」とイジられていたV-logエントリー機の2世代目。充電池がαシリーズと共通で、静止画モードでは24メガのRAW+JPG撮影も可能なため、メインα機材の万一のトラブル時の代替機にもなり得るのかも? とばかりに購入した現行APS-C機です。

ZV-EZ10Ⅱと組み合わせでは高さはほぼフラット。鏡筒に適度な長さがあるおかげで、掌が大きくてもほど窮屈には感じません。

…ではあったものの、(幸いなことに)今まで緊急登板の機会は無く、フルサイズ高画素機で撮るまでもない小さく使う状況写真や部分説明用のJPG撮影などを担ってもらっていました。しかし、あまり出番が少ないのも勿体ないし普段使い用としての活路を見出すため、キャラの立つこのレンズは気になる存在でした。

絞りリングは直感的な操作ができて便利。これがあるだけでも撮影中は楽しいと感じられます。ちなみにA位置のロックや1/3ステップのクリックを無効にするスイッチ類はなし。

実際に装着してみると、予想通りに見た目は「お似合い!」の一言。マウントの部分から絞りリングは20ミリほど前方に位置しているで、回転操作にもさほど窮屈な感覚はなく行えました。また、片手撮りでもカメラがお辞儀するようなレンズの重みも感じず、AF撮影では全方向の被写体にサッとカメラを向けて撮影ができるところはコンデジ並みの軽快さで楽しめました。

レンズ名の彫刻文字は周囲と同じ黒塗装なのに、光の当たる角度で文字が浮かび上がるように見える。この処理はカッコ良いです。比較できるよう下段の文字は黒く見える状態で撮ってます。

APS-Cで12mmというレンズ焦点距離は??

光芒を出すために絞り込んで太陽を画面内にれ込んでみました。屋根や柱などのシャドウ部にハレーションなどが重なり目立かと想像しましたが有害光にも強そうです。縦位置も含め構図を変えながら数バリエーションを撮りましたが、影響の出たカットはありませんでした。
■ソニーα1 Ⅱ 絞り優先AE(F16 1/200秒) マイナス1.0露出補正 ISO100 WB:オート

「APS-Cセンサー用12mm」という焦点距離には馴染みが薄いという人がほとんどかと思が、フルサイズ換算(×1,5)すると約18mmに相当する。私の場合、フィルム一眼レフ用の単焦点18mmであれば大昔に少しだけ縁がありました。

新卒で就職した出版社で、写真家でもある社長から私物の「コンタックス167MT=フィルム一眼レフボディ」と10本ほどの交換レンズを「使ってみなさい」と預かったのだ。当時の自分ではとても買えないような高価なレンズが並ぶ中で、比較的気軽に使えたのがディスタゴン18mmF4.0でした。

吊革に掴まり車内をぼんやり見下ろしているようなイメージ。絞り開放では背景がボケ味が大きすぎたので、乗客の存在感を少し強めつつ、かつプライバシーを侵害しない程度の被写界深度になるようにして撮影。
■ソニーZV-E10 Ⅱ 絞り優先AE(F4 1/50秒) プラス1.3露出補正 ISO800 WB:オート

それまで自前機材では24mmが最広角だったこともあり、ファインダーで覗く100°の画角は新鮮ではあったものの光学ファインダー像が暗くて、少し難儀したことを覚えています。

このシグマ12mmF1.4DCは、本来APS-C機用であるもののフルサイズボディであるα7R Vやα1 Ⅱに装着してみてもコンパクトな佇まいがとてもイイ感じだ。当然撮影はクロップモードで行うが、ファインダーを覗けばディスタゴン18mmと同じ画角100°の世界が拡がります。

大型犬ドッグカフェ兼ベーカリーの屋外の飾りつけを、同一距離から絞りを変えて撮り比べてみました。■ZV-10Ⅱ 絞り優先AE 撮影協力:GRANDGRAND MOU

