撮影共通データ
■パナソニック S1RⅡ WB:オート
山田久美夫プロフィール
1961年横浜生まれ。高校卒業後フリー・フォトグラファーに。風景写真を始めとしたさまざまな分野での作品展を国内外で開催。1983年よりカメラ専門誌に執筆開始。1999年よりDigitalCamera.jpを開設。カメラグランプリ特別選考委員。デジタルカメラグランプリ審査委員長。
シグマ135mm F1.4 DG | Art 主な仕様
●焦点距離:35mm判換算135mm相当
●最短撮影距離:1.1m
●最大撮影倍率:1:6.9
●レンズ構成:13群17枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数:13枚
●フィルターサイズ:105mm
●大きさ・重さ:φ111.7×135.5mm・1430g(Lマウント)
●付属品:フード ポーチ 三脚座 プロテクティブカバー ショルダーストラップ
最先端技術が「大口径望遠レンズ」を後押し
よく撮影している超意地悪なシーン。だが、このレンズはそんなハードルも難なくクリア。立体感がありボケも乱れず、色収差も感じられずシャドーの抜けもいい。周辺部の描写も変に乱れたりしない。正直に言って凄いレンズだと思う。
■絞りF1.4 1/160秒 ISO4000
近年、135mmF1.8が新たな大口径望遠レンズとして脚光を浴びている。いまやニコン、ソニー、キヤノンなど、各社がその最先端技術を駆使した製品を投入。ある種のステータス的な存在になりつつある。
そこに今回シグマが投入したのが、F1.8より約2/3段も明るいF1.4の同レンズというわけだ。
実は135mmでF1.4というスペックは、すでに一眼レフのマニュアルフォーカス用として中国メーカーの中一光学が数年前に製品化したが、最大径111mm、全長160mmとあまりに巨大。さらに重さ3kgと、とても手持ち撮影ができるようなシロモノではなかった。
今回シグマは、AF化しながらも全長135.5mmと短く、重さも半分以下の1.43kgに抑え70-200mmF2.8クラスと同等の小型軽量なレンズに仕上げた点が大きなトピックだ。マウントはLマウントとソニーEマウントが用意されており、ZやRFは未発表。今回はLマウントタイプを「LUMIX S1RⅡ」に装着して試用した。
持ち出す気になるのか?=メンタルな部分はギリギリ合格。
落ちてくる水滴を最短撮影距離&絞り開放で撮影。この水滴の質感描写はお見事。シズル感があり、透明感もあり、とても立体感がある。しかもF1.4だけに後ボケも猛烈に大きく、大口径レンズなのに周辺までボケにクセもない。
■絞りF1.4 1/160秒 マイナス0.66露出補正 ISO100
まず、フードなしでレンズ単体で手にした感じは、全長が70-200mmF2.8クラスよりだいぶ短いせいか、ズッシリと重く、かなりズングリとした塊感がある。
バヨネット式でロック付きのレンズフードを装着すると、確かに太く長くはなるが、見た目のバランスがよく、なかなかカッコいい。ビルドクォリティも高く鏡胴の質感も上々で、とても高級感がある。
三脚座がすでに装着されていたので、そのままボディにセット。三脚座を掌に載せてホールドしてみると、その重さがさほど苦に感じることはなく安定した操作やホールドができて、まずはひと安心。手の小さな私でもフォーカスリングや絞りリングに自然に指が届き、手持ちでの操作性も上々だ。手持ち撮影中心の人は三脚座なしのほうが多少軽くなることもあって、気持ち軽快に使えるだろう。
私にとっての関心事は、いざ出番となりそうな時に「このレンズを持って行こう」という気にさせるかどうかであった。ここはなんとかクリアした感じだ。どんなに優れた描写でも、持ち出す気にならなければ宝の持ち腐れになるので。
とはいったもののニコン、キヤノン、ソニーからは「135mmF1.8」がすでに登場しており、いずれも全長100mm未満、重さも1kg以下。その気軽さに比べるとさすがに厳しいのも事実。そこがこのレンズを選ぶ際の1つのポイントといえる。
大口径望遠レンズと思えない軽快なAF!
