いやー、暑いあつい。外に出たくない。熱中症アラート出てるのに外に出て撮影すんの? シヌ―。まーでも28-300mmというからには外で撮らないとインプレにならないしこのレンズでコタツ記事は無理ね。よし、がんばって汗水垂らして塩アメ舐め舐めして働くか…。
■作例共通データ:α7CR 絞り優先AE WB:太陽光 AF-S フォーカスエリア中央固定

タムロン 28-300mm F/4-7.1 Di Ⅲ VC VXD (Model A047) Eマウント 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算28-300mm相当
●最短撮影距離:0.19m (W) / 0.99m (T)
●最大撮影倍率:1:2.8 (W) / 1:3.1 (T)
●レンズ構成:13群20枚
●最小絞り:F22-40
●絞り羽枚数:9枚
●フィルターサイズ:67mm
●大きさ・重さ:φ77×126mm・610g
●付属品:フード

いきなり結論=「動画用に最適」ちょっと大きめ

二段繰り出しで伸びのーび。鏡筒の右側にはズームロックスイッチがあるけど、カメラを肩からぶら下げて歩いても自重落下はほとんどなかった。

ちょっとだけ長くてかさ張るけど、使い勝手よく、画質よく、AF速く静かで、ソニーα(フルサイズ)用の第一の選択肢としては超おすすめ。うん鏡筒が長いんだよね。「ほんとに28mmっすか?」という感じで、常用の標準ズームとしてはちょっとの違和感あり。

でも、一眼レフ用ではあり得なかった短いバックフォーカスのおかげで光学全長を長めにとって、そのメリットを十分に享受できた設計のレンズだと言えます。で『Webカメラマン』の読者的にはどうかと思うけど言っちゃいますね。特に「動画に向いている」レンズです。解像的には4K動画も余裕。

特にホメたいところ「やっぱり画角レンジ」だね。

焦点距離(画角)を感覚的に表現すると、
28mm…ざっくり言って、ボーっと両目で眺めている時の視野感。
300mm…これもざっくり言って、眉根をひそめてじっと何かを注視している時の視野感。

こんな感じで、28-300mmはヒトの視野を切れ目なくズームで追っかけられる画角を一本でカバーしているわけです。ソニーのNXCAMとかのライトな業務用カムコーダー(レンズ一体型)を使ったことのある人はこの画角をイメージできるはず。この焦点域でもう十分なんです。

また、大口径でなくても300mmで近距離に寄ればきれいなBOKEHが得られるし、思いつく大体のイメージはこのスペックで十分に捉えきれるはずなんです。これが動画に向いているワケなんです。もちろん静止画でも便利です。これ一本だけでほとんどのものが撮れてしままいます。ほんとに。

にもかかわらず「24mmが~」とか「400mmが~」とかの画角をさらに求める方もいます。さらにオニカナですからね。当然です。でもそんな方にはマイクロフォーサーズやAPS-Cのフォーマットをどうぞ。そちらにも相応以上の高倍率ズームがあって、ちなみに筆者はOM SYSTEMの12-200mm(フルサイズ換算24-400mm)を重宝してます。

でもソニーのαフルサイズミラーレスのオーナーのアナタは無いものねだりなんかせずに、このレンズの「このバランス」で手を打っちゃうのがいいでしょう。フルサイズフォーマットでは多分これがベストバランスです。

動画で大問題の「フォーカスブリージング」を解消

そして、地味なところだけど、一眼レフ時代の高倍率ズームにあった弱点「フォーカス時の極端な倍率変動」が改善されています。知らん人には「なんのこっちゃ?」ですが、これは動画屋さんにとっては実に大問題でした。

そしてこの「フォーカスブリージング」のほかに、同じ原因で起きる、望遠系ズームの同じテレ側300mmと比べて「近距離で像が小さく写る」事件なんかのような「知っている人は知っている」という高倍率ズーム特有の「変な現象」が改善されています。

で、筆者が使ってみた限りこのレンズでは「フォーカスブリージング」現象は全く起きませんでした。動画撮影においてはまさに福音です。「フォーカスブリージング」現象とは、ワイド側でAFが迷ってレンズがズコズコとフォーカスを繰り返すと、それに伴って「ガチョーン」のように画面の大きさがブワブワと変動し続ける現象のことです。

