岡嶋和幸氏プロフィール
1967年福岡市生まれ。東京写真専門学校卒業。スタジオ・アシスタント、写真家助手を経てフリーランスとなる。精力的な作品発表のほか、メーカー等のセミナー講師やフォトコンテスト審査員など、活動の範囲は多岐にわたる。
GR Ⅳ=今こそ使いたい最強のスナップカメラ!
この9月12日に発売になったRICOH GR Ⅳ。現段階では予約販売や抽選販売などが実施されているが、欲しくてもまだ手にできていない読者もいるだろう。RICOH GR Ⅱ以前のユーザーならまだしも、RICOH GR Ⅲがまだ手元にあるのに急いで買い替える必要はあるのか?
新しいもの好きの筆者の答えは「イエス」だが、Appleのスマートフォン「iPhone」シリーズは1世代飛ばしから2世代飛ばしにするなど買い替えサイクルは低下している。とはいえGRシリーズは毎年ニューモデルが登場するわけではなく、RICOH GR DIGITALからRICOH GR Ⅱまで2年サイクルだったのがRICOH GR Ⅲで4年、そしてRICOH GR Ⅳで6年半と開き気味になっている。
現在愛用しているモデルでの不満点が改善されているのかといった、自分を満たしてくれる何かを見つけることが買い替えの決め手となるだろう。
電車で移動中、目に入ったつり革をパチリ。各要素の質感がバランスよく再現され、手にしたときの感触が伝わってくるようだ。輪郭などに不自然な描写は見られず、ボケ具合も素直な感じ。諸収差もしっかり補正されていて無理のない仕上がりである。
■プログラムAE(F2.8 1/125秒) ISO200 WB:オート ※イメージコントロール:スタンダード
RICOH GR Ⅳ(左)とRICOH GR Ⅲ(右)。
各メディアでのレビュー記事はすでに出揃った感じだが、いずれも買い替えを後押しするものばかり(当然か)。本体の厚みはRICOH GR Ⅲの26.5mmから24.5mmと、RICOH GR Ⅳは2mmほどスリムになっているが、よく見比べないと分からないレベル。でも毎日のようにGR Ⅲを持ち歩いている人なら、RICOH GR Ⅳを手にした瞬間にその差を感じるだろう。
思うような仕上がりが得られず個人的に苦手意識のある「ハイコントラスト白黒」だが、このシーンはうまくハマったと思う。GR Ⅳだからだろうか。起動とAFが驚くほど速く、切れ味も良く、いろいろなものにレンズを向けたくなる。画作りの満足度も高い。
■プログラムAE(F4 1/25秒) ISO200 WB:オート ※イメージコントロール:ハイコントラスト白黒
幅こそ変わらないが高さもわずかに抑えられていて、本体のみの質量は約227gから約228gと1g増えた程度。ところがバッテリーと記録メディアを装着したときの質量は約257gのGR Ⅲに対し、GR Ⅳは約262gとその差は5gに広がる。記録媒体はSDメモリーカードからmicroSDメモリーカードになっているのに?? その理由は、バッテリーがわずかに大きく重くなっているから。よってバッテリーの保ちはGR Ⅲの約200枚から約250枚に増えている。
GR Ⅳ(左)とGR Ⅲ(右)のバッテリー比較。なるほど大きくなっている。
RICOH GRシリーズのスペック比較
新旧でスペックを比べ始めるといろいろ気になってくる。筆者はデジタルのGRシリーズをずっと使い続けているが、2005年発売の初代からどのように変わってきたのか興味が涌いたので簡単に表にまとめてみた。
撮像素子がAPS-Cサイズになったのが大きな節目で、製品名から「DIGITAL」が消えている。GR Ⅲから液晶モニターはタッチパネルになり、内蔵フラッシュの代わりに手ブレ補正機構を搭載。GR Ⅲの3軸4段から、GR Ⅳは5軸6段に進化している。重さは少しずつ増しているが、モデルチェンジを繰り返しながら携行性を高め、手ブレ補正機構を初めて搭載したRICOH GR DIGITAL Ⅳにサイズは近づいている。