中に電球のあるお店の看板だが、実にシャープでクリア。色収差も皆無。しかも後ボケが実に自然で立体感満点。AFも素早く軽快。レンズ内手ブレ補正機能はないが、そこはカメラ側のブレ補正でカバーできるので安心。
■絞りF1.4 1/160秒 マイナス1.0露出補正 ISO160
使ってみて最初に驚くのが、AFの軽快さだろう。これまで超大口径望遠レンズというと、AF速度は期待できないイメージがあったが今回のレンズはそれを完全に覆す。実に高速で軽快で、静音にAF動作することにビックリ。
なんでも2群のフォーカスレンズを独立して動かして、2つのモーターでAFと距離変動に伴う収差変動を同時に補正しているらしい。しかもレンズ構成図を見ると、駆動するレンズも結構大きくホントにこんな俊敏で静音に動くのかと感心した。
というのも135mmF1.4開放の被写界深度はほぼゼロ。近距離では自分の身体がわずかに揺れるだけでピントを逃してしまうことさえある。そのためAF-S(シングルAF)ではなく、ピントを追い続けるAF-C(コンティニュアスAF)のほうが安心なケースも多い。とくに瞳AFでのポートレートはレンズ側のAFレスポンスが問われるので、ミラーレス初期の大口径AFレンズでは動作が遅く、AF-Cに追いつかないことも多かった。だが、このレンズなら安心してカメラ任せでAF撮影できる感じだ。
高い解像感と甘美なボケが織りなす極上の写り
口径食のチェック用に撮影。さすがに周辺までボケが完全に丸くなるわけじゃないけど、F1.4開放でこのレベルならかなり優秀。被写界深度は超狭く、ほぼ一点のみ。でもピントの山がしっかり見えるので、マニュアルフォーカスで楽々撮れる。これも描写のいいレンズならではのこと。
■絞りF1.4 1/8000秒 ISO80
最新設計の大口径レンズだけに、その描写力は目を見張るレベル。もちろん絞り開放からF1.4と思えないほど切れ味がよく、画面周辺まできっちりとシャープで、解像力的には絞る必要がないと思えるレベル。絞り開放でも色収差は全く感じられず、点光源の色滲みも皆無。最新設計のF1.4って、ここまで完璧なんだ! と感心した。
もちろんボケも大きく自然。今回は意地悪なシーンでも試してみたが、クセのない素直なものだった。ちなみにボケ量については同社が「ボケマスター」と称している「105mmF1.4」より大きい。
シグマのエンジニアによると、レンズの有効径がボケ量を大きく左右するため、メインの被写体を同じ大きさで捉えると、有効径がほぼ同じレンズならボケ量もほぼ同じになるという。そのため、有効径がほぼ同じ「200mmF2」と同等という感じだ。
周辺光量も結構豊富。さすがフィルター径105mmは伊達じゃない。もちろん開放で点光源をぼかすと、画面周辺では完璧な円形になるとはいわないが、なんら問題ないレベル。F1.8~F2くらいまで絞ればそれも気にならないレベルになるうえ、13枚羽根の絞りもほぼ円形で、まさにボケにこだわったレンズといえる。
絞り開放から解像もボケもよく、同クラスではしばらくこれを超える描写のレンズは登場しないのでは? と思えるほどだった。
とはいえ、完璧ではなく…テレコンが使えません。
最短撮影距離は1.1mと、他社の135mmF1.8クラスよりかなり長い。接写好きの筆者には正直物足りない。これは光学性能を最優先させたため。確かにF1.4のまま最至近距離付近で撮ると、確かに切れ味はちょっとナローになる。それを理解して使えば、そんな描写も悪くない。というか、個人的には好き。
■絞りF1.4 1/160秒 マイナス0.66露出補正 ISO100
ただ、私の期待値が高すぎたせいか気になる点もいくつかあった。
やっぱり、最大のネックは1.1mの最短撮影距離。135mmF1.8との比較になるが、先代のシグマで0.875m。ニコンで0.82m、キヤノンとソニーではなんと0.7mまで寄れるのに、本レンズは1.1mとかなり遠い。ポートレートなら許容範囲かもしれないが、ネイチャー系に使おうとすると、この遠さはなかなか厳しい。
同社に問うたところ、これはあくまで画質を最優先するための結果という。実際、至近距離での絞り開放では光学性能がわずかだが低下する傾向が見られたが、やはり利便性という点では欠点と言わざるを得ない。
また、テレコンバーターが装着できないことも要注意。もともと、同社のLマウント望遠系レンズの大半は、シグマ純正のテレコンバーターが装着できた。そのため、1.4倍なら189mmF2.0、2倍なら270mmF2.8として使えると、発表時に喜んだもの。けれどWebにもテレコンバーターの記述がなく、実機を見て、装着できないことを理解した。
実は「200mmF2」も装着できないのだが、これは大きな誤算だった。理由はいろいろあると思うが、とにかく残念のひと言。もちろん200mmF2や300mmF2.8を別途持って行けよ! といわれれば、それまでなんだけど。
「F1.4」の描き出す世界を堪能したい!
