昨年9月に公開されたティザービジュアルなどから「開放絞りでの口径食を極限まで抑えられている(画面周辺まで丸ボケ)!」ということで大きな話題となった本レンズ。Z 58mm f/0.95 S Noct(ノクト)に続き「Plena(プレナ)」の固有名称を冠する(しかも2本目)という気合の入れように、ニコンが籠めた意気込みが感じられる。

ニコン NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算135mm相当
●最短撮影距離:0.82m
●最大撮影倍率:0.2倍
●レンズ構成:14群16枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数11枚
●フィルターサイズ:82mm
●大きさ・重さ:φ約98×139.5mm・約995g
●付属品:フード・ケース

あの「ノクト」に続くプレミアムシリーズ第2弾!

細かいことを言えば、樹脂パーツの合わせ目(?)の縦線が、目立つ位置(この画像で言えばレンズ被写体側)に来ています。40万なんだから合わせ目の位置が目立たないところに配置されるよう工夫するとかさ、そういう気遣いはなかったのかな?

もうご存知かと思いますけれども、Plenaという名称は「満ちている・あふれるばかりの」という意味を持つ「Plenum」に由来する、と公式で説明されています。
ノクトの時にも同じ気持ちになりましたが、どことなーく聞いたことある響きなので、トヨタ的にはもっとニコンらしいストーリーを構築出来なかったのかな〜? という想いがあります。

だもんで、「満ちる」とか「月光」と力強く刻印されてた方が真剣さが伝わりそうに思うし、海外ウケも良いのでは? と考えちゃうのだけれども…。印画紙のGekkoについても同じ三菱グループだったし、思わず飛びつく中高年が10人は増えたと思われます。

本レンズの分かりやすい注目点として、かつて一部界隈では「ナノクリスタルコート」が一斉を風靡したように「メソアモルファスコート」が採用されています。本レンズの他にはZ 400mm f/2.8 TC VR SとZ 600mm f/4.0 TC VR Sの2本にしか採用されていない、名実ともにプレミアムなレンズコーティング。加えてレンズ構成図からも「なんか凄そうだぞ…」という威容が伝わってきます。

操作性も含め、割とフツー?

製品写真からも分かる通り、最大径98mm x 全長139.5mmの堂々たる体躯。重さは意地で達成したと推測される、アンダー1kgとなる約995g。手にしてみると、外観から想像するよりは重くなく(1.2キロくらい? と推測していました)、軽量化への配慮も感じられた。重量バランスも良いので、撮影時に「よいしょ」という感じはそれほどありませんでした。

フードは付属だけど…公式ストアで税込39万9300円(いまなら10%オフ)という製品に標準装備されているとは到底思えない萎えるクオリティ。

AF速度は、一方通行であれば遅いと感じるシーンはなさそうだけれども、かといって速い訳ではないという感触。対象の動きが大きい場合や、花などを狙っていて風で揺れている等でピントが連続して前後する場合にはレスポンスの悪さを感じるシーンがありそう。

っていうか、結果から言えばソコソコありました。Z 70-200mm f/2.8 VR Sなどのような快速を期待すると不満を感じると思います。 ニコンは頑なにSTM推しだけれども、40万もするレンズなのでさらに高速・高レスポンスなAFを期待したい気持ちがあります。というのも、ソニーレンズのAFが凄く速いからね。発表会等でニコンが用いる言葉を引用すると、撮影者の秘めた「クリエイティビティ」を現実のものとする為には、AFの快適性は重要だと思うのだけれども…。

vs DCニッコール&シグマ135mmF1.8 DG HSM!