■ZV-10Ⅱ 絞り優先AE 撮影協力:GRANDGRAND MOU

●絞りF2とF16

F2(左)は絞り開放から一段絞っただけでほぼパンフォーカス。F16(右)では右奥の最遠部まで被写界深度内に収めて被写体要素には全て合焦。しかし、さすがにここまで絞り込むと回折現象により小絞りボケも発生している。が、それも取るに足らないレベル。

●絞りF1.4とF11

人間とほぼ等身大のガイコツギタリストのバスとショットは絞り開放F1,4(左)とF11(右)の撮り比べ。絞り開放で寄ると背景情報を適度に残した柔らかいボケ味となりました。望遠系ポートレートレンズのような被写体の引き立て方を画角100度の超広角レンズでも得られるのは面白い。

●周辺光量補正

カメラメニューのレンズ補正の周辺光量補正を試してみました。画像右が「周辺光量補正:切」で、左が「設定:オート」で画面左右の方向に帯状に近い減光が改善しているの確認できます。RAWで撮影しておけばα用の現像アプリでも含めて事後調整に対応可能。

●歪曲収差補正

こちらは歪曲収差補正だけでの比較。補正効果が分かり易いように極端な位置に水平線を配して「切」(左)と「オート」(右)の比較。割と素直な歪みなので「切」のままで超広角レンズらしさを味うも良しな気もします。

ワイドは寄ってナンボ!? 自分の「間合い」を再発見。

駅待合室のガラスドアをクローズアップ。明るい球形のボケはガラス越しに室内の照明が写ったもの。
■ソニーZV-E10 Ⅱ 絞り優先AE(F1.4 1/500秒) プラス0.7露出補正 ISO100 WB:オート

穴開け式のチケットは懐かしいですね。いえ、見て欲しいのはピント面のシャープな描写力です。スマホで撮る様なメモ的な写真でもこのレンズなら綺麗な背景ボケ味も加えて少しエモくしてくれます(言い過ぎ)。
■ソニーZV-E10 Ⅱ 絞り優先AE(F4 1/200秒) プラス0.7露出補正 ISO125 WB:オート

標準50mmレンズが人間の視野角に近いといことは、写真を始めると割と早期に得られる知識だろう。しかし両眼で見て、周囲や背景を含む様々な情報を脳で整理した記憶を一画面の写真に落とし込むとすると、この12mm(=35ミリ判換算18mm相当)の画角100°くらいが良い塩梅なのかなと思う。

ここ数年間、超望遠で所謂動きモノの被写体を追うことに偏りがちだった自分の趣向とは逆の愉しさもあり、被写体背後も環境を多く取り込んだワイドマクロな写真が楽しめました。

塗料を厚塗りされた車体に薄っすらとついたホコリのような汚れなど細かな部分の質感もしっかり再現できています。
■ソニーZV-E10 Ⅱ 絞り優先AE(F8 1/80秒) プラス0.7露出補正 ISO800 WB:オート

ちなみに近い被写体のピントは、必要に応じてEVFで細部を拡大して確認できる。近景の絞り開放撮影では、超広角レンズ特有の被写界深度の深さのおかげで「点」になりすぎずシャープ描写の合焦部分と、溶けすぎない背景のボケが生み出す奥行き感にこのレンズならではの大きな魅力を感じました。

撮影した作例を写真を見返していると、手も届くくらい近距離の対象を主体に背景を絡めたものが多いので、そこが自分のツボであることは間違いないみたいだ。

前半ではV-log機ZV-E10Ⅱとのフィット感が良好云々と言っておきながら、今はAPS-C/フルサイズの二刀流で使用しているα7R Vやα1 Ⅱと常用広角レンズとして、欲しいレンズリストの上位にランクインしています。

α1 Ⅱとの組み合わせは大口径超広角レンズが付いているようには見えないし、少々頼りなさげ。でも撮り歩きなら、モンスター級のレンズよりこのくらい軽薄なかんじも気楽で良いかな、と。