シグマ 23mm F1.4 DC DN | Contemporary（Xマウント） 主な仕様
●焦点距離：35mm判換算35mm相当
●最短撮影距離：0.25m
●最大撮影倍率：1:7.3
●レンズ構成:10群13枚
●最小絞り：F16
●絞り羽枚数:9枚
●フィルターサイズ:52mm
●大きさ・重さ：φ65.8×79.2mm・335g･
●付属品:フード
シンプルなデザインゆえ、レンズ交換時も快適？
収穫直前の田んぼにいたイナゴ。1段絞ってもボケがうるさくなることもないので、被写界深度だけを考えて撮れる素直なレンズだ。
■絞り優先AE（F2 1/200秒） ISO160 WB：5050K ※フィルムシミュレーション：PROVIA □撮影共通データ：フジフイルム X-T5
本レンズは重さ335gとかなり軽いが、APS-C用の広角単焦点レンズとして考えると平均的な重量だろうか。とはいえ、557gのX-T5と本レンズとの組み合わせで892gにしかならないので、1日撮影しても首の負担はほぼないと言えるほど軽いと感じた。サイズは最大径φ65.8mm、長さ79.2mmと太すぎず、長すぎず、非常に手に収まりやすいサイズ感だ。
半ツヤとマットのツートンのブラックで現代的で洗練されたデザイン。これはフジのX-HシリーズやX-Sシリーズのようなデザインには合うと思うが、X-TシリーズやX-Proシリーズのようなクラシカルなデザインだとそれなりか。
…とはいっても違和感というほどではなく、むしろ「お、シグマ使ってるんですね」って感じで撮影地なんかで盛り上がりそう？ 純正との比較だと、ちょうどいいデザインの違いだと思う。
ピントリングはレンズ全長の半分くらいの幅があり広めだ。リングの重さはどちらかというと軽めな方だと思うが、スカスカというわけではなく十分なトルク感は持っていて、個人的にはけっこう好みだ。
絞りリングやコントロールリングは搭載されていないので、XFレンズの中に混ざって使うと一瞬操作にまごつくときがある。とはいえこれは完全に慣れの問題だろう。むしろ撮影中に不用意に絞り値が変わってしまわないという点は絞りリングがないメリットだ。
またXFレンズはピントリングが広すぎ＆絞りリングがあることで、レンズ交換の際にそれらが回ってしまって交換しにくいものが多いが、本レンズは鏡筒のボディ側はしっかりと握れる幅があるのでレンズ交換がしやすい。
フードの作りも非常にいい。とくにフジユーザーなら純正レンズのフードにイライラさせられたことは1度や2度ではないはず…。本レンズのフードにはロック機構などは搭載されていないが、付け外しのクリック感がよく不意に外れてしまうようなこともないし、硬すぎて取れないなんてこともない。
フードのデザインもレンズと同様に半ツヤとマットのツートーンで統一されており、この価格帯のレンズとしては感激のクオリティと言っていいだろう。
森の中に咲くヒガンバナ。ローアングルからあおって森を丸ボケとして描いた。大口径らしく口径食はあるがボケの質感は素直で気持ちがいい。
■絞り優先AE（F1.4 1/750秒） ISO500 WB：4700K ※フィルムシミュレーション：PROVIA
解像と柔らかさのバランスは、さすがシグマ！
気になる描写だが、さすがはシグマといった感じ。現在のレンズに求められる解像感と、大口径に求められる柔らかさのバランスが非常にいいのだ。解像感については開放からカリッカリでも、絞ってビシーっとした感じでもない、とにかく全域でちょうどいいやわらかさを持った描写力を感じた。
ただ、ここは勘違いしてほしくないのだが、解像力が低いわけでは決してない。描写の線は細く繊細。解像力も立体感も十分にありつつ、柔らかさを持ち合わせているといった印象でとても気に入った。
ボケもとても素直で扱いやすくとてもいい。二線ボケもないし、非球面レンズの年輪ボケもない。さらに絞り羽も9枚あるのである程度絞っても丸ボケの形がきれいだ。ただし口径食については、広角大口径レンズらしくしっかり発生する。まあ別に画的にそれがすごい嫌な感じというわけでもないから、大したマイナス要因でもないが…。
秋が近くなり獲物の減った森の中でじっとその時を待つコカマキリ。ゆっくりと近づきながら撮影した。被写体が風で揺れたりしていなければ近接でもAF-Cで安定して撮影できた
。
■絞り優先AE（F1.4 1/350秒） ISO125 WB：4700K ※フィルムシミュレーション：PROVIA
最短撮影距離は25cmで、このクラスのレンズとしては並といったところか。最短撮影距離でも描写力はほとんど落ちる印象はなかった。とはいえ、近づけば多少なりとも解像力は落ちるし、そもそも近接ではボケも大きくなりすぎるので1段くらい絞っておくのが無難だろう。
高い逆光耐性。ゴースト出すのに苦労する??
