■豊田慶記氏プロフィール
広島県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープ等の写真に感銘を受け写真の道を志す。スタジオマン・デジタル一眼レフ開発などを経てフリーランスに。作例デビューは2009年。カメラ誌でのキャリアは2012年から。カメラグランプリ外部選考委員。日本作例写真家協会(JSPA)会員。
撮影共通データ:■パナソニック LUMIX S1 マウントアダプター SHOTEN LM-LSL M Ⅱ 絞り優先AE WB:オート
コシナ Voigtlander APO-LANTHAR 28mm F2 VM の主な仕様
●焦点距離:35mm判換算28㎜
●最短撮影距離:0.5m
●最大撮影倍率:1:14.6
●レンズ構成:8群12枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数:12枚
●フィルターサイズ:49mm
●大きさ・重さ:φ55.6×50.0mm・265g
●付属品:フード
アポランターの世界にようこそ!
「アポランターって何?」という闇落ちしていない正常なカメラファンに向けてアポランター銘についてザックリ説明すると…「凄い性能を持ったレンズなんだ」という認識で全く問題ございません。ニコンで言えばS-Line、ソニーならGMシリーズ、シグマだとArtラインって感じです。
少し踏み込んで説明すると、名称前半部分の「APO(アポ)」は光の3つの原色を構成するR・G・Bの各色の軸上色収差を限りなくゼロに近付けるアポクロマート設計であることを表しています。これはAPO-ULTRONやSPO-SKOPARでも同様です。
さらに、解像力やコントラスト再現性についてもコシナが設ける厳格な基準をクリアした究極の性能を追求したレンズだけにアポランターが冠されます。同じ焦点距離のフォクトレンダーレンズと撮り比べた写真を見てみると、アポランターはひと皮剥けたようなクリアというかスッキリしたような印象があります。
S1との、というかLUMIXとの組み合わせだと周辺はこんな具合に落ちます。カバーガラスを含めたセンサーモジュールの特性で左右される部分であり、ワイドレンズではその特徴が出やすくなるので大目に見て下さい。マウントアダプタで遊ぼうと考えている人は「そういう事もあるよ」と知っておくと心穏やかで居られます。
■絞りF2.0 1/2500秒 プラス1.0露出補正 ISO100
本レンズは新しいフォクトレンダーのデザインが採用されており、と言っても心のキレイな人にはどこに違いがあるのか分からないと思う(それが正常です)が、レンズ先端が従来のシルバーから黒になり凝縮感を高めています。以前のデザインもアクセントがあって良かったが、新デザインのステルス性も良いかと。
周辺部まで高い描写性を達成しながらもマウント基準位置からの全長50mm、フード装着状態でも約65mmのコンパクトサイズと単体で265gの軽量設計を実現している。おそらく、ではあるが2枚の両面非球面レンズ採用がこのサイズ感を実現した立役者なのだろう。
最高の描写なのに265gしかないんですよー。
周辺が落ちるということは、モノクロが美味しいという事でもあります。この落ち具合…実に気持ち良い。アポランターらしく切れ味は鋭い。でもアポランター35mmよりMFは全然楽。どうして?焦点距離の都合??
■絞りF2.0 1/2500秒 プラス1.0露出補正 ISO100
最近のレンズとしては、という枕詞が無くても軽量な265gの体躯ではあるけれど、手のひらの中にあると不思議と存在感があるところが面白い。でもバッグの中に入れてしまえばふわりと消えてしまうところが不思議。
試用初日に「まさかバッグに入れ忘れた?」とドキっとしたので、付けっぱなしにできるボディが欲しくなりますね。性能重視とは言え、こういった持ち歩きたくなる、あるいはバッグに忍ばせたくなるサイズと重さについても織り込んだコンセプトで仕上げてくるところは、とても有り難い。
ビルドクオリティはいつものコシナで、高い加工精度の金属鏡筒からでしか得られない満足感があるけれど、他のVoigtlanderよりクオリティというか、”遊び”が少なく、また重めの操作トルク設定のフォーカスリングなど、緊張感のある操作感になっているのはアポランターシリーズに共通する仕様だろう。
同梱の金属製フードは植毛仕上げかつバヨネットマウントとなり逆付もできる。着脱は目を瞑っていてもでも問題無くでき、安心感も高い。
言わずもがなの高解像。絞り開放からギンギンでっせ!
