■井上雅行プロフィール
1967年生まれ、神奈川県厚木市出身。明治大学政治経済学部卒業後、1990年モーターマガジン社入社、写真部所属。クルマ誌、バイク誌の撮影からモータースポーツの世界に足を踏み入れる。その後10年弱、諸先輩方に揉まれて経験を重ねた後、2002年JRPA入会し、主に4輪レースを撮影。現在はやや不遇の身らしい。
2台のニコン Z5Ⅱのみでレース撮影を敢行!
ニコン Z5Ⅱ 実勢価格:25万8500円(ボディ税込み) ※価格はすべてニコンダイレクト調べ
筆者は普段はニコンZ9とZ6Ⅲ、D5を主に使用しているが、今回はZ5Ⅱを2台使ってレースを撮影する。フルサイズ機ながら程よい大きさと重さで、持ち歩くには良いサイズ感だが、サーキットの現場でガツガツ使うには私にはボディサイズがやや小さい。
そこで1台にはパワーバッテリーパックMB-N14を装着し、100-400mmなど望遠ズームとのバランスを整える。ちなみに、MB-N14はZ6Ⅲと共用できるため、Z5Ⅱの左側に少しはみ出す。もう1台はエクステンショングリップZ-GR1を装着、こちらには24-200mmを付けっぱなしで撮影した。
500パワーバッテリーパックMB-N14(6万2700円)とNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S(38万5000円)を装着した完全武装状態。全体の重心は三脚座(アルカスイス対応品に交換)に近いところにある。
NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR(12万5400円)を装着しサブカメラとして使用。エクステンショングリップZ-GR1(1万4300円)を併用することで全体のバランスは格段に向上する。
Z5Ⅱはサイレントモードで電子シャッターとなるが、動体撮影においてはローリング歪みが目立つので、通常モードの機械式シャッターで撮影する。シャッター方式「オート」では、装着するレンズによって異なるかもしれないが、今回の条件下では、1/320秒以上はメカニカル、1/250秒以下では電子先幕になるようだ。2つの方式を試した結果、ブラックアウト時間が短い電子先幕を選択。
連写モード「H」で9.4コマ/秒となるのが、かつて筆者も使用していたD500に近い使用感だ。14コマ/秒の高速連写「H+」もあるが、こちらはEVFのブラックアウトが無くなる代わりにパラパラ状態のアフタービューが表示され、被写体を追いかけることが困難になるのでモータースポーツには適さない。
流し撮りでは被写体の動きに合わせてカメラを振る。コーナーイン側から数カット連写する場合、「H+」よりも「H」の方が適している。
コースでのマシン撮影はZ9と同じAF設定。AF-C+親指AF、AFエリアはダイナミックAFのSをメインに、時おり3Dトラッキングも使用する。
灼熱のサーキットではピントを甘くさせる陽炎との戦いだ。ズームレンズで必ずしもテレ端がベストとは限らない。中間の焦点距離を上手く使い、ピントに悪影響の無いギリギリの撮影距離を見極める。
コースサイドを移動しながら、時折クロップも使い練習走行、予選走行を撮影。連写の感覚はZ9とは異なるも、一眼レフに近いブラックアウトなのであまり違和感なく撮影できる。
コーナーでの攻防をDXクロップで切り取る。俯瞰撮影なので陽炎の影響が少ないが、最大望遠より少し引いて解像力を確保した。
■NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR 1/1600秒 絞りF9 ISO100 AF-C ダイナミックAF(S) 550mm域(DXクロップ825mm)
決勝レース中盤のポジション争い。DXクロップによる超望遠の圧縮効果で、後続マシンからのプレッシャーを感じさせるシーン。
瞬時にDXクロップに切り替えられるよう、ボディ前面のFn2ボタンをカスタマイズ。右手薬指でのプッシュ操作のみで切り替え可能。
FXとDXで個別に画像サイズを設定できる。FXのMとDXのL、といった具合に近似サイズで揃えられるので撮影後に効率よく作業できる。
ニコンZ5ⅡはZ9のサブカメラとしては必要にして十分!?
