昨年4月に発売されたソニーのFE 50mm F1.4 GM。昨今の高性能大口径50mmレンズが右に倣えで大型化する中、小型軽量設計ながらもGマスターを冠する自信の表れに興味を持っている人も多いだろう…というか軽くしか実写出来ていなかったので、今回ジックリと触れてみたいということで。

ソニー FE 50mm F1.4 GM 主な仕様

●焦点距離:50mm
●最短撮影距離:0.41m(AF)/ 0.38m(MF)
●最大撮影倍率:0.16倍(AF) / 0.18倍(MF)
●レンズ構成:11群14枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数:7枚
●フィルターサイズ:67mm
●大きさ・重さ:φ80.6×96mm・約516g
●付属品:フード ケース

「重量級標準レンズ」は好きではないのでして…。

ソニーにはPlanar T* FE 50mmF1.4 ZAという、個人的に名玉だと思っている同スペックのレンズが既にあるが、こちらは重量778gかつ全長108mmの重量級巨砲。初めて見た時は「これが50mm?冗談キツいぜ」と思いました。試用中の思い出も「重い&デカい」しかありません。

時は流れるもので、FE 50mm F1.2 GMも同じ778gかつ全長108mm。このレンズに触れた時には「ソニーの開発陣はF1.2GMの開発で意地を見せたな」と思ったことは秘密です。だってコッチのほうが軽く感じられたんだもん。

茶番はこのくらいで、本レンズの特徴は何と言っても516gという軽さ。全長も96mmとギリギリ常識的なサイズに収まっていて、競合する製品としてはシグマの50mmF1.4 DG DN | Artとなる。

スペックを見比べると、シグマレンズよりも16mm短く、150g近く軽い。数字だけ見ていると「ふーん」という感じかも知れないが、実際に運用してみるとカメラバッグのサイズを左右するし、稼働時間もかなり変わってくる差だったりもするので、数字からくる印象は当てにならない。

ソニーゆえのAFレスポンスが、すべてを良い方向に導く?

少しイジワルな構図にしてみたけどヘッチャラ。ボケは2線ボケっぽくなる寸前って感じだけど、トヨタ的には気になりません。普通にキレイだと思います。あとAFが素晴らしく快適。
■ソニー α7C R 絞り優先AE(F1.4 1/125秒) プラス2.3露出補正 WB:オート ISO100

手に持った印象は「結構デカいか?」だが、撮影してみるとサイズ感が気にならなくなる不思議がある。恐らく道具として適切なサイズに収まっているから、ということなのだろう。加えてAFが高速かつ静粛なことも、存在感を薄れさせることに寄与している。とにかく撮影中のストレスがない。

資料を掘り返したところ、Planar T* 50mmF1.4 ZAと比べて本レンズのAF速度は最大約1.9倍とのことだが、レスポンスの良さなどから体感ではもっと速く感じられた。

高い品質のレンズであり、ノールックでもレンズフードが迅速に着脱できるのは昨今のソニーレンズだけの美点。こういった道具としての使い勝手を追求する姿勢は他社も見習って欲しいと、最新のソニーレンズを使う度に思う。
ピントリングはやや軽めだが、製品の性格的には合致しているように感じられた。

操作性や操作感が裏方に徹している…趣味に没頭できる?

開放から素晴らしくシャープなので、ひょっとすると絞り込んだ時にやり過ぎに感じるくらいのシャープネスになるかも?って嫌な予感もしたのだけれど、実際にはそんな事はなくて、リンギングが出そうな感じに撮ってみましたがご覧の通り素直でございます。
■ソニー α7C R 絞り優先AE(F4.0 1/1600秒) マイナス0.3露出補正 WB:オート ISO100

当然のように開放絞りから高い解像感の描写が得られ、周辺部でもその印象は変わらない。ピント面のキレは素晴らしいが、若干演出的に見えなくもない。なのに基本的に後ボケは柔らかいので、過去の経験からくる50mmF1.4というスペックからイメージする描写よりも立体感が強烈に感じられた。それくらいにピント位置と背景との分離感が強いことが面白い。

前ボケに規則的な模様の対象を持ってくるとワリとウルサイ感じがしたけれど、シーンとしては特殊な気がするので作例はナシで。
同様に、背景にコントラストのあるものを配置するとボケがウルサク見えることがあるので、ちょっと配慮した方がよいかな?と思いながら撮ることが何度かあった。

同じタイミングでシグマの50mmF1.2 DG DN | Artでも撮影していたが、不思議と本レンズの方が無機質なものを縦位置で撮りたくなり、趣味に走りやすい傾向にあった。シグマは色々な撮り方を試してみたくなったが、こちらはレンズの存在を意識することなくカメラを向け淡々と捉えたくなる感じが対比的で興味深い。やはり撮影時にその存在を忘れてしまえるくらいに、操作性や操作感が裏方に徹しているのだろう。