小型フラッシュ GF-2を用意(別売)。
GR Ⅳに内蔵フラッシュは搭載されていないが、対応するクリップオン式の外部フラッシュ「GF-2」が同時発売された。GR Ⅳは手ブレ補正機構のほか、最高ISO204800の高感度撮影が可能だが、フラッシュ撮影が有効な被写体やシーンもある。
ガイドナンバーはGN3(ISO100/m)。ISO AUTOに設定すると、被写体距離に応じてガイドナンバーとISO感度をカメラ側で制御する自動調光撮影に対応している。充電式のリチウムイオン電池を内蔵し、重さはたったの19g。超小型なのでカメラに装着した状態でも邪魔にならず、そのままポケットに入れて持ち歩ける。
操作系がより洗練されてストレスフリーに。
GR Ⅲでお気に入りだったネガフィルム調。主要デバイスの刷新もあり、こちらのほうがよりフィルムライクに感じられる。細部の様子もしっかり描写し、でもシャープ過ぎたり硬すぎる印象は全くない。気温や湿度が伝わってくるような心地良さがある。
■プログラムAE(F5.6 1/800秒) ISO100 WB:オート ※イメージコントロール:ネガフィルム調
GR Ⅳの記録媒体はmicroSDメモリーカードということで、筆者も含め、一般的なカメラ愛好家には馴染みが薄いものだろう。実際スロットの抜き差しは少しやりづらく、紛失の不安も感じた。
とはいえGR Ⅳは内蔵メモリーが53GBもあるので、microSDメモリーカードがなくても大きな問題にはならない。筆者のように動画は撮らない、連続撮影もほとんど行わなければRAW+JPEG(L)で774枚も撮れるから内蔵メモリーだけで十分だったりする。
その昔のRICOH GRやRICOH GR Ⅱの内蔵メモリーは54MBだったので単位が間違っているのかと思ったほど(笑)。GR Ⅲで2GBになったが、それでもSDメモリーカードの容量不足や破損、入れ忘れなど不測の事態のための保存領域という位置付けだった。歴代GRでこれまで一度も内蔵メモリーを使うことはなかったが、いよいよ立場が逆転となるわけだ。
RICOH GR Ⅳ(左)とRICOH GR Ⅲ(右)。グリップの形状変更は、筆写にとっては大歓迎。
手の大きさや指の長さ、持ち方などが関係するのだが、筆者はRICOH GR Ⅲを構えたときに右手親指の居心地が悪く、安定してグリップできるようサードパーティー製のサムレストをホットシューに装着していた。ところが、RICOH GR Ⅳは背面グリップの形状が変わりその必要はなくなった。
また、GR Ⅱにあった露出補正ボタンが復活し、露出を素早く追い込むことができる。反対に、十字ボタンの周りにあったコントロールダイヤルはなくなり、押しやすく確実に操作できるようになった。ただし、どちらもGR Ⅲで使いやすく感じていたユーザーは逆の反応になるかもしれない。ちなみに露出補正ボタンに指が触れて動いてしまいやすい人は、「操作カスタマイズ」の「露出設定」で動作しないように設定を変更することもできる。
ADJ/露出補正レバーはADJ/後電子ダイヤルに変更されている。押し込むとADJメニューが表示されるのは同じだが、前電子ダイヤルを回せば絞り優先AE(Av)に、後電子ダイヤルを回せばシャッター優先AE(Tv)になる「プログラムオートEx」(P-Ex)機能などは使いやすく感じられる。