今回の裏テーマとして、Ai AF DCニッコール135mm F2Dから本レンズがどれほど進化したのか? というものがありました。
DCニッコール135mmには歴史があり、1991年のDCニッコール135mm F2Sまで遡ります。なんと30年以上前。今回試用したレンズについても、Dタイプ化(距離エンコーダーが追加)されたのは1995年。ちなみにDCニッコール135mmは筆者が20歳の時(20年以上前です)に体験し、写りに感動したレンズでもあります。

135mmの雄と言えば、個人的にシグマの135mmF1.8 DG HSM | Artも無視できません(過去に月カメでDCニッコールと135mmArtの比較はやってます。)ので、併せて体力測定してみました。お値段はグッとお安く15万4000円(シグマオンラインショップ調べ)となっております。

どちらのレンズもFTZ Ⅱを噛ませてでの運用となり、レンズ内にAFモーターを持つシグマのみAFで撮影できますが、DCニッコールはMFでの運用となります。
FTZに関しては、開発コストや販売価格、想定される販売数を考えると、営利企業として現状の仕様に落ち着いていることは合理的な選択をしている、と納得しています。が、そういうスタンスなのに「ヘリテージ」って言葉を使っちゃうんだ…という気持ちがまだ燻っていますよ、豊田は。

いつものシーン

撮影距離は10m程度。開放絞りから1/3段ずつ、f/5.6まで撮影し観察した。比較画像はDCニッコールに合わせてf/2.0で統一している。

vs DCニッコール

プレナの方が露骨にキレイ。背景の木漏れ日のボケも柔らか。これがニコン本気の光学性能か…と。DCニッコールはちょっとフワッとしてますね。ただ、この柔らかさ(収差ね)は最新レンズでは味わえないものでもあります。

光学設計が30年以上前のレンズとは思えない見事な写りのDCニッコール。色収差と球面収差が若干あるが、個人的には「柔らかい」と感じられる描写に写真らしさを覚えてホッとする。

単体で見ていると、いまだに「写るねー」という感動があり、まだまだ色褪せない様子。Classic-LineとかでFマウントレンズのZマウント復刻とかやってくれると嬉しいかも? ま、戯言です。

対するプレナは、さすがは最新の超高性能レンズ。トンデモなくシャープでレンズの介在を感じさせないほどにクリアな写り。撮影時に背面モニターでパッと見た段階で違いは分かりました。おそらくWebカメラマンの解像度でも分かるんじゃないかな。撮ってる時の感想としては「格が違うねー!」って感じ。

vs シグマ

ピント位置のキレは互角。この条件では拡大率200%で観察しても差はありませんでした。シグマ恐るべし。

一方のシグマ135mm Artも素晴らしい写り。今回のシーンで、ピント位置前後に限って言えばこのシーンではプレナと遜色ないレベルにあり、申し分の無い描写性能でした。違いがあったのは背景の木漏れ日のボケ。周辺部でも口径食を感じさせないプレナに対して、シグマは欠けていることとボケのエッジが若干硬くカタチの主張が強く見える。

全体のイメージとして、プレナと比べるとシグマはちょっぴり硬いかな? と。
ここでソニーFE135mmF1.8GMは抜群にシャープだけどボケが良くない意味で特徴的になることがあったぞ、と思い出しました。そこで念のため、規則的な模様を背景に背負った場合のボケ味チェックもしましたが、テストめいた撮り方すると135mmArtの硬さを感じることはなく、どのレンズも柔らかなボケでした。

口径食の違い

いつものシーンでも口径食の違いが出ていたので、撮影距離約2mのシーンで口径食にどれだけ違いがあるか確認した。

vs DCニッコール F2.0

像高6〜7割くらいのところ。結構違うでしょ?