F1.4の明るさを活かして夕暮れの街を手持ち撮影。なかなかいい雰囲気に写っているけど、こんな遠距離でも被写界深度はきわめて浅くてビックリするほど。けれど切れ味がよく、その前後の描写も素直なので、とても自然な立体感が楽しめる。小さなサイズで見てると気付かないけど。
■絞りF1.4 1/160秒 マイナス1.66露出補正 ISO400
このレンズの最大の魅力は「明るさ」もあるが、それ以上に「135mmF1.4」ならではの描写力が光る。
既存の「135mmF1.8」に比べて、約2/3絞り分明るい「F1.4」。近年はカメラ側の超高感度性能が上がっているので、「微差」といえなくもないが、光線状態の悪いシーン、たとえば恐ろしく暗い場所での撮影や天体写真など限られた分野では、実はかなりの威力を発揮する。
さらに最低シャッター速度が制限される動画の世界でも、この2/3段の差はかなり効く。つまり、これまでの自然光では録れなかったシーンもカバーできるのだから、このメリットは計り知れない。また、70-200mmF2.8より2段分、4倍も明るく、明らかな棲み分けができる点も見逃せない。
今回は4430万画素の「LUMIX S1RⅡ」で撮ったが、F1.4絞り開放でPC上で等倍表示しても、画面の端っこまで気持ちいいほどキッチリ解像していて驚く。これなら超大伸ばしでも8K動画でもAPSクロップでもぜんぜん大丈夫。ここまで写れば、重めで嵩張っても持ってゆくだけの価値は十二分にある。
■絞りF1.4 1/160秒 ISO1250
とはいえ、このレンズの神髄はやはり「135mmF1.4」でなければ表現できない画を描き出せること。絞り開放での鋭いピント面での描写と甘美なボケ描写が、一本のレンズで楽しめる点がこのレンズの最大の魅力だ。
ボケという意味では、被写体の周囲をグラデーションだけの世界に変える至近距離での撮影。さらに中距離での背景とのハーモニーによるボケ描写。そして数10m先の遠距離でもピント面の前後がわずかにボケることによる自然な立体感描写など、このレンズならではの世界を堪能できる。
私自身、いまでも愛用している”ボケマスター”こと、一眼レフ用の「シグマ105mmF1.4」のような、”105mmだけど、300mmF2.8のような立体感”をさらに一歩推し進めたような描写であり、しかも同レンズの弱点だった逆光時の弱さも解消された点も実は大きな魅力。
こんな描写を快適で俊足なAFで楽しめるのだから、たまらない。すでに70-200mmF2.8を持っている人にとっても、この明るさと描写性能は極めて大きな魅力だ。 あとは約1.4kgという重さと、33万円というプライスをどう考えるか? ここが最大のポイントだが、今回試用して、それを上回るだけの魅力を備えたレンズに感じられた。