露出モードはロックボタンを押しながらモードダイヤルを回して変更するが、この機能はAvモードやTvモードに瞬時に移行できる。PENTAXの「ハイパープログラム」同様の機能で、グリーンボタンを押すとプログラムラインの露出値に復帰するが、GR Ⅳのモードダイヤルのロックボタンはそれと同じ働きをする。
RICOH GR Ⅳ(手前)とRICOH GR Ⅲ(奥)。スナップ撮影距離優先AE(Sn)を新搭載。
このプログラムシフトは、Pモードを多用する筆者は積極的に行っている。ところがGR ⅣのP-Exモードでは、前電子ダイヤルを回すと絞りが変わるがシャッター速度は変わらず、後電子ダイヤルを回すとシャッター速度が変わるが絞りは変わらない。どちらもその代わりにISO感度が変わる仕様になっている。でも筆者はISO感度が変わるのを望まないので、ISO AUTOではなく任意のISO感度に固定、従来のプログラムシフトと同じ働きになるようにしている。
「スナップ撮影距離優先AE」(Sn)がモードダイヤルに追加された。これは前電子ダイヤルで被写界深度を3段階(DOF1〜3)から、後電子ダイヤルでスナップ撮影距離を選ぶことで、それに合わせた露出が自動設定されるというもの。奥行きにこだわった表現を手軽に楽しめる、スナップシューターらしいマニアックな露出モードだ。
高い機動力でシャッターチャンスに強いのはGRのお家芸?
日差しの強さを出すためにハードモノトーンを選んだ。コントラストは高めだが、ハイライトやシャドウは滑らかに再現され階調豊か。輪郭も不自然さはなく、この手の仕上がり設定でありがちな粗は皆無に等しい。そのぶん詳細設定でさらに画像を追い込みやすく、懐の深さを感じる。
■プログラムAE(F5.6 1/1600秒) ISO200 WB:オート ※イメージコントロール:ハードモノトーン
GR Ⅲとの比較ばかりだと、まだ一度もGRシリーズを手にしたことがない人や、これまでコンパクトデジタルカメラを使ったことがない人にGR Ⅳの魅力は伝わりづらいだろう。そのような人たちの「正統進化って何?」という反応も想像できる。価格が20万円近くするため、「最強のスナップシューター」と言われても「はい、そうですか」と気軽に買えるほどの手ごろさはない。それでも手に入れたくなるRICOH GR Ⅳの魅力とはいったい何なのだろうか。
まず最初に電源を入れて驚いたのが約0.6秒の高速起動だ。新開発のレンズ鏡胴や起動シーケンスの最適化などによりGR史上最速を実現しているという。マクロモードへの切り替え、電源を切ったあとのレンズ収納も高速化が図られている。
バッテリーの消費を抑えるために、筆者は撮る直前に電源を入れ、撮影後はすぐに電源を切るルーティンが体に染み付いている。どの機種でも長年そのスタイルは変わらないが、RICOH GR Ⅳほどストレスを感じないカメラはほかにはないだろう。AFも敏速で速写性に優れている。迷いは少なく瞬時に合焦し、従来のAFより苦手要素は減ったよう。ピント精度も向上し、保険をかけて無駄撃ちせずともしっかり結果を出してくれる。
スマートフォンでは操作にもたついたりシャッターチャンスに間に合わずに撮り逃がすことは少なくないが、GR Ⅳの機動力の高さはスナップ撮影のみならず、日常の何気ない瞬間も確実に切り取れる。自分自身の視覚の延長のような感じでしっかり写真に残すことができるのだ。
イメージコントロール=新たに「シネマ調」を追加
オートホワイトバランスは従来の「オートWB」に加え、「オートWB(ウォーム優先)」と「オートWB(ホワイト優先)」の3つのモードが選べるようになったが、「マルチパターンオート」はなくなっている。画像仕上がりが選べるイメージコントロールは「シネマ調(イエロー)」と「シネマ調(グリーン)」が新たに追加されている。
〇スタンダード