少し光線状態が変化しており、イコールコンディションではないけれど、それでもプレナの背景の光源ボケの丸さが突出している。新旧で見比べると、プレナはDCニッコールよりも明確にクリア。DCニッコールの少しクラシカルなテイストも捨て難いが、周辺部に注目すると、この部分のボケはやや煩く見えるが、少しだけクロップすれば問題なさそうでもある。

vs シグマ F1.8 

中距離だとシグマの口径食が目立ちました。対して開放なのにほぼ丸いプレナってすごいよね。シグマはカタチもだけど、ボケの輪郭が明るく写るので少しウルサイ感じがします。そんなこともあってちょっと硬く見えるシーンがある気がします。

vs シグマ F2.0 

比べてみると1/3段絞るだけでも違いが出ています。ちなみにシグマは被写体距離が3mくらいまで寄っていくと、DCニッコールとドッコイって感じ。

シグマもDCニッコールと同様に口径食の影響が分かるが、プレナに匹敵するほどクリアで気持ち良い描写。価格差と登場時期を考慮すれば十分に善戦している。補足として、このシーンでのピント位置の拡大比較では、プレナとシグマの描写の違いは判別出来ませんでした。

接写時の描写性

vs シグマ

著者校で実際に公開されるページで編集を行っていますが、このサイズでも「左がプレナ」と分かるくらいには違いました。プレナ、エグい…。ちなみにほぼ至近端。クリアさはもちろんなのだけど、プレナの方がボケが柔らかい。シグマはボケが少しウルサイ感じ。ま、違いが出るように撮ったのだけどね。

接写性能の近いシグマとプレナで至近端時の描写性を確認してみた。結像性能で言えばプレナが良く、シグマは僅かに滲みが出ているが、柔らかく見えるので好みや使い方で印象は左右されそうだ。が、背景に反射物や目立つカタチものもが写り込んでいる場合はプレナの方がキレイに感じられ、シグマはやや煩く見える。とは言え微々たる差です。

vs DCニッコール F4.0

絞っても差は縮まらず。観察的に比べてしまうと、これでもか! ってくらいに光学性能が違いました。

DCニッコールは接写性で劣っている(約30cm違う)ので別のシーンで撮り比べてみたが、f/4まで絞り込んでも僅かに滲みが残った。どういった条件でも、たとえ絞り込んで撮影したとしても結像性能の差を確認できた。これは光学設計の進化を感じさせられる部分だ。性能だけで言えば新型が好ましいし素晴らしいが、従来レンズも味があって悪くなはい。

そこいらの「シャープなだけ」とは一線を画す描写!

ボケのカタチが分かりやすいように硬めの画作りで撮っています。本当にスゲー写り。面白いことにピクコン:スタンダードでもそれほど硬く写らないんだよね。
※撮影共通データ:ニコン Z 8
■絞り優先AE(F1.8 1/1250秒) ISO200 WB:オート ※クリエイティブピクチャーコントロール:ブリーチ適用度60%

本レンズをフィールドでちゃんと使うのは今回が初めてだったりもしました。
結果から言えば、兎にも角にもスゲー写る、というのが本レンズの感想。ただでさえ少ないボキャブラリーが、さらに欠如してしまうくらいに本当にメチャクチャ写ります。Z50mm f/1.2 Sしかり、Z 85mm f/1.2Sしかり、S-Lineの単焦点レンズは本当に写りが凄い!
シャープだけど柔らかさもある。月並みな言葉だけど「繊細に光を結び美しく描写していく様子にウットリ」です。

撮影開始直後のショット。2線ボケでるんじゃね? と期待して、やはり硬めの画作りと併用で意地悪しています。この時点で意地悪は無意味であると理解しました。
■絞り優先AE(F1.8 1/400秒) マイナス0.7露出補正 ISO100 WB:オート ※クリエイティブピクチャーコントロール:ブリーチ適用度60%

コントラストでシャープに写ってるように見せるタイプとは一線を画す、まさに別格の光学性能ってやつ。何を撮っても被写体が浮き上がってくるし、意地悪な光線状態で撮ってもギスギスした感じとか妙にポワッともしないので、撮っていてため息ばかり。この感じはいつぞやのツアイスOtusを体験した時の印象に近いかも知れません。

あの描写をAFで手軽に得られるようになったと思うと感慨深いものがあり、技術の進歩を感じさせます。
ネガティブなところは、前述の通り、時折AFレスポンスに「ムムム」と思うことがあること。とは言え、基本的には快適なAFと言っても良いとは思いますが、お値段を考えると「あと少し」ってワガママ言いたい。だって40万なんだもん。