そして決勝レースのスタートシーンでは、Z9、Z6Ⅲと同じくカスタムエリアAFで横一列を設定できる。Z9のサブカメラとして携行し、場合によってはメインカメラとして違和感なく使えるという印象を受けた。まあ今回はメインもサブもZ5Ⅱなのだが。
スーパーGT決勝スタートシーンを、ズームアウトしながら連続撮影。横に広がることを想定して横1列のAFエリアをカスタムで設定した。
サブ的に24-200mmを付けたもう1台は、AF-SとAF-Cを自動で切り替えるAF-Aで使用。こちらはオートエリアAF、被写体認識を設定し、走行シーン以外の撮影で気軽に使ってみることにした。
EVFで人物を認識すると、AFエリアがまず顔に、さらに瞳へと移行する。これが実に軽快で、仕事ではあるが撮影が楽しく感じられる。
瞳認識AFで気軽に撮影しながら、ピクチャ-コントロールを試してみる。私は「デニム」のブルーやイエローの発色がお気に入り。
ただ、瞳認識後にウォブリングを発生するケースがまれにあった。どうやら位相差AFからピンポイントAF(コントラストAF)に切り替わったようだ。
レリーズ優先で撮影する場合はピント位置がバラつくことも起こるので、親指AFを使う場合はAF-Aではなく、ピンポイントAFを使用しないAF-Cに設定しておいた方が良いだろう。
表彰台の撮影もAF-Aと被写体認識で撮影してみた。この大きさでも選手の顔だけでなく瞳まで認識している。
稀に発生するウォブリング状態で連続撮影すると当然のことながらピンボケが発生。筆者のように親指AF、レリーズ優先モードを併用する場合は、AF-Cに固定しておいた良いだろう。
ニコンZ5Ⅱの来たるべきファームアップに期待?
さて、撮影終了後にPCで結果を確認した私の印象は、Z9を10点とするならば、Z5Ⅱは6点といったところ。比較対象がZ9というのは酷ではあるが、価格で2.5倍の開きがあることを考慮すればその性能は十分だろう。
ただし、高速で接近するマシンに対するAF-Cの追従能力は高いものの、ブラックアウト時間が災いしてか画面いっぱいに引き付けようとするとAFが追いつかない。
かつてのD500に撮影フィーリングが近いと前述したが、D500のAFがクロスセンサーなのに対しZ5Ⅱはラインセンサー。ここぞという時にその弱点も現れてしまったようだ。
Z9もラインセンサーではあるが、ブラックアウトフリーでシームレスに測距可能かつ、高速読み出しができる積層型を採用し、さらにはファームアップ重ねることでプロの要望に応え続けてきた。機構的な制約はあるが、Z5Ⅱについてもファームアップでさらに性能が向上されることを期待したい。
連写せずワンショットで狙うことで、アップのカットも高確率で撮影できる。AFはカメラに任せ正確に振ることだけを考える。
撮れてナンボのプロスポーツカメラマンには完全ブラックアウトフリーの撮影可能な機種、ニコンの場合はZ8/Z9(Z6Ⅲも完全とは言えないがそれに近い)が必須だ。それでも近年ではライバルメーカーに見劣りする面もあり、後継機のウワサも気になるところ。
そうなると価格のギャップもさらに大きくなるだろう。そこまで必要としない一般ユーザーは、その差分をレンズ購入にあてる方が幸せになれるに違いない。
ゴールシーンをハイスピードフレームキャプチャー+で30コマ/秒の連続撮影。AFもしっかり追従したが、電子シャッターとなるので、マシン背後のフェンスや建物にローリング歪みが発生する。
異なるレースのゴールシーンを、通常のAF-C「H」(9.4コマ/秒)で撮影した。メカシャッター(電子先幕)なので歪みは見られない。目標を引き付けてから10数コマ連写する、一眼レフ時代の撮影方法。
前モデルのZ5は、低価格ではあったが性能面の見劣りも大きかった。しかし今回のZ5Ⅱは多くのユーザーが満足できるレベルにある。レース撮影をある程度こなせたことでそれが証明できただろう。
デジタル一眼レフからミラーレスへの移行として、まさに最適な選択肢だ。ニコン機の特徴である自然に見えるEVFに安心し、さらには画面内のどこでもAFが可能というメリットに感動してもらいたい。
ニコン Z5Ⅱ 〇と✕
〇
上級機と共通の操作系なので併用してもOK
高感度、特にISO800でのノイズの少なさ
フツーの人がフツーに使って何の不満もないでしょう
✕
軍艦部に表示パネルがない
連写時のブラックアウトにより、レンズによってはAF-Cが追いつかないことも
仮にZ9と併用する場合、カード、バッテリーいずれも互換性ゼロ