筆者はホワイトバランスはオート、イメージコントロールはスタンダードで撮影し、カメラ内RAW現像でそれぞれの写真に合ったものを選ぶようにしている。GRシリーズではずっと、そのように撮影後もカメラ操作を楽しんでいる。
〇シネマ調(イエロー)
〇シネマ調(グリーン)
フィルム映画のような調子に仕上がる「シネマ調」は、温かな雰囲気で重厚感のあるイエローと、涼しげな印象のグリーンが選べる。どちらもシャドウが暗く落ち込み、その部分のディテールが滑らかに溶けるような味わいのある画像になった。グリーンはハイライトがやや明るめで、光の感じが強調された。
より自然で無理のない画作りが好印象
平面的な画面構成だが、それぞれの要素は立体的に再現されリアルな印象だ。塗られたペンキも味わいがある。カラフルな光景なので色乗りの良いポジフィルム調を選んだが、特定の色が不自然に浮き上がることはなく、思いのほか上品に仕上がっている。
■プログラムAE(F5.6 1/1000秒) ISO200 WB:オート ※イメージコントロール:ポジフィルム調
筆者はRICOH GR Ⅲで写真展の経験もあるので、トリミングさえ気をつければ画素数が微増したGR Ⅳでの印刷解像度はすでに必要十分。少し余裕が生まれる程度だが、大きなサイズでもプリント表現をしっかり満喫できる。
画質面でそれ以上に魅力を感じたのが、階調や粒状感など、より自然さが増したこと。もちろんイメージコントロールなどの設定にもよるが、シャープ過ぎず輪郭などの再現も無理がなく、質感もバランスよく描写している印象だ。
そのあたりは光の入口となるGRレンズ、それを受け止めるCMOSセンサー、さらに豊富な情報を余すところなく画作りに反映させる画像処理エンジン「GR ENGINE 7」と、今回刷新されたそれらが支えている。高感度性能も向上し、5軸6段手ブレ補正機構と合わせてシーン対応力がより高められている。
これぞ上質なカメラなり! スマホとの違いは誰の目にも明らか。
クロスプロセスでひと味違った色調に仕上げてみた。スマホアプリのエフェクト効果のようなキツさはなく、階調も滑らかで優しい雰囲気。大きなプリントでもしっかり見せられる繊細さもある。レンズの描写力の高さも画面の隅々まで生かされていて見応え十分だ。
■プログラムAE(F3.5 1/200秒) ISO100 WB:オート ※イメージコントロール:クロスプロセス
モデルチェンジといってもエポックメイキングな機能が追加されるなど大きな変化があるわけではなく、GR Ⅳはシリーズを通して着実にブラッシュアップを重ねてきた現時点での最新形である。
GR Ⅲは個人的にわずかだがストレスを感じる部分もあったが、そのほとんどが解消され、より気持ち良く軽快に撮影を楽しめるようになった。これといった欠点は見当たらず、でも使い方は人それぞれなので、全てのユーザーの不満点が解消されているのかどうかは分からない。
最後はユーザーがカメラに寄り添うことになるが、誰が使ってもそれは容易であると感じる。スマートフォンからの初めてのカメラ、初めてのコンパクトカメラなど、これまでGRシリーズを手にしたことがない人にとってはすごく斬新なモデルだろう。
小型軽量で機動力に優れ、撮りたいシーンをしっかり残せてポテンシャルも高い。そして最終的に写し出される画像はシリーズ最高画質であると感じた次第だ。
黒が多めでやや重く感じられたので、ブリーチバイパスで軽く涼しげな雰囲気に。自動販売機のステッカーは鮮明な描写で、シャープネスを強めたのではなく、新開発のGRレンズの光学性能の高さが見て取れる。その反面、反射した光のボケの形状など少し気になる部分もある。
■プログラムAE(F3.5 1/200秒) ISO100 WB:オート ※イメージコントロール:ブリーチバイパス