桜並木に植えられたヒガンバナを沈んでいく夕日とともに撮影した。雲ひとつないギラついた太陽の光を、大胆にフレーミングに入れてみたがフレアやゴーストはほぼ発生しない。
■絞り優先AE（F8 1/500秒） ISO500 WB：4750K ※フィルムシミュレーション：Velvia
夏のように照りつける太陽と秋のはじまりを告げるコスモス。太陽を画面の端に置いて、その対角には暗い影を置くという、逆光テストとしては最高に嫌なフレーミングで撮ってみたが、やはりパッと見で目につくようなフレアやゴーストは発生しなかった。これはすごい。
■絞り優先AE（F8 1/900秒） ISO500 WB：4750K ※フィルムシミュレーション：Velvia
太陽を入れたカットをいくつか撮影したが、本レンズは逆光への耐性がおそろしく高い。フレーミング内のいろいろな場所に太陽を配置してみてもゴーストやフレアを撮影時に見つけることはほぼできなかった。
RAW現像などでシャドーを持ち上げたりすると、やっと薄いゴーストがあることが判明する程度。実際かなり薄いゴーストなのでレタッチで容易に消せる。ハイライトを背景にしたシルエット周りなどではフリンジが少し発生するが、それもソフト処理で簡単に消せる程度だ。
歪みに関しては、素のRAWデータを見ると樽型の歪みが少し確認できるが、カメラ内補正がしっかりと効いてくれるので撮影時のファインダーやJPEGの記録データなどはバッチリ補正された画を見ることができる。もちろん対応のRAW現像ソフトに通せば大抵はデフォルトで補正がかかっているので気にする必要もないだろう。
フジ純正レンズの値上げと併せると、ありえないバーゲン価格!!
里山で星を撮ってみた。画面周辺の各収差はそれなりに発生する。とはいえ1段くらい絞っておけばそんなに気になることもないだろう。価格から考えたら十分すぎるほど良く写っている、という評価が妥当だろう。35ミリという画角は星用としてはそれほど人気がないが、個人的には星景写真でもっとも愛用している画角だったりする。地上の被写体をかっこよく見せたり、星座を意識してフレーミングを決めたりなど、ある程度見せる範囲が狭いからこそ画が整って見えると思っている。
■絞り優先AE（F2 3.2秒） ISO3200 WB：3700K ※フィルムシミュレーション：Velvia
AFについては、AF-S測距時にピント面が前後にやや大きくが動く印象はあるが、十分な速さと正確さでまったく不満はない。AF-Cにすると大きな挙動はしっかりと抑制されてスムーズな追従性が得られた。
MFに関しては、むしろフジ純正よりもいい。フジはレンズによってはMFの挙動がカクカクしていて思った場所にピントを合わせられないレンズがある。ここ近年のレンズは概ね大丈夫なのだが、それでもちょっと怪しいものがあったり…。
その点、本レンズのMFは非常に滑らかに挙動してくれて気持ちがいい。前述したがピントリングは比較的軽めに感じるが、個人的には実用面で考えればこれくらいが好みだ。
なお、手ブレ補正などは搭載していないので鏡筒にはボタン類は一切ない。絞りリングもフォーカスクラッチもないので鏡筒はいたってシンプルだ。そのためレンズ交換もしやすいし、うっかり設定が変わっていることもないので使い勝手はいい。
SIGMA 23mm F1.4 DC DNはありえないほどバーゲン価格だと感じた。正直、テストする前まではもう少し粗が見えてくるかと思っていたが、完全に逆だった。撮れば撮るほど「これでいいじゃん。いや、これがいいじゃん」って感じになってきてしまった。スナップには言わずもがな、ポートレートや風景などの撮影にもおすすめできる、とても素敵なレンズだった。