静止画では気分の問題でしかないのですが、動画だとかなり見苦しい使えないカットになってしまうので、これがよく現れるレンズは動画用にはほぼ使い物になりません。

その原因ですが、フォーカス群の位置が主因だといわれています。フォーカス群が前玉側にあると群の動きによって像倍率が大きく変動し「変な現象」が起きてしまいます。光学全長を可能な限り圧縮しなければならない高倍率ズームでは改善が大変に難しい問題で、一眼レフ時代には無理だったわけです。

ところが、ミラーレスカメラに特化した光学設計が可能になったためにこの課題が改善されたのだと思われます。そこでタムロンにフォーカス群の位置を問い合わせてみたところ「リヤフォーカスです」とのお答え。フォーカス群を後ろ側に配置できたおかげで「変な現象」が解消されたのだと推察されます。

「近距離で像が小さく写る」事件も解消

同じ原因での「テレ側、近距離時の倍率低下現象」も解消されています。300mmの画角は無限遠∞のフォーカス位置でしか出ず、2メートルぐらいの撮影距離になると実質135mmぐらいの画角に拡がってしまう…という「奇妙な特徴」が昔の高倍率ズームにはあって、メーカーの苦情受付を大変悩ませました。

ということで「今の高倍率はどうなってるかな?」という興味で、70-300mm望遠ズームと300mm撮影距離2メートルで実写比較をしてみました。その結果、極端な倍率低下は起きていませんでした(作例を見よ!)。これは筆者的にはオドロキです。

像の大きさだけが欲しいなら望遠系の70-300mmズーム(50-300mmも…)は実はほぼ要らないということが判明してしまったのです。実は筆者が常用しているOM SYSTEMの12-200mmでも薄々気が付いていたのですが、これは大変なこと。

ミラーレス全盛で時代は変わっています。筆者はこれまでこの「変な現象」の一点だけでタムロンの高倍率ズームと望遠ズームの使い分けを推奨していたのですが、一眼レフ時代のこの旧い常識は変わってしまいました。

◎倍率低下比較作例

タムロン28-300mmの300mm側で撮影。撮影距離はおよそ2メートル。下の望遠ズームの300mmに比べると少しだけ小さく写っているけど、これは許容範囲でしょう。

同じタムロンだけど、こちらは筆者所有のだいぶ古い70-300mmの300mm側で撮影。撮影距離は同じくおよそ2メートル。

ワイド側の「寄り」もすごい

そしてこのレンズのすばらしい点は、テレ側だけではありません。ワイド側がチョー寄れて倍率もすごい! おまけに解像もパリパリ。百聞は一見に如かず。作例を見てチョーだいです。28mmワイドでこんな表現もできます。

ワイド側28mmの最短撮影距離付近(およそ19cm)で撮影。ほぼ花にフードが当たる近さ。ここまで寄れば背景も結構ぼける。
■絞り開放 1/1600秒 プラス0.7露出補正 ISO400

同じ被写体をテレ側300mmで撮影。同じく最短撮影距離付近だけど、こちらはおよそ1メートルくらいまで引いている。背景の玉ボケが口径食でラグビーボールの形になっている。至近で背景ぐるぐるボケの予感。
■絞り開放 1/800秒 プラス0.7露出補正 ISO400

ヒマワリにクマバチがアプローチしているのを発見。フードを外して28mmでグッと寄ってみた。クマバチは蜜に夢中で全然逃げない。
■絞り開放 1/400秒 プラス2.0露出補正 ISO400

上の作例のクマバチの部分を切り取って拡大。体についた花粉や体表のブツブツまで細かに写っている。すごい解像感だ。

ほぼ無音の作動音

AFやVC(手振れ防止機構)の作動音もまことに静か。これも動画向き。静かな部屋で鏡筒に耳を押し付けて聴くと「なんか動いてるな」というぐらいは聞こえるけど、「ゴクゴク・ギュー~ン/ゴーッッッ」なんて感じの極端なノイズや作動音はもうないです。この辺も一眼レフ時代のレンズよりずいぶん進化してる。

