シグマから超大口径望遠レンズ「200mm F2 DG OS | Sports」が発売された。フルサイズのミラーレス用としては世界初となる。いまや200mmクラスの単焦点レンズは各社とも「F2.8」でさえラインナップから消えており、ほぼ70-200mmF2.8ズームの独占状態。このレンズが唯一無二の存在なのだ。(ちなみにフジはAPS用なので、やや意味合いが違うと思う)

撮影共通データ
■パナソニック S1RⅡ WB:オート

山田久美夫プロフィール
1961年横浜生まれ。高校卒業後フリー・フォトグラファーに。風景写真を始めとしたさまざまな分野での作品展を国内外で開催。1983年よりカメラ専門誌に執筆開始。1999年よりDigitalCamera.jpを開設。カメラグランプリ特別選考委員。デジタルカメラグランプリ審査委員長。

シグマ200mm F2 DG OS | Art 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算200mm相当
●最短撮影距離:1.7m
●最大撮影倍率:1:7.6
●レンズ構成:14群19枚
●最小絞り:F22
●絞り羽枚数:11枚
●フィルターサイズ:105mm
●大きさ・重さ:φ118.9×201.0mm・1820g(Lマウント)
●付属品:フード ポーチ 三脚座 ショルダーストラップ

相対的には身近になったと言える200mmF2

キリッとした解像感と、画面周辺まで均一で大きく素直なボケの両立。これこそが大口径望遠レンズの醍醐味。しかも、大きな前ボケと200mmクラスならではの背景の整理のしやすさは、このような花の撮影にも威力を発揮する。これでもう少し寄れれば…とは思うけど。
■絞りF2.0 1/250秒 ISO200 WB:晴天

冷静に考えると、ポピュラーな「70-200mmF2.8」とは1絞り分しか明るさが違わないのに、大きさも価格も別格となる200mmF2。興味があっても、なかなか手を出しにくい空白地帯であった。
また、このレンズはArtシリーズの「135mmF1.4」とはやや異なり、Sportsシリーズでの展開となる。そしてシグマとしては「300-600mm F4 DG OS」に続く、2本目の"白レンズ"となる。

価格は、55万円(同社オンラインショップ価格)。200mmF2の他社製品では、昔の一眼レフ用だがニコン、キヤノン(販売完了)ともに約93万円前後であった。いずれも古いレンズであり、その後の物価高騰を考えると今回のシグマはその半額近い。さすがにおいそれと買える価格帯ではないが、かなり画期的なプライシングといえるだろう。

200mmF2そのものは結構昔からあった。が、大口径望遠レンズの代表格の「300mmF2.8」と比べると、どうしてもマイナーな存在。さらにミラーレス用レンズではこれまで登場しておらず、今回のシグマが世界初の製品というのは意外だった反面、どこか納得もしてしまった。

200mmF2が持ち歩けるなんて!

確かに200mmF2が本当に必要な人は結構少ないと思う。すでに70-200mmF2.8があまりにポピュラーな存在になっていて、明るさは1段分しか変わらない。もちろんその1段分が必要なシーンもあるのだが…かなりニッチだ。

しかし今回、シグマの200mmF2を使ってその印象が大きく変わった。スペックの割に軽いのだ。重さは約1.82kg(Lマウント)。絶対的には結構な重さではある。だが一眼レフ時代の200mmF2を見ると、CONTAX用が約2.6kg、ニコンが約2.93kg、キヤノンEFでも2.52kgもあったのだ。

全長も約200mmと意外に短めで、今回のレビュー中、いつも使っている小型リュックに入れて持ち歩いていた。実際にはこのレンズとシグマの20-200mmという極端なペアで持ち歩いていたが、正直「200mmF2って持ち歩けるんだ!」という、とても新鮮な体験ができた。

手持ち撮影も容易な超大口径望遠レンズ

実機を手にすると、数値で見るよりは大きく感じられる。これは膨張色の白い外装を採用していることもあり、フード装着時には全長が約7.5cmくらい伸びるからだ。そして昨今のシグマレンズらしくビルドクォリティは高く、とても高級感がある。

フィルター径は105mmと巨大で、フードの直径も約13cmもある。そのため、70-200mmF2.8が入るバッグでもスペースが足りなくなることもありそうだ。なお、レンズフードはバヨネットではなくネジでの締め付け式。これは同社のSportsシリーズに共通したもので、フードを地面に直に立てた場合などでもラフに使えるためという。ただ、私自身はこのサイズと重さなら、バヨネット式のほうが使い勝手がよさそうな気がした。

三脚座は標準装備で、取り外しができないタイプ。雲台取り付け部はアルカスイス規格準拠。回転式で90度毎にクリックもある。その面を掌に載せてホールドすると、レンズ全体の重心に近いこともあり。とても安定感がある。

手の小さな私でも、この状態でフォーカスリングや絞りリングに指が届き、操作感も好印象。レンズ側面には5つのスライドノブがあり、AF/MF、フォーカスリミッターやレンズ内手ブレ補正などを設定できる。

切れ味がよく、梵鐘の歴史を感じる質感も上々。ボケも自然。まあ、お寺の梵鐘を200mmF2で撮ってどーすると言われそうだけど(笑)、この小型軽量さゆえに持ち歩いて撮ろう! という気になるのです。
■絞りF2.0 1/250秒 マイナス0.3露出補正 ISO250 WB:晴天

実際に使って見ると、レンズ内手ブレ補正を装備していることでファインダーの安定性が高く、補正効果も大きい。やはり200mmクラスになると、ボディ内手ブレ補正より効果的だ。そのため、手持ち撮影も容易。さすがに軽いとまでは言わないが、ボディ装着時の前後バランスもよく安定性が高いので、実際より軽量に感じる。200mmF2でこの機動性の高さは、極めて大きな魅力だ。

AFも俊足。今回はLUMIX S1RⅡに装着して試用したが、高速で静音なAF動作で実に軽快。3mを境にしたフォーカスリミッターを併用すればさらに軽快だが、元々フォーカスが速いので普段はリミッターなしでもいいだろう。このAF動作の素早さもあり、全体にはなかなか好印象で、F2の大口径望遠レンズとは思えないほど軽快な使い心地だ。

第一級の超高画質。これぞ大口径の単玉だ!