至近端ではほんの僅かなピントコントロールによってはキレイに滲む領域があるように見えたので、柔らかさとキレのバランスの良いところを探って撮りました。性能一辺倒かと思いきや、少しだけ遊べる領域があって「あなた、そういう事もできちゃうワケ?」って思いました。サイズと性能のバランスをとった結果的にそうなったのか、意図的にそういう性格としたのかは分かりませんが「撮影者側でも出来ることがある」と感じるのは楽しいものです。
■ソニー α7C R 絞り優先AE(F1.4 1/2000秒) マイナス2.0露出補正 WB:オート ISO100

VS シグマ50mm F1.2 DG DN | Art

ここまでの流れでピンと来た方もいらっしゃると思いますが、念のためシグマ50mm F1.2 DG DN | Artと比べてみました。
「比べるならF1.4 Artのほうじゃねーのか?」や「F1.2GMも比べろ」みたいな意見はあると思います。が、価格帯で言えば本レンズとかち合うのが本レンズとシグマの50mmF1.2Artになると思います。

●いつものシーン(左がソニー、右がシグマ)

いつものシーンではどちらも申し分なし。観察すると、F1.4時はソニーの方がフリンジが多く、口径食も大きめ。この傾向はF2.0まで絞っても同様で、総じてシグマ優位。また、微妙に後ピンになった場合にシグマの方が見え方がキレイに見えました。それ以上に絞ると描写の差は誤差以下という印象。

ソニーの方が明暗比の大きな条件でのハイライトエッジに色づきが目立ちます。弱点らしい弱点といえばコレくらいじゃないかな。

●逆光(左がソニー、右がシグマ)

逆光については、比較作例のようにシビアコンディションではシグマの方がフレア・ゴーストが目立ちました。とは言えほぼ互角といっても問題無い範囲の差。どちらもこの撮影条件ではワーストの画像になります。シグマは絞ると光条が出るので、コレが好きならシグマが良いでしょう。

●ボケ味(左がソニー、右がシグマ)

ボケ味はシグマが好み。ソニーはボケの輪郭が残りやすく、シグマの方がキレイに滲む印象でした。

ということで、筆者の好みだけで言えば、写りはシグマ。サイズも考慮すると、普段使いにするなら間違いなくソニーです。

仮にF1.4 Artも比較対象に入るのであれば、5万円以上の価格差は無視できません。例えば、F1.2 Art vs F1.4 Art vs F1.4 GMの三択であれば、トヨタならF1.4 Artを選びます。ま、使い方によって気になるところは違うので、ウジウジと悩みたくない人はF1.4 GMを選ぶのが無難。こういうレンズが結局長い事手元に残るからね。最終的には使い勝手の良さが、ナンダカンダで効いてくるものです。

描写は最高峰&フットワーク許容範囲内→あとはお値段ですな。

絞るとこの画像で大根おろしができそうなくらいにギンギンなシャープネス。これは強い(確信)。
■ソニー α7C R 絞り優先AE(F3.5 1/1250秒) マイナス0.3露出補正 WB:オート ISO100

筆者にとって50mmという画角は苦手でしたが、本レンズに限って言えば苦手意識がそれほど発動しませんでした。

そのワケを分解してみると、α7CRの表示装備でもメリハリのある写りとシャープな解像感は伝わってくること。AF開始直後にはほぼ無音で合焦する快適なAF。ギリギリ気にならない適切なサイズ感。そうした要素の積み重ねで、まるで「辻切り」というと表現が悪いのだけれど、短時間でスパッと切り取っていけるリズム感の良さが高性能な大口径単焦点レンズとしては新しいと感じました。

それでいてお家でチェックした時に期待を裏切らない写りの気持ち良さ(分かりやすさ)がある。
(フジ)XF33mmF1.4R LM WRのような気持ち良さをフルサイズでも味わえる、といえばフジユーザーなら「あー、なるほど」となるでしょう。

どうにも趣味に走りたくなるレンズでした。あと補正OFFだと糸巻き型の歪曲がでます。常識的なサイズみたいな論調で書いてますが、やっぱり普通にデカいわ。この性能のレンズとしては頑張ってるサイズ感ですので、誤解なきよう。ホント感覚が狂っちゃうよ。
■ソニー α7C R 絞り優先AE(F2.8 1/1600秒) マイナス1.3露出補正 WB:オート ISO100

大艦巨砲主義を選ぶライバルが多い中で、こういうトータルバランスで攻めてくるレンズは好きです。機材返却して暫く経った後にふと恋しくなるのも、得てしてこういうレンズだったりします。

価格的には、本レンズをおいそれと勧める気になりませんが、常識的な範囲内での最高峰レンズとしての役割も全うできますし、お仕事レンズとして見た場合であっても、ユーザーの声を反映させたのだな、ということが実感できる作りになっていることと、それに応えるフットワークの良さがソニーにはあるという事実に気付かされ「やるな…」という気持ちになります。

とはいえF1.2の呪いにかかってしまっている場合は、こんなところでF1.4の情報収集をせず、腹を括ってF1.2のレンズを選びましょう。