高性能なレンズあるあるなのだけれども、従来の感覚からすると焦点距離のスペックよりも長いレンズで撮った写真に見えるヤーツが発動して、28mmっぽくない写りというか遠近感というか。撮影時にもその感があって、個人的には28mmという画角から想定するほど身構えずに撮ることができて、逆に楽しかった。心地良い距離感で撮れたって言えば良いのかなぁ…。
■絞りF2.0 1/1250秒 マイナス1.0露出補正 ISO250
過去にアポランター35mmF2 VMをテストした際には、ピントのあまりのシビアさに「これ以上ワイドだとMFするの、相当キビシイんじゃね?」と感じてしまったことが思い出されたが、S1との組み合わせでは思ったよりカンタンでした。かなり緊張感を持って挑んだので拍子抜けしたほど。とは言え、普通にシビアではあります。
描写は、色収差の類はほぼ無し。明暗差の大きな輪郭部のフリンジも、相当なイジワルをして周辺部に僅かに出るくらい。それも後処理で対処しなくても良いレベルなので、結構驚きました。
解像感は絞り込んでもほぼ変わらない、つまり開放絞りからギンギンなタイプ。ごく四隅だけ少し変化があるけれど、そんな周辺部の描写が気になるってことは写真にチカラがないってことだから、実質的に問題ない感じ。
ってのが、近所で軽くチェックした段階で分かりました。コレくらい高解像なレンズの場合、規則的なパターンを含む対象を撮ると24MP機ではカンタンにモアレが出てしまう難しさがあり、高画素機が欲しくなるところ。ワイドレンズらしく都市景を狙おうかな? という当初の予定を早々に変更しました。
試用中に「こう撮ったら絶対にキモチイイだろうな」と思った写真がちょうど撮れそうだったので、ヘリコイドアダプタ込での至近端でパチリ。素晴らしく気持ち良くてニンマリ。半段絞っても良かったかも。
■絞りF2.0 1/1000秒 マイナス1.3露出補正 ISO100
レンズ単体での最短撮影距離は0.5m、距離計連動は0.7mまでとなっている。繰り出し量6mmのヘリコイドアダプタを介した状態ではレンズフード先端から10cm程度まで寄ることができたので、ワイドマクロ的な楽しみ方もしてみようと、いつも通りお花などを撮っています。
最至近でも実写シーンでのピント位置の解像低下は感じられず。平面を狙った場合に周辺部ではそれなりに光量落ちと解像低下はあったものの、実写では影響が無さそう。かなり無茶な構図でも開放絞りでガンガンに攻められる安心性能を持っていて驚きました。
MFかつアポランターゆえ、ボディを選ぶ…というか楽しさが違ってきます。
少しくらいフリンジ出るかな?とイジワルしてみましたが、屁でも無かったようです。試用した中でのワーストでコレ。純正レンズだと収差補正がガシガシに効くけど、コレは素の実力だからね。しかもこのサイズ感でこの性能とは…恐れ入ります。
■絞りF2.0 1/125秒 プラス2.7露出補正 ISO500
Zマウント用のアポランター35mmF2のリニューアルモデルが、ピントリングの回転角を大きくする改良を施したことで、グッとフレンドリーになったことを思い出させるスコブルご機嫌な仕上がりと、小さくて軽くて抜群の性能という組み合わせは完全にご褒美。
他のアポランター同様に、対象の状態や撮影者の実力がありのまま写し撮ってしまう難しさはあるけれど、少なくともLUMIX S1であればそれを楽しめるチューニングになっているように感じました。拡大時の表示がアレなS5Ⅱや、EVFを持たないS9だとちょっと分からないけれど、少なくともフルサイズのZシリーズならば問題無いと思います。
像高9割くらいまではお見事です。ホント独特の写りで、28mmですって言われなきゃ、28mm感あまり無いと思います。それが肌に合わない人も居るとは思うけど、28mmって何かピンとこないんだよな…って人は食わず嫌いせずに試してみても良いのでは?と。ちなみにワタシはいわゆる28mm画角があまり得意ではないので、このレンズの直撃を受け前後不覚に陥っています。
■絞りF2.0と2.8の間 1/200秒 マイナス0.7露出補正 ISO100
VMマウントの28mmレンズは本レンズを含めてまだ4銘柄(カラスコが2種類ありますが同じ光学系なので纏めています)しかなく、それぞれに味わいが違うので、仮に「フォクトレンダーの28mmを全部揃えなくては!」という思想に染まったとしても、心穏やかに毎年1本増やすのがちょうど良いボリュームかと思います。
28mmで言えばフォーカシングレバーが無いことと、若干細いNOKTON Vintage 28mmF1.5の方が使い易いかも? という気はしなくもないですが、本レンズの方が写りの雰囲気がトヨタは好きでした。と、こういった感じで「どっちにしようかな?」と悩むのは幸せなひとときであります。