解像感は「スゲェ」(高倍率としては)という感じ

そして、多くの御仁が気にする「解像」について。すばらしい! 及第点。というか十分文句なし。これで文句ある人は不便覚悟で単焦点レンズとか目先の異なる大口径ズームとかを選ぶといいです。程度はこの記事の作例全般で確認してね。

ちなみに上でも書いたとおりワイド側はビシビシの超高解像です。メーカー公表のMTF曲線でもわかります。テレ側もかなりイってます。MTF曲線を見てうなずけるような傾向に思われます。※MTF曲線はメーカーのオリジナルサイトでどうぞ。

一方、テレ側の至近ではちょっと微妙で「並+」の感じでした。もしかしてデモ機の個体差かもしれませんし、ピントがわずかにズレて写ったのかもしれません。なんだかんだ言って300mmでピントを正確な位置に合わせるのって難しいんですョ。

でもこの「並」はとんでもない「並」ですからね。A3のプリントを距離10cmぐらいで「ガン見」しないとわからないくらいのモノです。

300mm側の最短撮影距離付近(およそ1m)で撮影。AFなので精度的にはベストのはずだが、オリジナル画像を細かく見ると微妙に奥(セミの腹のあたり)にピントが合っている。深度が超浅いので、このくらいの領域で実際に使うときには少し絞りたい。
■絞り開放 1/400秒 プラス2.0露出補正 ISO400

歪曲収差は結構あるけど問題なし

歪曲はOK。なぜならカメラの自動補正でキャンセルされるから。ワイド側でどれだけ切り取られるかは「自動補正なし」との比較作例で判断してみてください。

歪曲比較作例

レンズの歪み補正をON/OFFで撮影(右側は周辺光量補正もOFF)。ワイド側はタル型、テレ側は糸巻き型でごく普通にあり得る歪曲収差のパターン。この歪みはカメラの自動補正で見事に補正される。ただし周辺が微妙に切り取られる。

ゴーストは使いようで表現に使える

ゴーストもOK。一応チェックしてみたけど、デジタル化以降いまどき派手なゴーストが出て使い物にならないレンズなんてないハズ。なので、気にすべきは自分のカメラとの相性。イメージセンサー周りの内面反射はカメラとレンズの組み合わせによって全然違うことがあります。

また、絞りの大きさによっても状況がかなり変わってきます。特定の機種と絞り値でどう反応するかを意地悪テストで試してみると、ゴーストの出方の傾向が大体わかってくる。それがわかるとゴーストを表現に応用できるように使えます。

ゴースト比較作例

28mmで撮影。こんな意地悪テストでも、画面全体に及ぶ悪さは見られない。シャドウ部のコントラストも良好。 
■絞り開放 1/4000秒 プラス0.7露出補正 ISO800

上の作例の位置で露出もそのまま300mmまでズームアップ。さすがにこれは意地悪が過ぎたかな(露出オーバーなだけ?)。露出をもっと絞ると結果は違っているかも。
■絞り開放 1/4000秒 プラス0.7露出補正 ISO800

●F4

28mmで撮影。こちらの作例は、絞りを変えて撮ってみた。絞り開放(F4)だとゴーストの形状がはっきりしない。太陽の光芒も出ていない。
■絞りF4 1/4000秒 プラス0.7露出補正 ISO800

●F8

開放と最小絞りの中間ぐらいということでF8で撮ってみた。ゴーストの描写的には開放のそれに近いが、輪郭がはっきりしてきている。太陽の光芒はまだはっきり出ない。
■絞りF8 1/4000秒 プラス0.7露出補正 ISO800

●F22

F22までグッと絞るとゴーストの形状がはっきりと出る。太陽の光芒も絞り羽根の枚数に応じて出てくる(9枚羽根なので18条の光芒が出現)。三枚の作例のうち作品的にはこっちのゴースト表現がいちばん良かったと思う。
■絞りF22 1/4000秒 プラス0.7露出補正 ISO800

この続き=その2は明後日に!