総じてシグマ135mmを凌駕した描写も、僅差っちゃー僅差か…。

口径食は、隅っこでやっと欠ける程度。ピント位置の立体感がキモチイイ。これにメロメロになる人はいると思います。撮り進めていくと、この描写性能をこのサイズで実現させたことは、実は相当にチャレンジングな開発だったのだろうな、とプレナに対する印象が変わってきました。例えばシグマより軽い。ちょっと分かりにくいけれど、性能に対して限界まで小型・軽量化への配慮がされていると感じました。これは本当に凄いことだと思いますよ。
■絞り優先AE(F1.8 1/400秒) マイナス0.3露出補正 ISO200 WB:オート ※クリエイティブピクチャーコントロール:ニュートラル

実際にZで135mmレンズを検討する場合、AFの効くシグマの135mmArtかZ135mmの2択になるかと思います。DC135mmも良いんだけど、MFなのでコアな趣味レンズという扱いになるのでは? 

念のため触れておくと、FマウントレンズをZのボディで使う場合、FTZアダプタがあればFマウントレンズは装着出来るけれど、レンズ内にAFモーターを持たないレンズについてはMFでの運用になります。

本当はフル解像度で見て欲しい1枚。水面のキラキラの再現の美しさたるや…。肉眼よりもキレイで困っちゃうね。
■絞り優先AE(F2.2 1/4000秒) プラス0.3露出補正 ISO200 WB:オート ※クリエイティブピクチャーコントロール:ニュートラル

相変わらず印象的な描写性能だったシグマの135mmArtだけれども、弱点は重さ。このレンズは単体で1.2kg。FTZ Ⅱも125gなので、Z 8と合計で約2.4kg(フード込)になります。
コアな皆さんは感覚がガバガバになっているのでピンと来ないかも知れませんが、カメラではなく2キロの鉄アレイを持ち歩く事を想像してみると現実に戻れると思います。

135mmってこんなにボケたっけ? と感覚がバグる描写。Z50mm f/1.2 Sの時にも感じたことだけど、焦点距離と撮影距離からくる経験則よりもボケが大きく感じます。「逆光? なにそれ」って感じるくらい逆光耐性がハンパない。
■絞り優先AE(F1.8 1/2000秒) プラス1.0露出補正 ISO200 WB:オート ※クリエイティブピクチャーコントロール:フラット

実用面で言えば、AFはまずまず快適でプレナから若干劣る程度。ガシガシ動く被写体じゃなければ結構撮れるし、お値段的にも納得出来る範囲内だと思いました。

プレナについては感動したのが描写性能である反面、気になったのも描写性能でした。「点光源が写り込まない条件」で、「テストめいたことをやらない」状況だと、プレナと135mmArtの写りの印象がほとんど変わらなかったってのが理由。

これは欲しいかも…とクラっと来た1枚。解像性能とボケ具合の両立や高速シャッターによる止めなど、ミラーレスだからこそ捉えられた写真っていう感じがして、お気に入りです。感心するポイントは沢山あるのだけれど、だからこそ言いたいこともあり…。
■絞り優先AE(F2.0 1/12800秒) マイナス0.3露出補正 ISO200 WB:オート ※クリエイティブピクチャーコントロール:スタンダード

もちろんよくよく観察するとプレナが優れているのだけれども、観察しない限りは誤差以下。口径食がモロ分かりするような状況じゃなければ、判別出来る人はいないんじゃないかなぁ…。

それだけどちらのレンズもハイレベルな写りということです。
もちろん、お仕事レンズならZに最適化されているプレナを勧めるけれども、それでも運用状況によっては300g以上重いシグマでも事足りるのでは? と思いました。
プレナの描写性能を100点満点としたらシグマも95~6点。表現が難しいのだけれども、プレナじゃなきゃダメな状況とかなるユーザーは極々限られている、という印象です。