今秋の皆既月食。実はこのレンズ発表時から、星空にポッカリ浮かんだ皆既中の姿が撮りたかったシーン。絞り開放F2で、画面四隅までまったく星像が乱れず、完全な点像に写っているのは見事としか言いようがない。
■絞りF2.0 1/2秒 ISO12800 WB:晴天

画質は第一級。というか、文句のつけようがないほど良好だ。正直、どれだけ70-200mmF2.8が高画質になっても、それとは一線を画すレベル。いうまでもなく絞り開放F2.0から画面四隅まで、きわめてシャープ。色収差も皆無だ。

今回は皆既月食の撮影でも使ってみたが、まさに画面全体でキッチリとした点像を結んでおり、こんな明るさで、これほどちゃんと星が結像するカメラ用望遠レンズは滅多にお目にかかれないレベル。

ボケは大きく、実に自然なもの。この立体感描写は135mmF1.4ともひと味違うもので、こちらほうが撮影距離が離れることもあり背景が整理しやすく、よりクセがなくプレーンなボケ味が楽しめる。

さり気なく意地悪で難しいシーン。この質感はもちろん、四隅までクセのない立体感のある描写とボケ味。こんな描写は、どんな優秀な70−200mmF2.8でも実現できそうにない。これぞ単焦点レンズの醍醐味だ。
■絞りF2.0 1/50秒 マイナス1.0露出補正 ISO1600 WB:晴天

とくに印象的だったのは、画面周辺のボケ。昨今の70-200mmクラスのように、小型化のために周辺光量が犠牲になっていない。もちろん周辺光量不足だけなら、カメラ内のデジタル補正で均一化することもできる。だが、口径食によるボケの不均一さは後処理では無理で、もともともの周辺減光の少なさがモノを言う。こんな均一なボケを見ると、「あぁ、やっぱりちゃんとした単焦点レンズは、いいなぁ~」と心から思う。

そう。わざわざ大きく重く、高価で出番の少ない単焦点レンズをあえて選ぶ理由はここにある。私自身、普段ズームを多用するし200mmクラスはズーム以外選択肢がない状況、だが今回このレンズの描写を堪能し、「あぁ、見なきゃよかった…」と後悔してしまった。

「画質最優先」ゆえのデメリットもあります…。

大きく穏やかで、周辺までさほど口径食を感じない玉ボケ。さらにAFも俊足で実に心地よく、安心して使えるレンズだ。
■絞りF2.0 1/640秒 プラス0.7露出補正 ISO80 WB:晴天

それでも気になる点はいくつかある。まず最短撮影距離。1.7mと200mmF2クラスとしては健闘はしているが、それでも昨今の70-200mmF2.8クラスに比べると2倍くらい遠い。つまり身体が覚えている200mmクラスの撮影距離感と違いすぎ、最初は戸惑うことが多かった。この点についてシグマのに聞いたところ「画質最優先のため」とのことだった。

もう一点、このレンズにはテレコンバーターの装着ができない。私は大昔のCONTAX用の「Carl Zeiss Aposonnar T* 200mm F2」を今でも使うことがあるのだが、1.4倍や2倍のテレコンバーターを併用して、超望遠域まで一本でカバーできるレンズとして重宝している。

今回のシグマでもそんな使い方を期待していたのだが、発表資料を見ても、テレコンバーターの記述がない。実機で確かめてみたところ、物理的にも装着不可だった。こちらもシグマに問い合わせたところ同じく「画質最優先のため」とのこと。正直残念だが、利便性より画質最優先という開発コンセプトなら仕方ない。

大きく重く、同時に軽く小さな極上プレミアムレンズ!

以前から撮りたかったシーン。大口径望遠レンズの隠れた魅力に、なかなか画にならないシーンでも魅力的に魅せてくれる側面がある。このシーンはまさにそれ。望遠の圧縮感と大きく穏やかなボケによる独特な遠近感。この雰囲気は70-200mmF2.8ではなかなか描写できないのですよ、実は。
■絞りF2.0 1/2500秒 マイナス1.3露出補正 ISO80 WB:曇り

正直に言おう。200mmF2が本当に必要な人は、かなり少ないだろう。すでに70-200mmF2.8を愛用している人にとっては明るさの面では1段分しか変わらないし、F2.8ズームは十二分によく写る。もちろん、実用レンズとしてその1段分が必要なシーンは必ずあるのだが…けっこう希有だ。

では、この「200mm F2 DG OS | Sports」の存在価値はどこにあるのか? そこはもう卓越した描写力を堪能できるからに他ならない。といっても、その描写は標準系の個性派レンズ(癖玉)と違い、あくまでクセのないプレーンなもの。そのため、どんなシーンでも対応でき飽きることなく、末永く使えるレンズともいえる。

このレンズ、絶対的には大きく重く高価。だが一度体験すると、小さく軽く、55万円で入手できる、唯一無二の存在に思えてくる。

今回、レビュー用としてこのレンズを体験できたわけが、そこで思ったのは「世の中、知らない方がいい世界もあるなぁ…」ということ。分野によっては生涯縁のないレンズだと思うが、もし機会があったら、是非一度体験して欲しい、極上のプレミアム望遠レンズ。それがこの「シグマ200mm F2 DG OS | Sports」だ。